「四堂家物語―たまにあるこうけい―」

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「四堂家物語―たまにあるこうけい―」 部活の終わった夏は足早に帰路についていた。 そこで思いがけない姿――普段はもう帰宅しているはずの秋を見つけ足を止める。 「あれ? 今帰り?」 「ええ、少し生徒会が長引いちゃって」 「そっかそろそろ交代の時期だっけ」 「私は続投が決まっているようなものだから他の人の手伝いだったんだけどね」 一年生の頃から何かしら生徒会と縁がありそこに巻き込まれ続けている秋は苦笑を交えつつ応える。 そこに更に思いがけないもう一人の姿――学校が終われば即座に帰宅している冬の姿を見つける。 「冬、何やってるの?」 「ひゃぅっ?!」 背後から声を掛けられ思わず飛び上がる冬。 そして逃げ出す猫。 「あーごめん、猫と遊んでたんだ」 「……うん」 冬は悲しそうに俯く。 「ごめんごめん、ってあれ?」 更に思いがけ……ないわけでもなくとりあえずよく目にする、 例えば電柱の上だったり、例えば溝に嵌ってたり、例えば河で流されてたりする一応姉妹であるヴァルを見つける。 なにやらシャッターの閉まりかける肉屋を狙っているようだ。 「おーい」 「……」 「ヴァルー?」 「……」 全神経を集中させヴァルは肉屋を凝視し続ける。 そして肉屋の営業時間が終わり、店のおっちゃんが出てきたと同時にヴァルは走り出す。 「おっちゃん! 悪くなってそうな肉あったら安く売って!」 「……またお嬢ちゃんか」 おっちゃんは特に驚いた風もなくかどちらかと言えばあきれた様子で店の奥に入り肉の包みを持ってくる。 「ほら。あと、悪くなってそうな肉とかいわんでくれ。周りになんて思われるか分からんだろ」 「にしし、ありがと、おっちゃん」 「お嬢ちゃんの為にちゃんと肉とっておいてあげてるんだからそんな時間ぎりぎりになって取りにこなくてもいいだろ?」 常習の上におっちゃんは普通の肉を安く提供してくれてるようだ。 「いやーなんかこースリル?みたいなのがあってさ、なんとなくこれやったほうがご飯がおいしく食べれるんだよねー」 悪びれる様子もなく頭を掻きながらヴァルは応える。 「まあ、お嬢ちゃんの都合はよく分からんが一度は上質肉を定価で買っていってくれ」 「おう! 出世したら買いに来るさ!」 「……なんに出世したらだ?」 「ハマチ?」 「……せめてブリくらいにはなってくれ」 「了解!」 訳の分からないやり取りを終え、ヴァルは遠巻きに見ていた3人の存在にやっと気付く。 「やや! 春以外じゃないか!」 「いや、その呼び方はおかしいから」 「お肉買ったんだけどさ、そっちの献立決まってる? 無ければ一緒に食べようよ」 ヴァルは夏達の都合を無視して話を始める。 「……まあいいけど。秋と冬もいいよね?」 「私は構わないわ」 「……うん」 「よーしそれじゃーれっつごー!」 「あんたが仕切らない」 結局、音の外れたとても恥ずかしい鼻歌を鳴らすヴァルを先頭に四人の異母姉妹たちは四堂の家に到着した。 「あれ?」 「ん? どったの?」 「いや、電気……は点いてて当たり前なんだけど声が……」 確かに家の中からは楽しげに笑う春とそれ以外の誰か別の声が聞こえる。 それも小さな女の子の声だ。 「……嫌な予感がする人、挙手」 ノ ノ ノ 満場一致であったそうな。 例えば動物の類なら許容しよう。 例えば霊獣の類ならよしとしよう。 例えば神獣の類ならば頭を下げよう。 例えば魔獣の類なら問答無用である。 だが、それが人間の子供とあっては話は別である。 「くぉぉぉらぁ春姉ぇぇぇぇぇ!!!!!」 夏は怒号と共に扉を破壊せんばかりの勢いで開ける。 「あ、おかえり。ほらほら、新しい家族だよ!」 怒号など意にも介さず春は膝に乗せた少女を四人に紹介する。 少女を一瞥して夏は笑顔で話しかける。 「……お嬢ちゃん、ごめんね、ちょっとだけあっちのお部屋の方に行っててくれる?」 コクリと頷き少女は隣の部屋に移る。 「春姉?」 「どうしたの?」 「どこで拾っ……誘拐してきたの?」 「誘拐じゃないよー。私達の家族だよー」 春は珍しくぷんぷんと怒りながら反論する。 「……もしかしてお父さん絡み?」 「パーパならありえるよねー」 横でヴァルがケラケラと笑う。 「まああの容姿だったら私も……」 夏は思わず秋を見るが秋は即座に目を逸らす。 「……」 冬は冬でよくない想像をしているようだった。 「みんなが帰ってくるのをお話しながら待ってたんだよ。 