ここで死んだおぐちゃんとエジプトの医療事情について

ここで死んだおぐちゃんとエジプトの医療事情について

本当は書きたくはない。つらいから。しかし、もうこんなことはまっぴらだということと、丸山さんの後押しにより、ここにしるす。

まずはおぐちゃん(小椋 亮介君 2000年12月29日死亡)が死に至った経緯をしるす。
彼は10月下旬イスラエルからダハブ~カイロに来る時にすでに体調が悪かったと聞いた。しかし、それが死と関係したかは知らない。
実際に彼の体調が狂いだしたのは11月の初旬のオアシス4ヵ所めぐりからである。1週間2週間と帰ってこないため、どうしたことかと猥雑なうわさも飛び出していた頃、帰ってきた。彼は途中体調を崩し、1週間ほど寝こんでいたそうである。その頃、彼は食中毒と考えていた。 帰ってきてからもなおもち直さず食事もろくにうけつけないまま2週間ほどここで静養していた。しかし、一向に直る気配も無し(当然あらゆる胃腸の薬(注射も含む)を使う)、それどころか悪化しているのは周囲の誰もが見てわかることであった。感染症であっても困るということで我々(103号室住人)がしきりに病院へ誘ったにもかかわらず、彼は「英語ができないこと」「旅行保険が切れていること」を理由に拒否した。しかしながら上記の理由と彼のあまりの衰弱ぶりに見かねてほぼ強引に病院(ミスルインターナショナル)へ連れて行った。そこでの初診は「胃腸衰弱」今までの薬をちょっと変えただけで済む。ただ、その日の検査で便を採ることができなかったため、後日持っていくことに。しかし便が出ない…。4日目にしてようやく便が出て検査してもらいつつ、再度診てもらうも前回と同じ。レントゲンをとるよう要請するも「必要無し」と言われる。検査結果は「異常なし」。ただ、「食事を採らないのは危険だから食事を採れ」とだけ…。彼がゲーゲー食事を吐いている姿を毎日見ている我々としては納得がいかない。
次の日、再々度診察してもらい強引にレントゲンを撮ってもらった。すると医者(タマーラ)は「腸閉塞」と診断され、緊急入院させられる。当日、日本大使館付医師に診察してもらい、診断が正しいことおよびここで手術するか先進諸国(ロンドン,パリ)へ飛ぶかを迫られる。保険が切れているため前者しか選べ得ず。手術には親族の同意が必要なため、家族を待つ。
3日後、母親来たる。そこで即座に手術をすべきなのだが、保険がない…。まず値段交渉をするハメに。タマーラ医師が「1万$払え」という。しかも手術費だけで。「早くしないと命にかかわる」ともいう。あまりにもせかすため、母親は動揺しはじめたので「とりあえず日本大使館に相談する。お金もそこにある」と言い、日本大使館へと向かう。そこで領事に会い事情を話すと領事は激怒する。「あまりのボッたくりだ!どんなに高くても3000$のハズだ。日本人をナメきっている」と、領事がそこでいうには「エジプト人プライス、外人プライス、そしてさらに日本人プライスがこの国には存在する」という。「ナメられないためにも大使館がバックアップする」ということで大使館側でタマーラと交渉開始。およそ3時間後ようやく決着つく。費用は5000$手術と全ての病院費用ということになる。そこで詳細なcontractを作り、病院にいく。するとタマーラはもういない…。ただ何度も助手が病室に来ては我々の2人に同意書のサインを迫り、「責任能力がない」と言っても勝手に親族だと決めつけ、強引にベッドを手術室に運ぼうとしていた。
次の日、なんとか手術することになり、実際行われた。が、手術から彼が帰ってきたときにはすでに麻酔は切れており、おぐちゃんのうめき声が我々を凍りつかせた。となりには彼の切除された腸が黒い袋に入れられ置かれていた。麻酔をさらにうってもらい寝かせた。
あくる日、腸を研究所へ運ぶ(病院側はやってくれない)。3食の飯が早くもおぐちゃんのために出る。パンとチキン…普通食える訳がない。しかし、おぐちゃんは意地で少しだけど食っていた。治ろうとするために…。 その次の日、注射をしたところの血が止まらなくなる。その日の夜、開腸したところが裂ける。ICUへその後2日間滞在した後、元の病室へ。ICU利用費1泊100$といわれる。その間、タマーラと交渉する。
クリスマスイブ、ICUから出てきた外科執刀医から「非常にシビアな状態」と告げられる。また、血液検査・病理検査から「急性白血病」、「リンパ腫による腸閉塞」と宣告される。おぐちゃんと母親には我々4人全員そろって直接説明した。母親は家族へ電話をかけに行くも、電話口で号泣し、代わりに私が対応する。
クリスマス、JICAの医師に来てもらい、診断書の詳細な内容を読んでもらい診断してもらう。「末期の白血病」と告げる。ただし、おぐちゃんは知らない。そこで二者選択を迫られることになった。
一つ目はこのままここで科学治療を受ける。ただしエジプトの最高の医療技術を持ってしても治る見込みはない。
二つ目はすぐにでも日本へ帰る。ただし飛行機に耐えうる体力があるかどうかわからないし、もし飛行機の中で死んだ場合、緊急着陸することになり、家族におよそ2000万円ほどの損害賠償が請求される可能性が出てくる。
母親は後者を選んだ。しかし、ラマダン明けの休みであったためなかなかチケット6席分(我々のうち1人、母親、おぐちゃんのベッド分)がとれず、ようやく29日正午の便をとることができた。またタマーラとの交渉もかなり難航を極めたが、"なんとか"3000$上乗せで決着できた。
20日までの4日間、文字通り急激に衰弱し、壊れていくおぐちゃんを目撃した(たとえば鼻出血2回、周りが血の海と化したり…)。ただし、27日だけは違った。意識朦朧としていたのにその日だけは違った。かなり意識がはっきりしていたのだ。それが私には怖かった。血は入れても入れても溶血して赤血球は常人の1/2なのに…。でもうれしかった。「長浜ラーメン食べたい」「俺は吉牛かな。卵・みそ汁つきね」そんな会話だった。最後に「養生しろよ」といい去りかけると彼は「お前もな!」と返してきた。私はカゼ気味だったのだ。それが最後のまともな会話だった。次の日はもう彼は幻覚を見てうわごとを言っていた。
29日6:00早朝、電話にたたき起こされた。「おぐちゃん危篤」とのこと。すぐにかけつける。病室の前で凍りついてしまった。手術着が剥ぎ取られ、ソファーに仰向けになって半分だけ目を開いているおぐちゃんがいた…。まわりには看護婦・医者が囲んでおぐちゃんの上にまたがってちかねーさん(103号室住人)が心臓マッサージをしている。一瞬よくわからなかった。戦慄した。ちかねーさんの「手伝って!!」で我に返った。私も含めて5人がかりでベッドに運ぶ。非常に重かった。ちかねーさんがベッドの上でおぐちゃんの心臓マッサージをしながらICUへ向かう。その後をついていった。あとは映画の世界だった。電気心臓マッサージで何度も「ドウァン」とやる。その時だけモニターのメーターが動く。そしてだんだんと波が消えていくと母親が「消える、消える」と泣きわめいていた。もうどうしようもなかった。ただただそこに立っている事だけしか。「ピー」と鳴った…。母親は「亮介、亮介、日本に帰るとよ~、今日帰るんじゃけね~」。こだまするばかりだった。
(ちなみにおぐちゃんの最後は母親と話しながらそのまますうっと意識を失ったのだそうだ。)
30分後、突然遺体が別の部屋に移された。母親と私が中に入ろうとすると「5分待て」という。20分ほど待っても入れてくれない。強引に入ると横たわっていた。「お母さん、おぐちゃんですよ」そう言ってシーツをめくると包帯でグルグル巻きにされたおぐちゃんであろう物があった。しかもそれは本当にミイラのように…。母親は「何よこれ~」といって再び泣き崩れる。慌ててシーツをかぶせると母親は足を見て「亮介~、ちがう~」と泣きわめいた。ほうほうのていで病室に連れて帰り、領事を待った。約1時間後、領事が来て日本への出棺の手続きをしてもらう。領事は「タマーラは破滅させますからみなさんよろしいですか?」といわれたので全員うなずく。彼のやったことは内務省を通じて指導するとのこと。また、各国大使館に回覧をまわして二度とタマーラに外人を診させないようにするのだそうだ。でも、もどっちゃこねーよ…

