とある駄目人間の聖夜

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時は12/24、俗に言うクリスマスというやつである。 聖夜は全ての者に等しく訪れる。 老いも若きも、男も女も、そして真人間にもダメ人間にも。 「今年も世話になったな、翠」 「なんの、気にすんなって。今更一人二人増えたってかわんねーって状態だしな」 ここ数年、聖夜と年始はたいてい森東家は久鬼家に出向いて共に迎えることが多い。 「ごちそうさまで~す。すいすい、また一段と腕を上げたわねぇ」 「人をどっかの不思議系黒スト属性みたいな呼び方するな! ったく・・・  まぁ、食い扶持が増えりゃ自然となぁ」 この一年いろいろあった。道端でちびっこを拾い、バイトの都合でガッコさぼって ドイツに向えば撃墜され、腹減ったから寄った島でまたちびっこを拾い、 挙句いろいろとあった末にようやくたどり着いたドイツでひと暴れしてたら またちびっこを拾ってしまったのである。 「それにしても、女の子がいっぱいだと賑やかねぇ。でもすいちゃん、女の子に  MGシナンジュはないんじゃないの?おばさんはああいうの嫌いじゃないけど。赤いし」 「さすがにビーンボールすぎたか、とは思いつつも結局自分のものにしたわけだが。  代替品とネタグッズはとりあえず置いておいたし、なんとかなるっしょ」 「随分と無責任だな・・・そういや親父殿はどうした?」 「ああ、あのバカなら女漁りに出向いたぜ。アイツが家に居ないときは博打か女漁りの  時だけだからな。まったく・・・」 「あーあ、それにしても、メルちゃんはウチで引き取りたかったわぁ~、ざ~んねん。  苓ちゃんも酷いのよ~? ウチじゃ育てられないっていうんだもん」 「当たり前だ。ウチの収入じゃ一人増やす余裕はない」 森東家の収入の大半は大黒柱のオカルトグッズ収集に消える。 そして食費を除いた残りは奥方の趣味であるブランド品収集に消費される。 苓も翠同様、親が出さない学費は自腹なのである。 「ま、ウチのアレはバカだが金と轟運だけはあるからな。流石に3人食い扶持増えたところで  どうこうはならんしな」 買った馬券は大当たり、宝くじは手堅く一等前後賞、パチれば出禁喰らうほどの大フィーバー、 宅を囲めば初牌を引いて倒して点棒かっぱぎ、買った株は売ってから暴落、というもはや 意味不明なレベルの金運と轟運を持っている久鬼家の家主は、俗に言うプーである。 だが金だけはある。そういった事情で、ドイツで拾ってきたちびっこは次女芽瑠(める)として 久鬼家に引き取られることとなった。本名はもっと長いらしいが面倒なので芽瑠なのである。 そうこう話しているうちにいい時間ということで、森東の母子は帰宅する。 「さて、っと。とりあえず片付けでもしてチビどもの相手でもするかねぇ」 見送った翠は門扉を潜り、台所へ向う。 「・・・さて、ラッパ呑みしようと思っていたシャンパンと、オヤジの頭を叩き割ってやるために  用意しておいたロマネがないわけだが」 さすがに18歳以下なのでイケる口でもワインは自発的には飲まないのである。お酒はハタチになってから。 正直、ないと気付いた瞬間嫌な予感はした。 シャンメリー程度ならまだいいだろうと思ったが、ロマネがないのである。1500万で競り落とした ロマネがないのである。これであの糞親父の頭をかち割らないと今年のクリスマスは終わらない。 しかもただのロマネではない。去年のサンヴィヴァンではパンチが足りなかったので、今年はコンティである。 「ちくしょう・・・どこにいった?」 そのとき、できれば聞きたくなかった声が背後からかけられる。 <へぇ・・・流石は一級中の一級ね。