真那は料理を目の当たりにしていた。
店員が次から次へと運んでくる料理の皿は、既に机が交換されるまでに至っていた。
肉、魚、野菜と街で見かけるすべての食材があるのではないかというほどの料理が机の上に並べられる。
「まだ来るのか」
誰かが言った呟きが埋もれるようにデザートも並べられていく。
ようやく並べられたところで、天文部の面子は自分の注文をキャンセルしていた。
店員もそれを予期していたかのように、一言頷くだけで了承する。
一応、真那が頼んだものなので皆それぞれに分けてもらっていいかと聞いていた。
真那はそろっていいよとうなづき返すだけだった。
「センパイ…ランチセット頼んだのは今朝の仕返しですかぁ…」
沙希がうなだれる。男性陣もなんとも複雑な表情で料理の山を見ていた。
「ち、ちなみにこれ…いくらだったっけ?」
賢規がさりげなく真那に近寄る。
「そんなに高くなかったわよ。千円くらいだったかな。」
真那はそんな料理を目の前にしても、いつもと変わらない表情だった。
「とりあえず食いましょうか…どこまで食えるか、わかんないスけど。」
雅がそう口にすると、面々がそれぞれでいただきますと言い、料理の消化に取り掛かった。
歩きまわったせいでそれなりのお腹の空いた天文部は、まずメインと思われる料理から取り掛かる。
「あ、センパイこれおいしいですよぉ~。」
沙希が色とりどりのスパゲッティを真那の皿に盛る。
「あら、本当ね。」
真那は一口食べると、意外そうな顔をして、スパゲッティを皿に移す。
「これいける。」
さりげなく自分の皿に移していた賢規がそれを食べて驚く。
「沙希、その左の皿とってくれ。」
雅が肉料理を受け取ると、それをきれいにナイフで切り取る。
「あ、これうめえ。」
雅がそう言うと、雪江以外がその肉を回して食べる。
それぞれ感想を口にしながら確実に料理を減らしていく。
「わ、わたしはちょっと…」
囁くように雪江が止まる。
箸を手にしたはいいが、量に圧倒されている雪江。
もともとあまり食べる方ではない彼女は、見ているだけで十分だった。
そんな様子を見てか、雅がデザートの皿をとる。
「ン、これなら食べれるだろ?」
一口ケーキが乗った皿が雪江の前に置かれる。
六つのケーキが色とりどりに置かれたそれを前に、雪江はちいさい声でありがとうと言う。
「セ、センパ~イ!なんか平然と肉とか齧りつかないでくださいよぉ!」
「だっておいしいもの。値段の割には…ってやつね。」
てきぱきと空の皿を増やしていく真那。その様子を店の奥で、店員は真那のことしかみていなかった。
そしてその目には、もっと…というなにかある種、情熱に燃える魂の眼差しが見てとれる。
「オィ、あの女も…まさか…」
「ああ、多分そうだろう…」
店員が嬉しそうな表情を浮かべる。店員の切れた視線が真那ただ一人を見つめる。
「原石…だな。」
店員がそっと厨房に消える。
また一人、戦友が増えた。
「意外と野菜もうまいなぁ…ドレッシングがいいのかな。」
賢規がサラダを食べ始めると、皆もそろって続く。
雪江も興味を惹かれてか、野菜を食べる。
「あら、本当。病院食の野菜とはやっぱり違うわ。」
「やっぱり、病院食って、あんまりおいしくないの?」
「なんか質素っていうか、そんな感じしますよねぇ~。」
「ううん…栄養バランスとか考えているし、贅沢は言えないわよ。」
「世の中にはもっとマズイ料理あるから病院食なんて美味いほうッスよ。」
「斯波さん、そんなやばい料理食ったことあるんですか?」
「あるぜ。料理っていうか、実験。」
その後店の中にはしばらく陶器とステンレスの鍔迫り合いの音が鳴り響いた。
しかしその音も時間と共に減っていく。徐々に少なくなっていく音に比べ、変わらないテンポの音があった。
席の中央に座る、天文部の部長。細い身体の、その女。
やがて料理を咀嚼する音は、ひとつだけになった。
「真那ちゃん…よくそんなに食べれるね。」
雪江以下天文部はフリードリンクを飲みながら真那の様子を見ていた。
