この国の文化(前編)

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[エクスカリバー] 「ふぅ、いささか疲れたのう。」  アリスの部屋で行われた二次会の後、エクスカリバーは忘年会の会場となったホテルに戻ってきた。  夜更けとはいえ仕事はいくらでもある。    それならと朝方まで会場の修繕と澄美の手伝いに申し出たのだ。   [エクスカリバー] (どうせ一人ではすることもないしのう……)  エクスカリバーの脳裏にふと、かつての友人の姿が思い出された。   [エクスカリバー] (アナスタシア……そしてアレクサー……皆ワシの元から離れてしまった…… 守るべきものを守れず、友を失い、なぜワシだけがおめおめと健在であるのかのう……)  心の中で、友人は変わらぬ微笑を投げかけてくれる。  その笑顔が無力な自分には辛かった。 [エクスカリバー] (ふう、いかんいかん) 頭を振って思考を振り払う。 今は会場の修繕が先決だと雑念を振り払い作業に戻る。 ;----------------------------------- [エクスカリバー] 「残りはアリスが破壊した扉だけかのう……む?」  会食を行った一階のテーブルを片付け、残りは二階だけというところまで作業は終了。  本来なら会場を管理する会社がやるべきことなのではあるが、紹介者となった澄美の顔を立てて、終了後まで残ってある程度の仕事は済ませておくことになった。  そもそも十六聖天は秘密の組織である。  その様な者たちが宴とはいえ、自分たちの痕跡を残すことはありえない。 [澄美] 「おや、エクスカリバーさん」 [エクスカリバー] 「おぉみみちゃん。お疲れ様、じゃ」 裏十六聖天の一人、ウォーターウォーカーウォーリア。 本名御簾涼観澄美はやや疲弊した顔で声をかけた。 [澄美] 「お疲れ様です。二階のほうは終わりましたよ。」 [エクスカリバー] 「何と!? それはすまなかったのう。ワシ自ら志願したというのに、大した役にたたなかった。」 [澄美] 「いいのですよ。元々後始末までは私達の仕事ではありませんし、残りのスタッフに任せましょう。」 [エクスカリバー] 「そうか? ではお言葉に甘えるとするかのう。」  二人はさっさと着替えると姿を消した。  二人が居なくなったことに会場にいた残りのスタッフが気づいたのは朝になってからだった。 ;--------------------------------------------------- [エクスカリバー] 「さて、ゆっくり帰ろうと思っておったところなのじゃが……」 [澄美] 「よいではありませんか。この時間までやってる隠れ家的カッフェはここくらいなのですよ。」 [エクスカリバー] 「カッフェとはコーヒーのことを指す言葉だと思って追ったがのう。」 [澄美] 「ふふふ、今の流行は時代を先取りしたファンタジーなのですよ。」 [エクスカリバー] 「なるほどのう。」 [エクスカリバー] (正直意味がわからん……)  エクスカリバーは改めて店内を見回した。  店内は木目調の内装に素朴な雰囲気を感じさせる。  ただ、流れている音楽が往年のアニメソングばかりなのが何ともイタイ。  営業活動の一環なのだろうか?時折、ズタバに負けないドトーノレ。といったBGMが聞こえてくる。  とはいえ、この時間まで店を開いているマスターは生き生きとしていて気持ちがよい。 [エクスカリバー] 「しかしあれじゃのう。クリスマスも終わったというのに、女二人でこの時間まで座談会とは寂しいものじゃのう。」 [澄美] 「あら? エクスカリバーさんは次郎さんを狙っているのではなかったのですか?」  コーヒーを一口啜り、少々愚痴めいた言葉を吐く。  そんな言葉にも澄美は意に介した様子も無く話を続ける。 [エクスカリバー] 「そのつもりではあるが若い者達に譲るわい。ワシと居ると歴代のマスターのように不幸になってしまうかもしれぬでな。」 [澄美] 「ふふ……いえ、失礼しました。」 [エクスカリバー] 「何かおかしいことをいったかのう?」 [澄美] 「いえ……少々らしくないと思っただけです。」 [エクスカリバー] 「む……ワシとて、年頃の女子故、そういう気持ちになることもある。」 [澄美] 「年頃の女性なら後先考えずにアタックあるのみですよ。それに危ないときは私が出て行って助けます。 皆もそう思っていると思いますよ。」 [エクスカリバー] 「じゃが、守るべき立場であるワシが守られるというのは……」 [澄美] 「あなたは少し考えすぎですよ。もっと仲間を頼ってもいいと思いますわ。」 [エクスカリバー] 「…………」  エクスカリバーは何か言おうと口を開いて、結局何も言い返せずに下を向く。  その様子を眺めながら澄美はコーヒーを一口飲もうとして…… [澄美] 「あっつーい!!」  