それから私はすぐさまルクソールへといった。友人を29日まで待たせていたからだ。よく分らないまま観光することになった。したがって、後の話はよく知らない。ただ、おぐちゃんの遺体は出棺まで業者に全て任せることができたとのこと。1月4日に日本につき、6日に通夜、7日に葬式が行われた。その時遺体は少し腐敗していたとのこと。おぐちゃんの両親だけ顔を見て妹達には「生前のやさしい亮介の顔を覚えていてほしい」からと見せなかったそうだ。
ここまでが我々がやった事、私が知っていることである。

以上の文章からここの病院がどのようなものかわかると思う。そして彼が犯した致命的なことも…。さらに病院事情について補足すれば
私立病院の設備は良いけど看護婦はいまいち。
少なくとも患者は金づる。お金のない者は死ねというところ(マジで!)。したがって病院でケアなどもってのほか。
受診費・ベッド代は比較的安い。だからちょっとでもヤバイなと思ったら医者のところに行って下さい。しかし、医者が良いか悪いか、また人格が悪いかいなかはインシャアッラー
もし、手術をすることになったら必ずコントラストと作り、医者にサインさせる。それでも「信用できない(領事談)」とのこと。(エジプト人にとってはただの紙)

現地の医者にかかる前にまず、大使館付の医師に相談することをすすめる。彼らは旅行者を見ることは特別の理由がない限りしませんが、おすすめの病院を紹介してくれます。

とにかく、旅行保険だけは継続しましょう。もし切れたとしても、もし体調を崩したら病院にだけはすぐにかかりましょう。大使館に相談しつつ…。
本当にみなさん病気にだけは気をつけてください。

日本に帰れるその日に死んだおぐちゃんの魂が無駄とならないためにも。 やすべー
最終更新:2010年11月13日 18:50
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