真那だけが箸を進めていた。
「朝ごはん、食べてなかったからかな。」
真那は平然と食べる。
「皆識さん、そんなに食べるほうでしたっけ。」
賢規がメロンソーダを手に戻ってくる。
「うーん、そうでもないと思うんだけど。」
「いや、確実に食べるほうッスよ。今日から考えを改めます。」
「やめてよ。食いしん坊キャラなんて、合わないわ。」
真那五、六割ほどの料理を平らげると、ようやく一服を入れる。
「流石に多いわ…」
全員がそりゃそうだと内心で思う。
間延びした静謐を、気まぐれな鈴の音が店内に告白する。
「いらっしゃいませ。」
店の奥で真那の様子を見ていた店員がすぐに反応する。
出入り口に立っていた客にひそやかに近づく。
「三名様でよろしいでしょうか?」
店員が空いている席に客を誘導した。
真那達の席からは少し離れた、窓側の席。
真那がなんとなしに見るが、店のレイアウト上席の間をインテリアやデザインで区切られている為、顔はよく見えなかった。
店内のジャズ音楽にメニューの注文の声が重なる。
「沙希、ちょっとごめん。」
真那は自分のフリードリンク用のカップを持って、席を離れる。
厨房につながる通路の横に置いてあるドリンクコーナーに鉄観音茶を取りに行く。
その横を店員がすり抜けていく。
厨房へ戻っていく店員の様子はなんだがうきうきしているように見えた。
真那が席に戻ると、なんだか見たことのある料理が運ばれていた。自分の机にも置いてある前菜のようにも見える。
しばらく時間をおいて、次々と料理が運ばれていく。同時に、別の店員が机を運んでいた。
「この様子だと、今入ってきたお客さんやっぱりあれッスよね…」
「やっぱり雅クンもそう思っちゃう?すごいよねぇ~どんな巨漢なのやら。」
そうして店員が運んでいる途中に再び入口が開く鈴の音が鳴る。
店員が料理を置くと、素早く反応する。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
こちらへ、と言われ、今度は店内の反対側に案内される。
「料理減らないですねぇ~…センパイ、まだ食べれます?」
「今はちょっと休憩中。時間をかければ食べれると思うよ。」
「まぁ、特に用事もないッスから、ゆっくり食いましょうや。」
ランチセットの食事はまだまだ続く。
と、そこで店員が歓喜の声を上げる。
「お客様、今日という日はとても良い日です!」
真那達が何事かと店員を見る。
店員は興奮したように厨房に飛んでいく。
しばらく間が空いたのち、厨房の中でも歓声が上がる。
そして、真那達の疑問をよそに、店員が大きな皿を持ってくる。
なんだか見たことのある料理。自分の机にも置いてある前菜。
そう、今日三度目のランチセットが頼まれたのだ。
今や店内は騒然としていた。店員が総動員で料理を運んでいる。
厨房からは先ほどまで聞こえていなかった油を上げる音やコックの怒声が店内にも聞こえていた。
真那達が入る前からいた客が、涼しい顔でコーヒーを飲んでいた客が、怯えた客が、そそくさと勘定をすませて店から出ていく。
ただ、天文部が入る前から店内でランチセットを頼んだ客だけが、お茶を飲みながらニヤリと笑う。
「きょ、今日は、なんだかとっても新鮮です…」
雪江も怯えたように紅茶をすする。
真那も少し驚いた顔をしていたが、再び料理を食べる。
「なんだか食べている間に冷めちゃったわね…温めなおしてもらえるのかしら。」
「あ、センパイ、それならドリンクコーナーの隣に電子レンジがありましたよ。最初なんだろうと思ったけど、多分そういうことに使うんだと思いまっす。」
「あら、そうなの。」
「あ、じゃあ僕が温めてきます。ちょうどドリンクも持ってこようと思ってたんで。」
「そう?じゃあお願いね。」
賢規が皿を持って、ドリンクコーナーに消えていく。
「それにしても、どんな人でしょうね?センパイ、見えました?」
「ううん、この席からじゃ、ちょっと見えないわね。」
