闇伝 外道対外道14


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放水が止む。
周囲全体に張り巡らされた鋼糸に、水が絡み付く。
(至る所に張り巡らされた鋼糸全体に、これだけの分量の放水・・・鋼糸が視認困難という脅威を失い、
さらにこの量の放水を受け止めているとなれば・・・その重量も相当な物のはずだが)

(なるほど・・・考えましたね。放水の重量で操者へ心身双方のプレッシャーを与えよう、と言うわけですか。
ですが、それだけではまだ足りない・・・)
親父殿との盟約。
回答に社長の資格ありと判断するならば、「ダンタリオン」の全てを才覚を目覚めさせる捨て駒としてでも、
一流の暗殺者の魂を宿らせよ。さもなくば滅せよ。
息子にすら妥協を許さなかった親父殿の、結局は遺言となったその言葉。
遺言を引き継ぎ、ニシキとウエクサと共に計画を練り、忌むべき鬼畜とすらも手を組み仕掛けた、
一世一代の大芝居。幕引きの時が迫っていることを、ヒガシは感じていた。

それにしても、と思う。
殺しに行った筈の相手の男気と度量に惚れ込み、寝食を共にし、そして新たな仲間と共に社を興し、
そして息子のためにこれまで共に築いたものを賭す。
妙な因果に巻き込まれてしまったものだ・・・。

「・・・そろそろ、来たころかな。久しぶりだね、回答君」
回答は「裏殺し」を解き、衣を正して相対する。
「流石ですね、ヒガシさん。おひさし、ぶり、です」
鋼糸ですらフェイク。イージートラップこそが真の脅威ということをいやと言うほど知らされた、
筆舌に尽くしがたいほどの地獄と化した回廊の果てにたどり着いた、社長室。
「裏殺し」をそこそこに習得したというレベルではまだ危ういという、壮絶なレベルだった。
「よく、ここまで、たどり着きましたね・・・さぁ、それでは、始めましょうか・・・!」

ヒガシの指が鳴ると共に
「なあっ!?」
天井が全面ひっくり返り、そこには鈍色の砲口が所狭しと並べられ・・・
「まずは、挨拶代わり」
入口の回答目掛け、灼熱の弾丸が輪舞する!

(引けば避けるのは楽だろうが、そんな手では続く罠へ誘いこまれる可能性がある・・・ここはあえて)
「前に出るっ!」
どっちに行っても罠しかないのなら、前に出たほうが目的を果たすには好都合だ!
「いい判断です。だが、次はどうです?」
手繰る鋼糸。そこから放たれるのは・・・
「ちぃ! さっきのスプリンクラーの!」
「御明察。どれだけ重量があろうと、分散させてしまえばそれまでのこと。あとは手繰り寄せて放てば、
 同じような手口を講じてきた者と同じ末路を辿ることになるわけです」

手繰った鋼糸で集めた水を、驚異的なスナップで空を舞う刃と化し、相手へ飛ばす。
鋼糸使いの技を封じたと得意満面な相手に対して放つことで、面白いようにその命を奪い去ってきた。
「・・・まぁ、このくらいは、避けてもらわないと」
「この部屋が、こんなに広いだなんて、思いませんでしたよ・・・!」
動乱の前はよく出入りしていた部屋だ。最後にこの部屋を出てから広さは変わっていないはず。
不必要に広い部屋だと思うこともあったが、「侵入者」からすれば印象は真逆、ということか。

      • つくづく、失敗したと思う。
例え扉を開ける行為で所在が悟られようとも、「裏殺し」を解くべきではなかった。
だが今は、やってしまったことを悔いるより先に、未来を掴み取らなければ!
「考えはまとまりましたか、回答君?」
穏やかにそう尋ねるヒガシだが、水刃の勢いは苛烈さを増してゆく。

「くぅぅっ! ここで退く訳には行かないんだ!」
もはや策なんてあって無きが如し。集中に少々の時間を擁する「裏殺し」は、せわしなく駆け巡らねば
発動前を潰されかねないこの戦場では用いることは、容易な事ではない。
ならやる事はただひとつ、前進あるのみ!

「・・・若さ、ですかね。ですが、我武者羅だけではどうしようもない事も、あるのですよ・・・!」
そう言うや否や、ヒガシは両手を大袈裟に振り回す・・・それは、鋼糸の乱舞となる。
「さあ・・・貴方は親父殿の代わりに、何を見せてくれますかな?」

目の前には、ここに到るまでとは比べ物にならないほどの密度の、鋼糸の網の目。
踏み込めば、即、サイコロステーキの出来上がりだ。だが、これを抜けねば目標には達する事はできず、
そこに達するには、手段は、ただ一つ。
眼差しは前へ、想いは高く、駈ける足はどこまでも速く、そして目指すは、向こう側・・・!

