強襲 エース・ザ・フォーカード


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「えっ!?」
突然、それまで立っていたアスファルトの地面が消えた。
ナナエルは重力に引かれるまま、まっさかさまに落ちた。
見上げると、アスファルトの天井には渋谷駅前スクランブル
交差点の横断歩道がフレスコ画の如く広がり、
渋谷駅が、ハチ公像が、109がシャンデリアのように
飛び出している。
真下には青空が広がっていた。

世界が反転していた。空が地面に。地面が空に。
ウェルドバングの兄弟と白スーツの男を不振げに見守って
いた信号待ちの群衆は、末期の絶叫を上げながら砂のように
パラパラと青空に吸い込まれていった。
「ナナエルッ!!」
放心状態のナナエルは、兄の呼びかけに正気を取り戻し、
差し出された右手を掴んだ。兄妹は宙を舞った。
「ホホホホホホッ!!あーおかしい」
反転した世界を背景に白スーツの男が立っていた。
男の手にはカードが握られている。ハート、ダイヤ、スペード、クラブ
の4、そしてハートのエース。

「名乗らせいただくわ、アタシはエース・ザ・フォーカード」
恐るべき名だった。十大聖天第四位。
おそらく十六聖天に比肩するであろう組織のナンバー4。

空に消えた人たちはどうなってしまうんだろう・・・・
ナナエルは少し考えて震えたが、そんなことに気を取られて
いれば自分の命が危ない相手であることは理解した。
「貴様・・・・なんということを・・・・・・」
「あら、あなた達のボスほどじゃないわよぉ」
惨事は目の当たりにして、カイザーの眼差しに怒りが
刻まれたが、精神に動揺はない。
十六聖天としての矜持、ウェルドバング家としての誇り、
長兄の責任、カイザーを支えるものは強靱だった。
それが、エースには面白くなかったし、また嗜虐心を
そそるものでもあった。
「カオも良くてタフでらっしゃるのね、でも
つまらないわ」
男は左胸のポケットからカードを引いた。
クラブの5だった。
瞬間、ナナエルが「きゅっ」という呻きととも
に消えた。「ッ!!ナナエル!?」
『死角無き視覚』を持つはずのカイザーが、
何故不意を付かれたのか。
黒く刺々しい鎖に首を吊られたナナエルは、
ものすごい勢いで舞い上がりアスファルトの
天井に叩きつけられた。
背中に走る激痛に声を上げようとしたが声にならない。
またカードを引く、スペードの6。
世界が90度回り、アスファルトの天井は
絶壁と化した。
かろうじて建物の中に避難していた人々が
まろび出し、ある者は渋谷駅の壁面に叩き
つけられ血を吹き出しながら折り重なり、
ある者はガード下を抜けてどこまでも
滑り落ちていった。
また一枚、ダイヤの7。
鈎の付いた刃がナナエルの右太股を貫いた。
「-アアアアァァッ!!!あぐッッあぁッ!!」
鮮血が白い太股を染める
また、ダイヤの8。もう一枚の刃が、ナナエルの
左手の平を貫いた。
最後にクラブの9、ストレートの手だった。

ナナエルは昆虫標本のように壁面に縫い
つけられた。「ナナエルッッッ!!!」
「ホホホッ!オニーサマ、いいカオできるじゃない!」
壁を背にして滑るように舞い上がったエースは
苦痛に顔を歪めるナナエルの横に侍った。
「ハァッ・・・ハァッ・・・アアァ・・・・・く・・・そ・・・」
ナナエルは憎悪の眼差しをエースに向けたが、
髪を鷲掴みに制され、黄金の閃光がエースを
焼くことはなかった。
「ホホホッ、いいわねぇ女の子って、泣いても笑っても可愛いわ」
「貴様アアッ!!!」
激昂したカイザーの瞳が凄絶な光を放つが、
「ッッ!?」
顔面に激痛が奔り、カイザーは昏倒した。

目の前が真っ暗になり、ビルの壁面に落下する。
視界を失うということは、カイザーにとって
全く初めての感覚だった。混乱して手で顔を押さえたが、
感触に違和感がある。
皮膚だ。
眼窩があるはずの部分を皮膚が覆っていた。
指で顔を掻いたがそこには瞼も眼球もまつ毛の
感触も無い。

突然、視界に光が差し、カイザーの視界に
映ったのは、顔を押さえて跪くカイザー自身。
「ばかね、そっちじゃないわ」
真横に気配を感じた。そこには
エースの顔があった。
カイザーは驚愕の事実を理解した。

エースの右手にはハートのキングが握られていた。
カイザーの消えた両目は、なんとハートのキングの
両目そのものになっていたのだ。
「勢いあまって自分自身を焼かなくてよかったわねぇ」
文字通り、
「これで、あなたの切り札は私の手の中・・・・・」

