『鬼哭聖天』


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壊れかけた霊気灯の青褪めた光が、夜霧に濡れた死都ベルリンを陽炎の如く照らし上げる
嘗て不屈の精神により二度の戦火から蘇生した石と鉄の街も、今は廃墟と乞食の見本市と成り果てているばかり

畸型の鼠が骨と皮ばかりの死体を齧る暗い路地裏、地獄の入り口のようなその細道を音も無く歩む者がいた
長身痩躯を朽ちかけの黒外套で覆い、腰には一振りの倭刀
赤い返り血に染まった幽鬼の如き面貌は、つい今し方の修羅場を克明に物語っている

「……此処も、外れだったか……」
男は独りごちると、左腕に携えていた蹴球のような物を機械義肢の膂力に任せて握り砕いた
一瞬で絞り滓と化したその生首が今の今まで独逸帝国の、いや世界の闇を支配してきた男の物だと、誰が知ろう

死者への敬意も無く屑肉を放った男の足取りが次の一歩を踏み出し、だが不意にその足取りが乱れる
煤と黴に覆われた壁に手を突き咳込んだ男は、その度に黒い血を吐き散らした
(薬の副作用か
予想より早いな……)
急がなければ、気力を振り絞る為に男は己が復讐の理由を辿る

共に笑い共に泣き、共に戦場を駆けた仲間達
慕ってくれた人々
ただ一人の肉親
あの日、数刻前まで愛を囁いてくれていた少女の金色の髪と無垢な微笑み
己の愛したもの悉くが、無意味な血と肉に変えられ炎に呑み込まれていく様を
彼から全てを奪ったものの嘲り嗤う声を

(そうだ……俺はまだ斃れる訳にはいかない)
刀の柄を堅く握り、獣の唸りを揚げる
眼前の虚空を睨み、崩れかける下肢を強引に前へと進める
「『彼』を……第零位をこの手で斬るまで、俺は死なないッ」


怨執の誓いを新たにし、次郎は再び夜闇の中に歩み出すのだった

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