Works.1 『雨と霧』

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Works.1 『雨と霧』」(2008/11/25 (火) 22:06:15) の最新版変更点

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「おい、そこの学生」 明楽いっけいは突然後ろから声をかけられた 何者かと思い腰に装備している水筒に手をかけながら振り返るが、そこには誰もいなかった 「こっちだ。こっち」 その声でいっけいは声の主が後ろではなく「上方」にいるとわかった 警戒しながら上を見上げると、そこには電柱の上に男が立っていた (なんだこの人……なんであんなとこにたってるんだ?) 「……誰ですか、あなた」 「うむ、、当然だが、これから貴様にある質問をする。答えろ」 「はあ?」 「もし、自分に役不足な仕事を命じられたらどうする?」 「役不足…ですか?」 「そう、役不足だ。最近よく逆の意味で使われるが、正しい意味は役者に対して役が不足であることを指す言葉。つまり、与えられた役目が軽すぎることを表す。 そんな仕事を命じられたら、どうする?特に、「ガキの相手」を命じられたりしたら」 「ガキ……」 「そうだ。大した実力もないくせ親の功績で重役に就いているようなガキだ。そんなのの相手をしてこいと言われたら、早く済ませて帰りたいと思うだろう?誰だってそー思う。俺だってそー思う」 「………」 いっけいは電柱の上の男を「敵」と判断した 正体も、目的も、なぜこんなことをペラペラと喋っているのかもわからない ただ、男が自分にとって敵であることだけは確かだ 「ところで学生、さっきから気にならないか?」 「……何がですか」 まず、いっけいは水筒(最新式のキャップユニットタイプでワンタッチで開閉が可能。ロック機構付きで漏れもなく安心)の中の血に法術を流す 「おれが『なぜこんなところに立っているのか』、だ」 「さあ?バカとナントカは高いとこ登りたがるって言いますから、そうなんじゃないですか?」 (『揺(ロック)』) 次に、自らの血流に法術を流した。反応速度を高めるためだ 「月並みな答えだな。面白味に欠ける」 「…すいませんね」 電柱の上の男から殺気が放たれる 「正解は…」 (!!…来るか!) 「『これ』だ」 次の瞬間、男の体から無数の投射物が放たれた いっけいは『揺(ロック)』で強化した反応速度で後方に跳躍する しかし、すぐに避けられないと悟る 無数…そう、投射物はまさしく無数に放たれた━━━━━━━━━━━━空を覆いつくすほどに。 (くそっ、避けられないのなら!!) いっけいは腰に装備している水筒を開け、『法術』を流した血を放つ 放たれた血は霧となり拡散した 「『紅の螺旋(レッド・ツェッペリン)』!!!!」 そして直後、無数の槍が大地を貫いた 「……最後に何か悪あがきをしたようだが、あの距離では避けられまい」 投射物、ロンギヌスの槍の雨がいっけいに命中する直前、いっけいが放った「赤い霧」 そのせいで電柱の上の男、ロンギヌス・カトウはいっけいの死亡を確認できないでいた 「死体を確認したいところだが…」 あの「赤い霧」の中に入るのはよろしくない 本体が既に死亡していたとしても、自動的に発動する罠の可能性がある そもそも、本体、明楽いっけいが生き延びている可能性も無きにしも非ずだ 「試してみるか」 カトウは霧に向けて槍を一本発射した 発射された槍は霧の中に吸い込まれるように消えそのまま… (音沙汰なし、か。どうやら槍を打ち込んでも何かが「作動」したりすることはないようだな。 さて、どうしたものか。風系能力者でもいれば楽だったのだがな………?) カトウは霧をどうやって除けるか思案していたが、ふと霧に違和感を覚えた 「……こちらに近づいてくるだと?」 一瞬風の影響とも思ったが、風は間違いなく霧に向かって吹いている つまり、霧は『風に逆らっている』のだ 霧は確実にカトウが立つ電柱に近づいてくる そして、霧の最後尾が、最後にいっけいが立っていた地点を通過する そこに死体はなかった 「…決まりだな。