闇伝 外道対外道13


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

某所にある総合商社の受付に、やや汚れた身なりの高校生が一人、訪れる。
「そんなカッコで、何のようかな、キミ?」
「『下』に用がある。通してもらおう」
「・・・何の御用かな? そもそも君みたいな子供が来るところじゃ」
「『中村が来た』と伝えてもらおう。それで分かるはずだ」
「はぁ・・・はいはい、分かりましたよ・・・」
受付嬢はぼやく。
何が悲しくて、こんな子供の相手をしなければならないのよ・・・?
全身ついさっきまで喧嘩でもしてたかのような擦過傷と汚れだらけで、とてもじゃないが
こんな身なりの子供を上にも『下』にも通しでもしたら、私の首が危ないんだけど・・・
少年、どうなっても知らないわよ・・・?

「・・・!? は、はい、分かりました、今すぐに!」

受付嬢の顔が、やや青褪める。
「・・・それで?」
「は、はぃぃ! こ、こちらへどうぞォ!?」
声が裏返りつつある受付嬢の案内を受け、少年は見知った通用口・・・殺人公社『ダンタリオン』の
本部へ通じる道へと向う。通常であればこちらは使わないのだが、今日は特別だ。

「先ほどは、その、あのほんとうに、もうしわk」
「構わない。この身なりだ、致し方ない。・・・もう結構です。ありがとうございます」
「は・・・はひぃ!?」
受付嬢はそそくさと退散する。

この扉を潜れば、そこは死地。それは紛れもない事実。
決して歓迎されることのない『社長』という立場で、中村回答は、『ダンタリオン』へ踏み入る。

      • だが、てっきりあると思っていた歓迎は、全くない。
目の前には、人っ子一人居ない、人の気配が感じられない空間のみ。
「どういう、ことだ・・・?」
ウエクサとの修行の末に、「裏殺し」は開眼した当初に比べれば遙かにモノになったと言えるが、
だがそれでも心身を消耗することに変わりはない。可能な限り温存できればそれでいいのだが・・・。

「・・・そういう、事か。これならば、いっそ誰も居ないほうが都合がいいわけか」
ウエクサの「悟り」程ではないにせよ、修行以前よりも集中時の感性が鋭敏になった回答には、
入口入ってすぐのところから、至る所に、視認可能な細さより遙かに細い極細の鋼糸が途切れることなく
張巡らされていることが感じ取れた。・・・当然、今開け放たれた扉にも、糸の一端は達していた。
「もう感づかれている、か。とはいえ、これは・・・」
感じ取れる範囲では、明らかに人の通行を阻害する意図のみが込められた配置である。
どれほどの軟体をもっていようとも、この鋼糸の網目を全て掻い潜るのは無理であろう。

となれば、
「可能な限り、温存したかったのだがな・・・!」
意を決し、感覚を研ぎ澄まし、一枚向こうの世界へ一歩踏み出す。

「・・・ふむ、扉が開け放たれてもう5分。その後の反応がない。諦めて帰ったか、それとも・・・?」
副社長、ヒガシこと東山紀乃國は思案する。
嬉しいほうに誤算があってくれればいいのだが・・・親父殿、回答君はどうなったでしょうね・・・?

回答は「裏殺し」状態で、鋼糸が張り巡らされた通路を駆ける。
(・・・右を見ても左を見ても、とにかく鋼糸とは、な。流石は親父の右腕、トラップにかけては
 社において右に出るものは居ないと言われるだけのことはある・・・)
「裏殺し」が無ければ、鍛錬がなければ、おそらくは何も気付かぬまま入口入ってすぐのところで
細切れになっていたに違いない

改めて、ヒガシ・ウエクサ・ニシキの三人を下し、さらには心酔させた父問答には感嘆せざるを得ない。
今の自分は、親父と比べたらどの程度のものなのだろうか・・・?
ウエクサに聞いてみたが、はぐらかされてしまった。それは、言うに及ばぬほど劣っているということか、
それとも、何を話そうにも死人に口無しということだろうか・・・?

