しのぶれど ~ロボ魂キュリオスの出来は田中茂の秘め事修行~しのぶ悪霊の神々に挑む立ち位置に似てる~


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晩夏の風に深林がさざめき、下生えの緑の上に木漏れ日の碧が揺蕩う
生温い風と進まぬ足取りに海の底を歩む白昼夢を重ねつつ、暁木忍は道無き奥山を登り行く
(……この先に、果たして私の求めるものはあるのだろうか?)
大人びたショートカットから伝う汗をTシャツの肩口で拭い、遙か山頂の木々の間から僅かに顔を覗かせた東屋を見上げる
(百年無敗を誇る伝説の武術家、か……
その話が真実なら、あるいは――)
切れ長の鋭い目に決意の熱を滲ませ、忍は迷いを振り切るよう強く一歩を踏み出した
『その山には、天下無双の達人が住んでおる……』
暁木忍がその話を聞いたのは、彼女が訪れた九十九人目の武術家からであった
十六聖天の表六位という名誉に与った時より、彼女は常に自問し続けていた
『私は、本当に表六位たる資格があるのだろうか……?』
忍の仲間たちは皆、幾人かの例外を除き人を超越した力を持っている
無論、彼女とて超一流の戦士だ
こと肉弾戦に於いてなら、彼らにも引けを取らないという自負がある
だがそんな矜持も、時間を空間を我がものとし、神器を死霊を操り、あるいは市民プールすら飲み干すような異能の者の前には塵
芥に過ぎない
加えて彼女には、先立っての戦いで無惨な敗北の末、仲間を見殺しにせざるを得なかったという大きな罪悪感があった
そしてあの日、誰かの囁きが耳を掠めた瞬間に、彼女は駆け出していた
『仕方無いさ、六位なんて所詮は無能が選ばれるもんだしな』
(違う……ッ!!
私は無能なんかじゃない、私は出来損ないなんかじゃない!)
己の強さを証明する為に戦い、更なる強さを得る為に戦った
その結果として得た何れの勝利も、齎らしたのは空虚だけ
(違う違う……ッ!!
この程度じゃ足りない、この程度じゃ勝てない!)
繰り返して九十九度
その果てに、彼女はようやく僅かばかりの希望の光を得た
百年の月日を無敗、幾万の死線に不滅
ならば彼女の望む答えにすら、あるいは彼の生ける伝説は至っているのでは無いか?
その一心、祈るような思いでこの地に赴いた
求めるものは唯一つ
飢え乾き痛み苦しむ、この胸を癒す強い力だけ
「頼もう――ッ!!」
夕日に照らされ赤く染まる東屋の前で、暁木忍は声を張り上げた
「誰かいないのかッ?
頼もう――ッ!!」

試しに幾度か続けて呼び掛けてはみたものの、半ば朽ち果てたような山小屋の中は暗く沈んでいる
(留守か……
……もしくは、始めから法螺話に踊らされていたのか)
あの道場主は信頼の置ける好々爺に見えたが、高々二十の小娘に打ち負かされたとあっては多少の意趣返しも宜なるか
重い失望に、忍が東屋へ背を向けた時であった
「すみません、我が家へ何かご用でしょうか?」
上品で穏和な女性の声が問いかけた
顔を上げれば、獣道を登り東屋へと向かってくる着物姿の女性がある
「我が家……?
失礼、貴女はこの家の方ですか?」
「えぇ、そう
……と言っても、この家は十年も前からわたくし一人ですけれど」
コロコロと笑う女性は三十路前といった風情
(若妻か、もしくは妾か
それにしても……)
「今、お一人と?
つまり、この家には……」
「あらあら、主人のお客様でしたのね
これは不調法を
訃報もお出し出来ませんで……」
訃報、その一言でひとたび蘇りかけた希望が微塵に打ち砕かれる
(遅かった、のか……)
悔しさに拳を握りしめながらも、表情は沈鬱を装う忍
「いえ、生前のご主人に面識はありません
人伝に聞いたのです、ご主人の武勇を
ここならばあるいは、私も答えを授かるかと……」
弔意と、それ以上の落胆で応えた忍の耳が、クスクスという忍び笑いを捉える
思わず頭を上げた所で、腹を抱えて笑いを噛み殺す女性に忍は困惑した
「あ、あの……何か、失礼でも?」
「ぷふっ、いえ違うのよ……くふふっ
なぁんだ、やっぱりわたくしにご用だったんじゃないの」
「……へっ?」
意味が分からない
(私が用なのは伝説の武人であって……)
そこまで考えて忍は一つの、やや非常識な答えに辿り着く
「まさか……」
「そのまさかだと思うわ
わたくしの百年無敗に挑もうと思って、わざわざこんな山奥まで登ってきたんでしょう?