本体は『生きている』」 カトウはもう一度、今度は赤い霧に向けて槍の雨を放つ 本体が霧の中に潜んでいるのなら、ひとたまりもないだろう しかし、霧の進行は止まらない 「………」 (本体はあそこにいない?) 霧はカトウが立つ電柱に到達する 「このままここにいるのはまずい、な」 カトウは左方の民家の屋根の上に飛び移ろうと跳躍した その時、まるでその動きに反応するかのように赤い霧から槍が打ち出される 「なに!?」 いや、槍というにはいささかお粗末だ 「槍状の固められた結晶」と言うほうがいいだろう それがカトウに向かって飛来する 「南無三!!」 カトウは咄嗟に空中でロンギヌスを放ち、それを撃ち落とした カトウは体制を崩しながらも民家の屋根上に着地する カトウは考える (二度目の槍の斉射で効果が得られなかったのは、既に本体が赤い霧の外にいたからだろう。それで説明がつく。 しかし、初撃…一度目の槍の斉射は避けられなかったはずだ……アレをどうやって生き延びた?その方法だけは解らんが……) 「どうやら、明楽いっけいはこのまま「赤い霧」で俺を仕留めるつもりらしいな」 霧は既に屋根の上まで這い上がって来ていた そして今度こそ、カトウを完全に包囲する 「……なめられたものだな、俺も。こんな小細工で仕留められると思うのか?」 もし、今度は全方位から先程のような投射物が放たれたとしても、カトウはそれを防げる確信があった ロンギヌス・カトウは体から無限の槍を生み出すことができる 放たれた投射物と同数の槍を寸分の狂いもなく同じ個所に放ち、落ち落とせばいい。カトウにはそれが可能だった。 (あの投射物はおそらく霧を変換したものだ。ならば、あれを発射すればするほど、霧が薄まっていくということ。 それは俺にとって好都合。さあ…撃って来い明楽いっけい。) しかし、放たれたものはカトウが予測していたものではなかった ━━さっきの質問に答えてやる 「!?」 霧の効果なのか、声が反響してどの方向から発しているのかわからない だが、この声は間違いなく明楽いっけいのものだ (話しかけてきただと……?) ━━もし俺が役不足な仕事を命じられたどうするか……答えは「別に何も考えずその仕事をこなす」、だ 「……ほう」 (本体は近くにいるということか?いや、そう思わせるフェイクとも…) ━━いいか、「仕事を任せる」っていうことは「そいつにそれだけのことができると『信頼する』」ってことだ ━━そして「仕事をこなす」っていうのは「その『信頼に答える』」ってことだ ━━だから、仕事の時は「早く終わらせて帰ろう」みたいな考えは持つな ━━相手が親の七光りに頼っているようなガキでもな 「……貴様の言うとおりだな。おかげでこのザマだよ。俺の前に現れてくれるのなら、今度は本気で貴様を殺しにかかろう」 (この声がどこから聞こえるのかはわからない。だが、全方位に向けて発射すれば…) しかし、カトウの算段は徒労に終わる ━━ああ、そうこなくちゃな。『仕事』は大事だ ━━『人生は働いて寝ること』の繰り返し。人は『信頼に応える』ことで生きていく ━━俺がアンタを倒すのも、殺されかけたからじゃない。俺の『仕事』だからだ。十六聖天裏六位のな ━━俺は、信頼に応えるよ ━━『王の赤(キングクリムゾン)』!! 霧が晴れる。いや、一カ所に収束していく。 その収束していく地点に、明楽いっけいは立っていた。 いっけいの右手には、身の程もある深紅の大剣を手にしている (自分から姿を現しただと……) カトウは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻し状況を分析する そしてずっと疑問に思っていたことの答えを見つけた (なるほど。初撃の槍の斉射をどうやって避けたのかと思ったが、得心がいった) いっけいは『避けなかったのだ』 彼の右上腕部と左わき腹には槍が貫通した跡と思われる穴が開いていた。右腕には感覚がなく、動かすことができない その傷口は凝固した血液でコーティングされている。血闘術で血を固めたものだ しかし、あくまで無理やり『止血しただけ』にすぎない 傷が癒えたわけではないのだ 早く適切な治療を行わなければ危険だ 「既に半死半生だな。俺がトドメを指すまでもないんじゃないか?」 「ああ、かもなぁ。