闇伝 外道対外道9

「のぉうぉわああああぁあああぁぁぁぁぁぁあああああ!?」
「くそっ! 早すぎる!」

襲撃は、轟音と共に訪れた。
弾丸、否、弾丸のような「何か」が雨霰と降り注ぐ!

「ちぃっ! この嫌な感じしかしないこの飛礫・・・あの人か!」
「そうよぉ! 久しいなぁ御曹司ぃ!」
当代派4名を出迎えたのは、周囲を取り囲む腕の立つ暗殺者と、異様な長さと造形の妖刀を携えた、一人の男。
三本槍が一人、錦織誠実、通称ニシキ。
先代派の中でも特に殺人狂からの支持が高い、狂気の果てを見てきたとされる漢である。

「どうしたよ御曹司? そんなところで何してるんで?」

完全に出足を挫かれた。
意図したことか偶然かは分からないが、まさにこれからというタイミングだった。
「・・・こうなった以上は、仕方がない」
「ですが社長! 相手は大旦那様と互角、それに周りはこの状況、圧倒的に不利で」
「はん! 情緒ってもんを解せないメスは引っ込んでなぁ!」
「んなっ! ぐぬぬ・・・」
「時に落ち着け殺人、少なくとも俺らにゃ出番はない。おとなしく引っ込むが吉さ」
「しかし!」
「まーまー、おちつくのだあやちゃん。ここはしゃちょーにまかせよう」

回答は立ち上がり、ニシキに正対する。
「ほぉーう、やぁっと、やる気になったかなぁ? んじゃ・・・楽しませて、もらおうかぁ!」

親父の「裏殺し」、自分には真髄はまだ見えていない。
ならば、荒療治しかあるまい。親父と互角と呼ばれる彼らとの闘いで、見出すより他はない。
(やれるのか・・・? いや、やらねば、なるまいな!)
回答は駆け出す・・・己の限界の、向こうへ、たどり着く為に!

「はぁっはぁ! いやぁ若さってのはいいねぇ! そうだ、がむしゃらでなけりゃいけねぇよ!」
「くっ! そういう貴方も、歳を感じさせない見事な太刀筋だ!」
伊達に「九人の胴をひと薙ぎで分断する」と言われる、刀剣としては異常としか思えない拵えの刀を
得物としている訳ではない。己の生死を託した相棒に対する扱いも、信頼も、並大抵ではない。
「照れるねぇ! だがなぁ、こっちも忘れちゃいけねぇよなぁ!」
空いた左手が振るわれると、そこから禍々しいオーラが無尽の刃となり、舞うが如く空を駆ける!

「これが、親父と対等と言われた相手の、実力か・・・!」
妖刀が生み出す圧倒的なまでのリーチの差。踏み込むことすら許さない「悪意」の刃。

「こうして三本槍の闘いを生で見るのは初めてだが・・・すげぇ。つかそれ以外の表現のしようがねぇ・・・!」

「がんばれしゃちょー! ほれ、あやちゃんも、そのけしからんものをふるわせておうえんすべし!」
「こんな時になんでそんな冗談が言えるんですかぁ!?」
「つかよ、何で包囲してるやつらは俺らを襲わねぇんだ?」

その疑問に答えるのは、包囲の陣頭指揮をとる一人の男。
「・・・社長殿が倒れた後、おまえらにニシキさんを倒す術があるか?」
しごく簡潔かつ明瞭な返答である。

「ほれほれほれほれぇ!!! どうしたよ御曹司ぃ! 親父殿から受け継いだ血統はそんなものかぁ?」
「ぐぅぅ! くそっ! 全く付け入る隙がない・・・!」
得意なレンジに極端に差がある以上、ショートレンジでこそ一番ポテンシャルを引き出せる回答にとって、
ミドル~ロングレンジの闘いを積極果敢に仕掛けてくるニシキとの相性は最悪と言える。
かといって、接近すれば確実に勝機が見えるというわけでもない。

(このままではジリ貧だ・・・だが、どうすれば、あの懐に飛び込める?)
「悪意」という、ともすれば無尽蔵に湧いてくるモノを形にして操る能力の前では、多少の撹乱など意味がない。

ならば「裏殺し」か? だが、不完全なままでは、到底たどり着くことなどできやしない・・・!