(そんなことは、今考えるべきではないな・・・くっ、そろそろ、厳しいか・・・だが、解除する
 余裕はあるのか・・・?)
トラップの達人が相手となれば、罠の隙間にこそ罠を仕込むはず。となれば、仕掛けた当人が居るところへ
向うのが妥当だろうが・・・しかし、その前に一つだけ、手を打っておこう。

そう言うと、懐に忍ばせておいたライターと紙片を取り出し、火をつけて警報装置へと投げつける。
地上階全域と地下階の一部は真っ当な総合商社が使っている建物であり、非合法手段を介入させて
正規の工法で建築された建物である。

上の商社とは関係のないこの「ダンタリオン」の区画にも、法定設備の火災報知システムと
(スプリンクラー設備がある・・・! 放水される水量全てを、鋼糸だけで、支えきれるか、
 それとも、これすら見破られているか・・・だが、何もしないよりはマシにはなるはずだ!)

僅かな間の後、各所のスプリンクラー設備が稼働し始め、一斉放水が始まる。
豪雨の如くに降り落ちる水流は、「裏殺し」中の自分には営業を及ぼさないが、鋼糸には水流を
受け止めることで出来る水滴の重みがかかるはず。たとえ途中で切れていても、視覚的に鋼糸を
見切れるようになるだけでも精神をすり減らす余地は少なくなるはずだ。

ここでスプリンクラーが作動しても商社の方には影響はなく、その逆も然り。それは確認済みだ。
さて、どうなる・・・?


その頃、都内某所。
「たのもー、天童殿はいらっしゃるか?」
「バンシニアタイスル(おじゃまします)」
「いよう、よく来たなシバちゃん・・・なぁ、今、
 聞き捨てならない言葉が混じったのは気のせいか?」
「まぁまぁ気にするな。はっはっは。今日はおぬしと少し話が
 したくてな。ちょっと無理して時間を作ってきたのだよ」
「そうかい、そんじゃ無碍にはできねーな。よし上がれや。
 そこのデカいのも一緒にな」

翠の父、天童こと酒天童子とメカシバイは、メカシバイが
兵馬俑のねんどろいどシバイだったころからの仲である。
二人の仲は、天童が聖天を去ってもなお続いている。
「で、シバちゃんや。何の用だい? 友の会のメンバーに、って
 話は断ったはずだぜ?」
「いや、それではなくてだな。ほれ、この前ドイツのイカレポンチを
 どうにかしたいと話したときに、同じ目的でドイツに向っているのが
 居ると言っていただろう? それについて聞きたくてな」
「あーあれか?それなら、ウチの翠と、杷羽・・・ってのは翠が拾ってきて
 養子にした娘でな。これがまた可愛いんだハッハッハ」

「ちょおおおおおおおっと待てい天童殿ぉ!? 今翠君が向ったと
 言ったのか? 言ったな? そうだろう? 言ったよなぁ!?」
「うおお赤くなったァ!? そいつが最近噂のトゥランファムって奴か!?」
「トランザムだ馬鹿者ォ! そんなこたぁどうでもいいわぃ!」
「しかもはえぇ!? 流石は目に馴染む色になっただけの事はあるぜ・・・
 ま、とりあえずウチのガキどもと、あとは森東の坊主もか」
「うおお・・・なんということだ!! 最初からそのことを話してくれれば
 ウチからメンバー出す必要などなかったではないかァ!!」
赤くなった上に煙まで吹き始め、そろそろメカシバイの限界が来ていた。

とりあえず庭の池にメカシバイを放り込んで放熱冷却した後、
専用電池(アリオス)を交換して無事再起動。あとは雑談で埋まりました。
「ふむ、邪魔したな天童殿。面倒をかけてしまってすまぬ・・・」
「何気にすんなって。オレとオマエの仲だろう?」
「かたじけない・・・それでは、またの機会に会おうぞ」
「バンシニアタイスル(ごきげんよう)」
「・・・なぁシバちゃん。その百貫ロボ、ぶん殴っていいか?」
「申し訳ない・・・事情があってそれしか喋れんのだ・・・」
「にしても、まさか翠君が向っておるとはなぁ。鉢合わせにならんといいのだが・・・」
メカシバイの誤算が誤算であってほしいという期待は、当然裏切られているわけだが。


