十六聖天外伝 残光 ~第五章 アリス・ザ・ワンダーワールド二章前編~

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「おや、兄さんも行きはるんですか? 困ったわぁ…。兄さん行きはったら、本部の守り手 おらんようになって ウチが残らなアカンやないですか。万が一の時は格好よく登場したろ思うてましたのに」 「…HAHAHAHA。トムデース」 皮肉たっぷりに攻撃ならぬ口撃をしてくる西園寺から、逃げるようにトムは姿を消す 「変わったな、カイン…兄さん」 人類最初の罪人であり、自分からめったに動くことのない兄が、今仲間のために行動してい る そんなトムを見て西園寺は、人は変われるのだな、笑みを浮かべ、トムが向かった先…次郎 達が そして仲間達が居るであろうう場所に目をやる これは次郎の人徳がなせる技なのだろうか…。恐らくはそうではあるまい。次郎の、そして 皆の善意が伝染し、広がっているのだろう ここにきて、十六聖天という組織が初めて一つになり、そして平和に向けて歩き出した 西園寺はそんな気がしていた 「なん…だと…」 一方、次郎はかつてない程、動揺していた 手も足も出ない…これほど圧倒的な危機に直面したのは、彼にとっては初めての事だった どうすればいい。どうすればこの状況を切り抜けられる。汗が頬を伝う 「も~!次郎のヘタクソ!」 『次郎、才能ないね』 「次郎様、頑張って…」 そんな黄色い声を背に、再び彼は強的に向き合う 財布の中はもう1700円しかない。今月はまだ20日ある。どうすればいいんだ… 事のあらましは、こうだ。軽い食事を終えた三人は、決して口には出さないが、ゲームセン ターの前を通った時 体中から入りたいというオーラを出していた沙羅とデスメタル、そして食事が終わったと同 時に暇だと暴れ出したアリスに考慮し ゲームセンターでクレーンゲームに興じていた。純粋な善意から、三人に人形を取ってやる といったのが 悲劇の始まりだった。 最初は良かったのだ、最初は。運よく白い兎のぬいぐるみを落とし、それをまずアリスに手 渡した その時のアリスの喜びようといえば、千里眼で彼らを見守るカイザーやナナエルの頬が緩む ほどであった だが、カイザーは対象を360°全周囲から見ることができる。その能力故に彼は気付いてい た 純粋に運が良かっただけだという事に。そして、他の人形は極悪な配置で、相当な金をかけ ないと取れないという事に その状況を理解しているだけに、カイザーは一人つぶやいた 「地獄だ…。ここからが本当の地獄だ」 「お兄様?どうかなされたんですか?」 「いや…なんでもない」 死ぬなよ次郎、と彼は神に祈った。 そして魔眼の兄妹とは別に、三人を見守る影がもう一つあった 明らかに一般人ではない見た目、というかヤクザである。 だがそのサングラスの裏に隠された眼差しは この場にいる誰よりも優しい事を、遠巻きに怖がっている民間人は知らない 彼こそは十六位 徳間秋太郎である (お嬢… あんなに明るくお笑いになって…秋太郎は嬉しゅうございます) 「ナナエル、あそこにいるヤクザみたいな奴。そう、あれは恐らく徳間だ」 「えぇ。存じております。それがどうかなさったのですか?」 「あぁ。次郎にこれを渡すようにと、徳間に伝えてくれ…」 (お嬢… あんなに明るくお笑いになって…秋太郎は嬉しゅうございます) 「ナナエル、あそこにいるヤクザみたいな奴。そう、あの不審者。あれは恐らく徳間だ」 「えぇ。存じております。それがどうかなさったのですか?」 「あぁ。次郎にこれを渡すようにと、徳間に伝えてくれ…」 次郎の残金が500円を切ろうとした時、カイザーにも我慢の限界が訪れていた 元々カイザーは完璧主義者である。次郎に負けたことに遺恨はない。むしろ感謝している程 だ だが、自分に勝った男のあまりにも無残な様は、完璧主義者の彼には我慢ならなかったのだ そしてもう一つ、先ほどから気になっている事がある 「まぁ、お兄様ったら」 良く見れば頬が紅い。なるほど、素直ではない兄の精一杯の優しさでもあるのだろう。ナナ エルは快くそれを了承する 「徳間様の元へ向かいますわ。しばらくお兄様一人になりますけど、油断なさらないでくだ さいね」 「私を誰だと思っている…!さっさといけ…!」 ナナエルが視界から消えると同時に、カイザーは後方に立つ人物に向けて言い放つ 「先ほどからチョロチョロと鬱陶しい蠅だ。このカイザー・ヴェルドバングを抜けると思っ たのか…?」 「へぇ…データと全然違うじゃない。妹さん逃がしたんだね。優しいんだ」 クリムゾンブロウ曰く「麻生が秋葉にいてびっくりした」 ブラックパイソン曰く「そんな事よりコイツを見ろよ…3Dカスタム少女だぜ…嗚呼…」 十六聖伝外伝 残光 ~第五章 アリス・ザ・ワンダーワールド二章前編~

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