十六聖天外伝 九州戦域の章

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―熊本 「こんな辛気臭い所にボクを寄こすなんて酷いと思わないかネ」 年齢は、外見から推測するに三十に差し掛かった辺りだろうか。薄汚れた白衣に身を包んだ痩せ気味の男が 自分の周りを囲む「暗黒躁魔17人衆」直属の兵士たちに向かって笑いながら呟く 「オヤオヤ。随分と無口なモンだネ。少し寂しいと感じるヨ」 「…全兵、抜刀!斬撃包囲陣!」 男を囲んだ兵隊たちが円陣を組みながら男に切りかかる だが、最初に男に切りかかった兵士の様子がおかしい 「キミは学生時代、人の話は最後まで聞けとか、無視するな、とか教わってなかったのかネ」 兵士は男に顔を掴まれ、宙吊りにされ足をバタつかせる 「では名乗ろう。ボクはヴェノムタイガー。裏十六聖天十一位のヴェノムタイガー」 男を囲んでいた兵士に動揺が走る。各部隊に連絡!十二徒への報告を急げ!そんな兵士たち怒声が周りに響く 「君たちの死の教師だ。さぁ授業を始めようじゃないカ」 「全滅!?全滅だというのか!精強で名の知れた後藤抜刀隊がが!?」 報告を受けてやってきた増援部隊は、その惨状を目のあたりにして叫んでいた 「オヤ。これは困ったね。ひぃ…ふぅ… 大体100、か。素手でやるには少し数が多いネ。これは胃もたれを起こしそうだヨ」 ヴェノムタイガーの白衣が不自然な盛り上がりを見せ、彼は大地に両手を密着させた プリエデイターヴェノム。侵食する毒の領域が彼に相対する機甲師団を飲み込み、蹂躙する 「プリエデイターヴェノムVar2.5。毒の獣にして我が分身、毒の領域。最高傑作だ。受け取ってくれたまえヨ」 圧倒的な死がそこに渦巻いていた。そんな死の領域を突っ切る巨大な影 次の瞬間、ヴェノムタイガーの上半身は消失していた 「あれはソニックシーカー!助かったぞ!高田様が来てくださった!」 ≪躁魔機ソニックシーカー参上…!これまでだ、十六聖天≫ 白い翼を携えた躁魔機が兵士たちに勝利と希望を携えて戦場に飛来した ≪各員、ここに十六聖天は倒れた。負傷兵を収容後阿蘇の合流ポイントにて戦線を立て直す≫ ≪…と、まぁ堅苦しいのはここまでだ。お前たち、よく持ちこたえてくれた≫ 「高田様万歳!暗黒躁魔17人衆万歳!」 本当に間に合ってよかった。将兵の模範にして希望であれ、そう教えられて育ててきた高田は胸をなで下ろす その直後だった。ソニックシーカーのハザードランプが、激しく点灯する 「なんだ!?どうしたソニックシーカー!?」 <機体損傷率30パーセント…40パーセント…ザ…ザザー…> 「どうしたというのだ…!?」 <機体損傷率60…70… 残念、詰みという奴だよキミ」 ソニックシーカーの人工知能の無機質な声が、突如男の声に変わる 「なんだ…?誰だお前は…!?」 「酷い人だねェ…。さっきキミに殺された男だよ」 「な…に…?」 その声と同時に高田は足元の床にぐにゃりとした感覚を感じた その声と同時に高田は足元の床にぐにゃりとした感覚を感じた コクピットの床が黒く変色し、隙間からドロドロとした液体が溢れ出る 「アウト、だ。キミはもう助からないヨ。ボクに触ったのがいけなかったネェ  言っただろう。プリエデイターヴェノムVar2.5は僕の分身だと。僕自身なんだよネェ」 プリエデイターヴェノムはあらゆるものを侵食し、喰らい、自身の一部と化す。例えそれが躁魔機であろうと、例外 はない 「あぁ、そうか。キミはあの時いなかったネェ。残念。まぁ先生も間違える事があるのだヨ」 コクピットに男の狂喜に満ちた笑い声が響く 高田の足に大量の水疱が出来、その水疱が破裂し、溶けた肉のようなものがドロドロと流れ出す 仲間に知らせなければ…高田は消えゆく意識の中、マグマみたいだな、と思った ソニックシーカーが黒く変色し、足からボロボロと崩れていく そして再び毒領域が広がろうとしていた 「ソニックシーカーが落ちる…」 「そんな…嘘でしょう!?」 「ちょっと待てよ!」 「何です?」 「あれは砲機神バルカン!ダ・スィラ様が来てくださった!」 その声とほぼ同時期ソニックシーカーに超高出力ビームが叩きつけられていた 後藤抜刀隊の報告を受け、ダ・スィラもこの地に向かっていたのだ ≪うろたえるな!高田の魂はお前たち共にある!取り乱さず戦線を維持し、阿蘇へ向かえ!≫ ≪うろたえるな!高田の魂はお前たち共にある!取り乱さず戦線を維持し、阿蘇へ向かえ!≫ 砲機神バルカンの操者、ダ・スィラは兵士たちを鼓舞して目標を追撃をかける ≪高田は最後の力を振り絞って通信スイッチを押していたのさ!ようはお前に触れなければいいんだろう!?≫ 超高出力ビームに焼かれながらヴェノムタイガーは慌てていた 「マズイ事になったネ…熱には弱いんだよボクは…」 既に再び展開していた領域の半分が焼失していた。毒の領域の唯一の弱点が熱攻撃である ある程度の熱には耐えれるとはいえ、ここまでの高出力ビームに耐えるほどの耐性はない ここで死ぬ訳にはいかない、そう思うのだがビームのあまりの出力と範囲には成すすべがない 狂人は声にならない声をあげた。銀髪の女に打たれた二人の友の仇を討つまで死ねないのだ。仇を討つまでは… ≪そぉれ!もう一息ィ!≫ 回転しながら踊るように高出力ビームを撃ち続けるバルカン。プリエデイターヴェノムの領域はもうあと少し 領域の消失は死を意味する ついにバルカンの標準が最後の領域を捕らえた だがおかしい。バルカンか一向にビームを放たないのだ それどころか、ゆっくりと地面に降下し始める 「…女子、悪く思うな。拙者は忍。敵に姿をおいそれと見せれんのでな」 バルカンの操縦桿を握ったままのダ・スィラの亡骸に向かって影が話しかける 彼の名は裏十六聖天八位、服部半蔵 それにしても、と思う。肉体の再構築を始めるヴェノムタイガー。彼は何処まで狂ってしまったのかと クリムゾンブロウ曰く「毎日健康にんにく卵黄」 ブラックパイソン曰く「今日もこんなに幸せいっぱい」 十六聖天外伝 ~九州戦域の章~ 完

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