で、その裏切られた現場では。

(な・・・何事だ・・・っ!? なぜ脇腹に激痛が)
再び姿を表した憎きワンダーワールドへ、正義の鉄槌を下さんとしていたまさにその瞬間、蓮鳳の
視界が暗転し、腹部への激痛と、そこから立て続けに全身へ衝撃が駆け抜ける。
「がはぁ!? ぐ、ぬぬ、まさか、このような小僧に、この私が・・・いや、だが確かに私は」
「さぁなぁ? ボケて耄碌して、ありもしねぇ夢物語でも見てたんじゃねぇの? まるでオレが為す術なく
 ぶっ倒されたかのような・・・なぁ?」
確かに私はこの無作法者の小僧を成敗したはずだ・・・!
何がどうしてどうなったら立場が逆転するようなことに・・・よもや、本当に、小僧の言うように
夢幻でも見ていたとでも言うのか・・・!?

時は少し遡る。
「昔からよぉ・・・妹イジって楽しんでいいのはアニキだけだって、決まってんだよぉ!」
「その娘は我らが十六聖天の仇敵ぞ! 我を十六聖天が裏十二位、蓮鳳と知って尚挑むか!」
「やっかましいんだよこの糞ジジイがよぉ! 年甲斐もなく若作りしてんじゃねぇぞ!」
「き、貴様ぁ! ・・・よかろう、ならば、この拳聖十指に数えられし我が秘拳、その身で受けるか!」
十六聖天裏十二位、蓮鳳。その武道は極の域に達すると言われる、練気武道の達人、生ける武神とも
呼ばれるほどの名高き存在であり、世界各地に居る「武の頂」と数えられる者の一人である彼に、
こんな勢いだけで礼の為っていない不遜な小僧が叶う訳がない。
ならば、先人の寛大なる心で、この無作法者に手痛い洗礼を与えてやるのが慈悲と言うもの。
「せめて初手にて楽にしてやろう・・・せぇい!!」

龍脈から吸い上げた大地の霊気をその身の内にて練りあげ、拳に集約。
その破壊力は岩を打ち抜き、天の雲すら打ち抜けるほどの勢いを以って繰り出される拳を防ぐ術など
ありはしない・・・のだが、
「よっと・・・はぁ、拳聖清山が如く也、と讃えられてるってぇからどれほどかと思えば・・・
 親父のだだっこパンチのほうがよっぽどヤベェじゃねぇか。ったく・・・」
「な・・・っ!?」
「あ、今動揺したろ? 気の流れが乱れたぜ? まさかとは思うが『こんなナマイキなガキンチョに
 必殺の一撃が受け止められるはずなどない!』とか思っちゃった? なぁ? なぁ?・・・なぁ?」
(見透かされ・・・否、そんな筈は)
「ない、って言いたいのかなぁ・・・なぁ、ジジィ?」

      • 有り得ぬ! 在り得ぬ! 断じて否!

蓮鳳の全戦力を投じた、烈火の如き猛攻が始まる。
繰り出される拳の、蹴りの、その一つ一つが鍛えていない常人であれば一撃で絶命せしめるほどの
強烈極まりない怒涛の連打が、無作法者の急所を余すところなくかつ寸分違わぬ精度で打ち据えようと、
唸りを上げ、風を切り、床を踏み抜き陥没させるほどの強烈な踏み込みと、神速の域に達する瞬動を以って
その猛威を揮わんとしている・・・!

だがしかし、相対する無作法者と言えば、蓮鳳の猛攻など、まるでそよぐ風に身を任せるが如くに
軽やかな体捌きでかわし、あたかも鬱陶しい羽虫を払うかのようなぞんざいさで払い落とし、
「まったく・・・ジジィ、もうちょっとやる気出せよ。な? それとも・・・」
振り抜いた一手をいなし、翠の拳が青白い輝きを放つ・・・!
「弱い相手は何処にいる、ってかぁ! ウチの妹泣かしてくれちゃった礼だ、受け取れぃ!」
彗星の如くに眩い閃光と衝撃が、蓮鳳の鳩尾に突き刺さる!

