岩崎健吾の憂鬱(前編)

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「征ィィッ、闘ッ、破ァアアアアッッ!!」 人里遠き奥山の瀑布、万年絶えぬ爆音を切り裂いて鋭い気勢が響く 一瞬の遅れも無く応えるのは、城塞の巨大な門扉に丸太の束を叩きつけるような重く力強い衝撃の響き 一体誰が信じ得ようか、その轟音が城攻めの音などにあらず、ただ一人の人間が流水を打ちすえる結果であるなど 「――奥義、竜虎鳳相撃ッッ!!」 一際大きな気合いと共に繰り出された連撃、その終幕を飾る一撃が滝の流れを遡るように突き上げられる 叩き込まれた衝撃が形無き水を割断し、跳ね上げられた流れが空中に逆巻く滝を作り出す 鳳を模すような飛沫が周囲を白く包む中、裏打ちの構えのまま腰上まで水に浸かる姿は驚く程に小柄 やがて霧が晴れた時、ひととき水の絶えた滝に残心を尽くすのは一人の少女であった 花も恥じらう年頃の乳色の肌、烏揚羽の如き優美な髪を惜しげも無く水に晒す姿は、乙女だけに許される清楚と妖艶の二律背反 一見すれば月も隠れる美少女の躯は、しかし同時に麗しき女武術家のものでもある 均整のとれた骨格を覆う、無駄な緊張とも怠惰な弛緩とも無縁な流麗な筋肉 開けた道着から覗く胸元は柔らかく隆起し、意外な程に深い谷間を水滴が滑らかに伝う 黒帯を絡ませた腰回りは女児と女性の中間、うっすらとした肉付きが締まりのある股へと続く しなやかな肉体が作り上げる隙の無い立ち姿は、独特の色香すら漂わせていた まさにルネサンス美術を彷彿とさせる肉体美の極致、そう言って過言ではあるまい 「……まだまだ、親父の半分にも達してねぇか……」 桃の花弁のような唇から零れたのは予想を裏切る程にがさつな言葉で、しかし予想通りのしなやかな声音 「やれやれ」と髪を無造作に掻き揚げ構えを崩すと、その姿は途端に歳相応の華やかさを纏う 「……そもそも親父なら、滝を殴っても向こうの岩肌を穿つ無様は晒さねえか」 己が未熟さにため息を漏らし、滝壺から岸辺へと上がる女武者 水で張り付いた道着から優美な身体の線と黒のスポーツ用アンダーが透ける様子は、生命と性愛の神エロスの恩寵すら感じさせる 「さぁて、着替え着替えー……って、あれ……?」 河原に置かれたドラムバックを覗き込んだ(意外な事に正座して)少女が、中身を漁る手を止めて怪訝な表情を浮かべた 「げっ、まさか忘れて来ちまったのかよー……」 バッグの中に目当ての着替えを見つけられず、思わず天を仰ぐ 「キッツいなぁ 三日ほど山籠もりだって言って出てきたのに、初日から出戻りじゃ親父に笑われちまう ……仕方ねぇ、今日一日は濡れ鼠で我慢して、明日取りに戻るか」 こめかみを拳で揉むと、ぐっしょりと水を吸った道着の上下を意外な程たおやかな手つきで身から剥がしていく そのまま丁寧に畳み、四角く纏めたそれを端からクルクルと丸めていく 「せーの……うりゃぁっ」 武術家特有の厳めしい、しかし十分に少女らしい小振りな手が、硬く厚い麻の布地を絞り上げた 大の男がやっても滴が零れる程度を、水を吸った海綿のように悠々と水切りしていく 「んでもって、バサバサッとな ――ま、これで日が沈む前には乾くだろ」 軽く振って形を整えた道着を近くの木の枝に引っかけ、少女は「うぅーん」と伸びをする 「後は……やっぱりコレかぁ……」 年頃以上に豊かな自分の膨らみを見下ろし、じっとりと張り付いた化繊の黒布を摘み上げる 「地元の人間すら立ち入らない山奥とはいえ……さすがに真っ裸はマズいよなぁ……」 胸と股間に感じる冷たい湿りに、少女――岩崎健吾は独り頭を抱えるのであった 岩崎健吾の憂鬱(前編)fin

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