だが、『仕事はこなす』」 両者の距離は約3m、カトウは思案する (おそらくこの男は、『最初から』俺にあの剣で接近戦を仕掛けるために行動していたと考えられる。「赤い霧」も全てこのための布石……ならば!!) 先に動いたのはカトウだった カトウは上空に向けロンギヌスを発射した 一瞬だが、いっけいはそれを目で追ってしまう そしてその隙を突くかのようにカトウはいっけいに向け槍の斉射を放つ いっけいはキングクリムゾンを盾のように構え槍の斉射をやり過ごそうとする しかし、キングクリムゾンはあくまで剣なのだ 槍の斉射を防ぎきることはできず、槍がいっけいの右足を掠る 「ぐっ!」 いっけいは痛みで体制を崩しかけるがなんとか持ち直す だがその時、既にカトウは一本のロンギヌスを手に身を低く屈め、いっけいの足元にまで迫って来ていた そして上に突き上げる形でいっけいの心臓を貫こうとする だが、ロンギヌスの先には既にキングクリムゾンがあった 金属音が鳴り響き、火花が散る いっけいはカトウのロンギヌスを払いのけ、そのままカトウの体を両断するべくキングクリムゾンを水平に凪いだ だが既にそこにカトウの体はなかった いっけいがキングクリムゾンを凪ぐよりも一瞬速く飛びあがり、そのままいっけいの上空を回転しながら飛び越した カトウはいっけいと背中合わせになるように着地する。その時には既にロンギヌスがいっけいの背中に伸びていた 再び、金属音が鳴り響き、火花が散る 振り向きざまに放たれたロンギヌスはまたしてもキングクリムゾンに受け止められる いっけいは体を回転させながら、今度こそカトウを一刀両断するべくキングクリゾンを凪ぐ 三度、金属音が鳴り響いた 火花が散り、お互いが弾かれ合うに距離を取る いっけいは地面を強く蹴り、カトウに突貫しながらロンギヌスを凪ぐ それに対しカトウは地面を強く蹴り、『大きく後ろに跳躍した』 結果、いっけいの一撃は空を切ることとなった そしてカトウは思う ━━━━勝った カトウは待っていたのだ 先刻上空に放った槍が雨となり落下してくるのを そのためにいっけいの本命が接近戦と気付いていながらも、いっけいを槍の落下地点に足止めするため、あえて接近戦を挑んだのだ しかし、カトウがこの時を待っていたように、いっけいもまた待っていたのだ カトウが自分と『距離を空けるのを』 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」 いっけいはカトウに向け、キングキムゾンを投げ捨てる しかし、キングクリムゾンがカトウに命中するよりも速く、槍の雨がいっけいを貫いた カトウは最後の仕上げにいっけいが投げ捨てたキングクリムゾンを払い落そうとするが… キングリムゾンは『命中しなかった』 カトウに命中する直前、キングクリムゾンは霧となり拡散した そしてその「赤い霧」はカトウを包みこむ 「な、これは…」 いっけいは生きていた 槍の雨に直前で気付き、急所に当たるのを避け、即死をまのがれたのだ そして半死半生の体でいっけいはたった一言だけ、言葉を発する 「レ……ド…ツェッ…ペリン」 次の瞬間、カトウを纏う赤い霧の一部が槍となり、カトウの腹に風穴を空けた 「があ!…あ!…こ、これは…」 次の霧がカトウの左目を貫く 次は右足を、その次は右腕を、次は左足を、次は落ちた右手を貫く 「がああああああああああああ!!」 カトウは激痛の中でこれがいっけいによる攻撃だと理解した そして、いっけいを完全に仕留めるために左手に持つロンギヌスを投げようとする 次の瞬間、霧がカトウの左腕を貫いた カトウの左手はロンギヌスを持ったまま落下した そして霧はさらにカトウの躰を『貫き始めた』 赤い霧が晴れるころには、カトウの痕跡は一本の槍しか残っていなかった そしてその槍も自ら塵となり何処へと消えうせた 「……言った…だろう……『仕事はこなす』…てよ」 いっけいの意識はそこで途切れた 「ストーリーテラー、カトウを回収したぞ」 十大聖天No6 キラーの腕には塵と化したはずのロンギヌスが握られていた ≪御苦労、明楽いっけいのほうは?≫ 「虫の息だが生きてはいるな」 ≪ならばトドメを≫ 「…いや、だめだな」 ≪なっ、キラー、貴様また…≫ 「違うな。いつもの気まぐれじゃあない。