871 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 00:31:57 ID:???
年中、初夏と晩夏をいったり来たりしているような第3新東京市であるが、今日は思いのほか湿気が少なく過ごしやすい日である。
だが、いつものごとく、熱い男の集まり・日重工の温度は第3新東京市より+2度…
そして、今日はさらに+1度であった。
年中、初夏と晩夏をいったり来たりしているような第3新東京市であるが、今日は思いのほか湿気が少なく過ごしやすい日である。
だが、いつものごとく、熱い男の集まり・日重工の温度は第3新東京市より+2度…
そして、今日はさらに+1度であった。
すでにクーラーの設定温度は23度にまで下げているのだが、それでも、この人だかりのせいで蒸し暑い。
本来、この視聴覚室は、会議室などがつかえない場合に使うことを想定されているもので、
せいぜい50名ほどの収容力しかない。
しかし、昼食の休憩時間ということもあってか、今文字通り、第二研究所中の職員が視聴覚室へと押しかけていた。
あまりの人の多さに、急遽、会議室なども開放し、そこでも同じ映像を流しているのだが、
それでもまだ人の垣根は増えつづけている。
せいぜい50名ほどの収容力しかない。
しかし、昼食の休憩時間ということもあってか、今文字通り、第二研究所中の職員が視聴覚室へと押しかけていた。
あまりの人の多さに、急遽、会議室なども開放し、そこでも同じ映像を流しているのだが、
それでもまだ人の垣根は増えつづけている。
「困りましたね…」
「…いっそのことネットで所内に配布したほうがよかったか…」
「それじゃぁ先にサーバが落ちるでしょうョ、主任」
「…いっそのことネットで所内に配布したほうがよかったか…」
「それじゃぁ先にサーバが落ちるでしょうョ、主任」
立ち尽くす三人をよそに、壁にかけてある温度計は31度を指し示していた。
872 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 00:32:56 ID:???
ここ、第3新東京市 日重工付属 第二研究所も、先日のJA二号機の正式着任に伴い、第一研究所からかなりの人数が異動してきた。
加えて、国連主導、いや、NERV主導のもとで始まった拡張計画も、今まさに、工事真っ只中といった状態である。
当初、市内に建造される日重工の地下施設は地下6階相当ということだったのだのだが、JA二体の運用、さらに第3新東京市の各施設、
NERV本部の地下インフラとの連動を強化するため、計画は地下11階相当へと拡張されていた。
ここ、第3新東京市 日重工付属 第二研究所も、先日のJA二号機の正式着任に伴い、第一研究所からかなりの人数が異動してきた。
加えて、国連主導、いや、NERV主導のもとで始まった拡張計画も、今まさに、工事真っ只中といった状態である。
当初、市内に建造される日重工の地下施設は地下6階相当ということだったのだのだが、JA二体の運用、さらに第3新東京市の各施設、
NERV本部の地下インフラとの連動を強化するため、計画は地下11階相当へと拡張されていた。
もっとも、これらは日重工側からの要求というより、NERV側が第3新東京市の戦略機能の強化を狙ったものであったのだが、
元来、ジオフロントという巨大な地下施設を抱える第3新東京市である。 その地下には、過去に建造拠点や試験シェルターなどとして
建造されたまま放棄された空間が多数存在する。 よって、実際のところ、工事の手間や費用というものは見た目ほどはかかっていない。
すでに、エヴァ回収ゲートを改造したエヴァ/JA兼用リニアラインなるものまで作られ、来月にはジオフロントへの直通ラインも完成する見通しだ。
元来、ジオフロントという巨大な地下施設を抱える第3新東京市である。 その地下には、過去に建造拠点や試験シェルターなどとして
建造されたまま放棄された空間が多数存在する。 よって、実際のところ、工事の手間や費用というものは見た目ほどはかかっていない。
すでに、エヴァ回収ゲートを改造したエヴァ/JA兼用リニアラインなるものまで作られ、来月にはジオフロントへの直通ラインも完成する見通しだ。
第五使徒の解体のせいで工事の進行具合はあまり芳しくはないとはいえ、このように、かなり大規模な開発が日々続いており、
第3新東京市の人口と賑わいは、日々増している……――そんな日々が長らく続いている最中での出来事であった。
第3新東京市の人口と賑わいは、日々増している……――そんな日々が長らく続いている最中での出来事であった。
「しかし……何度見てもすごい映像ですな」
「…全くだ」
「はぁ…………小松さんも時田主任も、この人数を何とかすることを考えませんか?これじゃ廊下が埋まりますよ……」
「…全くだ」
「はぁ…………小松さんも時田主任も、この人数を何とかすることを考えませんか?これじゃ廊下が埋まりますよ……」
彼らの視線の先、プロジェクターが映し出すスクリーンの中には、太平洋艦隊を足場に華麗なジャンプを見せる赤い姿があった。
E P I S O D E : 8 「 2 n d チ ル ド レ ン 、 来 日 」
873 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 00:34:35 ID:???
