「しっかし…何処にもいねぇなぁ…あいつら…」
いくらなんでも、これだけ探していないのはおかしい…と頭をひねる次郎は
後ろを振り返って再び頭を捻った
「なんでお前らまで着いてくるんだ?」
「え?」
「ん?」
同時に声をあげたのは、田中とムーである
醜くもオレオを奪い合っていた二人は、またしても同時に声をあげた
「ひまー」
「目を合わせるとみんな逃げていくんだ…」
前者はまだしも、後者から漂う負のオーラは尋常ではない
言われてみれば、自称17位のこの人は、周りから寒い目で見られていても
おかしくはないのだ。なんだが、すごく気まずい
一瞬目があったものの、あまりの気まずさに次郎は思わず眼を逸らす
「嘘だろ…?次郎、お前もなのか…?」
「気のせいッスよ、多分」
「気のせいか。なら良かった」
単純な人で良かった。そう胸を撫で下ろし、どこを探そうかと思案していると
また何かしらのトラブルでも起きたのだろうか?すぐ近くで人だかりが出来ているようだった
「またかよ…」
「あら…何でしょう?」
「いそがしいね」
「暇だしさー。いってみりゃいいじゃんー」
「オレオマジうめぇ」
まぁ当てもなく探し回るよりはマシか、という事で騒ぎの中心地に向かう事にした
ひょっとしたらクリブラかもしれない、という淡い期待を胸に
「あ~ら。次郎クンじゃないのぉ」
そんな彼らの期待はあっさり裏切られる
そこに居たのは
聖天裏12位 ウォーカーウォーターウォーリアー 本名:御簾涼観澄美
であった。だが何やら様子がおかしい。普段と明らかに様子が違う
普段の御簾涼観は、いきなり次郎によりかかったり、流し目で次郎を見たりしない
「オイ。なんだコイツ。病気か?具合悪いのか?」
顔も赤いし、目つきもおかしいし、息も荒いので次郎は割と真面目に心配しつつ
よりかかられるのは重いな、と思った。何故なら彼は常人だからだ
そんな次郎に対して、古参である田中は得意気な顔で一言
「こいつは陸酔いだな」
「陸酔い?なんだそりゃ」
「こいつは陸に長時間あがってると酔っぱらう変な生き物だ」
流石田中だ。いざという時は頼りになるな、と次郎は田中に対する認識を改めた
だがそんな次郎の後ろで、憎悪の炎を燃やしている人間が一人
(…はくだつする。たましいを)
(もしくは海をおわらせる)
次郎に何をするんだ。という怒りでデスメタルの心は暗黒面に堕ちかけていた
眼が金色に輝くか否かのタイミングで、デスメタルを救ったのはシルヴィアである
「み、御簾涼観さん。人様の目もある事ですし、あまりふしだらな行いは…」
「なぁ~に固いコト言ってるのよ、シルヴィーちゃん」
そう言いながら、御簾涼観はスーツのボタンを一つ、二つと外していく
「御簾涼観さん!こどもだっているんですよ!」
「そぉなのぅ?知ったことじゃないケド~」
「あ、貴女は次郎さんの事を、す…す…好きなのですか!?」
「別にぃ~。そこの忍者モドキよりはマシって位かなぁ」
顔を真っ赤にしながら怒っているシルヴィアに
そう言いながら、次郎と腕を組みながら、胸の谷間を次郎に押しつけて
ニヤリと御簾涼観は笑う
「じ、次郎さんも何かいってください!」
「きょういくに悪い。やめさせて」
「え、あぁ…。まぁ酔ってるんだし仕方ないんじゃねぇかなぁ…」
「さっすがぁ。次郎クンはハナシがわかるわぁ…。ねぇ、奥でオトナの話をしませんコト?」
この日生まれ出でた怪物は1匹…いや、2匹
シルヴィア・フォリナーはニッコリと笑顔を浮かべると
腕を組み、聞き取れないほどの速さで何かを呟いていた
「きこえな~い。何いってるのぉ?」
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主よ。
天と地はあなたの光栄にあまねく満ち渡る。天のいと高きところに…」
「うん?なぁにソレ?おっかしぃ~」
酔いに酔った御簾涼観は、次郎の腕を組んだまま、祈るように手を組み笑ってるシルヴィアを
指差し、ゲラゲラと笑っていた
一方、シルヴィアはニッコリと笑顔を浮かべていたが、その実――笑っていなかったのだ
「おしおきです。サンクトゥス」
上位神聖魔法の聖なる白き炎が、御簾涼観の身体を焼いていた
「あづい!あづい!ちょ、洒落にならない。死ぬ!死ぬ!死んじゃうってば~!」
「はい。来世は日にも陸にも強い酔わない生き物になれると、いいですね」
「オ、オイ。シルヴィア。これはヤバいんじゃないのか?」
「恐らく、その人は私の知ってる御簾涼観さんじゃありません。恐らく悪魔の使いです。浄化してるんですよ」
今度はニコリと笑みを浮かべるシルヴィア。それを横から一瞥したムーは
「むっちゃ怖い。こういう大人しい子ほど怒るとヤバイねー…」
と自分の横で事の成り行きを見ていたデスメタルに、同意を促す
「こわいですね」
面倒臭いことになるのが嫌なので、一応ムーに同意したデスメタルだったが
その本心は若干異なっていた
確かに、怖いことには怖いが、炎に包まれ狂ったように踊る御簾涼観を見て
(スカっと&ザマ見ろだぜ)
と思う心が確かにあったし、何より青白い炎はきれいだなぁ、と思った
兎にも角にも、このままでは御簾涼観が焼き魚になってしまう
これはまずいなぁ。クリスマスは魚じゃなくてチキンなのに
と、少しズレた事を考えながらムーは拳を一閃
音の速度に達したその拳が生み出す拳圧は御簾涼観を焼く炎を消し去ってていく
「ふぅ…。これで良し、と」
数発の拳圧で、御簾涼観の身体を包んでいた炎は全て消え去っていた
最も、その拳圧の余波で御簾涼観の身体も、少し形が変わっていたが…
プスプスと音を立てている御簾涼観に一瞥すると次郎とムーは
「やり過ぎだ」「やりすぎー」
と同時に口に出していた
が、それに動じる様子もなくシルヴィアは
「あら。加減してますよ。本気で撃ってたらこの建物ごと悪魔の使いは滅んでいます」
と笑顔で返す。それどころか
「ところで皆さん。悪魔の使いが抜けたようなので、御簾涼観さんを治して差し上げませんか?」
と、平然と言い放つのだった
クリムゾンブロウ曰く「まるで“糞”だぜ…?今日の“秋葉”はよ…?」
ブラックパイソン曰く「キビキビ歩かないと“事故”らせっぞぉ?その“具沢山の紙袋”をよぅ…」
十六聖天外伝 クリスマスの章 何話だっけ… 完
最終更新:2008年12月30日 16:25