今あいつに近づくのはまずい」 ≪…?どういう…≫ 「カトウは回収した。足止めも十分。俺はもう帰るぞ」 そういうとキラーは何処かへと消えた 混濁した意識の中でいっけいは思う 親の七光りに頼っているガキか…… それは紛れもない事実だ 父さんが十六聖天の任務で死亡した時、空席になった裏六位 俺はどうしてもそれを継ぎたかった 母さんは最初は反対した 俺まで失ってしまうと思ったのだろう 泣きながら俺を説得しようとする母さんを俺は逆に説得した 絶対に死なないから、と 父さんの代わりに俺が母さんを守りいたいんだ、と 最後には母さんは納得してくれた だが、最後まで母さんは泣いていた… その後、一位のトムさんや、メカシバイに頭を下げて父さんの跡を継がせてくれと頼んだ そこでも俺は反対された しかし、二人よりも「上」の存在から鶴の人声がかかり、俺にチャンスが与えられた ある「仕事」をこなすことができれば、俺に裏六位の地位が与えられるらしい その仕事の内容は、GUNMAから渋谷に進行している黒い三連星の撃退というものであった 俺は全身全霊で挑んだ。「信頼に応えよう」とした だが、結局はできなかった 渋谷は黒い三連星の手に落ちた 後から知ったのだが、「上」が俺にチャンスを与えた理由は「面白そうだから」というものだった ボロボロになった俺を回収してくれたのはクリムゾンブロウとバラックパイソンという聖天だった 俺は病院のベッドで「きっと裏六位の地位は継げないだろうな」と思った 「仕事」をこなせなかったのだ。信頼に応えられなかったのだ だが、驚いたことに俺は裏六位の地位を与えられた 俺を助けてくれたブロウとパイソンが「上」に口添えしてくれたらしい 俺は裏六位 明楽いっけいとなった そして、誓った 俺を裏六位に推薦してくれたブロウとパイソンの信頼に応えると 涙を流しながらも、俺を信じてくれた母さんの信頼に応えると そして、俺に母さんを任せてしんでいった父さんの信頼に応えると そう誓ったのだ でも…こんなザマじゃあよ……またブロウと…パイソンに……笑われちまう…な… いっけいの意識はまどろみの中に消えていった クリムゾンブロウ曰く「ティエ子でオナニーしちまった」 ブラックパイソン曰く「むしろご褒美」 Works.1 『雨と霧』終
「おい、そこの学生」 突然後方から声をかけられる 何者か、と思い腰に装備している水筒のボタンに手をかけながら振り向くが、そこには誰もいなかった 「こっちだ、こっち」 二度声をかけられたことで声の主は後方ではなく「上」にいると気づいた。 見上げると、電柱の上に一人の男が立っていた (なんだこの人……なんであんなとこにたってるんだ?) 「……誰ですか、あなた」 「うむ、、当然だが、これから貴様にある質問をする。答えろ」 「はあ?」 「もし、自分に役不足な仕事を命じられたらどうする?」 「役不足…ですか?」 「そう、役不足だ。最近よく逆の意味で使われるが、正しい意味は役者に対して役が不足であることを指す言葉。つまり、与えられた役目が軽すぎることを表す。 そんな仕事を命じられたら、どうする?特に、「ガキの相手」を命じられたりしたら」 「ガキ……」 「そうだ。大した実力もないくせ親の功績で重役に就いているようなガキだ。そんなのの相手をしてこいと言われたら、早く済ませて帰りたいと思うだろう?誰だってそー思う。俺だってそー思う」 「………」 いっけいは電柱の上の男を「敵」と判断した 正体も、目的も、なぜこんなことをペラペラと喋っているのかもわからない ただ、男が自分にとって敵であることだけは確かだ 「ところで学生、さっきから気にならないか?」 「……何がですか」 まず、いっけいは水筒(最新式のキャップユニットタイプでワンタッチで開閉が可能。ロック機構付きで漏れもなく安心)の中の血に法術を流す 「おれが『なぜこんなところに立っているのか』、だ」 「さあ?バカとナントカは高いとこ登りたがるって言いますから、そうなんじゃないですか?」 (『揺(ロック)』) 次に、自らの血流に法術を流した。反応速度を高めるためだ 「月並みな答えだな。面白味に欠ける」 「…すいませんね」 電柱の上の男から殺気が放たれる 「正解は…」 (!!…来るか!) 