「が!? ごはぁ・・・っ!!? ぐぅ、まだだ! これしきのこt」
「なら次ぃ! 特に理由は無いけど何となく、もっぱつ喰らっとけやぁ!」
身をかがめつつも尚すぐに体捌きに支障のない姿勢を保とうとする蓮鳳の顎を、灼熱の拳が打ち抜き、
「おらっしゃあああああああああ! とりあえず突き刺さっとけやぁぁぁあああああ!」
浮いた顎に足刀を極め、蹴りを繰り出す勢いのまま前進、顔面を掴み、
「どっせぇぇぇぇぇぇぇい!」
合金製の壁をぶち抜き、蓮鳳の上半身が突き刺さる・・・!

「ふぅ・・・とりあえずすっきりしたわぁ・・・で、タマ、そっちの様子はどうよ?」
「いたいのはとんでったの!」
「そうかい、それは何より」
それだけ確認すると、めんどくさそうに、壁に突き刺さる蓮鳳の両足を掴む。

「っと、抜けねぇぞオイ・・・くっそ、やりすぎたか? まぁいいや。おい妹よ、体のほうはどうよ?
 もう痛みは引いたか?」
「うん・・・もう、大丈夫。でも、もうちょっと早く来れなかったの?」
「はっは、お兄ちゃんが居なくて寂しかったかぁ?」
「ちっがうわよバカ兄! とっとと来てりゃこんな面倒にならなかったでしょうに!」
「こっちもいろいろあったんだよ。なぁタマ?」
「そうなの! なまくらがたなどもをいじめたり、きょうりゅうさんにのったり、へんなひとを
 ふるぼっこにしたりでたいへんだったの」
「・・・ねぇバカ兄、その子なに?」
「む、たまちゃんはたまちゃんなの」
「飛行機墜落した後に寄った島で拾った。身なりはそんなだが、一応長生きしてる剣だそうだ」

刀幻郷であった一連の騒動を、簡潔に説明してやる。
「むちゃくちゃはしょられたけど、きにしないの。というわけでたまちゃんなの。おねーちゃんは?」
「へ!? あ、私は杷羽。アレの妹、一応」
「そーなのかー。それじゃあタマのおねえちゃんなの!」

「さて、ちびっこ共は置いておくとして・・・おりゃあ!」
やっとのことで、壁から蓮鳳を引き抜き、地面に投げ捨て、
オイじじぃ、起きろゴラ。何時までも寝てんなよぉ!」
そう言うと、無造作に投げ捨てて蹲る蓮鳳のどてっ腹に蹴りを入れて浮かせて、跳ねたところに
轟腕一閃、無防備な蓮鳳の体は豪快に錐揉み回転を伴いふっ飛び、壁に叩きつけられる。
「がはぁ!? ぐ、ぬぬ、まさか、このような小僧に、この私が・・・いや、だが確かに私は」
「さぁなぁ? ボケて耄碌して、ありもしねぇ夢物語でも見てたんじゃねぇの? まるでオレが為す術なく
 ぶっ倒されたかのような・・・なぁ?」

実際の所、翠と蓮鳳の攻防は、初手の時点で決着が付いていたと言えるだけの差があった。
蓮鳳の巧夫は当代希に見るほどの冴えを見せていたが、その全てはいなされ、かわされ、効果的な
打撃に至ることは一発たりとも無ければ、何の意味も無い。
一方の翠の武道、無幻流闘術は人智を超える鍛錬(と言う名のドメスティックバイオレンス)の元に
成り立っており、鬼神対鬼神を大前提としたものである以上、70年かそこら鍛えた程度の人間には
そうやすやすと太刀打ちできるようなものではない。