「そんなことよりさっさと食っちまいませんか?雪江がメイン食べずに意外とデザートを食べましたけど、まだ肉とかが…」
「だって…病院がそういうの食べれないし…」
「ゆっきーセンパイ、太るよぉ~?だって病院ってあんまり動かないっしょ?」
「うん…そうなんだけど…あ、でも一応運動はしてるよ。」
「へぇ~以外ッスね。なにしてんの?」
「…腹筋。」
「…腹筋?」
真那が怪訝そうな顔で雪江を見る。
若干、興味あり気な顔で沙希が注視していた。
「ベットから起き上がるときに…ちょっと。」
「それ運動じゃないわよ。」
真那がばっさりと切り捨てる。
店員が次から次へと運んでくる料理の皿は、既に机が交換されるまでに至っていた。
肉、魚、野菜と街で見かけるすべての食材があるのではないかというほどの料理が机の上に並べられる。
「まだ来るのか」
誰かが言った呟きが埋もれるようにデザートも並べられていく。
ようやく並べられたところで、天文部の面子は自分の注文をキャンセルしていた。
店員もそれを予期していたかのように、一言頷くだけで了承する。
一応、真那が頼んだものなので皆それぞれに分けてもらっていいかと聞いていた。
真那はそろっていいよとうなづき返すだけだった。
「センパイ…ランチセット頼んだのは今朝の仕返しですかぁ…」
沙希がうなだれる。男性陣もなんとも複雑な表情で料理の山を見ていた。
「ち、ちなみにこれ…いくらだったっけ?」
賢規がさりげなく真那に近寄る。
「そんなに高くなかったわよ。千円くらいだったかな。」
真那はそんな料理を目の前にしても、いつもと変わらない表情だった。
「とりあえず食いましょうか…どこまで食えるか、わかんないスけど。」
雅がそう口にすると、面々がそれぞれでいただきますと言い、料理の消化に取り掛かった。
歩きまわったせいでそれなりのお腹の空いた天文部は、まずメインと思われる料理から取り掛かる。
「あ、センパイこれおいしいですよぉ~。」
沙希が色とりどりのスパゲッティを真那の皿に盛る。
「あら、本当ね。」
真那は一口食べると、意外そうな顔をして、スパゲッティを皿に移す。
「これいける。」
さりげなく自分の皿に移していた賢規がそれを食べて驚く。
「沙希、その左の皿とってくれ。」
雅が肉料理を受け取ると、それをきれいにナイフで切り取る。
「あ、これうめえ。」
雅がそう言うと、雪江以外がその肉を回して食べる。
それぞれ感想を口にしながら確実に料理を減らしていく。
「わ、わたしはちょっと…」
囁くように雪江が止まる。
箸を手にしたはいいが、量に圧倒されている雪江。
もともとあまり食べる方ではない彼女は、見ているだけで十分だった。
そんな様子を見てか、雅がデザートの皿をとる。
「ン、これなら食べれるだろ?」
一口ケーキが乗った皿が雪江の前に置かれる。
六つのケーキが色とりどりに置かれたそれを前に、雪江はちいさい声でありがとうと言う。
「セ、センパ~イ!なんか平然と肉とか齧りつかないでくださいよぉ!」
「だっておいしいもの。値段の割には…ってやつね。」
てきぱきと空の皿を増やしていく真那。その様子を店の奥で、店員は真那のことしかみていなかった。
そしてその目には、もっと…というなにかある種、情熱に燃える魂の眼差しが見てとれる。
「オィ、あの女も…まさか…」
「ああ、多分そうだろう…」
店員が嬉しそうな表情を浮かべる。店員の切れた視線が真那ただ一人を見つめる。
「原石…だな。」
店員がそっと厨房に消える。
また一人、戦友が増えた。
「意外と野菜もうまいなぁ…ドレッシングがいいのかな。」
賢規がサラダを食べ始めると、皆もそろって続く。
雪江も興味を惹かれてか、野菜を食べる。
「あら、本当。病院食の野菜とはやっぱり違うわ。」
「やっぱり、病院食って、あんまりおいしくないの?」
「なんか質素っていうか、そんな感じしますよねぇ~。」
「ううん…栄養バランスとか考えているし、贅沢は言えないわよ。」
「世の中にはもっとマズイ料理あるから病院食なんて美味いほうッスよ。」
