十六聖天外伝 夢と、もう一つの世界 三話


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鏡の国と不思議の国。両方を使えるようになって自分は強くなった
それでも簡単に仇を討てるとは思っていない
そこに足を踏み入れた時から、覚悟はしていた
敵の本拠地なのだ。どんな罠があるか想像もつかないし
どんな罠でも叩き潰して仇を討つ。自分たち姉妹の運命を弄んだ仇
そして片割れである少女の仇を

敵の本拠地、と呼ぶには余りにも普通すぎる建物
どう見ても一般の建築物にしか見えない「それ」の戸を開け、少女は足を踏み入れる
首筋がチリチリして、背中がぞわぞわする
この感覚は過去に何度も経験したことがある
突如、世界の姿が一変する。アリスの目の前に広がるその世界
花は咲き乱れ、青く澄み渡った空に、小鳥の囀りや小川のせせらぎが耳に心地良い

(…ナイトメアコード? ううん、違う。これはそんなものじゃない…)

それこそ、今は彼女が使う能力の一つ
不思議の国―ワンダーワールドそのものだった

オリジナルは自分以外に存在するはずがない
存在するはずがないが、目の前に存在するそれは“オリジナル”そのものである
幻覚の一種かと思ったが、地面にも質感があるし、流れる川の水も冷たい
もっとも高度な幻覚なら、その程度容易く再現できるのかも知れないが…
どちらにせよ、アリスは怒った。これは自分たちに対する侮辱だ、と
そして死んだあの子に対する侮辱だ、と怒った
オリジナルと寸分変わらぬこのワンダーワールドを、“偽物”と断じたアリスは

「…許さない」

口元を固く結んだアリスの横に、巨大な有翼獣が顕現する

―グリフォン
鷲の上半身に獅子の下半身を持つ偉大なる翼の王
主に一瞥すると、グリフォンが世界を睨んだ。自分が住むべき世界と酷似した世界を
そして自分が住む世界ではない、この世界を
グリフォンの咆哮が世界に響き渡り、その翼が大きな音を立てて開かれる
偉大なる翼の王の羽ばたきが全てを吹き飛ばそうとした時であった

「あら…随分ひどいのね」

この“偽物”のワンダーワールドを見た瞬間、勿論彼女の偽物がいる事も予想していた
勿論“偽物”の世界にいる女王は“偽物”なのだから、出てきたら躊躇わずに倒そう
そう決めていたはずなのに

「復讐の女神ネメシスのグリフォンは全身が漆黒に染まってると聞くけれども
 アナタのグリフォンも、そうなのかしら」

クスクスと笑う少女の髪が風に揺れる
少女の身を包むゴシック調のドレス
自分と変わらぬ背丈、そしてその自信に満ちた顔
どれをとっても、もう二度と目にする事はないと思っていたもの

「アナタがネメシスだというなら、何に対して復習をするのかしら」

少女は笑う。まるで自分は“本物”だと言わんばかり、その横に
白いグリフォンを顕現させ、クスクスと笑う

(騙されちゃダメ、これはウソ。そんなハズない。そんなハズないんだから…)

少女が一歩近づく度に、アリスは一歩後ろに下がる
アリスが一歩後ろに下がる度に、少女は一歩近づく

(ダメ、このままじゃ…グリフォン!)

アリスの心の呼び声に応え、黒い影は二人の間を割って入る
グリフォンが使えるべきはワンダーワールドの女王のみ
偉大なる翼の王は女王を守るべく、少女の前に立ち塞がる

「私を偽物と思ってるのかしら。悲しいわ…私は本物よ?」
「ウソだ!許さない…!あの子の姿を偽って…絶対に許さないんだから…!」
「困ったわ。そうだ…。ねぇ、グリフォン。アナタなら分かるわよね?」
「グリフォン!? 嘘…」

少女は威嚇を続けるグリフォンに怯むことなく、その手を差し出し
その頭を一撫でする。それは本来ではありえない事だ。気高き翼の王が気を許すのは
女王のみ。グリフォンにとって女王であったのは二人だけ
だがそれでも、アリスは“その可能性”を否定した。ありえないからだ
だが、それと同時に目の前でグリフォンが自分達以外に傅くのも、またありえない光景なのだ

「あの後ね、お父様が私を治してくれたのよ。だから私はホンモノ。信じて」

間に立つグリフォンを懐柔し、障害を乗り越え、アリスの前に立った少女は微笑む

「ねぇ、二人で一緒に。ううん。今度は家族みんなで暮らしましょう?」
「…本当にあなたなの??」
「そうよ。心配かけさせちゃってごめんなさい」

少女は白と黒のグリフォンを従えながら、優しく微笑みアリスに笑いかける
その少女の目には涙が浮かんでいた

「さびしかった、こわかった、つらかった、いやだった、もう二度と逢えないと思ってた!」
「私も…私もだよ!お姉ちゃん…!」

アリスは泣いた。少女の胸の中でただひたすら泣いた
今まで押し殺し、凍りつかせていた感情。それら全てが涙と共に流れ落ちていった
嬉しい、ただ只管にうれしい。それしか考えられない

―ズキリ、と胸が痛んだ

「え…?」
「バーカ、生き返る訳ないじゃない」

少女の手には赤く染まったナイフが握られていた


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