格調高くて、薫り高く、芳醇な味わい・・・なかなかの目利きね、主様> 「フツノおおおおおおおおおおお! テメェどこからソレひっぱりだしたぁあああああああ!」 <あらあら、これは嗜む為のものでしょう? なら栓を開けねばもったいないわ?> 「だああああああ! オマエはああああああああ! ・・・つか、栓あけたってことは」 <ふふふ・・・お察しの通り♪ タマも、杷羽も、芽瑠も、ぶどうジュースだと思ってガブ呑みしてたわよ?> 時を遡ること十数分前。 「まったく・・・タマ! メル! すこしは手伝いなさいよ!」 「ふみゅ、たまちゃんはりりかるなのはのでーぶいでーでいそがしいの。わわおねえちゃんひとりでやるがいいの」 「私がやると余計に汚れてしまいそうなので。姉様、タマの面倒は私が見ますので、そちらはお願いしますわ」 「アンタたちは・・・少しは家のことに貢献しなさいよ・・・」 久鬼家でまっとうに家事ができるのは事実上翠だけである。 いろいろあってさらに丸くなった杷羽は、妹が出来てからというもの、姉の自覚が出たのか何なのかは 分からぬが、家事手伝いをするようになっていた・・・が、精々洗い物と取り込んだ洗濯物を畳むだけなのだが。 一方次女芽瑠と三女韴霊はもはや家のことなどする気はないに等しい。 「まったくもぅ・・・私も、後はバカ兄に任せてDVD鑑賞に加わろうかしら・・・あら?」 台所の片隅においてある、まだ封を切っていないボトルが二本。 「何だろ、これ・・・ってロマネ・コンティ!? あのバカ、一体何買ってんのよ! んもう、だったら  もっとマシなプレゼントにしなさいよね、まったく・・・」 正直、赤い彗星の再来だのジオンの魂の結晶だの言われてもさっぱり分からない。 「こっちはシャンメリー、かしら?これくらいならもらっちゃってもいいかな?」 「はい、これ。みんなので飲みましょう?」 「わーい! じゅーすなのー!」 19歳でババァと呼ばれて泣き叫んだことで有名な某魔法少女が全力全開で魔法をぶっ放す動画をバックコーラスに 幼女三人ちょっぴりオトナなお酒(っぽいの)初体験。 ちなみに、シャンメリーはアルコール分1%未満なのでノンアルコールに分類されるが、シャンパンは れっきとしたシャンパーニュ地方原産の発泡ワインである。お酒はハタチになってから。 くどいようですが、お酒はハタチになってから。 「ぷはーーーー! おいひいのー! もっとろむをー!」 「きゃっははーー! これおいひー! もっろあいを~?」 こうなるので、お酒はほどほどに。 「あうう・・・フラフラしてきた・・・めがまわる・・・」 テンションがトップギアを振り切ったメル&タマとは逆に、ローギアを通り越してバックに入りそうな杷羽。 「おらいろころへいくをー! もっろさがふおー!」 「いくろよらま!」 そして1500万円の封は、超高級ぶどうジュースとして切られる事となる。 <あら・・・これはこれは。主様もいい趣味をされてらっしゃることで・・・メル、これ呑む?> 閑話休題。 <ということがありましたのよ、主様> 「やっぱりオマエが元凶じゃねーかぁ! 畜生! それでオヤジの頭叩き割ってやる予定だったのに  どうしてくれる! 中身がなくてビンだけじゃただのコントじゃねーか!」 <もったいないことをなさるのねぇ・・・こんな芳醇なワインを無駄にするために買ってくるなんて。  愛好家が知ったら泣くわよ?> 「やかましいわ! ったく・・・予備のサンヴィヴァンが役立つときが来ようとはな」 <まぁ、親父殿はいいとしましても、杷羽と芽瑠はどうしますの? タマもだけれど、もうすっかりと  出来上がってますわよ?> 「なんだとぉ!? ・・・ちくしょう! オレ用のシャンパンも開けやがったのか!」 <あら? 杷羽はシャンメリーだと言っていたわよ? あれも負けず劣らず、今晩には丁度いい味でしたわ> 「おいごらわわあああああ! 