「ようやっと弐号機、そしてセカンドチルドレンの着任か」
「あぁ…ドイツ政府もずいぶんと渋ったものだ」
「ようやっと弐号機、そしてセカンドチルドレンの着任か」
「あぁ…ドイツ政府もずいぶんと渋ったものだ」
先日、久々の公務に使われたNERV総司令官公務室。
「しかし皮肉なものだな、碇」
「…何がだ」
「ジェットアローンの出現が、ドイツ政府を焦らせたのではないかね?」
「…否定はせん」
「…何がだ」
「ジェットアローンの出現が、ドイツ政府を焦らせたのではないかね?」
「…否定はせん」
ドイツ、アメリカ、中国といったNERVの大規模な支部を抱える主要先進国は、当初、その利益が日本に集中するのを危惧し、
エヴァの各機体の建造権を主張、エヴァがNERV本部に集中することを避けたい意向を持っていた。
エヴァの各機体の建造権を主張、エヴァがNERV本部に集中することを避けたい意向を持っていた。
しかしそれに反発していたのが、その予算を捻出させられていた後進国である。
そのうえ、ジェットアローンという民間企業が建造した兵器が、次々と襲い掛かる使徒に対しそれを確実に殲滅、
その有用性を示したため、日本政府をはじめ多くの国で、エヴァンゲリオン開発の大量予算投入に対する疑問の声が強くなっていた。
その有用性を示したため、日本政府をはじめ多くの国で、エヴァンゲリオン開発の大量予算投入に対する疑問の声が強くなっていた。
実際、現段階ではエヴァ零号機、初号機は第五使徒殲滅作戦にしか参加しておらず、その作戦も本来想定していたものとは違う、
長距離射撃という内容であり、NERV、そして委員会が主張していたエヴァの必要性に絡んだものではない――
長距離射撃という内容であり、NERV、そして委員会が主張していたエヴァの必要性に絡んだものではない――
―― ガチャ、プシューっ
「まぁドイツもこれ以上風当たりの強いままにはいられなかった、ということではないでしょうか?」
公務室のドアが開き、長身、長髪の男性が入ってくる――NERV特殊監査部、加持リョウジである。
874 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 00:36:43 ID:???
「君か…」
「加持君、せめて入るときぐらいノックはするべきだろう?」
「君か…」
「加持君、せめて入るときぐらいノックはするべきだろう?」
ゲンドウと冬月がチラリと加持のほうを見遣る。しわのだらけシャツに緩んだネクタイと無精ひげといった風貌は、
(冬月の詰将棋練習場にしか使われずほぼ開店休業に程近い)この公務室ですらあまりふさわしい格好と言えたものではない。
(冬月の詰将棋練習場にしか使われずほぼ開店休業に程近い)この公務室ですらあまりふさわしい格好と言えたものではない。
「失礼、以後気をつけますよ、副司令」
「うむ。…それで、ドイツ政府の対応には何か問題は?」
「うむ。…それで、ドイツ政府の対応には何か問題は?」
黙ったままのゲンドウを横目に、冬月が話を続ける。
「今のところは問題ないですね。引き続き量産機の建造権は主張し続けるでしょうが、それはこちらの想定の範囲内です」
「そうか。今回ばかりは仕事を重ねに重ねてしまったな」
「いえ、それほどのことじゃぁないです。内偵は得意ですし、情報操作も、ね」
「そうか。今回ばかりは仕事を重ねに重ねてしまったな」
「いえ、それほどのことじゃぁないです。内偵は得意ですし、情報操作も、ね」
少しだけゲンドウのほうを見る加持。相変わらずゲンドウは黙ったままだ。
「司令の示唆したとおり、当初からNERVドイツ支部は、独政府の指示で、エヴァンゲリオンの完成を
隠し続けるつもりだったようです。 初のプロダクションタイプである弐号機が完成などと本部に伝えれば、
あっという間に徴収されるのは目に見えていましたからね」
「もっとも、君のおかげで我々NERV本部はその事実をすぐに認知し、国連に提示したわけだが」
「ま、あとはお察しのとおり、独当局は国連内部で散々どつかれたようでしてね」
隠し続けるつもりだったようです。 初のプロダクションタイプである弐号機が完成などと本部に伝えれば、
あっという間に徴収されるのは目に見えていましたからね」
「もっとも、君のおかげで我々NERV本部はその事実をすぐに認知し、国連に提示したわけだが」
「ま、あとはお察しのとおり、独当局は国連内部で散々どつかれたようでしてね」
875 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 00:42:36 ID:???