回答の姿が鋼糸に捕われる直前、彼は世界から隔絶される。

「・・・お見事です、回答君。この私が、君に背中を捕られる日が来ようとは、ね・・・」
「全て、貴方方のおかげです。ありがとうございます」
中村問答の暗殺術は、相手の背中を「裏殺し」で捕らえて一撃で心臓を打ち抜く、確実かつ必殺の業。
回答の繰り出した業は、まだ多少の荒削り加減や拙さは垣間見えたものの、親父殿の業に通ずるものを
確かに感じられるものであった。

「さて・・・茶番劇は、これで、終いとしましょう。回答君、いや、『社長』、これを貴方に」
「・・・! これは、親父の!」
「そう、数少ない形見の一つ、『渡し人』。今の貴方なら、親父殿も手にすることを許すでしょう」
回答は手にした「渡し人」を握り、見つめる。

「ヒガシさん、親父の最期に立ち会ったのなら、聞かせてください。親父は誰に、どうやって・・・?」

しばしの沈黙の後、ヒガシは口を開く。
「誰に・・・は、噂通り。俗にRule Breakerなどと呼ばれる、仮面に全身マントを羽織った、正体不明、
 達成率100%、足跡はおろか手法に到る糸口すら何一つ残さぬ素晴らしき手際を誇ると言われる
 当代随一の暗殺者ですよ」
「だとして、貴方と親父が二人いて、親父が殺されるなんて、とてもじゃないけど考えられない・・・
 親父のことを美化しすぎと言われても、俺には信じられない!」
「・・・そう思うのは当然でしょう。実際目の前で『あの』光景を見るまでは、親父殿を上回るような
 暗殺者が居るなどと、微塵も思いはしませんでしたからね・・・」

何度思い出そうとも、自分には何がどうしてどうなったか、理解が出来ない。
接敵し、「裏殺し」で身を隠した親父殿が、次の瞬間、両腕だけになっていた、など・・・!

依頼を受けた親父殿が、珍しく自分を同行させて向かった任務だった。
自分を同行させる理由は最期まで口にはしなかったが、今にして思えば、有事の際に少しでも情報を
持ち帰れる人間を同行させたかったのではないかと思う。
依頼そのものは到って単純、某国の要人を闇討ちするだけのもの。だが、問答を指名してきた所にだけ
不信と疑念が残る依頼であったことと、指名した当の依頼人自身が問答が来たことに軽く驚いていたことは、
今でも良く覚えている。

決行の日は、雨だった。
暗殺を警戒する警備は厳重ではあったが、所詮は親父殿の障害ではないレベルであった。
      • だが、何を思ったのか、親父殿は自分に「渡し人」を預け、自分に何かあったときは全力で逃亡して
社の全てを以ってして回答君を頂の上に押し上げる助力をするか或いは自由に使え、と言い残した。
遺言みたいな事は言うものではないと軽く言い返したものだが・・・遺言になろうとは思わなかった。

それは、依頼を果たし戻る時だった。
主を失ったばかりの館の中央に設えられた庭園に、ソイツは居た。

気付くや否や、親父殿は雷鳴と同時に「裏殺し」で迎撃に出た。
それが、親父殿の姿を見た最後となった。

気が付けば、親父殿の姿は、もう、赤黒い外套から伸びる両手に握られた両腕しか、残ってはいなかった。

自分や親父殿を見下すような、返り血に染まる仮面から覗く翠玉と緋玉の炯眼。
動けば死ぬ。暗殺者として生きてきた自分が、睨まれただけのことで、身動き一つ取れなかった。
ひと睨みしたソイツは、戦意無き者に用事は無いと言わんばかりに、親父殿の両腕を無造作に投げ捨てて
雷雨の夜に消えていった・・・頬を伝うのは、雨か、涙か。

「・・・情けない話だろう? 親父殿が殺られて、仇が目の前に居て、何も出来なかったんだよ、私は・・・」
「そ、そんなことが・・・」
親父の死に際について聞くのは初めてだが・・・話を聞くだけでも、想像を絶していた。
話を聞く限りなら、「裏殺し」を何らかの手段で無効化できるということだし、そうでなくても親父を
屠れるだけの能力を有しているということだ。

「私はね、回答君には親父殿の敵討なんて、考えて欲しくないんだよ。アレは常軌を逸している。
 私自身は話したように手合わせしたわけではないし、ただその姿を垣間見ただけだが、それでも分かる。
 アレは、字名の如く、常識や道理を打ち壊した存在としか、言いようが無い・・・」
ヒガシにそれだけのことを言わせるとは、どれほどの相手だったのだろうか。
もし、その存在と鉢合わせてしまったら、自分には何が出来る・・・?
いや、「何が出来るか」という思考をする暇すら与えてくれるだろうか? それとも無価値と看做されるか?

