ありがとうの合言葉、征雄


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「いやぁ・・・まったく、よくやるもんだね」
「全くだ。さっさと片してメシでも食いにいこーぜ」
「あ、そうそう。メシといやぁ知ってっか? ついこの間潰れたあのラーメン屋さ、
 結局またラーメン屋になったらしいぜ」
「これで店主のオヤジまで変わってなかったらバカウケだな」
「全くだなハッハッハ」(大いに笑ってくるがいいさ。吹き具合、期待してるぜ?)
「で、だ。そろそろあそこでなんかキレ気味な顔でお出迎えしていただいてる皆様が」
「そろそろ構ってやらねーとかまってチャンになりそうな勢いだもんな」
「何より可哀相なのは・・・あんないい歳こいたおっさん共が、こんなガキ2人に」
「滅多打ちにされてガン泣きしちまうかもしれねぇ、ってことだよなぁ・・・」

何だてめぇらぁ! ナメとんのかこのガキゃあ!
「あーあー、なんともまぁテンプレートなことで。今時ヤンキー漫画でだって
 そんなこと言わねぇぞ・・・って、今時の若人じゃなかったわな、すまん」
「とりあえず、俺ら『征雄』からきましたー  つってもこんな末端じゃ知らんか」
「死にたい奴からどーぞー、いらっしゃ~い」
んだとごらぁ! いてこますぞぉ! と、これまたテンプレートに騒ぎ出すヤのつく
自由業な方々の喧騒を聞きつけてきたのか、屋敷の奥から二人の漢が出てくる。
何処で調達した容易に知れる典型的な現代刀を剥き出しにした、痩身の漢
どう鍛えたらこれほど付くのかと思えるほどの鋼鉄の筋肉に身を包んだ、筋骨隆々の漢

あ、兄貴達! こんな小僧どもに兄貴達が出てくる必要なんてありゃしませんぜ!
そうですぜ、こんなガキども、オレたちでノして、サメの餌にでもしてやりますぜ!
だがしかし、筋骨隆々の漢が、息巻く子分達を手で制する。
「アイツラの実力を見て分からないオマエらにゃ、相手なんて無理だぼるぅをぁ!?」
子分達の熱視線を集める漢の首が、軽薄そうな高校生の裂帛の拳の一撃で景気良く曲がり、
続く旋廻脚にて無駄にデカい巨体はあたかも手裏剣の如く激しく回転しながら跳び、
最終的には今日からヤの付く自由業なお宅の壁に、見事なまでに突き刺さる。

「あ、ごめん。話長くなりそうだったから、ついブン殴っちまったわ。わりーわりー。
 ・・・多分死んでると思うけど、話の腰折ってすまんかったわ。勘弁な?」

あ、あにきぃーーーーーーーーーーーーー!!
「これはまた、見事なコーラスだな。いっそ合唱団にでも鞍替えしたらどうだ?」
「まったくだ。で、あと一人、活きのよさそうなのが居るけど、どうするよ」
「あーだめだわ。この聞かん坊、こんな雑魚斬るのは嫌だってよ」
「そかー・・・うっし、じゃ殺るか。来な、ダンビラムーチョ」
「おいおい、ダンビラムーチョは失礼だろ・・・痩せてるぜ?」
「流石は、噂に聞こえる『征雄』のエージェント・・・まさかこんな子供とはな」
「だってよ。どうする? ヒマだし遊んでく?」

「いや、必要ない。もう終わってる」
「そか。じゃ、奥に行きますかね」
はぁ? 何言ってやがんでぇ! やっちまってくだせぇよ兄貴ィ!
 ・・・兄貴? あ、あにきぃーーーーーーーーーー!