「・・・どうしたよ御曹司? オマエの信念ってのは、筋ってのは、その程度かぁ?」
その声に混じる感情が・・・悔しいほどに伝わってくる。

「なぁ、どうなんだよぉ! 答えてみろやぁ!」
悪意、否、殺意の波動を乗せた大太刀の斬撃が、亡者の叫びか、生者の嘆きか、禍々しい咆哮を唸らせ
地を駆け、空を裂き、ただ一点に集束する!

擦過傷は多いが、一撃たりとも致命傷は受けていない。だが、それだけのこと。
全ては偶然か、あるいは手抜きをされているのか・・・?
だが、この一撃は、間違いない。偶然で避けられるものではない。手抜きなどありえない。
あるのは、失望と、怒りと、憎しみと、殺意。

圧倒的過ぎる。敵わない。

      • いや、まだだ!
ここで屈してしまったら、オレは、何のために、我を通したというのだ!

それに、オレの後ろには、キートン、殺人、ツギがいる。
オレを慕い、命を預けてくれた3人まで、オレの諦めに付き合わせるというのか!
せめてアイツらに、最後の最後まで、命を預けるに値する漢であることを見せるのが、オレの義務ではないのか!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!」
絶望に震える膝に、消えかけてしまった魂の炎に、今再び火を灯す!
避けられない? 馬鹿を言え。そう思ったら終わりだ!
親父も通った道だ! 根拠などありはしないが、オレが通れぬ道理はない!
今こそ、オレの枠を、世界を、突き抜けて、向こうへと、踏み出す!

あえて迫り来る波動へ、咆哮へ、一歩踏み出す。

その瞬間、世界から、自分以外の、色が、音が、消え去る。

「がぁ! はぁ、はぁ・・・ぐ、な、なんだ、今のは・・・!?」
踏み込んだ世界の、余りの絶望、余りの虚無に、奮い立った脚が崩れ落ちる。

「しゃちょー! ぶじかぁ!?」
「社長!? なにがどうなってんだぁ!?」
「回答!・・・じゃなかった社長! 大丈夫ですか!?」

世界に、自分以外の全てが戻ってくる。
今ここに自分が居ると確かに感じられる、それだけのことなのに、これほどの安堵感を覚えたのは初めてだ。

「ほぉ・・・やるじゃねぇか御曹司。見直したぜ。で、親父殿曰く『ヴェールの向こう側』を
 見てきた気分はどうだい? 」
「ヴェールの・・・向こう側・・・?」

「親父殿からは聞かされてないのか? ・・・親父殿らしいぜ。たどり着けなければそれでよし、
 たどり着ければそれもよし、ってところか」
「まさか・・・あれが・・・!?」
「親父殿しか見れなかった世界だ。オレに聞かれても困るぜ」

それだけ言うと、ニシキは回答に背を向けて、郎党に檄を飛ばす。
「よっしゃオメーら! ひきあげっぞ!」
「何だと!? ・・・オレを、見逃すのか?」
「へっ・・・わっかんねーヤツだなぁ御曹司よぉ・・・今のオマエをさっくり殺ってもつまんねーんだよ。
 ウエクサとヒガシに会ってから、オレんとこに来い。そんときゃ、ガチで殺しにかかってやんよ!」

そう言うと、郎党を引き連れて、ニシキは宵闇へと姿を消す。

残されたのは、わずかに4人。
「一体、何だったのでしょうか・・・見逃す、なんて考えられません・・・」
「・・・試されたんだ、オレは。親父の後継となる覚悟があるのかどうか、な・・・」
それだけ言うと、回答は倒れこむ。

今日は、あまりに、疲れ、すぎた・・・
3人が何か言っているが・・・申し訳ない、今は、寝かせてくれ・・・

「しゃーねーな。よし、オレが背負ってやるか。このくらいは、しねーと、なっと!」
「それなら、私達は、社長が起きた時のために、おいしい食事を用意してあげましょう!」
「おうともさ! んだば、がんばるべ!」
当代派4人は、宵闇から夜の喧騒へと、紛れていくのであった・・・。


