闇伝 外道対外道18

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太陽の戦神が暁光の中に姿を消す。 それを見送る者の中には、当然彼らも居た。 「・・・素晴らしいまでに、おいしいところは全部持ってかれたな。まさにやりたい放題ってやつか」 「まぁ、我々としても助かったわけだし、良しとしよう」 黒雲が払われ、まるで新世界の訪れを告げるような朝焼け空の下。 彼らの戦いもまた、終わったのだ。 「さて、そろそろ帰るとするか」 「・・・ところで、どうやって帰るのよ? 帰りの便の用意なんてされてなかった気がするんだけど」 「あるいてかえるの!」 「ユーラシア大陸を横断する気か?」 「うれないげいにんふぜいにもできることだから、たまちゃんにだってできるの!」 「まぁアレは若干の飛行機迂回も混じったがな・・・仕方がない。とりあえずは足の確保、だな」 そう言って移動する一団から、翠はひとり抜け出す。 「どうした?」 「あー、なんだ、ちょっと、な。先行っててくれや。とりあえず空港で合流な」 「んなこと言って・・・バカ兄、どこに私達が行くのか分からなきゃ合流のしようも無いでしょうに」 「仕方ありませんわ。兄君様は少々御馬鹿なのですから」 「むー!」 「言いたい放題だなお前ら・・・まぁいい、とにかく先に帰れ。兄ちゃんにはやることがあるのだよ。  つーわけで、すまんが苓、チビどもの引率頼むわ」 一団に背を向け、右手をひらひら振って去っていく翠。 「苓さん、いいの?」 「あいつのことだ、何とかするだろう。さて、行こうか」 苓と久鬼の妹軍団も、ベルリンの地を後にする。 「ほいよ、使えや」 「さっすが、気が利くねぇ」 翠は携帯を受け取り、手渡した少年とハイタッチ。手渡した少年の姿は、その瞬間、消える。 流石に使い慣れた自分の携帯、すばやい手つきで操作して、まず呼び出すは自宅でおそらく食っちゃ寝の 極みを満喫していると思われる、久鬼の家長、翠の父親天道である。 「ようオヤジ・・・ちっ、まっだしぶとく生きてやがったか」 <じゃかしいわガキが。メシ抜いた程度でこのワシが死ぬとでも思うたか?> 「ま、てめーが生きてるほうが都合がよかったからまぁいいや。とりあえず、人間二人分の戸籍捏造と、  ドイツかその近辺から日本へパスポートなしで移動できる手段の調達、頼むわ」 <戸籍だぁ? 帰る足ぐらいテメェで買え馬鹿むs> 「喜べ親父、娘が増えるぞ。それも二人もだ」 <でかしたぞマイサン! さすがはワシの子だ! よし、金に糸目はつけんぞぉ!> なんとも扱いやすい親父である。 さて問題は次だ。 今なら大体学校が終わったくらいか。こっちは夜が明けたばっかだってのに・・・時差とはめんどくさい。 「・・・よう、元気にしてっか摩璃華」 <えっ!? ・・・あ、いえ、少し待っていてもらえますか?> ああ、と一言。学校の帰りなら、知り合いも傍に居るのだろう。ごそごそと音がする。一人離れているのか。 <・・・なぁんで連絡一回も寄越さないのよ、このバカ! しかもせっかくチケ送った楽日に来ないし!  最っ低! アホ! 間抜け! 屑! 大好き! 愛してる!> 「はっは、やっぱその方が摩璃華らしいわ。悪ぃな、ちょっと事情があって連絡取れなかった。今ドイツ。  これから帰るからあと2,3日でそっちに着くかな」 <はっ、冗談。今すぐ帰ってきて。できれば今日中に> 「今日中、か・・・ま、頑張ってみるわ。また後で掛ける」 <うん、じゃあね> 通話を終えた翠は携帯の時間を見る。今日中、といってもそれは日本基準。既に残り9時間を切っている。 「ったく、相変わらず無茶な要求をしてくださる」 だが、悪い気はしない。暫くほったらかしにしてしまったのだから、我侭を言う権利が摩璃華にはある。 それを快く受け止めてやるのも男の度量というものだ。 「よっし、じゃ、とっとと終わらせて帰るか」 瓦礫の山と化したベルリンを後にする翠の眼前には、失われたはずの黒き森が広がっていた。 「くっくくくくくく・・・流石にあの糞餓鬼共も、この別位相空間までは感知できなかったようだなぁ」 『黒き森』という名の特殊な別位相空間展開機構にある、ファウスト最後の牙城にして専用研究施設。 