指を滑らせて胸元にコーヒーをぶちまけた。  彼女のスーツの下に着た純白のブラウスにコーヒーの黒い染みができた。 [エクスカリバー] 「大丈夫か!?」  エクスカリバーはハンカチを取り出すと澄美の胸元を拭ってやる。  黙ってカウンターに座っていた店主も出てきた。 [澄美] 「大丈夫です。お気になさらず。……うーん、今一最後は格好がつきませんでしたね。」 [エクスカリバー] 「なんじゃ、格好をつけたつもりだったのか?」 [澄美] 「そのつもりだったんですけどねぇ。……カッフェ、もう一杯いただけますかしら?」  澄実は店主にカップを差し出して告げると、店主は黙ってそれを受け取り、すぐに戻ってきた。  コーヒーのいい匂いがいっそう強く辺りを漂う。 [澄実] 「ありがとうございます。……?ああ、自分の不注意ですしクリーニングとか結構ですわ。このまま帰ります。」 [エクスカリバー] 「…………」 [澄実] 「どうしました?」 [エクスカリバー] 「いや……みみちゃん、結構おっぱい大きいのう。うらやましい限りじゃ。」  それを聞いた澄美は暗がりの中で顔を赤くしてうつむいた。  こういう話には弱いのだろうか?とエクスカリバーは思った。 [澄実] 「な、な、何を言ってるんですか。エクスカリバーさんだってそのうちに……」 [エクスカリバー] 「くくく、まぁ、ワシだって全く成長が無いわけではないからのう」 [澄実] 「そそそ、そうですよ……そ、そろそろ行きましょうか。」 [エクスカリバー] 「うむ、そうするか。ごちそうさま、じゃのう。」 ;----------------------------- [澄美] 「得してしまいましたね。」 [エクスカリバー] 「うむ、この時間にタダでこーひ…いや、カッフェが飲めるとは。うまかったしのう。」 [澄美] 「私にとっては、こんなものは何でもないのですけどね……」  店主の計らいによって代金は無料ということになった。  逆にクリーニング代を出すと言われたが、澄美は辞退した。  澄美にとって自身を司る液体は何の障害にもならない。  液体に色素を溶かし、そのまま自身の体内に取り込むとまるで最初から無かったようにコーヒーの染みが消えた。 [エクスカリバー] 「すごいのう。……さて、そろそろお別れじゃな。」 [澄美] 「いくらか気が紛れましたか?では、私は帰りますが、エクスカリバーさんは?」 [エクスカリバー] 「ふむ、ワシはちょいと野暮用じゃ。」 [澄美] 「年頃の女性は後先を考えないわけですね?」 [エクスカリバー] 「そういうことじゃ。……ところで、みみちゃんはどうなのじゃ? 誰か恋人でも候補でも居らぬのか?」 [澄美] 「わ、わわわ私のことは、ど、どうでもよろしいではありませんか。」 [エクスカリバー] 「そうか? まあ、お互い頑張ろうぞ?」  屈託の無い笑顔を浮かべると悠々とエクスカリバーは去っていった。  その後姿を見て、またその言葉に心の中に浮かんだ顔を必死で振り払い澄美も帰路に着いた。 ;------------------------------------------------ [エクスカリバー] (仲間を信頼…か……思えばワシは守ることばかりに必死で自分の事を顧みることを忘れていたかもしれんのう。)  ソロ・アナスタシアが徳島ごと消滅し、マスターであるアレクサーを失い、これ以上親しい人間が居なくなることを恐れていた。  そんなエクスカリバーを仲間と呼び、信頼するものがまだ居る。  そのことがエクスカリバーの心に暖かな何かとなって心の中に残っていた。  まだ自分には守るべきものが居るということに、守られてもいいのだという事に気付かせてくれた仲間が。  そしてこれから向かうは次の主となるべき男の元。  年頃の女の子は本当に後先を考えることをやめたのだ。 [エクスカリバー] (迂闊じゃった。自分でアリスに言ったばかりではないか。) [エクスカリバー] (この国では夜這いは文化だと……!)  時刻は午前3時。普通なら寝ている時間。  だが、今はそれが逆に都合が良い。  指先のみを聖剣の切っ先のように変化させると、エクスカリバーはあっさりと次郎の部屋の鍵を外した。 [エクスカリバー] 「ちょろいもんじゃ。しかし、こやつ、私生活はだらしない奴だったんじゃなぁ。」  カップラーメンやペットボトルのゴミが散在するなか、リトバスEXが大事そうに飾ってあるのを見ると女心は少々複雑に揺れ動く。  まあ、友人の形見でもあるのなら仕方ないと無理矢理自分を納得させる。 [エクスカリバー] (ほほう、この寒い中パンツ一枚で寝ておるとは……)  中々に豪胆な男じゃ、と一人でうなずくとそのまま布団を引っぺがし股間を踏みつける。 [エクスカリバー] 「起きよ! ジロウ! 夜這いに来たぞ!」

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