おもいっきり所変わって、こちらジブラルタル海峡。といってもバレーボールは飛んでこない。

「いやー、しばらくぶりの陸地だわー。まったく、地面っていうのはいいもんだねぇ~。
 にしても、助かったぜダンナ。アンタのおかげで海上散歩よかはるかに早く着いたぜ」
「むー! おさかなさん、バイバイなの!」
-気にするな、鬼の子よ。父上殿にも、宜しく伝えておいてくれ
「あいよ。じゃ、縁があったらまた逢おうぜ」

それ以上の言葉を交わすことなく、深海の覇王は、再び深遠へとその身を委ねる。

「さて、ここは何処だ、っと・・・とりあえず適当に第一村人にでも聞いてみるのが妥当だな」
「ダーツのたびなのー! ネタになるまでふぁーすとこんたくとはつづくのー!」
「いやな裏事情だな・・・」

その後、聞き込み(という名の恐喝紛いの行為)を続けたことで
「なるほど、ここはスペインか。適当に送ってもらった割にはけっこう近くてよかったな」
「とうぎゅう、するの?」
「とりあえず闘牛はいいや。あんな見世物で暇潰すくらいなら、その辺の野牛でもブチのめしたほうが
 よっぽどマシそうだ」
スコットランド消滅の余波はウェールズやアイルランドのみならず、欧州全体に広がっているらしい。
その一つが、闘牛用に調教された牛の超強化というか人型への進化とも言われているが、真偽は定かではない。

ひとまず為すべきは北上。ドイツに行きさえすれば、あとは何とかなるだろう。
お気楽気分でイスパニアの街道をほっつき歩いていると、妙にハイテンションな男が話しかけてくる。
「ほぅほぅ、これは外れクジかと思いきや、どっこい大当たり。アンタ、日本から来たろ?
 この前爆発した飛行機乗ってたろ? 当たり? 当たりだろ? ひゃっはっは!」

「・・・おしりあい?」
「いや、残念なことに、知り合いにこんなバカはいないな」
「おおうコイツは手厳しい! いや~なんつ~の? ぜってぇコッチからはこねぇだろって思ってたのに、
 事故だろ? 行方不明だろ? 気がつきゃこんな的外れだと思ってたところでバッティング!
 流石だねぇオレ! ツイてるね! ノッてるね!」
「で、何の用だよ?」
「おう! こいつはいけねぇ! あまりの嬉しさに目的を忘れるところだったぜ! オレっちはなぁ!
 聞いて驚け! 新生アポカリプス・ナウのコマンダー、『進化論』のコルベッキってんだ!」

「よし行くかタマ。こんなバカに付き合ってたらバカが移っちまうからな」
「いえっさ! おばかになるのはごめんこうむるの!」
「ってオイ! そっちから話振っておいてスルーかよぉ! ソイツぁないぜぇダンナぁ!」

言うや否や、コルベッキの手刀が翠を捉えんと迫り来る!
「ほいっと。 そんな王道一直線の不意打ちなんざ、通用しねーぜ?」
「いやはやいやはや、だがだがしかし! 頂いたぜぇ・・・おまいさんの『情報』をなぁ!」
そういうコルベッキの手にあるのは、掠って切れた翠の金髪。
その金髪を、コルベッキは、呑み下す。
「・・・変な趣味してんなぁオマエ・・・」
「へっ・・・そう言ってられんのも、今のうちだぜぇ・・・なんと言っても、オレっちの能力は、
 DNA情報を取り込めば、その生物の情報・能力・記憶を手に入れることが・・・ことが・・・」

そこまで言って、コルベッキの動きが止まる。
そして震えだし、鼻血が噴出し、その瞳からは血涙が流れ出し、憤怒の形相に変わる。

「おいおいどうしたよ? オレの情報がアレすぎて脳みそヤられちまったかぁ?」
「お・・・お・・・お・・・き・・・き・・・き・・・」
「こわれちゃったの? だめっこさんなの?」

「きぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!
 よぉぉぉぉくぅぅぅぅぅもぉぉぉぉぉ!!!! 俺たちの、俺の、リカちゃんを、リカちゃんを、
 リカたんをををををををををををををををををを!!!!!!!!!!!!!」
「あー、そういうことか。ごめんなー、アレさ、俺の女だから。そりゃするだろ、愛しあってんだから」
「だあああああああああああああああ!!!!! コロス! コロス! ころしてやるぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「コロスは殺せないが・・・おもしれぇ、やれるもんなら、殺ってみなぁ!」

殺意の波動に目覚めたコルベッキの猛攻は、翠にとって(若干ではあるが)予想を超えるものであった。
「にゃるほどねぇ・・・取り込んだ情報を上乗せできる、ってか」
「それだけじゃねぇ・・・貴様のその特性、死なない身体も、鬼の血統も、俺の中に生まれたのだ!
 貴様の全スペックに、これまで取り込んできた情報が上乗せされて、俺は確実に貴様より強ぶべらぁ!?」
遠心力を存分に上乗せした翠の踵が、コルベッキのこめかみを殴打する!
「へぇ・・・その程度なんだ、その他大勢+オレって。大したことないんだなぁ。ざ~んねん」
「今のは油断しただけだぁぁぁぁ! オレは、リカたんを穢したキサマを、生かしては、おかねぇぇぇ!!」
「とりあえず、その記憶が完全に吹っ飛ぶまでボッコボコにしてやるんで、覚悟しとけよ?」

それから幾合もの殴打ラッシュが続くものの、コルベッキの打撃は、一打として当たらない。
オレはコイツの情報を確実に上乗せしたはず! こんなこと、今まで有り得ない話だ!

自分は、上限の見えてしまった自分に嫌気が差して、上限のない肉体を得る為に、他の全てを擲って
ファウストの猟奇改造にその身を捧げたのだ! そしてあの狂人が完璧と讃えたのだ! 間違いなど有り得ない!
絶対の自信を持っているはずの自らの能力を発揮できない。コルベッキに、焦りが見える。
(何故だ!? 何故、コイツを上回れない!? 確かにコイツの情報は上乗せされているのにぃ!?)
「おいおいどうした? 足元がお留守なんだぜ!」
翠が放つ水面蹴りが、コルベッキの両足をへし折る!
「があぁ!? ぐぅ・・・だが貴様同様この身体はすぐに再生すぶるぉあぁ!?」
両足をへし折られくず折れたコルベッキの口蓋に、翠の踵が激突、そのまま地面に叩き付けられる!

一般人は余り聞きたくない鈍い音が響き、翠の足元に、紅い華が咲く。
「ほぉ~う、いいピンク色だことで。いやーグロいねー脳みそ」
「おうどんみたいなの! ・・・でもまずそうなの。ばっちいの」
「っと、ホレ起きろやゴラ。不死身なんだろ、おい?」

(そうだ・・・オレはコイツの情報を得て、不死身の肉体を手に入れたんだ! ならこんな程度、
 たかが頭が潰れた位、どうということはない!)
「オオオオオウウウウアアアアイイイガアアアアア!!!!!!」
不死身の再生能力を生かし、コルベッキの頭蓋が復旧作業を始める。

「ほぉ、頭部はそうやって再生されるんだな。さすがに自分のドタマ再生するのって見れないんだよねー。
 目玉が復旧するのって最後のほうだからさ」
「はあああっはっはああ! どうだあああ! これがオレっちの力だあああああ! 貴様の不死を手に入れて、
 さらにオレはこの世界に人間が居る限りどこまでも強くなれるのだああ!!!」

「このひとばかなの? しぬの?」
「自称不死だってさ・・・あっはっは、ばっかでー! こいつ不死身なんて信じてやんのー!」
「なんだとぉ!? 貴様がそもそも不死身だろうがぁ!」