ここには、ファウストのオリジナル体と様々な用途に応じたスペアボディの傑作が安置されている。 「駒も、躯体も、組織も、失ってしまったが・・・この頭脳は残った! 世界が私を生かしたのだ!」 ジュラフマーが駆動する際、万一に備えてファウストの精神構造の全てを収めたブラックボックスが 『黒き森』へ射出され、施設へ収められたのである。 使える手足も、資金を得る手段も、広大な二次施設も失ったが、この頭脳さえあれば再起など容易いことだ。 「へぇ~、この中こうなってんだ。よう、元オカマ。数時間ぶり。いやー素晴らしい噛ませっぷりだったぜ」 噛ませの噛ませによる噛ませのための噛ませ舞台の主演に惜しみない拍手を送りながら、少年はドアを開ける。 「お、悪ぃな。じゃ、お邪魔するぜ」 ノックの代わりに、翠はドアを開けた少年とハイタッチ。少年の姿はまた、虚空に消え去る。 「な、なぜここが分かった!?」 「オレの眼は、なーんでも、お見通し、ってことだ」 翠の右目が、黒檀から翠玉へと色を変える。どんな嘘も欺瞞も欺くことは叶わない、神の翠眸。 同じく左目も、緋玉の輝きを放つ。深淵の深きに秘する真理真実ですら暴き尽す、魔神の緋眸。 「・・・ほう、これはまた随分と面白い眼をしてるな?」 「まぁな。どうだい、アンタも欲しいか? 35億6372万2195回ほど人生やり直すだけで、  俺の自慢の嫁の裸覗くくらいにしか役立たない眼が簡単に手に入るぜ?」 「何を寝ぼけたことを・・・ところで貴様、何の用だ」 「おっとそうそう、忘れるところだった。まずは話がしやすいように、と」 翠が右手を水平に持ち上げ、人差し指と中指を伸ばしたまま握り、伸ばした二指を、勢いよく天に振り上げる。 爆音一閃、『黒の森』と呼ばれていた閉鎖空間の内側は、翠とファウスト以外の地表面に在った全てが 爆砕され、消滅し、消え去る。 「いやー広いねー。よし、この空間は俺が持って帰るとしよう。倉庫にするにゃ丁度いい」 「き、貴様ぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」 ファウストは激昂する。当然のことだ。彼はこの瞬間、今の肉体と脳以外の全てを失ったのだから。 「で、こっからが本題。お宅さんをぶっ潰せ、っつーボスの依頼とは別に、面白いクライアントから依頼が  あったもんでな。で、そのクライアントからのお手紙だ。今更手紙なんて古風だねぇ」 手首のスナップを利かせて勢い良く旋廻し飛翔する便箋は、ファウストの立つ少し手前の地面に刺さる。 親愛なる我が複製へ。 もう何番になるか分からぬ我が複製よ、元気にやっているかね。いや、やっているのだろうな。 でなければ、こんな手紙など送る必要も無かったのだからな。 まったく、これほどにやんちゃで煩わしい複製というのも初めてだ。興味深くは在るが、煩わしいのだよ。 何故この私が紛い物事気のせいで煩わしい思いをしなければならないのか、複製如きには理解できまい。 だが、私も生みの親だ、せめて慈悲のひとつはくれてやろう。 それに、ある意味では一番私に恩恵を与えてくれたとも言えるしな。 そういうわけで、私が知る限り、最も確実に無慈悲な死を与えてやれる存在を寄越した。 神と魔神の目を持つ鬼神の力に平伏したまえ。科学如きでは及ぶこと叶わぬ力に、屈するがいい。 それではさらばだ。我が複製よ。一度も会ったことはないが、二度と会うことも無いだろう。 「な、んだ・・・これはああああああああああああああああ!!!!!!!!」 それが、何番目かも分からない、世に放たれた中で最も目立ってしまった「ファウスト」クローンの、 この世界に残した最後の言葉となった。 それから数日後、とある私有の滑走路。 「よう、遅かったな苓」 「・・・返す言葉も無い、とはこのことだな」 「え? え? なんでバカ兄がそっちにいるの?」 「はっは、どうだ驚いたか。ま、これでもいろいろ駆使したのだよ。その辺は秘密だ」 危なかった。悠長に遊んでいたばっかりに、3時間強でアメリカ大陸と太平洋を横断する羽目になった。 まぁ、異様なことにはなっていたがスコットランドに立ち寄れたことだけは良しとしよう。 