~Another World~ ある夏の午後 中編


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「まさか貴方がサガ必殺のあれを使うだなんて思ってなかったわ!」
「あー…けどほら、――。が茶化すからいけないんだよ」
『身の程を知ればいい』
「まぁ何にしても、これだけ汚れたしやっぱり銭湯に行くわ」

はぁ…。やっぱりこうなるんだなぁ。
腕を組みながら偉そうに歩いてる――。と、その横で笑うアリスを後ろに従え
私は歩く。銭湯までの短い道のりを

「そういえばお姉ちゃん。私たちはタオルも何もないわ。どうすればいいの?」
「あぁ、大丈夫だよ。そういうのは銭湯が貸してくれるから」
「あら、意外と気が効くじゃない」

有料なのに、この金持ち共と来たら、まったく…
そうこうしてる間に、銭湯の煙突が視界に飛び込んでくる
湯気をがもくもくと出ているそれを見て、素直に良かった、と思う
これで後ろの二人がいなければ、尚いいんだけど
銭湯の引き戸を開けると、番頭さんがこちらに向けて微笑む

「いらっしゃい」
『こどもメタルひとり』
「違う違う。こども三人!」
「あら、今日はアリスと…妹さんも一緒なのね」
「これが日本の銭湯ね。想像以上に古い建物だわ」
「歴史があるのよ」
「ふぅん…」

番頭さんは手慣れた手付きでレジを打つと、ロッカーの鍵を3つ手渡す
随分と手慣れてきたものだなぁ、と思う。まるで我が子の成長を見守る母はこんな気分なのだろうか
昔は家の前で行き倒れてたりして本当にダメな大人の見本だったのに
まぁ、今でも時折家の前で倒れているから、そのあたりの生活力の無さは変わっていないのかもしれない

「ところでデスメタルちゃん?」

アリスと――。に続いて脱衣所に向かおうとした所、番頭さんに呼び止められた
呼び止める、というよりはローブを掴まれ動けなくされた―。といった方が正しいかもしれない
顔に不自然なほど満面な笑顔を浮かべた番頭さんは

『なに』
「華…花子を呼ぶつもりはないかしら?」

と、携帯電話を私に見せてくる。ディスプレイには花子の番号がセットされていた
またか、またなのか
だが、そうそう私もタダ働きをするつもりは無い

『タダで?』
「う…。今日はまた随分とストレートね…」

何度もこんなやり取りを繰り返しているので、今回はストレートに切り込んでみた
少しイライラしてたから、その当て付けの要素がないかと言われれば、嘘になるだろう
番頭さん…月子には悪いが、ストレスがたまると死んでしまう

さぁ、女の戦いの始まりだ

「コーヒー牛乳一本サービス」
『フルーツの方がいい』
「じゃあそれで」
『そもそも安すぎる』
「2本」
『ケチ臭い』
「3本」
『そんなに飲めない』
「入浴券一週間分」

月子め、なかなかにやる…。これは不覚にも心が揺れた
だが、まだ折れてやる訳にはいかない。この月子の目。まだもう少しやれるはずだ

『あと一声』
「入浴券一週間分+フルーツ牛乳1本+マッサージチェア一週間使い放題」
『電話かして』

私は月子と握手をして、花子に電話をかけた

「ハイハイ、華京院ッス」
「…」
「あれ?お姉ちゃんじゃないッス?その息使いと心臓の音はデスメタルッスよね?」
「…」
「へ~。みんなでお風呂ッスか。良いッスよ~。じゃあなるべく早くそっちに向かうッスね」
「…」

電話が終わった。花子は小さい声でも聴きとってくれるから話しやすい
月子に向き直り、お互いの手をクロスさせる
商談成立。パーフェクトハーモニーだ
一向に脱衣所に現れない私を呼びに来たのか、一部始終を見ていた――。が一言

「アナタの電話って訳がわからないわ」


あぁ、嫌だな。心の底からそう思う
私だって生物学的には女の子だ。スタイルだって少しは気にする
そんな私を余所に、湯船からは元気な姉妹の声が聞こえてくる
ハァ…。大きな溜息を一つついて、私は衣服を脱ぎ、前を隠すと浴場の引き戸を開けた

「着替えるの遅いよー」
「もっと薄汚れた場所かと思ってたけど、なかなか良いじゃない」

…やっぱり
やっぱり、私より大きい。私は色々と死にたくなった
だから、この二人とは来たくなかったのだ。年下のこの二人とは
今日はシャワーとサウナを中心にして、極力タオルを離さないようにしよう。そうしよう

「ところでデスメタル、貴女無粋ね」
「ほぇ?」
「タオルよ、タオル」
「あぁ~!湯船にタオルは持ち込んじゃダメだよ、デスメタル~」

アリスと――。は互いの顔を見合わせ、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべている
何を言ってるんだ、この姉妹は。私はまだタオルを湯船につけてない
その事を伝えて、この場を凌ごうと思って気付いた
しまった、看板(シンフォニックメタル)は脱衣所だ
なんという失態。まずい
そうしてる間にも、二人はジリジリと間合いを詰めている
これは、まずい。この表情は間違いなく、酷い事をするつもりだ
ジリジリと間合いを詰める二人に対して、私はジリジリと後ずさる
―ガタン