「斯波さん、そんなやばい料理食ったことあるんですか?」
「あるぜ。料理っていうか、実験。」
その後店の中にはしばらく陶器とステンレスの鍔迫り合いの音が鳴り響いた。
しかしその音も時間と共に減っていく。徐々に少なくなっていく音に比べ、変わらないテンポの音があった。
席の中央に座る、天文部の部長。細い身体の、その女。
やがて料理を咀嚼する音は、ひとつだけになった。
「真那ちゃん…よくそんなに食べれるね。」
雪江以下天文部はフリードリンクを飲みながら真那の様子を見ていた。
真那だけが箸を進めていた。
「朝ごはん、食べてなかったからかな。」
真那は平然と食べる。
「皆識さん、そんなに食べるほうでしたっけ。」
賢規がメロンソーダを手に戻ってくる。
「うーん、そうでもないと思うんだけど。」
「いや、確実に食べるほうッスよ。今日から考えを改めます。」
「やめてよ。食いしん坊キャラなんて、合わないわ。」
真那五、六割ほどの料理を平らげると、ようやく一服を入れる。
「流石に多いわ…」
全員がそりゃそうだと内心で思う。
間延びした静謐を、気まぐれな鈴の音が店内に告白する。
「いらっしゃいませ。」
店の奥で真那の様子を見ていた店員がすぐに反応する。
出入り口に立っていた客にひそやかに近づく。
「三名様でよろしいでしょうか?」
店員が空いている席に客を誘導した。
真那達の席からは少し離れた、窓側の席。
真那がなんとなしに見るが、店のレイアウト上席の間をインテリアやデザインで区切られている為、顔はよく見えなかった。
店内のジャズ音楽にメニューの注文の声が重なる。
「沙希、ちょっとごめん。」
真那は自分のフリードリンク用のカップを持って、席を離れる。
厨房につながる通路の横に置いてあるドリンクコーナーに鉄観音茶を取りに行く。
その横を店員がすり抜けていく。
厨房へ戻っていく店員の様子はなんだがうきうきしているように見えた。
真那が席に戻ると、なんだか見たことのある料理が運ばれていた。自分の机にも置いてある前菜のようにも見える。
しばらく時間をおいて、次々と料理が運ばれていく。同時に、別の店員が机を運んでいた。
「この様子だと、今入ってきたお客さんやっぱりあれッスよね…」
「やっぱり雅クンもそう思っちゃう?すごいよねぇ~どんな巨漢なのやら。」
そうして店員が運んでいる途中に再び入口が開く鈴の音が鳴る。
店員が料理を置くと、素早く反応する。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
こちらへ、と言われ、今度は店内の反対側に案内される。
「料理減らないですねぇ~…センパイ、まだ食べれます?」
「今はちょっと休憩中。時間をかければ食べれると思うよ。」
「まぁ、特に用事もないッスから、ゆっくり食いましょうや。」
ランチセットの食事はまだまだ続く。
と、そこで店員が歓喜の声を上げる。
「お客様、今日という日はとても良い日です!」
真那達が何事かと店員を見る。
店員は興奮したように厨房に飛んでいく。
しばらく間が空いたのち、厨房の中でも歓声が上がる。
そして、真那達の疑問をよそに、店員が大きな皿を持ってくる。
なんだか見たことのある料理。自分の机にも置いてある前菜。
そう、今日三度目のランチセットが頼まれたのだ。
今や店内は騒然としていた。店員が総動員で料理を運んでいる。
厨房からは先ほどまで聞こえていなかった油を上げる音やコックの怒声が店内にも聞こえていた。
真那達が入る前からいた客が、涼しい顔でコーヒーを飲んでいた客が、怯えた客が、そそくさと勘定をすませて店から出ていく。
ただ、天文部が入る前から店内でランチセットを頼んだ客だけが、お茶を飲みながらニヤリと笑う。
「きょ、今日は、なんだかとっても新鮮です…」
雪江も怯えたように紅茶をすする。
真那も少し驚いた顔をしていたが、再び料理を食べる。
「なんだか食べている間に冷めちゃったわね…温めなおしてもらえるのかしら。」