首から上と下がゆっくりと分かれていく痩身の漢に見送られ、屋敷に入っていく。
「にしてもすげぇな、オマエのその単分子ワイヤー。何でも切れるな」
「何でもって訳にはいかんが、聞かん坊を抱えてると、こういうのでも持ってないとな」
「ま、技巧派のオマエと違ってオレは腕っ節一本だからな。どんな時でも全力さね」
ヤの付く自由業のお宅へ、突撃となりの晩御飯。残念ながらヨネスケも飯も出ないが。

「ちーっす、『征雄』でーす。組長のおっさんはここですかいな?」
「な、なんだ貴様等!? 何処から入った!」
「どこって、正面玄関から。ご家族の方の手厚い歓迎を受けましてね、いやー参った参った」
「全くもって、実に素晴らしい歓待でした。いやはや、参りましたよ」

ある者は拳や蹴りでその身を砕かれ、またある者は肉体を切断され、またある者は
急所のみを撃ち抜かれる。死地といっても差し支えない状況である。
「時間と金をかけて集めた、ワシの自慢の改造人間軍団が、全滅だと・・・?」
「そういうこと。あとは、アンタと、番犬と、『アレ』だけ、ってわけだ」
「ほれ、さっさと出しな、『アレ』。早く帰ってメシ食いたいんだよ。腹減ったし」
「貴様等、宝玉が目的なのか・・・!」
「でなきゃ、極道潰しなんて暇人しかしねぇことに無駄な労力割いたりしないっての」
「全くだ。・・・で、翠(スイ)、オマエは地下な。オレは番犬退治」
「あいよ。了解。じゃ、また後でな苓(レイ)」
「地下の事まで知っておったとはな・・・『征雄』め、何が目的だ!」

「報酬を対価とした、れっきとした依頼、つかバイトだ。やらない訳には行くまい」
「俺らだってバイト代くらい欲しいんだぜ? 今月もカッツカツなんだよ、財布」
極道として長く生死を賭けた世界を生きて来た漢も、小遣い稼ぎで惨殺劇を繰り広げ
軽いノリでここまで来たという二人には、もはや絶句するしかなかった。
「貴様等イカれてやがる! そんなにご所望なら、ワシの番犬の力を見せてやるわ!」
「だってよ。自分のじゃない所が歳を感じさせるねぇ。じゃ、頼むぜ苓。
 聞かん坊がやる気になる相手だといいな」
「くっくっ・・・そんな余裕顔していられるのも今のうちだけだぞ・・・さぁ出ろ!」
おっさんが野球ボールくらいの大きさの玉を懐から取り出し、その封を切る。
開いた玉から煙が噴出し、周囲の空気が突然凍りついたように張り詰めていく。
番犬とやらが姿を現そうとしている。と同時に、苓も独特の感覚を掌に感じていた。

「やっと出番・・・つか、暇でしょうがないから出せ、って感じだな」
そう呟くや否や、充満していた煙が霧散し、異形としか呼べぬ容姿の、あらゆる動物を
継ぎ接ぎした獣が姿を表す・・・アポカリプス・ナウから横流しされたキマイラである。
「いやはや、そんな隠し方してるとは・・・無駄に金かけたねぇ、この一瞬の為に」
「そんな軽口が叩けるのもここまでだ小僧! もう一人もあとでゆっくり地獄に送って
 やるから、先に逝くがよいわぁ!」
寿命以外では死なないと豪語する翠を殺すなどと、馬鹿を言うのも大概にして欲しい。
そう思いつつ、苓は聞かん坊・・・右手に隠し持つ無銘刀「斬」を使うための構えに入る。
左手を何かを掴むかのような形にして左腰へ、右手は左手の少し手前で軽く開く。
肩幅よりやや広く両足を開き、軽く腰を捻り、眼差しは眼前の異形へ。
「なんだ、それは・・・刀も持たずに居合でもするつもりかぁ?笑わせるわ!」
「そうだと思うなら、来ればいいじゃん。怖気付いたの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「・・・きさまぁああああ! やってしまえぇ! 食い殺せぇ!」
次の瞬間、苓は飛び掛らんとする継ぎ接ぎ獣と極道に背を向け、身の丈の倍はあろうか、
刀が収まるにしてはバカ長い鞘を器用に左の五指で旋回させる。そして、縦向きにぴたりと
動きを止めた鞘に、宙を舞っていた血よりも紅い真紅に染まる刀が納まり、ぱちん、と
軽快な音を立てる。鞘に収まった刀は炎を渦巻き、そして世界から消え去る。

