飯森 椿とワンダーワールド

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「いけねえなあ、酒が切れちまった……」 週末の大通り、そんなことをぼやきながら人ごみを進む酔っ払いが一人 初老の男性、という言葉がそのまま形になったような男 その名前を椿と言う 無類の酒好きである彼は、今日も酒を求めて街に繰り出していたのだった 「こないだ買った芋焼酎は美味かったあ、銘は何といったかな?」 彼の行きつけの酒屋まではもう少しある たどり着くまでの間、何を買うかなどを悩みながら街を歩くのも彼の楽しみの一つだ だが、その前に彼の歩はぴたり、と止まった 彼がただの酔っ払いでない所は、十六聖天と称される さまざまな能力者たちの中でも最高峰の16名だけが与する事の許されない組織 その第11位であると言う事 彼は通りに踏み入れたときから、並ならぬ気配が混じり込んでいるのをひしひしと感じていたのだ そうでなくても彼はとある事情から、穏やかではない気配を察する事はしばしばあったが それらとも少し違っていた 自らのみに向けられている訳ではないが、かといって自らに全く向いていないわけではない まるでこの人ごみ全てに対して探りを入れているようなそれの発信源を探し当てたとき そこにあった顔には見覚えがあった 「ワンダーワールド……!?もう動き出していたというのか?」 酔って火照っていた筈の体が冷えてゆくのを、彼は感じずにはいられなかった つづかない

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