この講義のテーマは、「企業情報システム開発」のような、得体の知れない、意義があるのかないのか一概には測りがたい、火事ばっかり発生している現場に三行半を叩きつけ、プログラマとしての本当の人生を見つけようではないかということなのだが、我輩自身、準備万端「企業情報システム開発」に三行半を叩きつけてやる前に、向こうから「あんたいらん」と三行半を叩きつけられてしまい、プライドと自信を一気に喪失し、オマケに収入も喪失し、家の中が悲惨な状態になってしまったのだ。
「ちょいとお前さん、いつになったら次の仕事が決まるのさ?一体どうすんだい?私がこうしてやっている針仕事だけじゃ、生活していけないんだからね」
「わかってらぁなそんさこと。どうするもこうするも、おめえにそうやって、のべつまくなし、どうすんだい?どうすんだい?と言われ続けたら、まとまるかんげえもまとまらねえじゃねえか。このスットコドッコイ!」
「ちょいと!スットコドッコイってどういうことさ?!このヒョーロクダマ!ウスラトンカチ!甲斐性なし!大体お前さんの顔が辛気臭いから面接に落っこちるのさ」
「辛気臭せえ顔にしてるのはだれだてぇン?おめえが、口を開けば金がねえ金がねえとぬかしゃあがるからだろが!?」
「本当におアシがないんだから仕方ないじゃないか!」
「金なら去年の大晦日に、十万とび六千円渡してあるだろうが!?」
「そんなモン、いつまであると思ってんのさ!?」
「ぴぎゃぁぁぁー(腹を減らした子供の泣き声)」
とまあ、家の中がこういう状況なので、とても講義を開催できる精神状態ではなくなってしまったのである。
この講義では、永遠不滅の真理を諸兄にお伝えしているつもりなので、地殻変動ともいえる未曾有のIT不況の中にあっても、状況に内容が左右されることがあってはならんのだが、我輩も人の子であるからしてなあ。
実を言うと、「0E戒」は当初「汝、ばんばん副業すべし」というのを予定していたのだ。しかし、急遽「汝、汝のケツは汝で拭け」に変更させていただいたのである。
「汝、ばんばん副業すべし」も、不変の真理であることは間違いないのだが、世間では、「副業せよってあんた。副業せよってあんた。私には今本業すらないんです。誰か仕事ください」という状況に陥っている技術者がゴロゴロいるのである。
そういう状況下において、そのような戒律を打ち出してなんの意味があるのだろうかという話になってくる。
しかしながらよくよく考えてみると、正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイト、個人事業主如何にかかわらず、こういう状況になってしまったからこそ、以前より副業を軌道に乗せておき、インカム(収入)を複数ルートにしておけばよかったのになあと言えなくもない。
IT業界の場合、個人事業主といえども、客先常駐型請負開発に従事している者が多数を占めており、掛け持ちが難しいから、いきおい「一社から一案件のみ」の取引となってしまうので、派遣社員やパート・アルバイトなどの非正規労働者となんら変わらない立場なのだ。「個人事業主の皮を被った派遣社員」なのである。
それでも、契約している案件仲介業者が勝手に仕事を探してくれていたから、自ら営業して仕事を探すということをしてこなかった。その案件仲介業者の営業が蒼い顔をして走り回るだけで、全く当てにならない状況となれば、どのような結果になるかは簡単に推測できるし、実際その通りの結果になり、かくして今回のIT不況で、契約社員から自営業者まで、まんべんなく大量に技術者が余ってしまったというわけである。
個人事業主から契約社員まで、非正規雇用者はリスクヘッジという意味で、当然ダブルインカム、トリプルインカムを考えておくべきだ。
企業であっても「この道一筋」でやっているところは有事になると、存亡の危機に陥ってしまう。牛丼一筋の吉野家が、狂牛病のおかげでどのようなことになってしまったか、記憶に新しいところだ。であるから、企業であれば普通、リスクヘッジを考えて二本立て、三本立てで事業を展開している。
非正規雇用者ならば、インカムを得る道がたった一箇所ということが、どれだけリスキーなことであるか、今回のIT不況で、身にしみて実感されたのではないだろうか。
正規雇用者でも、このような時代であるから同様のことがいえる。
正規雇用者として企業に雇用されている立場であれば、副業は禁止されている場合が多いだろうと思うけれども、二箇所から同時に雇用されることを禁じているのみであって、中小規模の企業であれば、事業主として活動する分には大目に見るところが多くなっていることは事実だ。
中には起業を積極的に推奨しているところもあったぞ。これは裏を返せば「どうにもあれです。申し訳ないようなことですけれども、十分なお給金を差し上げられないもんですから、後は自分の力でどうかひとつ、しゃわわせになっていただきたいと、まあこのように考える次第です」ということなのかもしれん。
正規雇用者として企業に所属している諸兄も、昨今では賞与ゼロとか、減給などという状態になってきたのではなかろうか。かといって、経営陣を責めるのは筋違いだ。会社だって、諸兄をクビにしたくない一心で懸命にこの窮状を凌ごうとがんばってくれている。
「給料が減っちゃって、これじゃあ生活が成り立たないよ。なんとかしろ!」という文句は、会社ではなく自分に対して言わなければならない時代になってきた。
「自分のケツは自分で拭く」時代になってきたのである。
我輩がかつてより懇意にさせていただいている会社、というとまあ小規模なところが多いわけだが、どことも雇用調整助成金のお世話になっていないところはないという現状である。
雇用調整助成金: 景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小 を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を一時的に休業等(休業及 び教育訓練)又は出向をさせた場合に、休業、教育訓練又は出向に係る手当 若しくは賃金等の一部を助成する。
ただ、この雇用調整助成金は、永遠に支給されるわけではなく、3年間で300日という支給限度が決まっている。
もし貴君が会社の中で、ノーアサイン状態すなわち社内失業者として君臨(妙な表現だが)し続けた場合、いつしか貴君の人件費は全額赤字となって会社にのしかかっていく。
そうなると、どうなるかは簡単に想像がつくであろう。
我輩は勿論、「ではそのような会社は見限って退職し、比較的堅調な経営をしているところを探したまえ」と言いたいわけではない。
貴君を失業者にしてなるものかと頑張ってくれている会社の恩義に報いるためにも、会社側が「もうだめだ。ごめんなさい」とギブアップするまでは付き合っていただいて、幸運にも仕事が見つかった場合は、 1銭でもたくさん外貨を獲得するべく勤めていただきたいのだ。
しかし、最悪の事態となった場合を想定して、なんとか「自分のケツは自分で拭ける」準備をしておこう。
「何をどうすればよいかわかりません」
残念ながら、我輩はその質問に対する答えを持ち合わせておらん。諸兄ら一人一人、自ら考えるほかはないのである。
今はそういう時代なのだから。
また、もしかするとまた以前のように景気が回復して、真っ青な顔をして仕事を探し回る必要がなくなるかもしれない。我輩だって、そうなってくれることを切に望む次第ではある。
しかしながら、そうなると「喉元過ぎれば熱さ忘れる」というやつで、またぞろのほほんとした日常に逆戻りということになるかもしれないが、一時的に景気が回復したとしても、再度同様な落ち込みが襲わないという保証はない。
そのときのために、ケツを拭くトイレットペーパーを準備しておくのは、大変に意義があることといえるだろうさ。
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