邂逅 ギデオン・トリプルプレイ・グランドスラム 後編

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遠い夏のある日・・・・・ 「ショウちゃんショウちゃん」 ショウちゃんと呼ばれた子は手招く先を眺めた。 熱く焼けたアスファルトの上をアリが列をなして 進んでいるのを、二人しゃかんでじっと眺める。 「見てろよ」 親友はポケットから紙片を取り出しアリの行軍 にかざすとその内の一匹の背中に、みるみる 羽が生えだしたではないか。 しかも蜻蛉のような透き通った羽ではない、 鳩のような羽毛の生えた、真っ白な羽が。 「すげぇ!!」 「誰にも言うなよ、俺とショウちゃんだけの秘密だぜ」 −現在・・・・・ 「ショウちゃん、アタシに協力して欲しいの」 エースのかつてない穏やかな表情だった。 「何いってやがる、俺達は・・・・」 「十六聖天?十大聖天?あなたの能力はそんな枠の中で 納まるモノじゃないのよ?」 「買いかぶりすぎだ」「いいえ」 「トムの旦那や西園寺サンが黙っちゃいないぜ」 「サトージロー・・・・でしたっけ」 ギデオンが絶句した。 「ただの人間のクセに、日本刀一本で貴方のすぐ上の 地位に落ち着いちゃうんだもの、堪らないわよねぇ、 貴方が自分の能力でどれだけ苦しんできたかも知らずに」 「黙れッ!!」ギデオンの眉間に怒りが刻まれたが、 「・・・・・・・仲間は仲間さ、裏切れねぇよ」 すぐに余裕を取り戻した。 「そう、本当に強くなったのね、弱い心を寄せられた 信頼で鎧って、力が水増しした気になっているのね」 頬を、熱風が撫でる。 「でも、貴方の本当の強さは、そんなものじゃないのよ」 おおきなくりの木の下園に火の手が上がった。 「・・・・そんなっ・・・テメェ何をっ・・・」 普通の出火ではない、軒と言わず柱と言わず、 全てが一斉に燃えた。栗の木も燃えた。 庭にいたこども達や縁側に座っていた園長は ひとたまりもない。 「テメエェェェ!!何してやがるッッ!!!!」 振り向きざまに駆けだしたギデオンの手に、 エースの腕が絡みつく。 「離せよッ!!こんな事・・・どうしてッ!!」 消し炭になった柱が屋根を支えきれずにグシャリと 潰れた。栗の木もメキメキと音を立てて倒れた。 「今から面白いモノが見れるわ」 紅蓮の炎に包まれもはや手遅れに思われたが 突然、炎が今までそこに何も無かったかのように 掻き消えた。急速に大気が熱を冷ます。 真っ黒な消し炭のみが残された場所からまっさらな 柱が飛び出し、さらに白骨が立ち上がった。 まるでテープの巻き戻しのように土台が敷かれ、 材木が組みあがり、壁が、軒が、屋根が出来上がる。 白骨からは肉汁が染み出し、何重にも皮膚が重なり 裸の人間が現れた。髪が生え揃い衣服が再生されると 小さな白骨はこどもに、腰の曲がった白骨は老婆に なった。 「何が・・・・起こってるんだ・・・・」 「違うわ、貴方が起こしてるのよ」 全てが再生されていた。 こども達は毬のように駆け回り、縁側には 木下園長が座っている。業火によって奪われた はずの和やかな風景が、そこにある。 「てめぇ・・・・何をしたんだ」 「だから、貴方がやっているのよ、貴方が 蘇らせたの、あれは貴方の被造物ですもの」 「!?」 ギデオンの奥の奥の方からドス黒い何かが沸き上がり、 とぐろを巻いて脳裏を覆い尽くした。吐き気を催した。 「父も無く、母も無く、天外孤独の貴方が自らを育てる 為に生みだした美しい記憶、自らが、無邪気なこども であるかのように振る舞うための舞台装置よ」 「違う」 「貴方の力は平行世界を渡る力?違うわ、貴方の力は 平行世界を『創る』力、神の力の一欠け・・・」 「違う」 「貴方が望めばどんなものも手に入る、なのに貴方は その力を使うことを恐れた、どうして?自分自身が 造り上げたものを愛することは自分自身を愛するという こと、自分の造り上げた世界に生きるということは 自分が自分を慰めることの繰り返しと同じよ!!」 