「何はともあれ・・・この椅子は、今日からまた、君のものだ。少なくとも今の君に敵うだけの腕を
 持ち合わせているものが社内に居ない以上、不満はあっても歯向かう者はそうは居るまい。
 後のことは、君次第だ。お仲間共々、旨くやるといい」
「ヒガシさんは・・・?」
「仮にも私は社長に反旗を翻した首謀者だよ? 居られるはずがなかろう。他所に拾われるか、それとも
 一人稼業を続けるか・・・なるようになろう」
「出来れば、貴方やウエクサさんには残っていただきたいのだが・・・」
「それは駄目だ。反目した者を置いておくのは優しさとかそういうものじゃない。無能の証明だ。
 この稼業、一度対立した以上はどちらかが死ぬまで敵同士なのだよ。理想を押し通すだけじゃ
 回らない、回せない物が世の中にはあるということを、この機会に学びなさい」
経験も浅い、まだ子供の回答には、これ以上言い返す弁は持ち合わせていなかった。

失礼するよ、そう言い残し社長室を後にするヒガシ。
見送る回答は、ただ黙するのみ。

回答は社長席の椅子に座り、瞳を閉じる。
「今日は、もう、疲れた・・・少し、休もう・・・」
今日までのことを振り返り、これからのことを考えつつ、回答は、眠りについた・・・。

一方そのころ。

「とりあえずアメちゃん食うか? ほれ」
「貴方・・・私を馬鹿にしてますの!?」
内部の病原体は完全隔離されている割に換気は問題ないという、メルヒェンカッツェ専用ルーム。
そこに乗り込んだ翠がまずしたのは、お子様への人気はおそらく低いハッカ味のアメを差し出す行為だった。
「ふむ、やはりハッカは無理か。ウチのチビもハッカは露骨に避けるから余るんだよねぇ・・・
 ウチの嫁がハッカ好きなもんで消費の面では問題ないのだが」
「・・・貴方、やる気ありますの!? なんなのこの馬鹿、お出で頂いて早々で申し訳ありませんが、
 惨めに惨たらしく、この病原体旋風(フィアフルストーム)を浴びなさい!」
メルヒェンカッツェがかざし、振り下ろす両の手から巻き起こる旋風。体内で培養した様々な病原体が
その旋風に乗り、翠の全身という全身にまとわりつき、体内に侵入する。

「ふふふ・・・これで貴方の体には、何万、何十万というウィルスが進入したわ・・・あとは、本来なら
 私の言葉一つでウィルス達は活性化するのだけれど・・・貴方のような失礼極まりない粗野な男には
 慈悲など必要ありませんわよねぇ・・・」

そう言ってから数分。メルヒェンカッツェは違和感を覚える。
「・・・ちょっとお待ちなさい? 貴方、何とも無いんですの!?」
「そりゃそうだろ。これでも健康優良児だぜ? サボることはあっても病欠は生まれてこの方一度もないし。
 つか黴菌ごときでポックリ逝っちゃうほどヤワな鍛え方してないし、それにお嬢ちゃんオリジナル以外は
 一度は罹患暦あるもんばっかだし。抗体あればどうにかなるのから罹患部位を切り捨てて作り直せば
 済むものまで、体が勝手に判断してくれるし。問題は便が近くなることなのだが」
「なぁ!? ああああああ貴方にはデリカシーというものがないんですのぉ!」
「うむ、よく言われる。特に嫁に」

嫁と言われている人は本当に苦労して・・・いやいやいやいや何を考えているんだ私は!
「これだけのウィスルに罹患して何とも無いなんて・・・そんなこと有り得ない! ・・・それでしたら、
 こんなのは、いかがでしょう?」
スカートに隠れた大腿にベルトで留めたホルスターから、愛用のデリンジャーを抜き、ウィルス満載の
特性弾丸を撃ち放つ!
「おぶぅ!?」

