AnotherWorldstories「幻灯機械1&2」


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冷たい冬の雨に打たれ、真新しい白の石碑が濡れ光る
墓前を飾る手向け花は、彼女たちが昔から好きだった紅白の薔薇
捧げられる鎮魂の言葉と啜り泣く声の中
彼は独り、未だ現実を受け入れられずに立ち尽くしていた

―――

――


「……て
……きてよ…郎」
「うぅん……も、もう出ないぜ婆さん……ムニャ」

「……?
……きろ、起き…って言ってるでしょ次……!」
「……花子にデス子、なんでお前達まで……ぐぅ……」

「……ら、さっきから何……けて……!?
いいから起き……郎!!」
「泣くなよアリスぅ……この次郎さんは四人までなら同時に……」
「――っっ!!
よ、よよよ四人同時なんて何するつもりよっ!?
この変態っ、スケベっ、性犯罪者ー!!」
膨れ上がる殺気……にも似た気がする小さな気配
何故か身体の真横から迫る軽やかな足音
不条理窮まる疾走音が跳躍音に変わった瞬間、彼は咄嗟に防御の構えを……
「くたばれ女の敵ぃ――!!!!」
「――ぐほぉっ!!」
……とれなかった
腹へと叩きつけられた衝撃に、被害者たる彼は咄嗟に跳び起き周囲を警戒
「きゃあっっ!?」
「な、何だ!?
いったい何が起きたんだ……?」
黒一色の視野が目映いまでの白に染まり、沈んでいた意識が急浮上を開始する
ぼやけた目に映るのは住み慣れた自分の部屋
朝の光が差し込み鳥の歌声が響く、築ン十年木造四畳半の愛すべき我が家だ
わずかに肌寒く感じるのは、被っていた布団を撥ね除けてしまったからだろう
「イタタ……
ちょっと次郎っ、いきなり立ち上がらないでよ!
危ないじゃない」
名前を呼ばれて目を向けると、足下には使い慣れた煎餅布団とともに転がる不思議な丸みがある
二つの膨らみが並ぶ桃のような形、白と水色の横縞の薄布に覆われた物体X
ほっそりとした肌色の脚を片方だけ天へ向けてくねらせる様子が妙に艶めかしい
「……?」
近づいてみると、脚の向こうで痛みに顔をしかめていたのは幼馴染みの少女
「……何やってるんだ、桃香?」
「うるさいっ、次郎が布団ごと吹き飛ばし……た……」
そこまで言った生意気な妹分の顔が強ばり、次いで真っ赤に染まる
「……き」
「……き?」
「――きゃああああ~~~~ッッ!!!?」
身体を折り曲げ尻を突き上げた姿勢のまま器用に叫ぶと、桃香はそのまま
「ガフ……ッ!!」
脚の間から覗き込んでいた次郎の顔を、強かに蹴り上げたのだった

「だから、悪かったって言ってるじゃないか……」
「女の子をあんな姿勢にした上に下着まで覗くなんて、『悪かった』程度じゃ済まないんだから!」
すっかり臍を曲げそっぽを向いた幼馴染みを、次郎は必死になって宥めすかす
「大体、あれは桃香が人に飛び乗ったりするのが悪いんであって……」
年上の威厳を見せつけるつもりで逆に忠告、落とし所を探ってみる
だが……
「……思い出した……
ねー、次郎……花子さんとかアリスさんっていうのは、誰さんかなー?」
逆に地雷を踏んだらしく、ぐいっと顔を寄せてくる
いつも生意気ばかりの彼女には珍しい満面の笑顔だが、今の次郎にはそれが逆に恐ろしい
「あ、アリスたちは仕事上の仲間だよっ
ほ、ほら……俺の職場って意外と女性も多いしさ……」
「ふーん……
……それで、職場の女の人たちと、四人掛かりで、仲良く何をしてるのよ……?
次郎ったら、ずいぶんと楽しそうだったけど?」
百戦錬磨の剣鬼たる次郎だが、たかだか15才の少女に冷や汗が止まらない
「え、演習の事じゃないかなぁ……?
や、やっぱり正義を守る戦士たるもの、常に実戦を想定した訓練を……」
「本当……?」
言葉の途中で桃香がさらに詰め寄り、真剣な眼差しが覗き込んでくる
整った目鼻立ちが目の前まで迫り、瑞々しいセミロングの黒髪からシトラスの香りが漂ってきた
名前通りの桃色の唇はリップクリームで濡れたように光り、互いの吐息が交差するのさえ感じられる
「……と、桃香サン……?」
「……ま、信じてあげるわ」
顔を離すと、やれやれとばかりに溜息を吐き肩を竦めてみせる
「寝言は赦すのが女の甲斐性だって、姉様も言ってたし
……でも、忘れちゃ駄目よ」
いきなり胸元に飛び込んでくる桃香を慌てて抱き止める
小さく柔らかな温もりから、かすかな震えが伝わってきた
「次郎は絶対に、私たちから離れて行っちゃ駄目なんだから……っ
だって、次郎は私たちを一生……護ってくれるって……約束、したもん……」
今にも泣き出しそうな揺れる瞳に、遠い日の煙と血の臭いが滲む
あの夜の悲劇は、今もこうして彼女たちを縛っている
故に
「あぁ、忘れてなんか無いよ
俺は、桃香と桜香を一生護ってやる
……親父さんと、お袋さんの分まで……」
それが、次郎の原点になった
「……うん」
少女は涙と嗚咽を噛み殺したまま小さく頷き、縋るように額を押しつけてきたのだった

(……これは、バレたら殺されるかもな……)
誓いを新たにしながらも、次郎は頭の片隅で安堵する
(でも、アリスやデス子も護ってやるって約束しちまったんだ
許せっ、桜香、桃香……)
こうして自分の言動の重大さを今一つ理解していない朴念仁は、今日も綱渡り人生を送るのだった

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