可愛いお転婆娘さん」
「いや、それはおかしい
だって話が本当なら貴女は百を越えて……」
言いながらも、忍の表情は段々と呆れと苦笑に変わっていく
(……そうか
要するにこの人も、妖怪婆の仲間なのか……ははっ)
「あらあら、何か言ったかしら?
……主に年齢関係で」
「めめめめ滅相も無いですっ」
妖怪婆に年齢は禁句、これは忍の実体験から来た教訓だ
「そう、なら良いわ
……でも、困ったわねぇ
わたくし、もう戦う気は無くてよ」
女性の言葉に僅かな失望を覚えつつも、忍は「いえ……」と話を遮り告げる
「私の目的は戦いではありません
失礼ながら、恐らく私の強さは貴女より遙かに上だ」
不敵な物言いにも、女性はクスリと微笑むだけ
「ただ、知りたい
貴女が百年を無敗に在り続けた理由
貴女の得た答えを……!」
「ふぅん……?」と女性は身を乗り出した忍の顔を覗き込む
「つまり、弟子入り希望?」
「それで答えが得られるのならば……ッ
――頼むッッ!!」
頭を下げようとする忍の額が人差し指で止められた
「お願いされても困るわぁ
だってわたくし、弟子はとらない主義なのよ」
「そこを何とか!
頼むッ、この通りだッッ」
残された微かな希望に縋るように、忍は地面に頭を摺りつける
「そこまでされても困るわ
お願いだから頭を上げて頂戴?
そして、わたくしの事はいない人と思って忘れて山を下りるの」
「嫌だッ、私には答えが必要なんだ!
誰にも負けない強さが必要なんだ!!」
女性は必死に懇願する忍を暫く説得していたが、やがて諦めたのか一人で東屋の中へと入っていった
熱帯夜の生温い通り雨が、忍の躯へ容赦無く打ちつける
地面に着けたままの顔は泥に塗れ、口で息を吸う度に奇妙に甘い腐葉土の味を感じる
「……よっぽど、訳ありのようね」
かけられた声に思わず見上げれば、いつの間にか女性が目の前に正座していた
「お願いです……
私は、強くなりたい……っっ」
目尻に浮かんだ涙が、ラベンダーの香りの柔らかなハンカチに吸い取られる
「仕方の無い娘ね
……わたくし、きっと思うより厳しくてよ?」
「構わない、私が強くなれるなら」
「ほとんど我流のチャンポン武術だから、これっぼっちも名誉になんかならないのよ?」
「必要無い、私は強くなりたいだけだから」
「きっと、あなたを辛い目に遭わせるわ」
「心配無い、私は強くなって乗り越えてみせるから」
泥塗れの忍を柔らかく包む感触
触れた温度は冷たく、見れば女性の着物も水を滴らせている
「良いわ、あなたは今からわたくしの教え子よ」
「しっ、師匠――ッッ」
様々な感情が溢れ出し泣きじゃくる忍に、女性は穏やかな笑みで応じる
「師匠は恥ずかしいから、先生と呼んでね
それと、もう一つだけ
とても大事な話よ」
忍と額を合わせて、雛鳥に口移しする親鳥のように言葉を伝える
「もしもあなたが『嫌だ』とか『止めて』とか腑抜けた事を言い出したら、わたくしはその場であなたを叩き出すわよ」
「言わないっ
私は、もう誰にも負けたくないんだッッ」
涙を噛み殺し誓う忍に、女性は深く頷いた
「……そうと決まれば、先ずはお風呂にしましょうか
可愛いお顔が泥だらけだわ
その後は晩ご飯よ
カボチャのポタージュはお好きかしら?」
優しい笑顔に、忍も満面の笑みで返す
「はい、先生!」
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