「『これ』だ」 次の瞬間、男の体から無数の投射物が放たれた いっけいは『揺(ロック)』で強化した反応速度で後方に跳躍する しかし、すぐに避けられないと悟る 無数…そう、投射物はまさしく無数に放たれた━━━━━━━━━━━━空を覆いつくすほどに。 (くそっ、避けられないのなら!!) いっけいは腰に装備している水筒を開け、『法術』を流した血を放つ 放たれた血は霧となり拡散した 「『紅の螺旋(レッド・ツェッペリン)』!!!!」 そして直後、無数の槍が大地を貫いた 「……最後に何か悪あがきをしたようだが、あの距離では避けられまい」 投射物、ロンギヌスの槍の雨がいっけいに命中する直前、いっけいが放った「赤い霧」 そのせいで電柱の上の男、ロンギヌス・カトウはいっけいの死亡を確認できないでいた 「死体を確認したいところだが…」 あの「赤い霧」の中に入るのはよろしくない 本体が既に死亡していたとしても、自動的に発動する罠の可能性がある そもそも、本体、明楽いっけいが生き延びている可能性も無きにしも非ずだ 「試してみるか」 カトウは霧に向けて槍を一本発射した 発射された槍は霧の中に吸い込まれるように消えそのまま… (音沙汰なし、か。どうやら槍を打ち込んでも何かが「作動」したりすることはないようだな。 さて、どうしたものか。風系能力者でもいれば楽だったのだがな………?) カトウは霧をどうやって除けるか思案していたが、ふと霧に違和感を覚えた 「……こちらに近づいてくるだと?」 一瞬風の影響とも思ったが、風は間違いなく霧に向かって吹いている つまり、霧は『風に逆らっている』のだ 霧は確実にカトウが立つ電柱に近づいてくる そして、霧の最後尾が、最後にいっけいが立っていた地点を通過する そこに死体はなかった 「…決まりだな。本体は『生きている』」 カトウはもう一度、今度は赤い霧に向けて槍の雨を放つ 本体が霧の中に潜んでいるのなら、ひとたまりもないだろう しかし、霧の進行は止まらない 「………」 (本体はあそこにいない?) 霧はカトウが立つ電柱に到達する 「このままここにいるのはまずい、な」 カトウは左方の民家の屋根の上に飛び移ろうと跳躍した その時、まるでその動きに反応するかのように赤い霧から槍が打ち出される 「なに!?」 いや、槍というにはいささかお粗末だ 「槍状の固められた結晶」と言うほうがいいだろう それがカトウに向かって飛来する 「南無三!!」 カトウは咄嗟に空中でロンギヌスを放ち、それを撃ち落とした カトウは体制を崩しながらも民家の屋根上に着地する カトウは考える (二度目の槍の斉射で効果が得られなかったのは、既に本体が赤い霧の外にいたからだろう。それで説明がつく。 しかし、初撃…一度目の槍の斉射は避けられなかったはずだ……アレをどうやって生き延びた?その方法だけは解らんが……) 「どうやら、明楽いっけいはこのまま「赤い霧」で俺を仕留めるつもりらしいな」 霧は既に屋根の上まで這い上がって来ていた そして今度こそ、カトウを完全に包囲する 「……なめられたものだな、俺も。こんな小細工で仕留められると思うのか?」 もし、今度は全方位から先程のような投射物が放たれたとしても、カトウはそれを防げる確信があった ロンギヌス・カトウは体から無限の槍を生み出すことができる 放たれた投射物と同数の槍を寸分の狂いもなく同じ個所に放ち、落ち落とせばいい。カトウにはそれが可能だった。 (あの投射物はおそらく霧を変換したものだ。ならば、あれを発射すればするほど、霧が薄まっていくということ。 それは俺にとって好都合。さあ…撃って来い明楽いっけい。) しかし、放たれたものはカトウが予測していたものではなかった ━━さっきの質問に答えてやる 「!?」 霧の効果なのか、声が反響してどの方向から発しているのかわからない だが、この声は間違いなく明楽いっけいのものだ (話しかけてきただと……?) ━━もし俺が役不足な仕事を命じられたどうするか……答えは「別に何も考えずその仕事をこなす」、だ 「……ほう」 (本体は近くにいるということか?