なんだかお手紙預かっててそれを読んで欲しいらしいんだけど……」 「読んでないの?」 「うん。私じゃなくて夏たちに読むように言われてたみたいなの」 「……?」 要領を得ない夏は隣室に居た少女を呼び戻す。 「えっと、こんにちは」 「こんにちは」 さっきは夏の剣幕に驚いていたのか見掛けの年よりもはっきりと挨拶の出来る利発そうな少女だった。 「さっきはごめんね」 「いいえ、大丈夫です」 「それでなんかお手紙預かってるって聞いたんだけど」 「はい。マ……春風さんを除いたみなさん全員への一通と、それぞれ皆さんへ向けて一通ずつ預かっています」 「どれどれ?」 封筒にはただ『四堂の血に連なる者たちへ』とのみかかれていた。 『最初に無礼を承知でこの手紙が君達四人に届いたことが前提で話を進めさせてもらう。 はじめまして、と言うのがこの場合適切なものかどうかは後述するとして はじめまして、四堂のご息女たち。 突然の手紙をお許し願いたい。 どこから話をしていいか分からないので要点と経緯だけを書こうと思う。 まず、君達が手紙を受け取った少女を守って欲しい。 彼女は君達の血縁であり四堂と六道の正統なる継承者であり、それ以上に特異な存在でもある。 それ故に幼き日より命を狙われ平穏な生活を送ることが出来なった。 しかし、私は彼女に平穏で幸福な日々を過ごして欲しいと願い、一つの結論に至った。 それは誰も手が出せない場所へ「今ではないいつか」へ移すことだった。 そして私は五人の協力者と共に禁忌の術を実行した。 結果は……手紙が届いているのなら成功したのだろう。 最後になったが彼女の名を朔夜と言う。 私と、私の妻、春風の娘であり、君達には姪に当たる存在だ。 勝手な願いですまない。 しかし、出来ることなら彼女を、娘を妻の傍においてやって欲しい。 そして平穏日々をすごさせてあげて欲しい。 幾度と無く勝手な願いをしてすまない。 しかし私はただそれだけを君達に願う。』 「……」 「……」 「……」 「……」 四人が一様に沈黙する。 「冗談……だよね?」 沈黙を破った夏が姉妹達に同意を求めが三者三様に思いを巡らせている最中だった。 「時間転移? 出来たとしてもそれを狙った時間と場所に正確に送り込めるなんて……」 秋は可能性としての話を必死で模索していた。 「んん? 妾腹の私の場合、何親等になるんだろ?」 お前は少し黙れ。 「春お姉ちゃん……小さい春お姉ちゃん……」 冬は鼻血を拭け。 「なんて書いてあったの?」 目を輝かせながら春がみんなに尋ねる。 「ちょ、ちょっと待ってね」 夏は慌てて手紙を後ろ手に隠し、少女――朔夜を近くに寄せ耳元で尋ねる。 「……これって本当?」 「はい」 「……これ以外に証明出来る物ってある?」 「えっと、はい、皆さんから手紙を預かってきています」 「あ、さっき言ってたやつ?」 「はい」 そういって朔夜は4通の手紙を出す。 「……」 「……」 「……」 「……」 『拝啓、私ってなんか変だね 取りあえず私は未来のあなたで、あなたは過去の私ってことなんだけど、 なんか考えるのめんどくさいんで私とあなただけの秘密でそれを証明したいと思う。 風呂の時におっぱい揉んでも意味ないぞ。 学生の頃から全然成長して無いから。 理解してくれたなら朔を頼むね私』 夏はあらゆる意味で打ちひしがれ呆然と立ち尽くす。 『私から私へお手紙差し上げます 私があなたであり、あながた私である証明と言うのは難しいので 私とあなたにしか分からないことを一つだけ書こうと思います。 でもそれだと調べれば出てきそうなものもあるので少しだけ未来の出来事を書こうと思います。 もし外れたら私はあなたではないと言うことになりますね。 ですから心して読んで、そして考えてください。 あなたが今描いている同人誌の○○×○○のカプは無理。 今度の放映見れば分かります。 見たら現実と向き合ってください。 そして現実と向き合ったなら朔のことをよろしくお願いします。』 秋は色んな意味で打ちひしがれ呆然と立ち尽くす。 『お手紙書くね。 2丁目のクロは今度子供が生まれるよ。 5丁目のタロとムクはもうすぐ事故に合っちゃうから助けてあげて。 あとねヴァルお姉ちゃんのアパートのタマも今度ママになるの。 それと、定食屋さんの三毛のゴローがアームロック覚えるからこれは必見だよ。 もうすぐだと思うけど春お姉ちゃんの物凄い姿が』 ここから先の文章は鼻血で真っ赤に染まって読めなかった。 冬は光悦とした表情で鼻血を垂れ流しながら立ち尽くす。 『やぁ! 