復活の焔 貞本秋水 後編


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戦災を受けた家屋のほとんどは火事場泥棒に遭い
まともに使えるものは残っていなかったが、どうにか
子供服を見繕うことが出来た。
真冬の空っ風は厳しく痛みさえ憶えるほどなので、
シャツの上からトレーナーを二枚重ねてやり、大人用
のダウンコートも着せてやった。
丈がぶかぶかで全く合っていないが
「ゆうまだきらら しなねばどおぶ♪
まわるかのうち じゃいってきりる♪
いとかよわれの おんぼろごおぶ♪ 
ちでたるらあす ほさめずりつつ♪」
『じゃばおっきー』は訳の分からない唄を
歌い飛び跳ねて喜んだ。

ぼろぼろの空き家で、貞本秋水はこの少女
『じゃばおっきー』と一夜を過ごした。
ぼろぼろといっても、屋根があるだけ上々、公園のベンチ
よりマシだ、と秋水は思う。
こんな立派なところで寝られるのもこの少女のおかげと
思いかけて若干悲しくなったが、こんな人間的な思考も
久方ぶり。

人間・・・他者の存在を意識しなくなったのはいつ頃だろう。
レヴァンテインの力に目覚め、家族を失い、この絶望を
全ての人類に味わわせると決意した時、『貞本秋水』は
人類と決別した。

「あうぅ・・・・?」
心配そうな顔をして「じゃばおっきー」が見つめていた、
目には涙を浮かべている。
よほど思い詰めた顔をしていたのだろうか。
それとも怒りに醜く歪んでいたか。
「大丈夫」
髪をくしゃくしゃに撫でてやると「じゃばおっきー」は
笑みを浮かべ懐に擦り寄ってきた。子犬のようだと思った。

心安らかな時が流れている。
炎に揺らめく恐怖の影も、今日は姿を見せない。
目の前には屋根の大穴から流れる星空が見えるのみだった。

その星空が広がっていく・・・・・屋根が、屋根が、
軋みながら持ち上がっていく!
暗黒が覆い被さり、闇に光る眼が二人を照らした。

「いたいた、いたじゃな~い」
勝ち気な少女の声がこだまする。巨大な影と、
その左手に小さな影。
グレイス=オウプン。十大聖天第八位。
屋根をむしり取った鋼鉄の腕は『驚嘆すべきグレイスの団』
の巨大ロボ。

「あなた誰?そのちっちゃい子返してもらいたいんだけど、
てゆーかあんたバカ兄貴と同じ制服じゃない?なんで?」
睨みを利かせるふたつのサーチライトに怯え、
『じゃばおっきー』は小刻みに震える。
「うぅ・・・・・うううぅ・・・・・」
制服の裾を力の限り掴んで離そうとしない。

「コイツの・・・・身内なのか・・・?」
「身内~とも違うような・・・・・その子ウチの備品みたいな
もんなんだけど、無きゃ無いで困んのよね」
「備品?どういうことだ」
「あんたに言ってもわかんないわよ」
「返さなかったら、どうなる」
「こうなる」
鋼鉄の腕が屋根を引き裂くと、拳を作って秋水に叩きつけた。
轟音と爆風、鈍色の右拳は秋水をすれすれに避け
地に突き刺さった。恐怖のあまり『じゃばおっきー』は
失禁している。

「おわかり?」
秋水は虚ろな表情で巨大な影を見つめた。
動揺はない。「あの時」の恐怖に比べれば何という事の
ない状況だ。
圧倒的な戦力差でもってこちらを威圧してくるこの少女
の余裕に滑稽さすら感じる。
「もう一度聞く、このガキは何者なんだ」
「だから聞いても理解できないわよ」
「教えてくれたら渡してもいい」
「この状況で交渉?あんた擦り潰してジャムにしてからでも
その子回収できんのよ?」
「別にこのガキがどうなろうと知ったことじゃない、
だが理由ぐらい教えてくれたっていいだろう」