すこーん、といい音を放ち、弾丸が額の中央を射抜き、弾丸は脳幹に突き刺さり動きを止める。
「ふふ、さすがに首から下は丈夫なんでしょうけど・・・首から上、とりわけ脳は切り捨てたり再生したり、
 というわけには行かないでしょう? さぁ、そのままウィルスが見せる甘い夢に包まれて、死出の旅へと
 お逝きなさいな・・・」
この男の脳がドロドロに溶け、内側から崩壊していく様が、手に取るように分かる。
もう頭蓋は只の入れ物。あとは腐食の菌でもばら撒いて処分してしまいましょう・・・。

足元に何かが当たったよな感触。
何かしら?と下を見ると、そこにはあの男の首が。
「あらあら・・・腐りすぎて千切れてしまったのね? 安心なさい、せめて首から下と一緒に処分して」
「よっと。悪いねー拾ってもらっちゃって。まぁ作り直したからいらないっちゃいらないんだけどね。
 どっかの第六天魔王みたく、頭蓋骨で金の杯でも作るかい? ・・・って流石にこんなチビッコに
 酒を勧めるのは善くないわな。ウィスキーボンボンですらやばそうな感じだし」

「!?!?!?!?!?!?!?!」
メルヒェンカッツェの思考がパニックに陥る。
普通に考えて、人体の機能中枢である脳が失われて生きていられるなど・・・
「はっはっは、これでも特殊な作りなものでねぇ。ま、人間頑張れば首から上なんてなくたって、
 生きていけるもんさね。はあっはっはっはぁ!」

      • 狂ってる。よく分からないけどとにかく狂ってる!
「うあああああああああ!! ああああああああああああああ!!! 死ね! 死ね!! 死になさぁい!!!」
次々に放たれるデリンジャーのウィスル弾頭弾・・・だが、弾丸以外はごく普通、というよりはもう
型としては旧式のデリンジャー、弾丸もウィルス満載であることを除けば普通の弾丸と変わりはない。
ぱしぱしっと乾いた音と共に、弾丸は次々と翠の手に収まっていく。

「つかさ、お嬢ちゃんや。おまいさんバイキンとその弾切れデリンジャー以外に獲物ないだろ」
「それがどうしたってのよぉ! この異常生物があああああああああああああ!! ・・・はっ!?」
デリンジャーの装填数はそれほど多くはない。連発しようものなら直ぐに弾切れを起こすのは必然。
シリンダーを空打ちする撃鉄の音で、メルヒェンカッツェは我に返る。
「でだ。逆にこっちはいくらでも手の打ち様はあるわけさ。だってさ・・・っと、どこ仕舞ったっけな・・・
 あったあった、これだこれ。いやぁコイツ探してるせいでウチのチビが一発余計に糞爺に殴られちまって
 大変だったんだぜ? 落とし前はつけたけど」

そういう翠がメルヒェンカッツェに見せ付けたのは・・・
「『被検体D-66 検体報告書』・・・!? な、なんでそんな物を貴方が!?」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず、って言葉があってだね。ちょっとばっかし上に立ってる資料庫とか
 図書館の書庫を何件か漁ってたら見つけたわけよ。ナチ公のことならいくらでも資料出るかと思ったが
 ようやく見つけたのがD-53、55、61、66、73の報告書だったわけだ」
「貴様ああああああああああ! それをどうするつもりだああああああああああああああ!!」
「ん? 要らないから燃やして捨てるけど? つか66以外はもう焼いちゃったし」

「・・・へ?」
「こんなんあってもしゃあないやん。それとも、身長体重スリーサイズその他諸々世間様に公表されたい?
 そういう趣向を持ってるのならお上に郵送するが」
「な、な、な、ななななな何なのよぉ!? 」

「つかまぁ別件で知り合ったD-73からの依頼があってな。もし自分以外に利用されている被検体が居たら、
 無理なら殺すか出来れば救ってあげて欲しい、ってな。ちなみに現状生き残りはおまいさんことD-66と
 D-73の二人だけ。D-73はどこぞで平穏無事に暮らしてらっしゃる。いい引取り手に恵まれたおかげでね」
「それが、私とどう関係するって言うんですの? いまさら私は救われたいなどと望んでは」
「ふむ・・・ちょっと痛いが我慢しろよ」
そう言う翠は一瞬で間合いを詰め、
「なぁ!?!?! 何を」
「ぴーぴー騒ぐな。平たいのには興味はない」
メルヒェンカッツェの胸元をはだけさせ、
「だだだだだからってこんな破廉恥なはぐぅ!?」
肋骨の隙間に手刀を突き立てる。
「はぐ、が、あう、ごはぁ!?」
「ふむ・・・あった、これか。あともうちょっとだけ痛いけど我慢しろよ・・・」