いや、そう思わせるフェイクとも…) ━━いいか、「仕事を任せる」っていうことは「そいつにそれだけのことができると『信頼する』」ってことだ ━━そして「仕事をこなす」っていうのは「その『信頼に答える』」ってことだ ━━だから、仕事の時は「早く終わらせて帰ろう」みたいな考えは持つな ━━相手が親の七光りに頼っているようなガキでもな 「……貴様の言うとおりだな。おかげでこのザマだよ。俺の前に現れてくれるのなら、今度は本気で貴様を殺しにかかろう」 (この声がどこから聞こえるのかはわからない。だが、全方位に向けて発射すれば…) しかし、カトウの算段は徒労に終わる ━━ああ、そうこなくちゃな。『仕事』は大事だ ━━『人生は働いて寝ること』の繰り返し。人は『信頼に応える』ことで生きていく ━━俺がアンタを倒すのも、殺されかけたからじゃない。俺の『仕事』だからだ。十六聖天裏六位のな ━━俺は、信頼に応えるよ ━━『王の赤(キングクリムゾン)』!! 霧が晴れる。いや、一カ所に収束していく。 その収束していく地点に、明楽いっけいは立っていた。 いっけいの右手には、身の程もある深紅の大剣を手にしている (自分から姿を現しただと……) カトウは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻し状況を分析する そしてずっと疑問に思っていたことの答えを見つけた (なるほど。初撃の槍の斉射をどうやって避けたのかと思ったが、得心がいった) いっけいは『避けなかったのだ』 彼の右上腕部と左わき腹には槍が貫通した跡と思われる穴が開いていた。右腕には感覚がなく、動かすことができない その傷口は凝固した血液でコーティングされている。血闘術で血を固めたものだ しかし、あくまで無理やり『止血しただけ』にすぎない 傷が癒えたわけではないのだ 早く適切な治療を行わなければ危険だ 「既に半死半生だな。俺がトドメを指すまでもないんじゃないか?」 「ああ、かもなぁ。だが、『仕事はこなす』」 両者の距離は約3m、カトウは思案する (おそらくこの男は、『最初から』俺にあの剣で接近戦を仕掛けるために行動していたと考えられる。「赤い霧」も全てこのための布石……ならば!!) 先に動いたのはカトウだった カトウは上空に向けロンギヌスを発射した 一瞬だが、いっけいはそれを目で追ってしまう そしてその隙を突くかのようにカトウはいっけいに向け槍の斉射を放つ いっけいはキングクリムゾンを盾のように構え槍の斉射をやり過ごそうとする しかし、キングクリムゾンはあくまで剣なのだ 槍の斉射を防ぎきることはできず、槍がいっけいの右足を掠る 「ぐっ!」 いっけいは痛みで体制を崩しかけるがなんとか持ち直す だがその時、既にカトウは一本のロンギヌスを手に身を低く屈め、いっけいの足元にまで迫って来ていた そして上に突き上げる形でいっけいの心臓を貫こうとする だが、ロンギヌスの先には既にキングクリムゾンがあった 金属音が鳴り響き、火花が散る いっけいはカトウのロンギヌスを払いのけ、そのままカトウの体を両断するべくキングクリムゾンを水平に凪いだ だが既にそこにカトウの体はなかった いっけいがキングクリムゾンを凪ぐよりも一瞬速く飛びあがり、そのままいっけいの上空を回転しながら飛び越した カトウはいっけいと背中合わせになるように着地する。その時には既にロンギヌスがいっけいの背中に伸びていた 再び、金属音が鳴り響き、火花が散る 振り向きざまに放たれたロンギヌスはまたしてもキングクリムゾンに受け止められる いっけいは体を回転させながら、今度こそカトウを一刀両断するべくキングクリゾンを凪ぐ 三度、金属音が鳴り響いた 火花が散り、お互いが弾かれ合うに距離を取る いっけいは地面を強く蹴り、カトウに突貫しながらロンギヌスを凪ぐ それに対しカトウは地面を強く蹴り、『大きく後ろに跳躍した』 結果、いっけいの一撃は空を切ることとなった そしてカトウは思う ━━━━勝った カトウは待っていたのだ 先刻上空に放った槍が雨となり落下してくるのを そのためにいっけいの本命が接近戦と気付いていながらも、いっけいを槍の落下地点に足止めするため、あえて接近戦を挑んだのだ しかし、カトウがこの時を待っていたように、いっけいもまた待っていたのだ カトウが自分と『距離を空けるのを』 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」 