勝手に栓を」 「わーい! おにいちゃんだー! だっこだっこー」 「あにぎみさま! めるもだっこしてー!」 もはやギアは振り切った。ローでもバックでもトップでもないギアに入ってしまっている。 「おいフツノ! オマエも」 「むー! おねえちゃんはおやすみなさいなの! あとはせいぜいがんばりなさいねあるじさまっていってたの!」 「畜生逃げやがったなあああああああああああ!」 「おにーちゃーん!」 「あにぎみさまー!」 「にーさまー!」 リミッターカットで弾数無尽蔵の幼女によるトリプルスクラムが、圧倒的に力で勝るはずの翠を押し倒す! 「のわぁ!? ってぇ! なにしやが」 「ぬがすのー!」 「そうね・・・このバカ兄、普段からまな板だのもっと出っ張れだの言ってくれちゃってまぁ・・・  ホントにまな板かどうか見てもらおうじゃないのよぉおおおおお!」 「オマエはバカかああああああ!」 おもむろに杷羽は着ていた服を脱ぎ去り、上は下着のみに下スカートという通好みの姿に一変する。 流石にドイツでババァ(中身は男)の頭はかち割れても、義理とはいえ妹に手を上げるわけにはいかない! そんなことをしたら全国1000億人は下らないであろう義妹萌え族に怨み殺されてしまう! 「そうですね・・・メルも、そろそろ恩返しをしたいと思っておりました・・・兄君様、どうぞこのメル、  もらってはいただけませんか?」 「む~! おねえちゃんがいってたの! おとこなんではんらでせまればいちげきひっさつよ、って!」 「あの駄剣タダじゃおかねぇ!」 気が付けば、メルは先ほど苓の母親から贈られたゴスロリドレスを早速着崩し、これまた派出目な下着がチラリ。 タマはぺったんこボディを既に全開である・・・半裸の意味が分かっていないのはご愛嬌。 その筋の人に言わせれば既にここはヘヴンかバライソか、はたまた桃源郷か、という光景だが・・・ テンションが上がりまくっている人を見かけるとむしろ余計に冷静になるのが人の性。 (さて・・・どうすっか) 手を上げるのは忍びないが、このままちびっこ風情に襲われるのも癪だ。しかも酔っ払いだ。 シラフとしても・・・って焦点はそこではない。とりあえず打開に向けて一番簡単で短絡的な手に出る。 「止むをえん・・・どらっしゃああああああああ!」 「きゃう~ん! おかされるぅ~!」 「初めては優しくして欲しいのです兄君様!」 「うにゅ~! みわくのぼでぃにごようじんなの~!」 とりあえずちびっこ3人引っぺがした翠が次に取った行動はと言えば・・・ 「いい加減、もう、起きるか寝ろおおおおおおおおおおお!」 「ギャフン!?」「へみゃあ!?」「いたいのー!?」 お得意のグーである。 「目は覚めたか、ちびっこども!」 「・・・っつつ、いったぁ~・・・なにすんのよバカに、って、いやああああああああああああああ!  なんで服脱げてるのよぉ! ・・・バカ兄の変態! スケベ! サイッテー!」 「兄君様はケダモノでしたのね!? 酔わせて襲うだなんてそんな前時代的な方法でだなんて!  言ってくだされば別に何時でも何処でも構いませんのに・・・」 「む~・・・ねむねむなの・・・ぐ~」 「とりあえず言いたいことは山ほどあるが、それ以上言うならもっと酷いぞ?」 「それなら私にだって言いたいことは山ほどあるわよバカ兄ぃ!」 「オマエはまず服を着ろ!」 「私はこのまま同衾でも構いませんわ!」 「一人で寝てろ!」 「おやすみなさいなの・・・すやすや・・・」 「全裸で立ったまま寝るな! えれぇ器用だなオイ!」 郊外の広めの一軒屋、他所の家にも負けず劣らず賑やかに、聖夜は深けていくのである・・・。    とある駄目人間の聖夜 完

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