もう翠の顔には真剣な表情はない。完全に、相手を小馬鹿にした笑みが浮んでいる。
「なら、試してやろうかねぇ・・・そらよぉ!!」
「ごはぁ!?」
一瞬の踏み込みから、全身の可動と推力を拳の一点の集中させたボディブローが、コルベッキに突き刺さる!
そのままの勢いで、くの字に胴を折るコルベッキの左腕を右手で掴み、
「おらららららららららららららららららららァ!!!!!」
逃げ場のないコルベッキの胴と頭部に、容赦のない猛蹴撃のラッシュが襲い掛かる!
「そんでもってこいつでぇぇぇぇぇ!」
猛撃最後の一発が決まると同時に右腕を引き、コルベッキの肉体から左腕が引きちぎれ、宙に舞い・・・
「もいちど地面とキスでもしてなぁぁぁぁ!!!!!!!!」
引きちぎった腕を投げ捨てる勢いで捻った全身の運動エネルギーを右拳に乗せ、音速を超えたブローが
コルベッキの頭部へ突き刺さり、完全に破壊する!
「おっとごめんよぉ! やりすぎちまったい!」

再び首なし、そして今度は左腕まで失い地に伏すコルベッキ。
(だが、オレは蘇る! なぜならオレは!)
「不死身だからだああああああああああああごばああああああああああああ!?」
「おー、活きのいい心臓してんなー。ほれ~見てみぃタマ。ビクビクうごいてんぞー」
「みゅ~! どっくんどっくんなの! ・・・でもばっちぃの。ばっちぃのはめーなの」
「ほれどうよ。オマエもみてみぃ! 自分の心臓動いてるところガン見なんてそうそうできねぇぜ?」
「ごぼばばばっぼぼぼぼぼががばばはぁ! がは、はぁ、はぁ、き、さ、ま・・・」
「およ、さっすが自称不死身。タフだねぇ。んじゃこの辺り、ごっそり持って行っちゃおうかなぁ~?」
そう言うや否や、肋骨がすでにこじ開けられているコルベッキの胴に両手を突っ込み、内臓を毟り取り、
引きちぎり、投げ捨て、潰し、バラ撒く!

「よし、いっちょアガリっとな。う~ん、あとはこれでドタマに槍ぶっ刺しゃ完璧なんだがなぁ」
「まっかっかなの! にごうきなの! みぎうでぱっくりなの!」

というわけで、覇気を練り上げた槍を頭部にぶっ刺してみました。

「うぬ、やはり白ウナギーズがいないと締まらんな。よし撤去だ」
「らじゃーなの! ほらタケ、ごはんだよー」
ワウワウ! ガツガツモグモグムシャムシャバリバリ
「おー美味そうに食ってんなー。どうよタケ、久方ぶりのメシは美味いか?」
アオーン!! ワウワウ!!
「・・・ねー、あるじさま? このおばか、タケのごはんにしちゃだめ?」
「あんまい食いすぎるとバカが伝染するからやめなさい」
「それもそうなの。わかったの! タケ、たべすぎちゃだめだからね!」
ワウ!
「きさまらあああああああああ!! よくもオレの内臓を犬のエサなんぞにぐぼぉあ!?」
「あ、ごめ。やかましいからつい殴っちまった・・・おーおー、見事に陥没してんなー。目玉飛び出てんぞ」

(何なんだ・・・一体、何なんだ!? なぜ不死身の肉体を持ち、ヒトとしての超越種である鬼の力まで
 手に入れたオレが、ここまでコケにされなきゃならんのだ!?)
コルベッキには理解できない。何故? どうして? そんな思いだけが、魂と、不定期に砕かれる脳を駆け巡る。
そして、再生するたびに、肉体は砕かれ、引き裂かれ、へし折られ、抜き取られ、玩ばれる。
20本の指が全てへし折られるループももう10周はしている。
全ての関節が本来曲がってはいけない方向に何度も曲げられた。
臓器という臓器、骨という骨が掘り起こされ、抜き取られ、踏みにじられ、犬に食われ、燃やされる。
自分の脳も、何度見せ付けられたかもう覚えていない。

      • もうだめだ。死にたい。殺してくれ。
もう不死身なんてまっぴらだ! これじゃただ拷問を永遠に受けさせられるだけだ!

