ガラリ―。と瓦礫が崩しながら現れた“赤の女王”の口元には、薄らと赤いものが滲んでいた
だが、その顔は何故か嬉しそうに微笑んでいるようにも見えた
まるで、我が子の成長を喜ぶ母のように
「なるほど。見誤っていました。データにない身体能力です。戦闘能力指数を1から2に訂正しましょう」
その言葉を聞いたアリスは、にやりと笑い
「2でいいの?今のアリスを貴女の中にあるデータと一緒にしてると、後で困っちゃうよ」
再びアリスの姿が“赤の女王”の視界から消える
「!?」
「赤の女王さん…?」
再び、その速度に反応することが出来ず無様に“赤の女王”の身体は宙を舞っていた
(お母さん、アリスには大事な友達がいっぱいできたんだよ。みんなすごく強いんだ
毎日、みんなの背中を見てきたわ。それに好きな人が出来たんだよ。ジロウっていうの
今の私の力は、みんなあの人達のおかげ。今の私があるのはみんな、あの人たちのおかげ
そして、私を産んでくれた貴女のおかげです。だから、お母さん。アリスが貴女を…)
「倒します」
渾身の一撃を、胸に叩き込む。それで終わりのはずだった
だが―その一撃は空しく空を切る
「避けられた!?」
「あなたの身体能力は完全に私を圧倒していますね。予想外でした。ですがあなたは勘違いしています
私に実装されたドリームワールドは、アリス計画の母体となった人物の能力と聞いています
それはつまり」
いつの間にかアリスの背後に立っていた“赤い女王”の周りには鏡が光を反射させ煌めいていた
「嘘…!」
「すべての能力は私から生まれた。三種の神器が埋め込まれたあなた程の出力はないでしょうが
お見せしましょう。これこそが真のオリジナル―」
“赤の女王”の周囲に現れ出したそれらは、姿や形は若干違えど、それは間違いなく
アリスやワンダーワールドが使役する能力と同等のモノ
「終わらない夢をその胸に抱いて、逝きなさい」
◆
ぞくり、と寒気がした。酷く嫌な感じだ
「どうしたのだね、マスター」
「感じる。すごく嫌な気配」
「あぁ、そうだね。マスターのお友達は酷くピンチなのではないだろうかね」
「…」
「それでも助けに行かないのかい」
「いかない。信じて待ってろって言われたから」
そんな二人を囲むように、かつてスコットランド人だった亡者が
襲いかかる
「だから、せめて戻ってきた彼女達がこれ以上闘わなくて済むように
この場所に巣食う亡者を一掃する、か。泣けるじゃないか、マスター」
「煩い」
「しかしこれは恐ろしい数だね。スコットランド人は一体総人口何十憶いたんだい
私もさすがに少し疲れてきたよ。いっそ力を解放させてくれないか」
「…」
吸血皇の言葉は最もだった。かつてスコットランド人と呼ばれ、今は闇に囚われたモノ達は
倒しても倒しても、無尽蔵に湧いて出ていた
それこそ、もう六十億は下らない数を倒した気がする。それでもまだ、その攻勢が止む気配はなかった
自分も、吸血皇もまだ力は温存してある。だがこれはいざという時に蓄えてある力だ。そう簡単に使うわけにはいかない
特に、今のこの自分の力が不安定な状態では。そんな時である。彼女は色の変わった左目に、見覚えのある影を見つけたのは
「お主ら妾を蚊帳の外に置いて、自分たちだけで面白い事をしておる楠」
これから悪戯をする子供のような笑顔を浮かべるそれは、どう見ても幼女
幼女は、周りにたむろする黒い人影など、まるで見えていないかのように
デスメタルに近寄ると、指を鳴らす
パチン―。周りに殺到していた黒い影は、一つ残らず消え去っていた
「なに。事の成行きを見守りにきただけの事よ。三種の神器は元々妾の物であるしの」
笑う幼女。彼女こそは幻獣の神。
12話くらい
最終更新:2009年07月10日 22:06