ついに零号機や初号機のような試作機ではない、本物のエヴァが完成したというのに、それを隠蔽していたドイツ政府。
プロダクションモデルの実戦投入を見送りつづけるのは予算独占のためだと、諸外国から激しく叩かれ続けた結果、
ドイツ政府並びにNERVドイツ支部は、NERV本部からの徴収要求を飲まざるを得なくなった。
そして、それらの一連の情報収集を行っていたのが、加持リョウジというわけである。
ついに零号機や初号機のような試作機ではない、本物のエヴァが完成したというのに、それを隠蔽していたドイツ政府。
プロダクションモデルの実戦投入を見送りつづけるのは予算独占のためだと、諸外国から激しく叩かれ続けた結果、
ドイツ政府並びにNERVドイツ支部は、NERV本部からの徴収要求を飲まざるを得なくなった。
そして、それらの一連の情報収集を行っていたのが、加持リョウジというわけである。
「これで次使徒戦でエヴァが活躍できなければNERVそのものの存在意義が無くなるという意見もあるようですが?」
「それはなかろう。老人達は自らの保身と補完計画遂行のためにはいかなる手も尽くす。
我々だってただ黙っているわけではない。弐号機がそろった今、単にエヴァが使徒を殲滅すればよいだけの話だ」
「それはなかろう。老人達は自らの保身と補完計画遂行のためにはいかなる手も尽くす。
我々だってただ黙っているわけではない。弐号機がそろった今、単にエヴァが使徒を殲滅すればよいだけの話だ」
引き続き冬月が答える。質問の答えとしてはあまり適当ではない回答に顔をしかめつつ、加持は話題を変える。
「ところで、例の計画のほうは……?」
「……アダム再生計画は順調だ。君が気にするべきことではない」
「……アダム再生計画は順調だ。君が気にするべきことではない」
今まで沈黙を守っていたゲンドウが答える。
その表情はサングラスと組まれた手に阻まれて確認できない。
その表情はサングラスと組まれた手に阻まれて確認できない。
「そうですか。いやぁ、長い船旅で肌身離さず持ってたもんだから、愛着が湧きましてね」
加持リョウジ――その茶化した表情の裏に、真実への執念を持つ男である。
876 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:06:29 ID:???
「だいたいにして、あれほどの瞬発力など機械駆動じゃ無理だろう」「やはり三極ケーブルということは交流で給電してるのか?」
「安全固定ラック兼ウェポンラックを肩に持ってくるとは考えたな…」「あの動きからすると二重装甲か?」
「だいたいにして、あれほどの瞬発力など機械駆動じゃ無理だろう」「やはり三極ケーブルということは交流で給電してるのか?」
「安全固定ラック兼ウェポンラックを肩に持ってくるとは考えたな…」「あの動きからすると二重装甲か?」
終業時間になっても、帰り道、いたるところで話題のタネに上がっているのは、エヴァ弐号機だ。
自分達が理想としてきた以上の、ある意味、想像すらしていなかった動きを見せ付けられたショックは大きい。
まともに動かないエヴァ、人の心によるアバウトな制御、膨大な電力消費――口には出さなくとも、
立て続けのJAの勝利に、エヴァを下に見ていた職員も少なくはなかった。
自分達が理想としてきた以上の、ある意味、想像すらしていなかった動きを見せ付けられたショックは大きい。
まともに動かないエヴァ、人の心によるアバウトな制御、膨大な電力消費――口には出さなくとも、
立て続けのJAの勝利に、エヴァを下に見ていた職員も少なくはなかった。
しかし、今回見せ付けられた弐号機の映像は、少なくとも技術者たちの度肝を抜くには十分過ぎるインパクトであった。
ゆうに数百メートルを一気に跳躍する能力、海中という精密機械にとってはかなり過酷な環境での動作、
想像以上に強度のある電源ケーブル、そして、ATフィールド中和による通常火薬での目標の破壊。
ゆうに数百メートルを一気に跳躍する能力、海中という精密機械にとってはかなり過酷な環境での動作、
想像以上に強度のある電源ケーブル、そして、ATフィールド中和による通常火薬での目標の破壊。
今までJAにその誇りを持ちつづけてきた日重工であったが、改めてNERVの技術力の高さを痛感したのである。
自分達のJAにあの動きをさせるには、どのような技術が必要か――