何とか間に合って摩璃華のご機嫌も取れて何よりだ。ちなみに摩璃華は今、全裸の白濁塗れでご就寝中である。 「よしじゃ帰るか。家に着くまでが遠足だからなー?」 「らじゃーなの! さぁタケ、おうちにかえるよ!」 「兄君様の家、ですか・・・貧相でないと良いのですが」 「それは、問題ないと思う。余る位に部屋あるし、お隣さんの5倍くらいは広いし」 「ペットも可だ。喜べタマ」 ヤッタネ タマチャン! カゾクガフエルヨ! 「今絶対喋ったよなぁ!? ・・・ま、いいか。タケだし」 というわけで、行くときよりも人数は増えた一行は、旅の疲れも忘れて談笑しながら家路に着くのであった。 彼らが平穏に戻った後に迎えた、とある休日。 「突然呼び出しちまって、悪ぃな大将」 「いや、問題ない」 A高校に程近い歓楽街の片隅で、中村回答と翠は待ち合わせをしていた。 「そちらも、万事うまく行ったようだな」 「おかげさまで、な。大将もこれでやっと社長イスにどっかと座って左団扇か? 羨ましいねぇ~」 「・・・そんなに、良い物でもないがな」 言葉少なく応える回答と、相も変わらず陽気な翠。 何はともあれ姿見だけは目立つ二人である。女子高生溢れるショッピングモールでは割と注目の的となる。 「・・・この視線は慣れんな」 「まったまたご謙遜を。あれか、無駄に乳のでかいのとまっ平らなのがいるから興味ないか」 「あいつらは、そんなのではない・・・!」 「はっは、そうカリカリすんなや大将。っと、ここだここだ」 「ここは・・・病院?」 そう、翠は回答を連れ立って病院に向かっていたのである。 「こんなところに、何の用だ? 君の知り合いの見舞いなら、私は邪魔では?」 「いーからいーから、黙って着いてこいって」 そう言って、病院を我が物顔でずかずかと進む翠。 「おい、ちょっと待て!」 見舞いでもなく病院内を歩くにしては、不自然にも思える速さで進む翠に、慌てて着いていく回答。 「え・・・っと、ここか。んじゃ、さくっと・・・何だっけ、『裏殺し』っつったっけ? こっから先は  アレで行くから。できんだろ?」 「な、んだと!?」 まるで散歩か何かに行くかのような気軽さで、『裏殺し』を使え、という・・・コイツ、一体・・・? 言われるがままに、世界を覆うヴェールの隙間を縫うように、『向こう側』へと立ち入る。 今でも鍛錬は欠かさないが、だが今だこの圧倒的なまでの希薄さ、虚脱感には慣れることはない。 「よし、準備できたな・・・おい何だよそのシケたツラ。せっかくのお耽美フェイスが台無しだぜ?」 「・・・まさか、なんとも、無いのか・・・?」 「そりゃまぁな。この程度仕手の基本だろ。それに真っ白だけの世界とか真っ黒だけの世界とか、こんな  ただ見た目色素が薄いだけよりもっと発狂しそうな光景を知ってりゃ、この程度屁でもないね」 ただ色素が薄いだけ、そう言い放つ翠は、さらにずかずかと病院を進む。 「えっと・・・あった、ここだここだ。ほれ、中に入れや」 「病、室・・・?」 なぜ病室に入るのに、『裏殺し』を使う必要がある? 誘われるままに回答は病室に入り、入れ違いに翠は 「ごゆっくり」 と一言かけて、病室を後にする。 回答は、その病室が、444号室であることには、気付いていなかった。 病室に入った回答は・・・眼を見開き、驚くより他、無かった。 そこには、四肢も無く、眼は何も映さず虚ろ、芋虫のように転がり、ただ繋がれた幾本かのチューブと 生命維持装置に拠ってのみ生かされている、否、ある意味では死んでいると言っても差し支えない状態の、 「お・・・う、嘘、だろ・・・!?」 回答が見紛う事などありえない、その容姿は紛れも無く、 「お・・・親父・・・親父なのかあああああああああああああああ!!!!!!!」 中村問答、その人であった。 「親子水入らず、邪魔するほど無粋じゃねぇしな」 『裏殺屠(リセット)』を解除て病院の踊り場から一階へ降りる翠の後方に、444号室へ続く道は、無かった。 翠は病院の表で待ち合わせていた妹達を連れて、歓楽街へ向かい歩いていった。

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