昼のご挨拶


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廃墟と化した街並みの中、爆音を切り裂いて一陣の疾風が駆け抜ける
風は水蒸気の雲を牽き、だがそれすら確認出来ぬ間に行く手を塞ぐ中年男性へと到達する
「ぐあぁぁぁぁぁッッ!!」
「田中ッ!?」
「田中さん、大丈夫か!?」
鎖鎌を構えていた中年が紙屑の如く宙を舞う様に、共に戦列を組んでいた青年と少年は戦慄する
「斎藤さん、今のは……」
「ああ……恐らくは超音速による衝撃波
……少なく見積もって、奴の攻撃はマッハ3以上」
『然りだ、常命者(モータル)
我が触手は大気を割断し、鋼鉄すら軽々と打ち破る』
鎖を携えた青年の言葉に、先ほどの一撃を放ったものが答える
その言葉は人のものに在らず、その姿もまた人とはかけ離れている
風船の如く風に乗る、歪に膨れ上がった半透明の胴体
無数に垂れ下がる触手に、時折走る七色の燐光
その身体は不自然なまでに脱力し、しかしそれが尚の事、不気味さを醸し出している
彼こそその名も高きビーストハザードの闘士、ヘカトンケイル三兄弟が一
地球最強のクラゲ、アイガイオンであった
「くそぉ、こいつら噂以上に強い……」
「うろたえるな、いっけい
焦れば敵の策に嵌るだけだ」
未だあどけなさを残す少年の額を、一筋の汗が流れ落ちる
握り締めた拳すら頼りなく感じ、いっけいは奥歯を固く噛み締めた
本来なら一刻も早く田中の無事を確認したい
だが、そう出来ぬ理由があるのだ
『ははは、アイガイオンにばかりかまけて貰っては困るな』
『然り、何故となれば我等ヘカトンケレスは三位一体ゆえ』
田中を欠き、背中合わせとなった二人が相対している敵は三体
天に向けた触手を悪夢のように震わせ、ヤドカリを駆る異形の騎士
即ちヘカトンケレスが一、イソギンチャクのギュエス
そして先程から不動のまま、三人を威圧感せしめていた城砦の如き偉容
ヘカトンケレスが一、サンゴのコットスである
「しかしまさか、三人同時攻撃で傷一つ与えられないとはな……」
表情には笑みを浮かべた斎藤だが、内心の焦りは隠しきれない
『フッ、恐らく三兄弟で最も防御に劣る我から各個撃破する算段であったのだろうが
人間らしい姑息な浅知恵であったな』
『我等は地球意思の代行者
故にこの身は星の加護を得ているのだ』
『貴公等、地球に見捨てられし穢れた人間共より、一筋たりとも傷を受ける道理は無い』
言葉と共に一歩、また一歩と包囲が狭められていく
「……くっ、こうなりゃヤケだ!
明楽流血闘術【王ノ朱(キング・クリムゾン)】ッッ」
「止めろ、いっけい!!」
斎藤の制止を押し切り、猛然と駆け出すいっけい
手首の流血より深紅の大剣を練成し、大上段の構えとともに跳躍する
(全体重、全霊力を懸けた乾坤一擲
……これで駄目なら後は無いッ)
「食らえェェェッッ!!」
果たして振り下ろされた剣はサンゴの堅牢な防御に食い込み
――しかし、ほんの数ミリでその威力を殺し尽くされてしまった
「なん……だと……」
「う、嘘だろう……ッ!?」
攻撃を放ったいっけい自身、信じられぬ思いだった
確かに今の一撃は渾身の、かつ会心の一撃であったはずなのだ
だが、彼の全力を持ってすら、この相手には僅かな手傷しか負わせられないのである
(――いかんッ、避けろいっけい!)
「えっ……?」
ガーベラゲートの内なる声に耳を傾けんとした刹那、
『……よくも、我が自慢の外殻に瑕をつけおったな……
赦せぬッ、決して赦せるか常命者ゥッッ!!』
膨大な霊力の奔流が叩きつけられる
気がついた時には、いっけいの身体は大地に崩れ落ちていた
「いっけい! 大丈夫かいっけい……なッ!?」
駆け寄った斎藤の表情が瞬時に凍りつく
彼につられて視線を己が腹に向けると、信じがたいものが目に飛び込んできた
「なッ……何だよ、これ……」
思わず手を当てた自身の腹、その感触は硬く、そしてざらついている
『コットスの奥義は対象を貝殻同様に変容させる』
『つまり、貴公の下半身は既に死んだも同然』
『貴様には相応の罰だ、せめて苦しみのた打ち回って死ぬが良い常命者』
コットスの嘲笑と共に、いっけいの意識が朦朧とし始める
下半身という行き場を失った血液が、心臓の圧が、残された上半身で暴走し逆走しているのだ
「おご……、げぇ……ッ」
「いっけい!! ……貴様ら、よくも田中といっけいをッッ!!」
端正な顔を赤黒く染め、血の混じった吐瀉物を吐き散らす同志の姿に、斎藤の怒りが限界を超えた
(こうなれば最早、計略も駆け引きもあるか!
せめてこの一命に懸け、二人だけでも生かしてやるッッ)
憎悪の霊力が金輪に漆黒の輝きを宿し、鎖が蛇のように鎌首を擡げた
「……だ、駄目だ斎藤さん……!
せめて斎藤さんだけは……ゴボッ……に、逃げ延びてくれぇ……ッ!!」
いっけいの文字通り血を吐く様な懇願を背中に、斎藤が致死の疾走へと踏み出す
(……畜生ッ、誰か……!
お願いだ……誰か斎藤さんを、田中さんを助けてくれぇ……!!)
「……誰かぁ……ッ」
ゴボリ、肺に残った最後の一息が、赤い流れとなって少年の口から零れ落ちた
その瞬間、
「うむ、とくと聞きうけたぞ年少者よ!!」
処刑場と化した瓦礫の巷に、男の声が響き渡った
『『『何奴かッ!?』』』
見上げた三兄弟の頭上、崩れかけたビルの屋上に太陽を背負う一つの人影
「今の声って……ゴホ……ッ」
力強い音声が、少年に一片の生命力を分け与え、
「まさか、あの男か……」
隼の如くビルから飛び降りる動きが、青年の一歩を押し止め、
「ぐぇッ!?」
ついでに着地の衝撃が仮死状態の中年を蘇生せしめた
「さて、諸君――」
その身に纏う闘気は清澄、その身に纏う道服は精悍
一切の所作に隙は無く、一切の所作に澱みは無く
そう、その姿こそ正に武道の体現、その姿こそ正に仙道の体現
「――この一戦、これよりこの蓮鳳がお引き受け致そう」
彼の名は蓮鳳
十六聖天が裏十二位、気孔師・蓮鳳である

昼のご挨拶 fin
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