今一度、現状に満足せず、自らのJAをより成長させる必要があること、そして初心に返りJAを開発していくこと――
誰もが同じ事を考えていた。
今一度、現状に満足せず、自らのJAをより成長させる必要があること、そして初心に返りJAを開発していくこと――
誰もが同じ事を考えていた。
無論、時田も例に漏れず、第二研究所の消灯確認の見回りをしながらも、JAの動作系の改良を考えていた。
内心、NERVを少しだけ馬鹿にしていたことを恥じながら。
内心、NERVを少しだけ馬鹿にしていたことを恥じながら。
877 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:10:02 ID:???
第六使徒が現れたという知らせを聞いたのは、ちょうど昨日の正午過ぎであった。
第六使徒が現れたという知らせを聞いたのは、ちょうど昨日の正午過ぎであった。
先日のテロ事件を受けて、新横須賀で政府と共同の各JA関連施設のテロ対策の発案会議に出席していた時田は、
弁当を食べる暇もなしに、押っ取り刀で第二研究所に舞い戻ってきた。
管制室では既に加藤と、そして新しく異動となった小松が対応にあたっていたのだが、なんと相手は海洋上で現れたという。
JAを出すわけにもいかず、また領海外なので戦略自衛隊も動けない。
国連軍太平洋艦隊が一方的に攻撃を受けているという情報だけが届き、いっそう時田たちを焦らせた。
弁当を食べる暇もなしに、押っ取り刀で第二研究所に舞い戻ってきた。
管制室では既に加藤と、そして新しく異動となった小松が対応にあたっていたのだが、なんと相手は海洋上で現れたという。
JAを出すわけにもいかず、また領海外なので戦略自衛隊も動けない。
国連軍太平洋艦隊が一方的に攻撃を受けているという情報だけが届き、いっそう時田たちを焦らせた。
が、その3時間後、彼らの元に使徒殲滅の知らせが届く――なんと運搬中のエヴァンゲリオン弐号機により、戦艦二隻を使徒へ
直接突入させ、ゼロ距離射撃と自爆で破壊せしめた、ということであった。
直接突入させ、ゼロ距離射撃と自爆で破壊せしめた、ということであった。
そして、今朝、ミサトに呼び出された時田は、これ見よがしに、戦闘の一部始終を撮影したディスクを受け取ったのだった。
同封された資料には使徒殲滅時の大雑把な状況説明が書いてあったが、これ以上のことは日重工の職員に
伝達するわけにはいかない、とも書かれていた。
無論、それはパイロットの詳細(そして、パイロットが"チルドレン"であるということ)、今回のエヴァの運用方法などに
ついても含んでいるが、これは保安上の理由からであり仕方のないことだろう。
同封された資料には使徒殲滅時の大雑把な状況説明が書いてあったが、これ以上のことは日重工の職員に
伝達するわけにはいかない、とも書かれていた。
無論、それはパイロットの詳細(そして、パイロットが"チルドレン"であるということ)、今回のエヴァの運用方法などに
ついても含んでいるが、これは保安上の理由からであり仕方のないことだろう。
しかし、時田をはじめ日重工の面々が(弐号機の映像で自らを律しながらも、)今日一日悶々としながら過ごすことになったのは、
まるでエヴァ弐号機に関する記述がなかったからである。
NERVの技術流出を防ぐため、情報守秘は存在していたが、今までエヴァ初号機や零号機に関しては、少なくとも
電源をはじめとした各種規格、重量や長身、センサーなどの情報提供がなされていた。
ところが、弐号機に関しては一切極秘なのだという。
まるでエヴァ弐号機に関する記述がなかったからである。
NERVの技術流出を防ぐため、情報守秘は存在していたが、今までエヴァ初号機や零号機に関しては、少なくとも
電源をはじめとした各種規格、重量や長身、センサーなどの情報提供がなされていた。
ところが、弐号機に関しては一切極秘なのだという。
時田をはじめJA運営責任者数名へは、詳細を明日のNERV/日重工合同の戦略戦術会議で公表するということで
あったのだが、時田にはそれにも納得がいかなかったのであった。
あったのだが、時田にはそれにも納得がいかなかったのであった。
……要は、NERVは秘密だらけでずるい、ということである。
878 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:16:29 ID:???