「あ、センパイ、それならドリンクコーナーの隣に電子レンジがありましたよ。最初なんだろうと思ったけど、多分そういうことに使うんだと思いまっす。」
「あら、そうなの。」
「あ、じゃあ僕が温めてきます。ちょうどドリンクも持ってこようと思ってたんで。」
「そう?じゃあお願いね。」
賢規が皿を持って、ドリンクコーナーに消えていく。
「それにしても、どんな人でしょうね?センパイ、見えました?」
「ううん、この席からじゃ、ちょっと見えないわね。」
「そんなことよりさっさと食っちまいませんか?雪江がメイン食べずに意外とデザートを食べましたけど、まだ肉とかが…」
「だって…病院がそういうの食べれないし…」
「ゆっきーセンパイ、太るよぉ~?だって病院ってあんまり動かないっしょ?」
「うん…そうなんだけど…あ、でも一応運動はしてるよ。」
「へぇ~以外ッスね。なにしてんの?」
「…腹筋。」
「…腹筋?」
真那が怪訝そうな顔で雪江を見る。
若干、興味あり気な顔で沙希が注視していた。
「ベットから起き上がるときに…ちょっと。」
「それ運動じゃないわよ。」
真那がばっさりと切り捨てる。
老人は静けさの響きを楽しんでいた。昼と静寂が再開を果たすたびに、この身体や人間の心に何か深い染みを広げる。
もう何時座っているだろう。眠ることのできない不自由な身体には一向に慣れなかった。
蒸留酒をグラスに注ぐ。緩慢はその動作は、とめどない思考をしていた老人にふと違う視点を与える。
世界を覆っているグラスを神としたら、その保護からあふれ出た液体こそが、我々か。
むしろ世界を注いだその時から、表面に張り付くその水滴こそが。
老人は脳を駆け巡る様々な自分から、最適な答えを探る。時無くして、それが無駄な行為だと悟った。
喉の奥で声なき音で笑う。
似ている…と。
世界は神というグラスの保護下にある。ではあふれ出た液体は誰に守られる?
ヨルニフィーヴ。そう、それこそがグラスに変わる新たなモノ。
密やかにヴェルフェゴールが動く。
街を見下ろせるその場所から、老人はただ無表情に目を向けた。
その目は街も空も見ていなかった。その先、未来を見通すような鋭い眼光が別の何かをとらえていた。
昼時のその空には太陽が上がっている。
ガラスを貫通した日光が、室内に縞状の文様を形作る。
そして机の上に置かれていたコピー用紙が照らされる。
ヴェルフェゴールがそちらを見た。
「書物が失われたのは本当に口惜しい…。」
何かのコピーが映し出されているその用紙を老人は手に取る。
白い紙の中央には写真が大きく映し出されていた。
写真には何やら文字が書かれているものをとらえており、ぼんやりと文字が読める。
「この断片、果たして予言となりうるか。」
様々な予測や、可能性を老人の衰えることのない脳が探る。
やがて、ヴェルフェゴールの眼が開かれる。
老人は予感していた。
このコピーに書かれている内容は、おそらく現実に起こりうることだ。
そしてそれを疑わない老人の意思が、室内の空気を圧縮していく。
まだだ、まだその時ではない。
しかし時は近い。ヨルニフィーヴがもっとも力を増す時期はそう長くはない。
彗星、そしてヨルニフィーヴの力を取り込んだ者たち。
だがまだピースは足りない。「よりしろ」となる源。姿形もわからぬそのモノ。
しかし、とヴェルフェゴールは再び手元の用紙を見る。
その文章の断片には、人と書かれていることが明白に示されている。
ヴェルフェゴールは「よりしろ」とは人であることを確信していた。
だからこそ、サンとピアスにその力を存分に生かし、計り知れないその人物を探してきた。
始めこそむやみやたらに探していたものだが…ようやく手に入った二枚目のこの断片。
ヴェルフェゴールが二枚目のコピー用紙を見る。
その紙にも同じように何かの文章のコピーが写真で写っていた。
此処。この土地を探り当てた。様々な引用や、暗喩が駆使され、今だわからない部分も多い。
しかしこの場所、この縛られた土地。まさにヨルニフィーヴがやってくる土地。結びつく場所。
