四堂家のよくある光景

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「ここをこーして……」 「そこをあーして……」 「これ、喜んでくれるかな?」 春はニコニコとしながらヴァルに尋ねる。 「きっと喜んでくれるよ!」 ヴァルも笑顔で応える。 「でもヴァルちゃんに手伝ってもらわなかったらきっと出来なかったよー」 「こういう時こそ半分だけでも姉妹なんだから力を合わせないと!」 「えへへ、そうだよね!」 普通なら重苦しい事実も二人の前ではそんなものは些細なことだった。 「よし、できた!」 「こっちもオッケーだよ!」 「えへへ……」 「にしし……」 二人は顔を見合わせて微笑み(?)合う。 そして―― 「春姉、ヴァカ、ちょっと座りなさい」 「ま、待って、お話を聞いて?」 「そうだよこれにはちゃんと理由があるんだよ!」 背後にはどこかで見たような建物が一棟。 しいて言うなら姉妹が生活していた掘立小屋……の燃えカス。 おまけにすすけて半裸状態になった春とヴァル。 「いいから座りなさい」 夏が青筋を立てながら二人を睨み付ける。 秋はブツブツと燃えてしまった怪しげなコレクションの為に違う世界に想いを馳せている。 冬は半裸の春を見て鼻血を出して悶えている。 「まず一つ目」 「な、なによぉ」 「なんで家が燃えてるの?」 「し、しらないよ!」 「わ、わたしも!」 「じゃあ二つ目」 「燃えカスに等しかったけど台所に何かしら調理をした形跡があったんだけど、心当たりは ?」 「……」 春が俯いたまま押し黙る。 「私は料理をしたのかを聞いてるの」 夏が切れ気味に攻め立てる。 「え、えっとね、その、ね……」 「何よ?」 春が戸惑いながら言葉を探す。 「夏、今日は何の日か覚えてる?」 「私たちの家が燃えた日でしょ。きっと忘れない日になるわね」 夏は苛立ちを隠さずに答える。 「夏の誕生日……」 「……え?」 思いがけない言葉に夏は固まる。 「その、ね、ヴァルちゃんと一緒にこっそりケーキ作ってたの。お祝いにって。 あ、ヴァルちゃんを怒らないであげてね?」 春はヴァルを抱き寄せる。 「ヴァルちゃん、今日の為に学校休んで来てくれたの。夏の為にって」 「違うよ、私が春に頼んで無理やり手伝ったんだから私にも責任が……」 毒気を抜かれた夏は呆然としたまま立ち尽くす。 「……まあ、もう終わったことは良いわ……」 「え?」 「ケーキ作ってどうして全焼なのかとかもう『春姉なんだから』で片付くんだし」 「ご、ごめんね……」 「だから良いって」 ちょっとだけ涙ぐみながら夏はそっぽを向く。 「……とりあえず片付けして……寝る場所はどうしよっか……」 夏は秋に尋ねる。 「四堂の家で使ってない使用人屋敷がもう一つなかったかしら」 秋がおぼろげな記憶を辿る。 「あーそういえば裏山の方だっけ?」 「そうそう、場所が場所だけに放置されてたアレ」 「とりあえず確認だけ行ってみよっか。使えそうだったらそっちの方使うってことで」 「そうね」 「冬……って、あんた鼻血出やすい体質なのは分かってるけど、今日は出しすぎよ。 鼻血吹いたらあんたもおいで。それとも春姉の手伝いしてる?」 人知れず絶頂寸前だった冬が声を掛けられてやっとこっち側の世界に戻ってくる。 「……うん、春お姉ちゃんの手伝いしてる」 「了解、それじゃすぐ戻るからその間よろしくね」 「うん……」 そうして二人はその場を後にした。 「お、あったあった」 以前の平屋と違い、二階建て建築の建物はすぐに見つかった。 「思ってたより綺麗ね。それに広いわ」 「って、トイレとお風呂あるよこっち」 妙なところで感動する夏。 「布団とかもあるわね。部屋の方もこれならちょっと掃除すればすぐに使えそうね」 「だね」 「食器類もそのままあるし今からでも生活出来そうだわ」 秋が簡単に家屋のチェックをし終え先に二階に上がった夏の元へ向かう。 「何か見える?」 「いつもの春姉といつものヴァカといつもの冬」 答えて夏は秋の方を向く。 「今まで家燃えたの何回だっけ?」 「小火で18回、半焼だと2回かしら。でも全焼は流石に初めてね」 「だね。それにしても春姉にも困ったもんだよね」 家を全焼させたのにそれでもその程度で済ませ思わず苦笑してしまう。 「でも嬉しかったでしょう? ケーキのこと」 「ん、まね」 夏が照れくさそうに顔を背け応える。 窓から望むそこには必死になって片付けをしている春と冬とヴァルの三人。 冬は春の後ろに引っ付いて回って息を切らせている。 冬は春が大好きだからきっとあの小さな体で一生懸命手伝っているのだろう。 「ところでさ、秋は覚えてると思うんだけどさ」 「うん」 秋は真剣な顔で答える。 「私の誕生日って来月なんだよね……」 夏が小さく呟き見つめるその先で、春とヴァルが同時にこけて、冬が鼻血を出して倒れていた。 四堂家のよくある光景 了

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