そんなこんなで、あっという間に過ぎていった今日一日。 気づいてみれば、すでに窓の外は暗い。
そんなこんなで、あっという間に過ぎていった今日一日。 気づいてみれば、すでに窓の外は暗い。
節電のため、終業時間になると決まって各フロアの消灯確認の見回りをしてしまうのは、第一研究所 所属時代からの癖だ。
もっとも、例の映像のせいか、今日はまだ電灯のついている部屋も多い。恐らく各課、班でJAの改良余地の議論でもしているのだろう。
もっとも、例の映像のせいか、今日はまだ電灯のついている部屋も多い。恐らく各課、班でJAの改良余地の議論でもしているのだろう。
角を曲がると、また一つ、明かりの洩れている部屋がある。ここはJA武装開発課でJA用兵器を担当している部署だ。
ふと立ち止まると、ドア越しに白熱した議論が聞こえてくる。思わず、時田はドアをあける。
ふと立ち止まると、ドア越しに白熱した議論が聞こえてくる。思わず、時田はドアをあける。
「なかなか熱い議論だな…」
「あ、主任!?」「おぉ、主任でしたか!」「お、時田主任かい」
「あ、主任!?」「おぉ、主任でしたか!」「お、時田主任かい」
数台のコンピュータが並ぶこの部屋、至るところに様々な仕様書や比較実験の報告書が重なっている。
同様に書類だらけの丸テーブルをかこんで議論をしていた数人の男達が、時田を見遣る。
同様に書類だらけの丸テーブルをかこんで議論をしていた数人の男達が、時田を見遣る。
若い技術者たちの顔ぶれが並ぶが、その中に一人、年配の見慣れた顔がいる。
「いやぁね、ほら、エヴァの2番機が出てきたでしょう?」
「あの機動性には、しょーじき、ウチのJAじゃぁまだ及ばないですからねぇ」
「まぁ、つーわけで新しく共同作戦時に使える支援兵器を考えようってことになりまして、それで、おやっさんに話を聞いてみようと」
「あの機動性には、しょーじき、ウチのJAじゃぁまだ及ばないですからねぇ」
「まぁ、つーわけで新しく共同作戦時に使える支援兵器を考えようってことになりまして、それで、おやっさんに話を聞いてみようと」
879 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:18:05 ID:???
おやっさんと呼ばれた技術者――本名は谷治というのだが――おそらく前線である第ニ研究所で
働いている人員の中では、もっとも年配な方だ。
だが、未だにその体は衰えを感じさせないほどに強靭であり、今でも徹夜の作業をこなす人でもあった。
おやっさんと呼ばれた技術者――本名は谷治というのだが――おそらく前線である第ニ研究所で
働いている人員の中では、もっとも年配な方だ。
だが、未だにその体は衰えを感じさせないほどに強靭であり、今でも徹夜の作業をこなす人でもあった。
「いやぁ、谷治さん、こんな遅くまでいていいんですか?」
「ふふん、コッチはまだまだ若いのに負けるつもりはなくてね。時田主任も相変わらず最後の見回り続けてるってか?」
「まぁ癖みたいなもんですから。それで、谷治さんは、武装についてはどう思うんです?」
「ふふん、コッチはまだまだ若いのに負けるつもりはなくてね。時田主任も相変わらず最後の見回り続けてるってか?」
「まぁ癖みたいなもんですから。それで、谷治さんは、武装についてはどう思うんです?」
時田も長年お世話になってきた人であり、また学問としてではなく現場でのロボット工学を教えてくれたのもこの人だ。
自然と彼の意見が気になる。
自然と彼の意見が気になる。
「まぁそりゃぁ理想としては短距離から遠距離まで様々用意して、状況に応じて持ちかえるっつーのが理想だろうな。
それが人型兵器の利点っつーもんでもある」
それが人型兵器の利点っつーもんでもある」
今現在、JAが持っている武装は、例のハンマーとシールドだけだ。