「何故だ・・・生涯の全てを武道に、正義に捧げたこの私が、こんな小僧に・・・っ」
「そりゃまぁ何だ、センスとか、感性とか、種族とか、そういうもんじゃねぇの? あとさ、何だ、
 少なくともこんなちびっこ相手に本気のグーで殴るような奴は、世間様からすりゃ正義じゃねぇな」
「何をほざくか、小僧が・・・っ!」
「ハン、何とでも言え負け犬ジジィ。正義は勝つ、って言うだろ? ウチの妹泣かしたオマエは悪で、
 妹を護る俺が正義だ、だったら・・・俺が勝つのが世間の道理ってもんだろ」

「だが、その娘は、我らの仇敵・・・ここで討たねば、禍根は断てぬ・・・!」
(こんな所でこの蓮鳳、負けるわけにはいかぬのだ!)

「・・・ふーん。じゃ、どうすっかなぁ~? 一応親父とシバさんの顔を立てて見逃してやろうかとも
 思ったが・・・とりあえず、腕の二本ほど捥いでおいたほうがいいかねぇ」
「別に、そこまでしなくていいよ、お兄。もう勝ちは決まったような物だし」
「・・・だ、そうだ。さすが我が妹は寛大だねぇ」
「別に、許したいわけじゃないけど、いがみ合うのも馬鹿らしいし・・・それに、私は単に、
 オリジナルと姿形が似てるから襲われただけだし」
「なん・・・だと・・・!?」
「さすがは耄碌ジジィ、部外者でも知ってるような自分の身内の事情も知らねぇってか。それとも
 痴呆症でも始まったか? ああ、おいたわしや~」
「貴様・・・何を言っている!?」
「そうだな・・・とりあえずお家に帰ったら、お面のチビスケか、ウチの妹に似てかわいいらしい
 洋ロリにでも聞いてみな。あと、そろそろ年齢相応に皺が増え始めてきたから気を付けたほうがいいぜ?
 練気が足りねぇんじゃねぇの?」
「ぐ、ぬぅ・・・」

じゃあなと手を振り踵を返し、杷羽とタマを連れて施設の奥へ向う翠。
蓮鳳は、ただ、去り行く翠らの姿を見送るより他無かった。
格下と侮った子供相手に、完膚なきまでに、それこそ夢物語に酔うほどに叩き伏されるのみならず、
あれほどの罵倒を甘んじて受け入れるより他無い、この事実は蓮鳳七十余年の生涯の中では初であった。
蓮鳳はただ、もしかしたら生まれて初めてかもしれない「龍脈直上での敗北」に、膝を屈するのみ。

「なっ・・・!? れ、蓮鳳さん! 大丈夫ですか!」
座りこみ微動だにせず、ただ項垂れる蓮鳳に、ようやく傷口が塞がって動けるようになったいっけいが
これ一大事と慌てて駆け寄る。
「まさか蓮鳳さんが、こんなにまでやられるなんて・・・! 一体何があったんですか?」
「・・・何でも、ない。何でも無い・・・」
話す事ができようものか。格下と見縊った小僧に一方的に叩きのめされました、などと言えようか・・・。
「蓮鳳さんがこれほど苦戦するような相手がいるってのか・・・俺なんかじゃ、どうなるか・・・?」
いっけいは、軽く眩暈を覚えるのであった。

「にしても、わざわざこんな辺鄙なところまで、十六聖天が二度も出張ってくるとはねぇ。暇なのか」
「暇とか、そういうんじゃないと思うけど。一応アイツら自称正義の味方なわけだし」
「それもそうだな。ま、こちとらバイト代がかかってるんだ。ボランティアに仕事を横取りされたら
 おまんまの食い上げだ。オマエやオレの学費も払わないといけないし、食い扶持増えたしなぁ」
「むぅ、たまちゃんはしょうしょくなの。しょくひのふたんはかるいんだよ?」
「そうかい、それは何より・・・と、おやアレは」

3人が歩いてきた道の向かいから、一人歩いてくるのが見える。
「・・・久しぶり、とでも言えばいいかな、翠」
「いやはや全くだな。とりあえず、うちのチビが世話になった。感謝してるぜ、苓」
二人は軽く拳を打ち合わせ、短く再会を労いあう。
「さて、そんじゃとっとと片して帰ろうぜ」
「ああ。そうだな。とっとと終わりにしよう」