私! よく分かんないけど未来からお手紙書いてるんだよ! すっごいよね! それで何書いていいか分からないから大事なことだけ書くね! ちゃんとご飯を食べて体に気をつけてね! あと、朔夜ちゃんのことよろしくね!』 「了解!」 ヴァルはよく分からないが何かしら通じ合って一人敬礼をしている。 少し静かにしろ。 「あの……」 四人の姿を見て朔はおずおずと話しかける。 「ん、ちょっと頭の中身を整理するから待ってね」 夏は三人を集めて家族会議を始める。 「信じるに足る確信がある人は? 私は一応だけどあったんだけど」 夏は語尾を濁しながら三人に尋ねる。 「……私は保留。でも私の秘密を知っているから一応、信に足るものはあると思うわ」 秋はやや呆然としながら応える。 「……うへへ」 「……あんたは良いわ」 鼻血出す冬を夏は放置する。 「私からの手紙だって! すっごいねーいつ書いたんだろ?」 やっぱりお前は少し黙れ。 「ちょっとこっち来て」 「はい」 「とりあえず話は分かったわ。色々悔しいけど少なくとも私には信じる理由があるし他のみんなもあるみたい。で」 「はい?」 「あなたは春姉の子供なのよね?」 夏は朔に顔を近づけて小声で尋ねる。 「はい」 「顔はそっくりだけど、その、性格とか全然違うんだけど……」 「みなさんは父に似たとおっしゃってます」 「……お父さん……ていうか春姉の旦那? どんな人か興味あるんだけど話して貰える?」 「あ、それは未来が変わる可能性があるからなるべくなら話さないようにと父が」 「あーやっぱりそうか」 「それと結末が分かっていても過程さえ知らなければ物事は楽しむことも出来る、とも言ってました」 「おぼろげだけど人となりはなんとなく分かったわ」 春と付き合うどころか子供を設けるほどなんだからそれはそれで変な人物なのだろうと夏は結論付けた。 「でもあなたが狙われてたなら春姉とか絶好の人質だったんじゃない? 人海戦術で来られると私達もどうしようもないし」 「一度だけあったんですけど……」 「あったんだ……」 「その、狙った人は物凄く強くて有名で、ママを人質にしようとして何があったかは知らないんですけど、 真昼間のオフィス街をその、裸で走り回される羽目になって廃業しちゃったんです」 「なにやったのようちの姉は……」 呆れ顔で夏はため息をつく。 「それ以来、元々ママには手を出していなかった人たちも完全にママからは手を引いて私だけに狙いを絞ってきたんです」 「……なんというか狙うも涙、狙われるも涙のお話ね」 「すみません……」 朔は申し訳なさそうに頭を下げる。 「あ、朔夜ちゃんのせいじゃないんだから私もごめんね」 夏は慌てて謝る。 「それで一応、春姉には黙ってたほうがいいのかな?」 「えっと、はい。その、ママは今でも……未来でもこっち側のことは全然で……」 「でもタイムスリップしてきたとか言えば本気で信じる人よ?」 「やっぱり昔から変わってないんですね」 「というか未来でもそんなんなのね……」 「はい」 夏と朔は困ったようで嬉しそうに微笑んだ。 「んで、春姉」 「はい!」 出番は今かと待ち望んでいた春が元気良く手を挙げる。 「取りあえずうちの家族であることは証明されました」 「だから最初から言ってたじゃない!」 怒っているのか喜んでいるのか恐らく後者の表情で春が応える。 「それで当面なんだけど、うちで暮らすことにしてもらって」 「うんうん!」 「あーそだ、年離れてるし、春姉のことママって呼んじゃってもいいよ?」 夏が気を利かせて朔夜を見る。 「えっと、でも……」 「私はいいよ! この年でママかー。お姉ちゃん照れちゃうなー」 本当に照れているのか髪を弄りながら春が応える。 「じゃ、じゃあ、その……」 「うんうん!」 「マ…マ……」 「ほら、もっと元気な声で」 少し楽しげに夏が捲くし立てる。 「ママ!」 「えへへ、なんか面と向かって呼ばれちゃうとちょっと恥ずかしいね」 「は、はい……」 珍しく春が赤面し、朔夜もまた俯いて赤面する。 「それじゃヴァルが持ってきた肉もあるし即席だけど歓迎会でもしよっか」 「そうね」 「了解」 「うん」 「私は何をお手伝いすればいいかな?」 「んー春姉は朔ちゃんの相手してあげてて。家の中は……簡単な飾りつけとかするから庭のほうとか色々見せてあげて」 「了解! がんばってくるね!」 「いや、そこは力抜いていいから」 「それじゃ朔夜ちゃん行こっか」 「……はい」 差し伸べられた手を握り二人は月の照らす外へと消えていった。 「四堂家物語―たまにあるこうけい―」 了

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