いつかのおもいで

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「四堂家物語―かぞくのおもいで―」 月は昇りきり、世界を月光が照らす頃、一人の少年が屋敷の屋根に登り空を見上げていた。 「あなたですよね?」 少年は振り向かず誰もいない背後に問う。しかし、応えはない。 「……一週間位前かな、ずっとこの家を……と言うよりも遊季ちゃんを見ていましたよね?」 そこに至り始めて背後に居たナニカ――影が蠢き言葉を発す。 「幼い容姿の割りに中々目敏いな少年」 実際のところ、見た目よりかは少年と言う年齢ではない他称・少年は普段どおり評価を受け苦笑する。 「僕はあなたが何者かは知らないし、知ろうとも思いません」 「……」 「でも、もし、そう、もしもです。あなたが遊季ちゃんや遊夜くん達に何かしようとするのなら……」 「……するのなら?」 影は嘲笑を持って応え、そして僅かに身構える。しかしそれはあくまでも弱者を前にした狩りの為のたたずまい。 「……」 少年はそこで言葉を止め、沈黙する。 「するのならどうすると言うのだ?」 「……それを言う前にひとつ聞いておきたいんですけど」 「ん?」 「遊季ちゃんを見ていたと言うのなら六道の家のことをご存知ですか?」 探りを入れる目で見られ、影は少し思案し応える。 「……どちらのことだ? あの家を襲った惨劇のことか? それとも六道の血の力のことか?」 特に前者の言葉に少年は強く反応する。それを感じ取り影は応える。 「残念だが、お前の知りたいほうは我は知らぬ」 「……そうですか。なら目的は血のほうですか」 「然り。アレさえあれば我はより高みへといける。その為の贄として貰い受けに参った」 目的を明確な言葉で聞き、少年は静かに激昂する。 「まあ、どちらにせよ当主無き四堂の家などどうとでもなるのでな。少年、お前は居合わせた不幸を呪いながら死んで行くがいい」 そして、影は腕を振り上げ、それだけで少年の首は地に落ちた。 はずだった。今まではそうだったのにと。それが影の持つ能力。しかし―― 「うん?」 少年の首は落ちない。影はまた腕を振り上げる。しかし、今度になりやっと違和感に気付く。 「……な」 まず、最初に腕が無くなったことを視認する。 「あ……が……」 次に足元から崩れ去る。だがもうそこに、足と呼べるものなどありはしない。 「おまえ……なに……を?」 少年は微動だとしていない。空気の揺らぎも、術の残滓すら感じ取れない。 少年はただ立っていただけ。 「おまえ、何者だ?」 そして最後に知る。対峙した者がただの少年なんかではないと言うことを。 「四堂家当主、四堂巡節。まあ継承の儀をしていないので自称なんですけどね」 その名を聞いて男は苦笑する。 「当主は死んだと聞いてはいたが……そうか、お前が……。……姿見に騙されたわ……」 「いつも言われます。騙してるつもりは露ともないんですが」 巡節も苦笑をもって応える。 「あなたの名前は?」 「止めは刺すのだろう? 死に逝くものへ聞いてどうするのだ? 墓碑にでも刻んでくれるのか?」 「人の命を奪ったことを忘れないための戒めです。ただの僕のエゴですよ」 「ふん、面白くもない理由だな……。まあ、良いだろう。我が名は――」 「おはようジュンちゃん!」 「お兄ちゃん、おはよー」 「おはよ、遊季ちゃん、遊夜くん」 いつもの朝を向かえいつものように笑顔で挨拶を交わす。 「あれ?」 「どうかした?」 遊季が巡節に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。 「ど、ど、ど、どうしたの?」 幼い頃とは言え、お医者さんごっとやら一緒にお風呂も入ったこともある身でも、年頃になった遊季に顔を近づけられ思わず後ず さりしてしまう。 ……実の所、この年になってもお医者さんごっこを強制されたり勝手にお風呂に入ってきたりするのである意味で今も昔もそう変 わりはしないのではあったが。 「んー……」 遊季は頬に指を当て何かを思い出すように考え込む。 「あ、そうだ!」 「ど、どうしたの?」 「ジュンちゃん、昨日の夜にお外に出た?」 巡節の鼓動が一瞬早くなる。 「うん、少しだけだけどね」 「やっぱり!」 遊節は満面の笑みで応える。 「お月様の光とね、夜の風の匂いがしたから」 そこまで分かるものなのかと思わず驚く反面、巡節も笑顔になる。 しかし、遺体は完全に分解した為、その痕跡までは分からなかったことを考えると少しだけ心苦しくなったしまった。 「良かったら今度一緒に見る? 屋根の上からだと月が綺麗で風が気持ちいいからきっと気に入ると思うよ」 「うんうん! あ、そうだ! 遊夜も一緒に来る?」 「ううん、僕は良いよ。高いところ苦手だから」 別段苦手でもないが幼いながら巡節に気を利かせ遊夜は申し出を辞退する。 「そっか、じゃあ二人っきりならデートだね!」 臆面も無く遊季ははしゃぐ。 「あ、お月様ならお団子とかあったほうがいいのかな?」 「それは僕がやる」 今まで笑顔だった巡節がピシャリと言い切る。彼女を台所に立たせることは即ちホムンクルスの製造を意味するからだ。 「って、そろそろ学校の時間だよ」 「あ、本当。急がなくっちゃ」 「遊夜くん、はい、お弁当」 巡節にお弁当箱を渡された遊夜は笑顔でそれを受け取り、大事そうに鞄にしまいこむ。 「遊季ちゃんの分はいつもの方ね」 「うん、ありがとうジュンちゃん」 遊季は黒いお弁当箱というか重箱を抱える。しかもそれは二人で食べるのではなく一人分の量である。 巡節も手早く出かける仕度をすませ、玄関へと向かう。 「それじゃ、父さん、母さん、行ってきます」 「おじ様、おば様、行ってきます」 「いってきます」 三人は玄関に立てられた写真立て向かって挨拶をし、足早に学校へと向かっていった。 いつかのおもいで 了

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