ヴェルフェゴールは、今や静かにその時を待っていた。
唐突に無機質な音が鳴る。ヴェルフェゴールは手を伸ばし、その音の原因を止めて耳に当てる。
「おお、どうした。…そうか、わかった。」
ヴェルフェゴールがしばらく受け答えをしたのち、電話を切る。
老人は無表情になる。再び脳内へとその集中を固める。
そして、唐突に老人は笑う。その乾いた笑いを聞く者は誰もいない。
「後、ひとつか。」
ヴェルフェゴールはその時を待つ。
世界が、神が、慌てふためく様子を浮かべ、老人は一人、その時を待つ。
もう何時座っているだろう。眠ることのできない不自由な身体には一向に慣れなかった。
蒸留酒をグラスに注ぐ。緩慢はその動作は、とめどない思考をしていた老人にふと違う視点を与える。
世界を覆っているグラスを神としたら、その保護からあふれ出た液体こそが、我々か。
むしろ世界を注いだその時から、表面に張り付くその水滴こそが。
老人は脳を駆け巡る様々な自分から、最適な答えを探る。時無くして、それが無駄な行為だと悟った。
喉の奥で声なき音で笑う。
似ている…と。
世界は神というグラスの保護下にある。ではあふれ出た液体は誰に守られる?
ヨルニフィーヴ。そう、それこそがグラスに変わる新たなモノ。
密やかにヴェルフェゴールが動く。
街を見下ろせるその場所から、老人はただ無表情に目を向けた。
その目は街も空も見ていなかった。その先、未来を見通すような鋭い眼光が別の何かをとらえていた。
昼時のその空には太陽が上がっている。
ガラスを貫通した日光が、室内に縞状の文様を形作る。
そして机の上に置かれていたコピー用紙が照らされる。
ヴェルフェゴールがそちらを見た。
「書物が失われたのは本当に口惜しい…。」
何かのコピーが映し出されているその用紙を老人は手に取る。
白い紙の中央には写真が大きく映し出されていた。
写真には何やら文字が書かれているものをとらえており、ぼんやりと文字が読める。
「この断片、果たして予言となりうるか。」
様々な予測や、可能性を老人の衰えることのない脳が探る。
やがて、ヴェルフェゴールの眼が開かれる。
老人は予感していた。
このコピーに書かれている内容は、おそらく現実に起こりうることだ。
そしてそれを疑わない老人の意思が、室内の空気を圧縮していく。
まだだ、まだその時ではない。
しかし時は近い。ヨルニフィーヴがもっとも力を増す時期はそう長くはない。
彗星、そしてヨルニフィーヴの力を取り込んだ者たち。
だがまだピースは足りない。「よりしろ」となる源。姿形もわからぬそのモノ。
しかし、とヴェルフェゴールは再び手元の用紙を見る。
その文章の断片には、人と書かれていることが明白に示されている。
ヴェルフェゴールは「よりしろ」とは人であることを確信していた。
だからこそ、サンとピアスにその力を存分に生かし、計り知れないその人物を探してきた。
始めこそむやみやたらに探していたものだが…ようやく手に入った二枚目のこの断片。
ヴェルフェゴールが二枚目のコピー用紙を見る。
その紙にも同じように何かの文章のコピーが写真で写っていた。
此処。この土地を探り当てた。様々な引用や、暗喩が駆使され、今だわからない部分も多い。
しかしこの場所、この縛られた土地。まさにヨルニフィーヴがやってくる土地。結びつく場所。
ヴェルフェゴールは、今や静かにその時を待っていた。
唐突に無機質な音が鳴る。ヴェルフェゴールは手を伸ばし、その音の原因を止めて耳に当てる。
「おお、どうした。…そうか、わかった。」
ヴェルフェゴールがしばらく受け答えをしたのち、電話を切る。
老人は無表情になる。再び脳内へとその集中を固める。
そして、唐突に老人は笑う。その乾いた笑いを聞く者は誰もいない。
「後、ひとつか。」
ヴェルフェゴールはその時を待つ。
世界が、神が、慌てふためく様子を浮かべ、老人は一人、その時を待つ。
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