同時に、継ぎ接ぎ獣は真っ二つ・・・否、最早原形を留めぬほどに切り刻まれる。
「サイコロステーキいっちょあがりっとな。絶対食いたくないけど」
「な、なんということだ・・・闇オクで大枚はたいて買ったキマイラが、こうも・・・」
「金持ってるだけのオヤジってだけじゃ、この程度の雑魚しか買えなかったってことさ。
 コイツも、暇だから出てきただけだったしな」
「斬」は妙なプライドがあるようで、自由気ままに振るわせてはくれないのだ。

「なんだよもう終わったのか? ざ~んねん。で、こっちは首尾よくゲットだぜ」
「それが盗み出されたっていう十二宝玉とやらの、行方知れずだった最後の一つか」
「らしいな。とりあえずこれ持ってきゃボスも納得するだろ」
「な・・・なな、あの厚み30cmの超銅金で作られたシェルター兼大金庫を、どうやって・・・」
「どうもこうも、あんな硬いだけの役立たず、クランブルポイントに一撃食らわせりゃ
 それで終わりだろ。あんな程度なら、俺らでなくても破壊できる奴はごまんといるわ」
自分らもそうだが、名高き十六聖天を始め、常軌を逸した存在がごまんといるこの世界では、
神秘性の欠片も無く硬いだけなど無意味に等しい。こんな凡人には理解できない世界だろうが。
「じゃ、貰うもんもらったし、狩るもん狩ったし。そろそろ引き上げるか、苓」
「んだな、翠。あとは・・・そこの人間辞めてる禿茶瓶片して終わりにすっか」

今回の依頼は、奪われたと目される十二宝玉の奪取と、闇オクで極秘に販売された
アポカリプス・ナウの末端が金欲しさで横流ししたキマイラの討滅である。
前者については、様々な組織が狙っている至宝の一つであり、使用するに及ばずとも、
保有するだけ様々な意味で価値はある。
後者に関しては、そういうものの存在自体が許せないというボスの意向、ただそれだけである。
「ええ、確かに受け取ったわ。ご苦労様、翠、苓。報酬はいつものように振り込んでおくわね」
「あいよ、ボス。じゃ、ここいらで失礼」
「それでは失礼」

二人が出て行き一人になった執務室。ボスと呼ばれた女性は、宝玉を手に、妖艶な笑みを
浮かべていた。・・・それは、十二宝珠がもたらす、世界を、そして様々な組織を巻き込む
運命の奔流を期待してのものだろうか。

「さて、と。じゃ、なんかメシくってくか、苓」
「そうだな・・・この時間でもやってそうなメシ屋っつーと・・・もう飲み屋、麺屋、吉牛と
 一部レストランくらいしか残ってなさそうだけどな。ビニ弁は勘弁な」
「ま、いいじゃねぇの。飲み屋はさすがに無理として、タダの水で乾杯と洒落込もうぜ」
「じゃ、てきと~に探して食っていくとすっか」
一仕事終えた秘密組織『征雄』の若きエージェントは、何処にでもいる高校生に戻っていく。
夜の街は、けたたましくサイレンが鳴り響くばかりである・・・。

後日、とある極道の組長自宅が見るも無残、語るも無残な有様になっていることが報道されるが、
生き残った目撃者が居るにもかかわらず、その犯人の足取りは、全くつかめないという・・・。
また、まっとうな人間は生き残り、改造手術を受けた人間だけが殺されていた、とも囁かれている。

ありがとうの合言葉、征雄 完
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