いっけいはカトウに向け、キングキムゾンを投げ捨てる しかし、キングクリムゾンがカトウに命中するよりも速く、槍の雨がいっけいを貫いた カトウは最後の仕上げにいっけいが投げ捨てたキングクリムゾンを払い落そうとするが… キングリムゾンは『命中しなかった』 カトウに命中する直前、キングクリムゾンは霧となり拡散した そしてその「赤い霧」はカトウを包みこむ 「な、これは…」 いっけいは生きていた 槍の雨に直前で気付き、急所に当たるのを避け、即死をまのがれたのだ そして半死半生の体でいっけいはたった一言だけ、言葉を発する 「レ……ド…ツェッ…ペリン」 次の瞬間、カトウを纏う赤い霧の一部が槍となり、カトウの腹に風穴を空けた 「があ!…あ!…こ、これは…」 次の霧がカトウの左目を貫く 次は右足を、その次は右腕を、次は左足を、次は落ちた右手を貫く 「がああああああああああああ!!」 カトウは激痛の中でこれがいっけいによる攻撃だと理解した そして、いっけいを完全に仕留めるために左手に持つロンギヌスを投げようとする 次の瞬間、霧がカトウの左腕を貫いた カトウの左手はロンギヌスを持ったまま落下した そして霧はさらにカトウの躰を『貫き始めた』 赤い霧が晴れるころには、カトウの痕跡は一本の槍しか残っていなかった そしてその槍も自ら塵となり何処へと消えうせた 「……言った…だろう……『仕事はこなす』…てよ」 いっけいの意識はそこで途切れた 「ストーリーテラー、カトウを回収したぞ」 十大聖天No6 キラーの腕には塵と化したはずのロンギヌスが握られていた ≪御苦労、明楽いっけいのほうは?≫ 「虫の息だが生きてはいるな」 ≪ならばトドメを≫ 「…いや、だめだな」 ≪なっ、キラー、貴様また…≫ 「違うな。いつもの気まぐれじゃあない。今あいつに近づくのはまずい」 ≪…?どういう…≫ 「カトウは回収した。足止めも十分。俺はもう帰るぞ」 そういうとキラーは何処かへと消えた 混濁した意識の中でいっけいは思う 親の七光りに頼っているガキか…… それは紛れもない事実だ 父さんが十六聖天の任務で死亡した時、空席になった裏六位 俺はどうしてもそれを継ぎたかった 母さんは最初は反対した 俺まで失ってしまうと思ったのだろう 泣きながら俺を説得しようとする母さんを俺は逆に説得した 絶対に死なないから、と 父さんの代わりに俺が母さんを守りいたいんだ、と 最後には母さんは納得してくれた だが、最後まで母さんは泣いていた… その後、一位のトムさんや、メカシバイに頭を下げて父さんの跡を継がせてくれと頼んだ そこでも俺は反対された しかし、二人よりも「上」の存在から鶴の人声がかかり、俺にチャンスが与えられた ある「仕事」をこなすことができれば、俺に裏六位の地位が与えられるらしい その仕事の内容は、GUNMAから渋谷に進行している黒い三連星の撃退というものであった 俺は全身全霊で挑んだ。「信頼に応えよう」とした だが、結局はできなかった 渋谷は黒い三連星の手に落ちた 後から知ったのだが、「上」が俺にチャンスを与えた理由は「面白そうだから」というものだった ボロボロになった俺を回収してくれたのはクリムゾンブロウとバラックパイソンという聖天だった 俺は病院のベッドで「きっと裏六位の地位は継げないだろうな」と思った 「仕事」をこなせなかったのだ。信頼に応えられなかったのだ だが、驚いたことに俺は裏六位の地位を与えられた 俺を助けてくれたブロウとパイソンが「上」に口添えしてくれたらしい 俺は裏六位 明楽いっけいとなった そして、誓った 俺を裏六位に推薦してくれたブロウとパイソンの信頼に応えると 涙を流しながらも、俺を信じてくれた母さんの信頼に応えると そして、俺に母さんを任せてしんでいった父さんの信頼に応えると そう誓ったのだ でも…こんなザマじゃあよ……またブロウと…パイソンに……笑われちまう…な… いっけいの意識はまどろみの中に消えていった クリムゾンブロウ曰く「ティエ子でオナニーしちまった」 ブラックパイソン曰く「むしろご褒美」 Works.1 『雨と霧』終

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