結局、今の段階では、汎用的に武器を扱えるというメリットを生かせていないのは事実である。
結局、今の段階では、汎用的に武器を扱えるというメリットを生かせていないのは事実である。
「今のハンマーは、JAの強力な出力を生かせるっつー意味では最適だと思う。だが、ネルフのアレが、
あそこまで機動力を持っているとなると、もう少しJAのポジションも考え直さなきゃぁいけないと思うんだな」
あそこまで機動力を持っているとなると、もう少しJAのポジションも考え直さなきゃぁいけないと思うんだな」
近くにあった椅子をひきよせ時田も一緒になって丸テーブルを囲み、彼の話に耳を傾け続ける。
「それでだ、俺が思うに、だ。今後、あの…えぇとなんだっけ、あの力場よ」
「ATフィールドっすか?」
「そう、それ。それをあのネルフのヤツが突破できるなら、ヤツらが近接戦闘で、JAが後方支援っつー可能性も増えてくるだろう」
「ATフィールドっすか?」
「そう、それ。それをあのネルフのヤツが突破できるなら、ヤツらが近接戦闘で、JAが後方支援っつー可能性も増えてくるだろう」
880 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:19:19 ID:???
なるほど、と時田は思う。JAが第三使徒を撃破して以来、その改良点は近接戦闘を想定したものばかりであったが、
今後、エヴァ三体とJA二体であれば、JA二体とも近接に出るというのは、それほどないはずだ。
なるほど、と時田は思う。JAが第三使徒を撃破して以来、その改良点は近接戦闘を想定したものばかりであったが、
今後、エヴァ三体とJA二体であれば、JA二体とも近接に出るというのは、それほどないはずだ。
「だからな、やっぱり中・長距離を想定した火器も必要だと俺は思うんだよね」
「で、それはやっぱり肩掛けのランチャーなんすか?」
「そりゃーお前カッコよさは大事だろう?」「えーでも」「そしたら…」
「で、それはやっぱり肩掛けのランチャーなんすか?」
「そりゃーお前カッコよさは大事だろう?」「えーでも」「そしたら…」
再び若い技術者たちとおやっさんとの議論が始まる。
どうやら先ほどの議論も、JAにキまる後方支援兵器は何か、という議題だったらしい。
どうやら先ほどの議論も、JAにキまる後方支援兵器は何か、という議題だったらしい。
「じゃぁ俺は見回り続けますから…」
議論が再び加熱しそうな気配を見せたので、時田が席を立つ。
「おうよ、明日はネルフの偉い人に呼ばれてるんだろ?今日は早く寝たほういいぞ主任」
「今夜はそうしますよ」
「今夜はそうしますよ」
ぶっきらぼうながら優しいおやっさんの声を背中に受け、部屋を出る。
最近といえば、連日、先日のテロ騒動の対応に明け暮れて睡眠時間もまばらであった。
なにせ、暴走の原因が外的因子とはいえ、JA本体にその妨害装置の接着を許したのである。
いくら日重工が民間の団体で相手はプロだからといっても、これは大きな管理問題だ。
昨日の会議でも、政治家たちから、ずいぶんとしつこく言われたものだった。彼らがJAによって大きな利益を手にしていることを
時田は知っていたのだが、当然そんなことを口に出すわけにはいかない。
なにせ、暴走の原因が外的因子とはいえ、JA本体にその妨害装置の接着を許したのである。
いくら日重工が民間の団体で相手はプロだからといっても、これは大きな管理問題だ。
昨日の会議でも、政治家たちから、ずいぶんとしつこく言われたものだった。彼らがJAによって大きな利益を手にしていることを
時田は知っていたのだが、当然そんなことを口に出すわけにはいかない。
政治家とは自分の都合の悪いものは棚の上にあげる人種なのだ――数少ない時田の偏見である。
881 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:21:53 ID:???