「え?」

踵に何かが当たった。積み上げてあった風呂桶が、音を立てて崩落するのと
姉妹が襲いかかってくるのは、殆ど同時だった

「うわ~…しっかし見事にアレね。無ね。虚空だわ。正か負でいえば、負に傾きかねないわ」

うるさい

「ダメだよ、そんな人を傷つけるようなこと言ったら!デスメタルだって生きてるんだよ!」

逆に酷い

「デスメタルって確か、私たちより年上よね…?ヤバいんじゃないの?」

ヤバくない

「コラ、もうやめなさい。デスメタル、もう泣きやんで。きっとそのうち成長期に」
「成長期まっさかりじゃないの?」
「――。」
「う…。ご、ごめんなさい
 …あ!けどホラ、そういう特殊な趣味の人もいるし!ね、お姉ちゃん!」
「そうだよ、きっといるよ!」

大人になってもそういうのは、一般的には変態だと思う
あぁ、情けない。年下に泣かされて、年下に慰められてる
考えてると、ますます涙が出てきた。情けない
家に帰ったらウィスキーボンボンを食べよう。5個も食べよう…
私が非行に走る決意をした時だった

「いや~ 走ってきたから汗かいたッス」
「わざわざ呼び出したみたいで、申し訳ないわね」
「ぜーんぜん平気ッスよー」
「姉さまこそ、番頭してなくて良いんスか?」
「ぜ~んぜん平気っすよ~」
「あ、ワタシの真似ッスね」

大浴場に、美しい笑い声が二つ響く

「あ、花子に月子さん!」
「やー、チビっ子諸君!元気かね」
「たまにこうやって自分が客になるのも悪くないわね」


「なぁんだ、そんな事で泣いてたんッスか~」
「大きさじゃないわ、形よ?」
「…形づくるほどない」

泣きやまなければ、と思っているのだが
何故だかわからないが、涙が止まらない
正直、そんなに気にすることでもない気すらしてきたのに
一向に涙が止まらない

「華にアリスちゃんに――。少しあっちに行ってらっしゃい」
「は~い。ホラ、行くッスよ、二人とも」

花子が姉妹を連れて、露天風呂の方に向う
小さな声で月子に何か言っていたが、私にはそれは聞き取れなかった

「デスメタルは、スタイルの事で悩んでいるのね?」

諭すような月子の問いかけに、私は素直に うん と頷いた
そんな私に月子は言葉を続ける

「スタイル良くなりたい?」

うん

「そっかぁ。まぁ女の子だんね」
「けど無理」
「あら?どうして?」
「成長期なのに成長しない」
「まだ成長期始まったばかりじゃない。気にしすぎよ?」
「年下の二人にすら負けてる」
「うーん。あ、ねぇデスメタル。貴女は私や華はスタイル良いと思うかしら」

そう言いながら、月子は私に胸を寄せて見せつけてきた
思うに決まってる。思うに決まってるので、頷いた

「ありがと。けどね、私も華も、そりゃあ貴女くらいの歳の頃はぺったんこだったわ」
「?」
「胸よ。そうねぇ、私が大きくなり出したのは16を超えてから、華は15歳と120日15時間と36秒辺りからだったかしら」

「?」
「つまりね、貴女はまだまだこれからって事よ」
「…ほんと?」
「勿論。私が保障するわ」
「…うん」
「ほら、風邪引いちゃうわ。お風呂に入りましょう?」
「うん」


「…スィ トゥキッサ ドゥラスィ ダキ パンサダッティンサ ドゥラスィ ダスィラァ~」
「ねぇ月子、貴女あの子に何いったの?歌まで歌ってご機嫌じゃない」
「良いじゃない。デスメタルが元気なら私はそれが一番だと思うよ?」
「流石姉さまッス」
「大したことはしてないわ」

お疲れ様でした
トリートメントを終え、頭を流し私は浴槽に身をつける
ふぅ…温まる。朝、ピンク色の化け物が夢に出てきた時はどうしようかと思ったが
こうやって、汚れと一緒に洗い落とすと実にすっきりする

「さっき泣いてた子とは思えないような爽やかな顔だわ…」
「コラ、もうそういう事言わないの!」
「ケンカはダメよ」
「ダメっすよ~」
「子供が」

何のことやら
これだから子供は困る。公共の場では静かにして欲しい

「え…え?私?私が子供なの?」
「そうよ。――。の子供~」
「子供、もう一人追加ッスね」

「これだから子供は困る」
「さらに追加ね」

そんな馬鹿な
――。め。恐らく彼女も同じことを考えていたのだろう
私と彼女の手の平から水鉄砲が飛び交うのは、殆ど同時だった
そして、女の戦いが幕を開けた


「そういえば、あの時は沙羅もいたんだね」

何気なくアリスが口にした名前
沙羅…。今はもういない友達
皆が皆、沙羅を思い出して少し空気がしんみりする

皆が皆、沙羅を思い出して少し空気がしんみりする
特に――。の顔は暗い
――。の気持ちや立場を考えたら当然だろう
そんな中、花子は手を叩き満面の笑顔で提案する

「…そうだ。姉さまも、デスメタルも、アリス達も午後から暇ッスか?」
「仕事があるけど暇だわ。それに勝る事はないと確信しているもの」
「私たちは暇だよ」
「ひま」
「なら、午後からお祭りがあるんッス。みんなで行きませんか?」

初めて着る浴衣への期待
初めて行くお祭りへの期待
夏はまだ始まったばかりだった


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