翠と苓に杷羽とタマの4人に武御雷一匹は、連れ立って施設の最奥を目指す。
「いやっはァー! 中ボス祭りだコンチクショー!」
「・・・全く、想像通りだ」
「バカ兄ぃ! みっともないはしゃぎ方しないでよぉ!」
「うぃー! たまちゃんもあそぶのー! さぁタケ、おにくのたべほうだいだよぉー!」
堅実に数を減らす苓とは打って変わり、まるでモグラ叩きに興じるかの如く、クローナイズドアーミーが
湧いた傍から叩き潰す翠と武御雷が殺戮の嵐を巻き起こす。

「でだ、やっと付いたわけだが。おらっしゃああああ! 出てこいやぁ!」
「・・・ノックもなしとは、随分とまた無粋ねぇ、貴方達・・・遠路遙々ようこそ、暴れん坊の皆様。
 我がアポカリプス・ネクスターの秘密基地、堪能していただけたかしら?」
「本音を言えば ニア もう帰る なわけだが、どうせ品川さんと違ってノーリスクで返してくれる気は、
 オタクさんにゃさらっさら無いんだろう?」

「あらあら、もう殺る気マンマン、って感じねぇ・・・でもね、そう易々とはいかないわよぉ・・・」
アポカリプス・ネクスター首魁、ファウスト・フロイラインは司令室の奥へと姿を消す。
「まだ奥があるんかいな・・・面倒なことで」
ファウストを追い司令室を駆け抜けるが、そこにはいかにもな扉が二つ。
「さて、ここでまた二手に分かれる必要がありそうだが・・・どうする?」
「んじゃせっかくだから俺はこの赤い扉、じゃなくてバイオケミカル臭のするほうに行くか。
 残り全員で向こうな」
「ちょっ、お兄、勝手に仕切らないでよ!」
「む、たまちゃんはあるじさまといっしょがいいの」
「よしじゃあ聞こう。この中で本邦初公開の未知の病原体に罹患して確実に生存する自身のある人、挙手」
苓の挙手アンケートに対し、当然のことだが、意気揚々と挙手するのは翠のみ。
「じゃあ決まりだな。ウチのチビどもは任せたぜ、苓」

バイオケミカル臭のする扉を潜る翠を待ち構えるのは
「来ましたわね。しかも一人とは、なんとも自信があるようね。私の病原体旋風(フィアフルストーム)で
 貴方の肉体を新しい病原体の苗床にして差し上げましょう。うふふ・・・」
「こりゃまたすげぇな・・・ここまでゴスロリが似合うパツキンちびっこ初めて見たぞ。
 さすが欧州、ちびっこのレベルが違うな・・・ウチのちびっこもなかなかのもんだが」

もう一方の扉を潜った苓ら一行は
「な・・・何これ!? カプセルの中に・・・人、なの? 化物、なの?」
「どうやら、合成生体兵器の研究プラントのようだな。生体兵器の研究に関しては一流、と言われるだけの
 ことはあるわけか。それにしても悪趣味極まりないな」
「むむっ! こいつ、うごくの! えいえいっ」
「こら! あんまりそういうのは突いたり叩いたりしちゃダメでしょ!」

完全密封された、地上に存在するあらゆる病原体と、この部屋にしか存在しない細菌兵器が犇めく部屋に、
鬼神が一人、悠然と佇み、対する少女の様子を伺う。

生命を冒涜する実験の産物が、カプセルの中で蠢く。
濁りきった目が開かれたとき、己の生命の価値を問うべく、純粋なる生命体に襲いかかる・・・!