地上フロアをあらかた回ると、地階の管制室へと向かう。
夜勤の当番の者に声をかけ、また、同時に館内のセキュリティのチェックをしておくためだ。
地上フロアをあらかた回ると、地階の管制室へと向かう。
夜勤の当番の者に声をかけ、また、同時に館内のセキュリティのチェックをしておくためだ。
IDカードを通すと、管制室とフロアを隔てる重厚な扉が開く。
(これは、先々週の拡張工事の一環で取り付けられたもので、先日のテロとは関係のないものだ)
さらにもう一つ、認証のない普通の鉄製扉を開けると、そこに管制室がある。
普段、人が出入りしている日中は外隔の遮断ドアは開けっ放しになっているのだが、
夜勤の際は保安上の理由から、閉じたままにしているのだ。
(これは、先々週の拡張工事の一環で取り付けられたもので、先日のテロとは関係のないものだ)
さらにもう一つ、認証のない普通の鉄製扉を開けると、そこに管制室がある。
普段、人が出入りしている日中は外隔の遮断ドアは開けっ放しになっているのだが、
夜勤の際は保安上の理由から、閉じたままにしているのだ。
『管制室入り口(禁煙)』と書かれた扉を開くと、なにやらいい香りが時田の鼻をつく。
「夜にカップラーメンを食べると太るぞ?」
声をかけた先には、夜勤担当の二人の職員がそろってカップラーメンを食べているところであった。
「いやぁ、主任に見られちゃうとは…」
「いつもの時間になっても主任の姿が見えないもんですから、てっきり今日は来ないのかと…」
「いつもの時間になっても主任の姿が見えないもんですから、てっきり今日は来ないのかと…」
明確なルールがあるわけではないが、基本的に管制室内は飲食禁煙は禁止である。
万が一の場合、精密機器を壊してしまう可能性もあり、管制室に不具合が生じれば、JAの運営にも当然問題が生じる。
万が一の場合、精密機器を壊してしまう可能性もあり、管制室に不具合が生じれば、JAの運営にも当然問題が生じる。
「こぼさないように気をつけてくれよ?もしそうなったら、それこそ禁止にせざるを得ないからな」
だが、時田には彼らの気持ちがわからないわけでもない。
なにせ、管制室から食事のためのラウンジや売店のある外のフロアに出るには、
毎回あの重厚な外隔扉を開け閉めさせなければならないのだ。面倒なことこの上ない。
なにせ、管制室から食事のためのラウンジや売店のある外のフロアに出るには、
毎回あの重厚な外隔扉を開け閉めさせなければならないのだ。面倒なことこの上ない。
882 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/16(月) 01:23:07 ID:???
それに夜勤とはいえ、NERVと違い監視任務や情報収集を行うわけではない。
彼らの仕事はNERVからの緊急連絡が入った際に、日重工職員への緊急事態宣言発令とJAの起動準備をやるだけなのだ。
一応、警備室としての機能なども兼ねているが、館内には監視カメラがそれほどあるわけでもなく、
また防犯センサー類もコンピュータが自動的に監視している状態だ。
そういうわけで、夜勤となると、結局持ち込んだ夜食を食べながら映画を見たりJAの戦略シミュレーションなどを
しながら暇をつぶすほかないのが現実であり、それらは暗黙の了解だ。
それに夜勤とはいえ、NERVと違い監視任務や情報収集を行うわけではない。
彼らの仕事はNERVからの緊急連絡が入った際に、日重工職員への緊急事態宣言発令とJAの起動準備をやるだけなのだ。
一応、警備室としての機能なども兼ねているが、館内には監視カメラがそれほどあるわけでもなく、
また防犯センサー類もコンピュータが自動的に監視している状態だ。
そういうわけで、夜勤となると、結局持ち込んだ夜食を食べながら映画を見たりJAの戦略シミュレーションなどを
しながら暇をつぶすほかないのが現実であり、それらは暗黙の了解だ。
「一応、ちゃんとセンサー類が稼動しているか毎時間のチェックは忘れるな。ここにはJAが二機もあるんだからな」
「アイアイサー、分かっております、時田大佐!」「拠点防御なら我らにお任せください時田大佐!」
「…大佐、ね。。。
…お前ら二人とも腕立て伏せ100回だっ!」
「えぇー!?」「ちょっ!?」
「アイアイサー、分かっております、時田大佐!」「拠点防御なら我らにお任せください時田大佐!」
「…大佐、ね。。。
…お前ら二人とも腕立て伏せ100回だっ!」
「えぇー!?」「ちょっ!?」
静かな所内に笑い声が響く。
日重工のいつもと変わらぬ日常、そして緊張の合間の休息である。
日重工のいつもと変わらぬ日常、そして緊張の合間の休息である。