64 :522-524:2006/02/09(木) 00:29:29 ID:???
意気揚揚と復旧作業に戻る技術者たち。
先ほどまでの浮かれたような雰囲気がいつの間にか薄くなっていた。
ジェットアローンは戦う機械だ。
実戦兵器として実用に耐えうる状態でなければ意味がない。
そのため、小さなミス一つすら許されない。
JAの作業にはそれほどの正確さが求められる。
ロボットが精密機械である以上、小さなミスからどんな大きな問題になって返ってくるかもわからない。
ニ足歩行ロボットとして複雑な構造を持たないロボットなどいないのだ。
時田はJAの右腕である部分を見上げる。
意気揚揚と復旧作業に戻る技術者たち。
先ほどまでの浮かれたような雰囲気がいつの間にか薄くなっていた。
ジェットアローンは戦う機械だ。
実戦兵器として実用に耐えうる状態でなければ意味がない。
そのため、小さなミス一つすら許されない。
JAの作業にはそれほどの正確さが求められる。
ロボットが精密機械である以上、小さなミスからどんな大きな問題になって返ってくるかもわからない。
ニ足歩行ロボットとして複雑な構造を持たないロボットなどいないのだ。
時田はJAの右腕である部分を見上げる。
「……やはり、この前やられた右腕の損傷がひどいな」
「おかげで四肢の調整がどうにもうまくいかないんです」
そこでは作業員により修復作業が続けられていた。
黒く焼け焦げていた装甲がクレーンによって吊り上げられていた。
そして、その下にあるのは紛れもない精密機械の塊だった。
鈍く光を放っている剥き出しのシャフトに細いコードが絡み合うのが見えた。
外見からすればかなり簡素な内部。
ゆとりが少ないと外からの衝撃に弱くなって壊れ易くなるためあまり詰め込んだ設計にはなっていない。
これは安定したメンテナンス性を確保するためでもあった。
黒く焼け焦げていた装甲がクレーンによって吊り上げられていた。
そして、その下にあるのは紛れもない精密機械の塊だった。
鈍く光を放っている剥き出しのシャフトに細いコードが絡み合うのが見えた。
外見からすればかなり簡素な内部。
ゆとりが少ないと外からの衝撃に弱くなって壊れ易くなるためあまり詰め込んだ設計にはなっていない。
これは安定したメンテナンス性を確保するためでもあった。
65 :522-524:2006/02/09(木) 00:36:19 ID:???
それだけの構造をしているJAだが。
それでも、たった三週間でこの状態に持ってこれたのは偏に人の努力の成果である。
試作品ゆえの各部品ストックの少なさ。
それによって専用の部品を1からまた作り始めなければならないという作業効率の悪さ。
そんな数々の困難をものともせず、ただの1日も休まずに修復作業が続けられたうえでの結果だ。
そのことに不平や不満を告げる者は誰もいなかった。
労働基準法なんてものは端から誰も気にしていない。
残業、徹夜が当たり前となって、仕事仕事仕事という極限のスケジュールが組まれた。
それが76%という数字に表れている。
受けた損傷を考えるとそれは本来なら出ないはずの数字だった。
それだけの構造をしているJAだが。
それでも、たった三週間でこの状態に持ってこれたのは偏に人の努力の成果である。
試作品ゆえの各部品ストックの少なさ。
それによって専用の部品を1からまた作り始めなければならないという作業効率の悪さ。
そんな数々の困難をものともせず、ただの1日も休まずに修復作業が続けられたうえでの結果だ。
そのことに不平や不満を告げる者は誰もいなかった。
労働基準法なんてものは端から誰も気にしていない。
残業、徹夜が当たり前となって、仕事仕事仕事という極限のスケジュールが組まれた。
それが76%という数字に表れている。
受けた損傷を考えるとそれは本来なら出ないはずの数字だった。
「それにしても、ひどいな……」
「何がです?」
「目の下の隈、徹夜明け特有のハイテンション……」
「それは時田さんも人のこと言えないでしょう」
「そうか?」
「さっきの発表のためのデータ集め、お偉方への根回し、改修作業への資金繰り――、三日貫徹の人が何言ってるんですか」
「……責任者は責任をとるためだけにいるわけじゃない」
「無理しすぎて倒れないでくださいよ」
酷い顔を向き合わせて軽口を叩き合う。
引きつった顔で笑いあう。
引きつった顔で笑いあう。
66 :522-524:2006/02/09(木) 00:38:55 ID:???