磔のナナエルに寄りかかるように体を預けた
エースは指を太股の傷口に突き入れ、
乱暴に掻きまわした。
「ぎぃぃッッ!あがぁッ!ヒッ!?・・・アアアア!!」
激痛にのけぞり、全身が小刻みに痙攣した。
手足を振り乱し悶える姿を、カイザーは
見ることができない
妹の悲痛な叫びのみを、カイザーは遠い幻の
ように聞いた。
「ナ・・・ナ・・・エル・・・」
命より大事の妹を虜にされてもなすすべもなく
地に膝を付き、ウェルドバング家誇りの魔眼さえ
奪われた。カイザーにとってこれほど屈辱的な
敗北がかつてあっただろうか。
「絵になる男ね、カイザー・ウェルドバング、
でも駄目、あなたは花も咲かない荒野で、血を流しながら死ぬ運命・・・・・・」
「お・・・兄様・・・・逃げて・・・・お願・・・い」
エースはナナエルの左手に右手を重ね、力強く握りしめた。
「がああァァァッッ!!痛ああああぁぁッッウ、ア、ア、ア、あ・・・ッッ」
貫かれた左手から血が滲み、ナナエルの眼から
涙が溢れた。
「お兄様に無理させちゃ駄目よナナエルちゃん」

敗北?
敗北とは何か?カイザー・ウェルドバングは敗北した。
完膚無きまでに。
「ナナエル・・・・聞け・・・・この身朽ち果てようとも、
どれほど家名を穢されようとも・・・ナナエル」
だが、カイザーは誓ったのだ。友に誓ったのだ。
誓いは違えぬと、誓ったのだ。
「兄として・・・・お前だけは・・・絶対に守る・・・」
切り札は、ある。

カイザーは親指を立て、自らの額を突き、
真横に引いた。「!?」
一文字に切り裂かれた額の傷口から
血が噴き出したが、奇妙な事が起こった。
傷口は少しずつ右にスライドし、耳の後ろに
隠れたかと思うと首筋を通り、襟元に
消えた。
と思うと、傷口は袖を抜けてカイザーの
右手の平に現れた。
「・・・・ナナエルを残し、全テ・・・滅ボス・・・・」
傷口が膨らみ、血だまりからまつげが生え、
上下に切り開かれると、病的な眼差しの
赤黒い瞳が現れた。

「カイザー!!建物の中に生存者がいる!!
その技は使うなァァー!!」
力強い、聞き憶えのある声をカイザーは聞いた。
「次郎かッ」
109の屋上から飛び降りてきた次郎にエースは
胸ぐら掴まれバランスを崩し、二人は揉み合い
ながら落下した。
「あなたね!!無能力者の分際で十六聖天入りした、
人気急上昇中の剣士様ってのはあああああああ!!」
次郎の愛刀が閃いた。
エースはカードを引いた。
一塊りは二人に分かれ、血しぶきが上がった。

次郎は滑るように『着地』した。
地面が90度回転し、世界が正位置を
取り戻したのだ。
「おおぉごわああああぁぁぁ、あ、あ、あ・・・・!!!!」
咆吼を上げるエースの右手は次郎の
小手打ちに切り落とされ、小指を残して
消失した。
崩れ落ちるエースの膝には、
スペードの10、J、Q、K、
スペードのAのみは両断されていた。
ロイヤルストレートフラッシュだった。
「これで『ブタ』だぜ・・・・・女を泣かせやがって」

「お兄様ッ!!」
ナナエルはその身を繋ぐ縛鎖から解き放たれ、
兄妹ひしと抱き合った。カイザーの眼はカイザーの
元に戻り、二人涙を流した。
「次郎・・・・・」
「ん?」
「すまない・・・・一生の恩を受けた・・・・」
「んっ」
らしくない涙声のカイザーに、次郎は低く唸って返事をした。

エースの胸ポケットは次郎の二の太刀によって
切り裂かれていた。カードがパラパラとこぼれ落ちた。
同時に、空から人間が次々と落下し、地面に叩きつけられ
皆、放射状に広がって死んだ。
次郎は憤怒に燃えてエースに一刀を浴びせた。
体は二つに切り裂かれたと思うと形を失って崩れ、
黒い液体となってアスファルトに吸い込まれていった。
「イイ男ねジロー、アタシを斬りつけることができるなんて
十大聖天にも何人いるかしら!!」
地に落ちたカードも蒸発するように消え失せ、一枚だけ、
ジョーカーのみが残った。
「無能力者の分際で・・・貴様は八つ裂きだ・・・ジロー」

強襲 エース・ザ・フォーカード          END
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