最下層、襲撃の報を受け退避する科学者達がひしめき合うこの場所に、発生理由不明の、立体魔法陣型の
発光現象が発生、突如として黒き鋼の巨人が姿を表す。
「・・・転移成功、か。だが随分と座標がずれてしまったか。まぁいい、誤差の範囲内です。
 それにしても・・・騒がしい場所ですね。少し、黙らせるとしましょう」
黒鋼の巨人、MMMICSエヴァリュエイターの放つ波動が一帯を包むと、あれだけ騒がしくしていた科学者達が
一斉に静かに・・・否、時間が止まる。

「さて、それでは表に出るとしましょうか・・・ふふ、太陽の戦神、調律の騎士、一足先に来させて
 頂きましたが・・・果たして、私に追いつけるかな?」
エヴァリュエイターは、その鋼の巨体の中で不敵に微笑む。
最期のゲーム、精々楽しむ事にしましょう・・・そう呟き、巨大兵装射出用カタパルトから世界へ躍り出る。
後の世に「時空間の審判者」と呼ばれる者が、この世界に現れた瞬間である・・・。

「む・・・これは何事か!?」
「・・・生体反応なし、と言うよりも、これは、いや、ですが・・・」
エヴァリュエイターの去った地下部に、椿とブリュンヒルデが訪れる。
そこにあるのは、この世界、時空から隔絶された風化しない置物、“元”人間ばかりであった。
「こいつぁ一体、何が起こったっつーんだ・・・?」
「・・・とりあえず、確実に言えるのは、もうこの場所には何もない、ということです。上に向い・・・
 こんなときに通信? ・・・メカシバイ様から?」

メカシバイからの緊急通信。
メカシバイ、ロボセラフ、自分のみに共有された、本作戦用の特殊コードでの通信だが・・・
「て・・・ったい? 今、撤退せよと申されましたか!? 何故です!」
<バンシニアタイスル(メカシバイ様の御採決です。何でも、相対すると非常に危険な存在がそこに居るそうで)>
「ですが、ならば我々は、お父さ・・・ファウストを野放しにしろと仰るのですか!」
<落ち着けブリュンヒルデ。お主の想いも重々承知しておるが・・・それ以上に、お主等を遭遇せずに
 回避できる危険から護るのも、また私の務めなのだよ。心苦しいとは思うのだが・・・ファウストが
 討たれることだけは、断言できる。速やかなる脱出と帰還を>
「・・・帰還後、説明を請います。それでは、蓮鳳様、いっけい様と合流後、速やかに帰還致します」

「おい・・・どうした、メカ嬢ちゃん?」
「メカシバイ様から帰還命令が出ました。早急に蓮鳳様といっけい様に合流し、脱出します」
「おいおい、まだ俺ら何もやっちゃいねぇぜ? 幹部っぽいのもほとんど出てきてねぇし・・・」
「私にも分かりません。ただ、ここに留まると危険が迫る、と仰っておりました」
「ちっ、こんなんなら最初っから寄越すんじゃねぇっつのよ・・・暴れ足んねぇなぁ」
「飲み屋のツケくらいなら、メカシバイ様に陳情してもよろしいかと」
「全くだ。呑まなきゃやってらんねぇぜ・・・!」

通信が終わり、メカシバイは嘆息する。
「バンシニアタイスル(ご友人の御子息様は、それほどに危険なのですか?)」
「数年前、パルテノンの“自称”堕天使を、たった一人で、一体残らず打倒した」
「バンシニアタイスル(それほど、なのですか・・・十大聖天との最初の接触がなければ、十六聖天の幾人かを
 討伐に向わせる計画だった、と伺ってますが・・・)」
「まったく、あの親子は揃って思考も行動も規格外で困る・・・夏休みの自由研究で狩られては、
 彼らも決して浮ばれまいて・・・」

メカシバイは再び嘆息する。我ながら、厄介で面倒な友人を持ってしまったものだ・・・。
だがそれにしても、なぜ翠君とその仲間は、あんな地に向っているのだろうか?
      • というか、まだ長期休暇期間ではないのだが、学業の方は大丈夫なのだろうか?
そんなどうでもいいことまで浮んでくる。

「願わくば、ウチのメンツと何事もなく別れてくれればいいのだがなぁ・・・」
メカシバイのささやかな願いが叶うことはないのは、既にご存知の通りである。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。