「たのむううううううううううううう!!ころしてくれええええええええええええええええええ!!!」

「・・・ハァ? 何言ってんの?」
「もうやめてくれええええええええええええええええ!」
「いやだから、不死身なんだろ? どうやったら殺せるんだよ?」
「なんで知らないんだよ! オマエの情報だぞ!」
「いやだってオレ不死身じゃねぇし。もちろんこのちっこいのもだが」
「たまちゃんはいきものじゃないの!」
「とまぁそんなことは置いといて、と。でだ、世間一般で言うところの不死身ってのはな、大抵のところ、
 運命因果の悉くを回避する天命を帯びているか、アホみてぇに回復速度が異常で致命傷でも治っちまうか、
 このどっちかだ。ま、あとは精々種族的にバカ長寿、転生の術法を弁えている、神格を備えている、
 このあたりまで含めることもあるかな。そうは言うが、どんな奴だって寿命が来たら死ぬわけだ。
 つまりこの世の中に不死身なんてもんはないんだな、これが」
「ならば貴様は何なんだ! この幾ら砕かれても死ぬことを許されないこの肉体は何なんだ!」

「で、だ。全く関係ない話なんだが、オレのおかんはオレが物心付くどころか胎から出てきて
 間もない頃に早死にしてなぁ。そんなオレが、おかんから貰ったものが3つだけあるんだ。わかるか?」
「そんなものしるかあああああああごばぁ!?」
「やかましい、黙って聞け・・・オレがおかんから貰ったのは、この血肉と、レングラントの姓と、あとは、
 『寿命が来るまで死ねない』っつーおかんの残り少ない生命と等価交換した呪術の3つだけだ」
「だから何だってだばぁ!?」
「黙れ、聞け・・・で、結論何が言いたいかっつーとだな。少なからず最後の瞬間までオレのことを大事に
 してくれていたはずのおかんがオレのために遺した物が、オレを裏切るはずがないだろう、ってことだ。
 そういうわけで、いくら頭砕かれても、心臓抜かれて肉体燃やし尽くされて灰になっても、串刺しになって
 運悪くオカマ掘られようとも、何の気にするところもないわけだ。俺が生きてるってのは、おかんの愛が
 支えてくれてるわけだからな。で、テメーはそんなおかんの最期の愛を殺してくれだのほざいて馬鹿にした訳だ。

 そういうのって、許せないんだよねーオレ」

「と、いうわけでだ。俺の怒りが怒髪天を突きそうなんだわ」

それから数刻。
辺りには血溜り、肉片、骨片、その他諸々が飛び散る。
もう、既に並の人間であれば数十人単位での分量になる。
先程まで砕かれたところから血肉が生えてきていたのだが、どうやらそれも、ここに来て収まったようだ。

「ふぅ。いやーいい運動したなー。にしても、結構しぶとかったなー。流石に寿命来る前にブチのめすなら
 もう生きることを完全放棄させて魂砕き尽くす以外にないってのも、面倒な話だな」
<・・・それなら、『神威』を使えばよかったのではなくて?>
「いやだってこんな虫ケラ一匹のために使うのメンドいんだもんよ。それにたまには体動かしたかったしな」
<・・・私には、お母様を貶められたことへの憂さ晴らしだと思えるのだけれど>
「ま、それもあったことは否定しないな・・・」

とりあえず、適当に残った肉は生のままタケに食わせる分と焼いて喰う分に分け、骨とかは適当なオブジェにして
看板代わりに適当に突き立てておいた。とりあえずこれで報われない命も成仏できるだろう。
「さて、と。そんじゃ行くとするか!」
「らじゃー! あっるっこ~♪ あっるっこ~♪ わたっしは~げ~んき~♪なの!」
「・・・あの野晒しテレビ、アンテナないのにテレ東以外も電波入るんだな・・・今度寄って拾ってくるか。
 つか危険だ。カスラックが寄って来るから後で伏字にしておきなさい」
「わかったの~! ららるりら~なの~♪」
おなかいっぱいのタケに跨るタマは上機嫌。
スペインの田舎道の空はどこまでも高く、どこまでも蒼い。
「暇が出来たら、スコットランド跡地にでもいってみっかな・・・」
久々に、母を想う気持ちが去来するのであった。
旅はまだ、続く。

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最終更新:2009年02月06日 02:27
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