十六聖天外伝 残光~三章・後篇~

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黒い何かは、ゆっくりと自分たちに近づいてくる どうやら、それは黒いローブを着た酷く小さな人影であるらしい 「我らとて好きで来たわけではない」 「左様。上からの命令。勘違いするな」 ≪余計な…世話…だ≫ 合成音なのだろうか。酷く人間離れした、聞いた者の背筋を寒くするような声 死者が喋るとしたらこんな声なのだろう、そう思わせるような声を発しながら、“それ”は次郎を見て言った ≪彼は誰だ…≫ 「彼は佐藤次郎」 「あの田中茂の代わりにこの度十六聖天に入った兵よ」 ≪あの…茂を…≫ “それ”の声に俄かに驚きの色が含まれていた。無理もない 田中茂…。かつて十六位だったその男は、天才的な鎖鎌の使い手として恐れられた男 代わりに入った、という事はそれを上回る才の持ち主という事だ 「…あぁ、俺は次郎ってんだ。佐藤次郎、よろしくな」 ≪…デスメタル…人はそう呼ぶ…≫ 「挨拶がすんだようだな。ならば次郎」 「ここはもうきゃつめに任せて、行くぞ」 さっき死体が起き上がるのを見てしまった 次郎はそれを見て黙って立ち去るような性格ではなかった 「いや、俺はせっかくだしもう少しここにいるよ」 「!?」「!!」≪!?≫ クリムゾンブロウとブラックパイソンの顔に驚愕の色が走る 何故かデスメタルも驚いていたような気すらする だが、次郎は意に介した素振りすらなく、ニコニコしている 「…もの好きだな。喰い殺されてもしらんぞ」 「リトルバスターズエクスタシーが発売される。死ぬのではないぞ」 そう言い残すと、二人の気配が一瞬で消える リトルバスターズにエクスタシーが…?なんだエクスタシーって… それはそれで酷く気になるが、次郎はとりあえずデスメタルに注目する事にした パイソンとブロウは起き上った死体を見て、それがデスメタルの能力と言っていたはずだ ≪何を…じろじろ見ている…≫ 「ん?あぁ、気にすんな」 ≪…気が散るだろう…≫ 「まぁまぁ」 そう言いながら、次郎はデスメタルの作業を眺めていた だが一向に死体が動かない。先ほど動いたはずの死体も、地面に横たわったままだ あれだけ歯型がついてるって事は、間違いねぇハズなんだけどなぁ… 「…」 ≪…≫ 無言の時間が流れる。気まずいとは思わないが、少し時間が勿体ない 思い切って次郎は聞くことにした 「なぁ、お前ゾンビとか操れんのか?」 ≪…! そ…そうだが何か?≫ 「…」 黙り込む次郎を見てデスメタルは内心ショックだった 嫌われるのは慣れているとはいえ、やはりそんな反応をされると悲しい だがそんなものなのだろう 「…げぇ!すっげぇ!ゾンビだよゾンビ。本物?本物だよな。すげぇよマジで!」 ≪キャ…!≫ 諦めにも似た感情で、次郎に背を向けようとした時 次郎が大きな声で叫びだしたので、デスメタルは驚きのあまり 女の子のような声を出していた。だが、幸い次郎はそれに気付く事もなく すげぇすげぇと叫んでいる …すげぇ? 何だ。この反応は 「いやー 俺ゾンビ大好きなんだよ。ホントすげぇ、感動した!」 ≪…≫ 自分の能力を好きだと、この男は言う。予想外の言葉にデスメタルは混乱していた 混乱のあまり、地面に退避させておいたゾンビやら地霊やら亡霊が溢れだす 「何だこりゃ?」 ≪地霊…とか…亡霊…≫ 地霊や亡霊を見て次郎が首を傾げる次郎に、デスメタルは説明してやる 亡霊や地霊、霊的な物質も操るのがネクロマンサーだ、と 「地霊!そんなのもいるのか!」 全く説明など聞いていないように、次郎はアンデッドの中にダイヴしていた 初めて見るタイプの人間…。今は亡き父や母の言葉を思い出す 「泣かないで、いつか、貴女の力を理解してくれる人がきっとくるわ」 「お前の能力は、本当は凄く優しい能力なんだ。だから涙を拭きなさい、いいね」 「なぁデスメタル…だっけ。バタリアンはいねぇのかな。バタリアン」 ≪…? いないと思う…≫ 「ガーン、だな。けどまぁ、こんだけいりゃ十分か! 賑やかでいいなぁオイ!」 眼に熱いものがこみ上げてくる。私は泣いているのだろうか おとうさん、おかあさん、りかいしてくれるひとが ひとりみつかったかもしれません その日、デスメタルは仮面の下で目が真っ赤になるまで泣き続けた 『次郎には感謝してる』 「お、今度はうまく書けたじゃねーか」 褒められた。少し嬉しい 「エルゾンビは、ロメロとは違うアプローチでだな」 『前に貸してくれたゾンビVS救急車はバカゲーだった』 「デッドラしたいんだけど金がねぇんだよなぁ」 『私もない 「あ、デスっちに次郎さんじゃないッスかー!」 こちらの姿を見かけたのか、花子が手を振って駆け寄ってくる その後ろには西園寺とトムの姿も確認できる。どうやら観光から帰ってきたようだ 「あらまぁ、こんな暑いトコで御苦労様ですなぁ…」 「HAHAHAHA。時を止めて放置してオブジェにするのデース」 「あきませんよ、兄さん。そないな事したら」 「HAHAHAHA。冗談デース。アメリカンジョークデース」 「全然アメリカンジョークじゃないッスよ」 他愛もない話をしていると、遠くから声が聞こえてきた 何人かの聖天が観光から帰って来たのだ 「じゃあデスメタル、部屋行っか」 『はい』 デスメタルは、ずっとこんな幸せな時間が続いてほしいと願った そして次郎は夕食のおかずが気になって仕方がなかった クリムゾンブロウ曰く「パクられた!自転車のロケットカウルと三段シート!」 ブラックパイソン曰く「自転車ってお前のママチャリの?マジかよ」 十六聖伝外伝 残光~三章後編~ 完

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