メルヒェンカッツェの体内から勢い良く引き抜かれ、血飛沫を伴う翠の手は刹那の間に硬く握られ、
その中から鈍い爆発音がする。
「はぐ、ごほ、がは、な、なにが」
「いいから喋るな。今傷は塞いでやる・・・ってーなー、普通部下の監督に超小型核弾頭とか心臓近辺に
 仕込むか? そのへんどう思うよ、お嬢ちゃん」
訳が分からない。脱がされたと思ったらお腹に手が刺さって、何か取られて、核弾頭!?
男の指先が仄かな光を放ち、見たこともない印を切ると、傷がすっと消えていく。
「ま、痕は残らんだろ。さすがに乙女の珠の肌に傷は残せないからな。服は自分で着れるよな?」
そう言われて、改めて胸元がはだけている事に気付き、いそいそと振り向いて着崩れを直す。
「で、とりあえずこれでここに拘束される理由はなくなったわけだが。で、どうするよ」
被検体D-66としてカプセルに保管されていたところをファウストに発見され、目覚めさせられ、
「愚鈍」の二つ名とデリンジャーを与えられ、同士と共に血染めの道を歩まされた自分に行き場などない。

「ふむ、特に行き場もないといった顔だな」
「・・・当然でしょう? 私は、ここと戦場以外の世界なんて、知らないもの・・・」
「よしきた。ならウチで引き取る。どうせ今更ちんまいのが二人増えても家計にゃ痛手はなかろう・・・
 あ、でも学費がデカいか? ・・・まぁタマは学校行かせなくていいからどうにかなろう。いざとなりゃ
 杷羽にはバイトで学費稼げって言えば済むだけの話だし・・・」
「・・・何がどうしたらそういう話になるの? 私は行くとは言ってないわ」
「まぁそうだが、とりあえず野垂れ死にさせるのは忍びないしな。とりあえず出て行くにしても、
 ちゃんと世の中勉強してからになさい。ちゃんと独り立ちできるようになったらどこに行っても構わん」
「むぅ・・・」
この施設がこの後、この人らが勝利を掴むような事があれば、爆破されるであろう。そうでなくとも
ファウストなら何はなくとも爆破くらいはしそうだ。
なら、せめて末期はこんな辛気臭い鉄の箱の中じゃなくて、任務のときに垣間見た、空の下がいい・・・。

「分かりましたわ。仕方ないから、付き合って差し上げますわ」
「なぜ急にエラそうになる!?」
「それはそうですわ。貴方は頼む側、私は頼まれる側でしてよ? それに・・・せきにんは、とって、
 いただかないと・・・」
メルヒェンカッツェは顔を赤くして、目線と顔を逸らし、最後の言葉は口篭ってしまう。
「何言ってんだ? とりあえず行くぞ・・・ふむ、何て呼ぼうか。名前は?」
「メルヒェンカッツェ、と皆は呼んでいますわ」
「長い。言いにくい。却下」
「いきなり何ですのぉ!?」
「そうだな・・これから大きく育つ芽吹きの芽に、目の色からとって瑠璃色の瑠、で芽瑠(メル)でどうだ。
 これなら二文字、呼び易い事この上ないし、生まれ変わるなら名前も変わったほうがらしいだろ?」
「ま、まぁまぁのセンスですわね。それでよろしくってよ、兄君様・・・と呼べば宜しいかしら?」

「ふむ、良く出来た妹が出来て何よりだ。杷羽のやつはいちいち反抗的でなぁ・・・、っとそうそう。
 ちなみにオレは翠。あとで杷羽とタマ、それにダチの苓ってヤツがいるから、会わせてやるよ」
「分かりましたわ、兄君様・・・ちょ、どこへ行きますの!?」
「そりゃ出るんだろうが。この奥にオカマ野郎がいるんだし、ぶっ殺してこないとバイト代出ないんだよ」
「ち、違いますわ・・・付いて行ってあげるのですから、え、えすこーとくらい、してくださいませ、
 あにぎみさま・・・」
「めんどくせぇなぁ・・・はいはい、分かりましたよお姫様」
翠は芽瑠の手を取ってやる。顔に朱が差した芽瑠の顔を、翠が伺うことはなかったのだが。

新たに出来た兄妹は、仲良く壁を(兄が)蹴破って、施設の最重要区画へと向かうのであった。
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