働くのはいいことだし、時田も人のことを言えないのだが。
あまりに根を詰めすぎるとミスを犯しかねない。
ならば多少の財布の痛みなどどうでもいい。
どうせ、使う暇もない金だから。
今日の飲み会がみんなにとってささやかなガス抜きとなってくれることを願うばかりだった。
働くのはいいことだし、時田も人のことを言えないのだが。
あまりに根を詰めすぎるとミスを犯しかねない。
ならば多少の財布の痛みなどどうでもいい。
どうせ、使う暇もない金だから。
今日の飲み会がみんなにとってささやかなガス抜きとなってくれることを願うばかりだった。
「この状況をオーツが見たらどう思うんでしょうね?」
「オーツって、作家のか?」
「はい」
「さぁ?驚きすぎてぶっ倒れるんじゃないか」
思わず苦笑する。
アメリカの作家、オーツがアルコール中毒と働くという単語を合わせて生んだ言葉。
それが『ワーカホリック』が。
そう、働きすぎの人、仕事中毒であるそれ。
それならば、ここにいる全員が紛れもないワーカホリックだった。
別にみんながみんな仕事が好きなわけではない。
既婚者がいる、今も家では愛しい人と子供が帰りを今か今かと待っている。
わざわざ休暇の予定を取り消した者もいる。
数週間前から計画していた旅行の予定をキャンセルしてまで。
その理由はただ一つ。
誰かがやらなければならないから。
次の使徒が来る確率があるのならすぐにでもジェットアローンを修理せねばならない。
いざとなってからでは遅い。
ならば、今やるしかない。
アメリカの作家、オーツがアルコール中毒と働くという単語を合わせて生んだ言葉。
それが『ワーカホリック』が。
そう、働きすぎの人、仕事中毒であるそれ。
それならば、ここにいる全員が紛れもないワーカホリックだった。
別にみんながみんな仕事が好きなわけではない。
既婚者がいる、今も家では愛しい人と子供が帰りを今か今かと待っている。
わざわざ休暇の予定を取り消した者もいる。
数週間前から計画していた旅行の予定をキャンセルしてまで。
その理由はただ一つ。
誰かがやらなければならないから。
次の使徒が来る確率があるのならすぐにでもジェットアローンを修理せねばならない。
いざとなってからでは遅い。
ならば、今やるしかない。
67 :522-524:2006/02/09(木) 00:43:14 ID:???
「そんなやつらばっかなんだよ……」
76%、それがジェットアローンの稼働率。
真新しい装甲が光っているその巨体を時田は見上げる。
その姿は完璧とまでは言えないまでもかなり修復されていた。
初めて今の姿を目にする人はこれがつい先日に使徒に握り潰され、焼かれ、折られ、砕かれていたとは誰も思えないだろう。
短時間での完璧なメンテナンス。
人型兵器を扱う上で大きなネックとなるそれを無理矢理やってしまおうというのだ。
これ以上各部を簡略化することも部品を量産態勢にすることもできない。
いずれはこれも、どうにかしなければいけないと時田が考えた瞬間――、声が聞こえた。
真新しい装甲が光っているその巨体を時田は見上げる。
その姿は完璧とまでは言えないまでもかなり修復されていた。
初めて今の姿を目にする人はこれがつい先日に使徒に握り潰され、焼かれ、折られ、砕かれていたとは誰も思えないだろう。
短時間での完璧なメンテナンス。
人型兵器を扱う上で大きなネックとなるそれを無理矢理やってしまおうというのだ。
これ以上各部を簡略化することも部品を量産態勢にすることもできない。
いずれはこれも、どうにかしなければいけないと時田が考えた瞬間――、声が聞こえた。
「主任、時田主任っ!!」
切羽詰ったような声に振り返るとそこには見知った人物が立っていた。
第三使徒戦で胃薬を届けて貰ったいつぞやの女性職員だった。
第三使徒戦で胃薬を届けて貰ったいつぞやの女性職員だった。
「ん?大丈夫か?」
どうやらここまで全力疾走できたらしく彼女の息が荒く、額には汗が流れていた。
「はっ、はい……放送機器の、調子、が、悪くてっ…ここ、まで、走って……!」
「ここの施設もずいぶんと古いからなぁ」
68 :522-524:2006/02/09(木) 00:46:13 ID:???
「……あ、あの、それが……」
「……あ、あの、それが……」
「……どうしたんだ?」
言いよどむ彼女の姿になにか嫌な予感を覚えた。
そんなことになるはずがない、と自分に勢いをつかせて彼女を促せる。
そんなことになるはずがない、と自分に勢いをつかせて彼女を促せる。
「それが、国連軍より入電、新たな使徒を発見したとの報告です」
「っ――?!」
思わず息が詰まった。
あまりのことに時田の頭の中が真っ白になった。
新たな、使徒。
じわりと今まで感じたことのない汗が流れた。
スーツの上に着ている薄汚れた作業服が妙に息苦しく思えた。
JAが使徒を倒してまだ三週間しか経っていない。
いくらなんでも、そんな――
あまりのことに時田の頭の中が真っ白になった。
新たな、使徒。
じわりと今まで感じたことのない汗が流れた。
スーツの上に着ている薄汚れた作業服が妙に息苦しく思えた。
JAが使徒を倒してまだ三週間しか経っていない。
いくらなんでも、そんな――
「使徒だって……?」
そう呟いたのは時田ではなかった。
ジェットアローンの修復作業を続けていた技術者の一人だ。
いつの間にか周りにはかなりの人が集まっていた。
もともと、いきなり走ってきた現場担当ではない普通職員の姿に注目が集まっていたのだ。
そしてそこに投げ込まれた言葉。
新たな使徒の接近。
ジェットアローンの修復作業を続けていた技術者の一人だ。
いつの間にか周りにはかなりの人が集まっていた。
もともと、いきなり走ってきた現場担当ではない普通職員の姿に注目が集まっていたのだ。
そしてそこに投げ込まれた言葉。
新たな使徒の接近。
「どうやら、飲み会は遅くなりそうだな……」
誰かが呟いた。