「違う」 「人間の弱い心では『神の孤独』には耐えることができなかった、 だからあらゆる事を求めた、女を抱き、快楽を貪っても、 貴方の孤独を埋め合わせられるものではなかったわ、貴方は 人間ではないから」 「違う、違う、違う、違う」 「種が違うのよ!神と人の間に子供が出来るわけ ないもの!!子を宿し、育み、家族というコミュニティ の中で平々凡々の暮らしを渇望する貴方が創りだした のが、こんなおばあちゃんとガキの群れなんて、 お笑いぐさだわッ!しかも自らを騙し通してきたなんて」 「違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」 ギデオンは膝を折って嘆いた。憎悪と、羞恥と、 憤怒とがゴチャ混ぜになり、絶望の色を為した。 「自覚なさい、アタシ達は神の雛形、造物主の デッドコピー・・・・貴方の孤独を理解できる のはアタシだけなのよ・・・・・アタシと貴方が 組めば、小生意気なジークフリードも、小便臭い小娘も、 貴方んとこのトム野郎だって出し抜くことができるの」 「違うぅ・・・・違うんだぁぁ・・・・違う・・・違う・・・」 地に崩れ落ちたギデオンを視線で哀れみ、 「待ってるわ、ショウちゃん」エースはその場から去った。 こども達は笑みを浮かべて栗を拾い続けている。 −後日 「聞いたのか」「ハイ・・・・・」 本部の応接室、美しい木目のテーブルを挟んで ナナエルとギデオンが膝をつき合わせていた。 はめ殺しの大きなガラス窓があり、庭で次郎とアリス、 徳間がバドミントンをしているのが見える。 「カイザー兄さんに?」「・・・・ハイ・・・・」 ナナエルは、カイザーがギデオンとエースの問答を 遠く監視していた事を告げた。 死んでも見られたくないギデオンの醜態だった。 ギデオンは小さく舌打ちする。 「お兄様は非道いです、薄情ですよッ・・・どうして ギデオンさんを助けなかったのか・・・」 「そりゃあ違うよナナちゃん、お勤めだもの、 もし俺とカマ野郎が本当に通じていたら、兄さんは ヤツもろとも俺を討にゃならん」 「そっ、そんなつもりじゃ・・・」 ナナエルは目を伏せた。西園寺の乱があったように、 十六聖天も一枚岩ではない。個々の力が強大であるが 故に彼らを縛る『掟』は絶対だった。 「まっそーゆーことよナナちゃん!俺は甘々のオナニー 野郎で、ケツ舐められて泣く泣く帰ってきたっつーこと! 話は終わりッ!!」 勢い良く長椅子から立ち上がりギデオンはドアノブに 手をかけた。 「そうやって、おちゃらけたフリして逃げるんですか」 ギデオンの手が止まる。 「・・・・・・・てめぇに何がわかるんだ」 声に怒気があった。「わかりませんよ、全然」 「だったら変なお節介焼くんじゃねぇよ!! オマエらに何ができる!!俺は何だってできるんだ!! 今更オマエらができることなんて何も無えんだよ!!」 「ありますよ!!」 ナナエルはギデオンを抱き留めた。 「全然わかんないですよ!ギデオンさんの苦しみ なんて!!でもお節介焼かせて下さいよ!私たち 仲間じゃないですか!!」 涙声だった。体が小さく震えている。 「私はお兄様みたいに強くないし、おちこぼれだし・・・ 何にも出来ないかもしれないけど、ギデオンさんの 話聞くぐらいできますよ、話してくれなきゃ 本当に・・・・わかんないじゃないですか・・・」 ギデオンはその場に崩れ落ちた。 「・・・・・おっぱいあったけぇ・・・・・」 ナナエルの顔が真っ赤になる。 「・・・・・・泣いていいか・・・・」 「・・・・・ハイ」 ナナエルの胸の中で、ギデオンは静かに泣いた。 「木下・・・・・女を泣かせちゃあイカン」 次郎とアリスが、バドミントンそっちのけで 二人を見守っていた。徳間は武士の情けで 目を伏せていた。 邂逅  ギデオン・トリプルプレイ・グランドスラム 完

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