なぜ『じゃばおっきー』を助けたのか。
情にほだされただけではない。
秋水の嗅覚はこの少女に、「ただならぬ」匂いを
感じ取っていた。
唸りをあげる巨大ロボと高慢な少女、意味深な言葉。
案の定、異常は姿を現す。
「いいわ、教えたげる」
レヴァンテインは滅びを呼ぶ。
「その子は『ジャバオッキー』って地球を粉々に
できるくらいのでっかーいバケモンを操る鍵なの、
ユニット・キャロル?だっけ?」
その匂いは、滅びの匂い。

「教えたーげた、あなたオシマイ!!」
鋼鉄の右拳が開き、指で器用に秋水と「じゃばおっきー」
を引き離すと、秋水を握りこみ再び叩きつけた。
「これで潰れジャムパンね、あーあつまんない仕事
受けちゃったなぁ」
右拳が爆発四散、炎が腕を奔りロボの頭部を吹き飛ばす、
火柱の中からは紅蓮の炎を纏う貞本秋水・・・・
「それが、お前ら『十大聖天』があのガキを追う理由か」
ロボの左手の平につっ立ってけらけら笑っていた
グレイスは爆音に腰を抜かしてその場にへたりこんで
しまった。
「あ、あ、あ、あ、あんた一体・・・・・」
にやりと笑う秋水の両眼が燃えている。

秋水は歓喜していた。
両手には力漲り、顔に刻み込まれた疲労の影は消え
肌に年相応の色つやが戻っている。
「はははははははははははははははははははははははははっ
滅びの種火だっ!!ジャバオッキー!!待っていろ!
お前は俺のものだ!俺の新たな力だ!俺の絶望を全人類に
まき散らす花火となれ!スルト!出てこい!!」
秋水が呼ぶと炎を裂いて現れた美女、その髪は炎の色で
燃えている。
「ダーリン!やっとアタシを呼び戻してくれたのね!」
「スルト、悪かったな、やはり俺にはお前が必要だ」
「いいのよダーリン、また名前呼んでくれて嬉しい♪」

「き、旗艦!じゅ、じゅ、14号から23号射出!!」
グレイスが手首の通信機と何やらやりとりすると、
上空に停泊していた『驚嘆すべきグレイスの団』の
旗艦ジョン・ニュートンから次々と巨大ロボが降下、
地響きを立てて着陸する。
いずれも鋼鉄に鎧われた30m強の巨躯、しかし、
だがしかし、一機は腰から上が吹き飛び炎上、
一機は唐竹割りに溶断され、一機は両膝が爆砕、
地に崩れ落ち大阪の街を火の海に帰る。
炎の魔人は、狂笑を浮かべ鉄人を瓦解と変えた

遠目には飛び移る火の粉の如く舞う秋水の姿を見、
『じゃばおっきー』は手を叩いて喜んだ。
また調子っ外れの唄を歌っている。
グレイスは、我が子ともいえる愛機が次々と破壊される
様を呆然と見つめる。
「『ジャバオッキー』なら『十六聖天』に勝てるのか?」
炎の尾をひいて地に降り立つ秋水の問いに、恐怖と困惑とで
言葉が続かないグレイスは必死にうなずいて見せた。
一思案ののち、右手人差し指に青白い炎を灯すと
「洗いざらい、見せてもらうぞ」
それをグレイスの額に突き入れた。
「~~~~~~ッ!!」
額には痛みも熱も感触も無く、しかし視界が廻り、
グレイスの記憶がフラッシュバックしていく。

この炎は走馬燈を廻す炎。
脳裏を照らし記憶の影を秋水に垣間見せる。
「違うな、これじゃない・・・これだ・・・・
アリスナンバーズ・・・・・・マリアナ海溝か・・・・」
額から指を離すと、脳を侵されたグレイスはその場に
失神した。
グレイスを捨て置きその場を立ち去ろうとする秋水を
スルトが呼び止め、
「この娘に手ぇつけないの?溜まってんでしょー?」
けしからぬ事を言ったが、
「同伴なんでな、野暮なマネは出来ないよ」
スルトは自分のことかと大いに喜んだが、指さす方の
『じゃばおっきー』に気づき、むくれて見せた。

「なにそのちんちくりん」
「俺の勝利の鍵さ」
『じゃばおっきー』はぱたぱた駆け寄ると秋水の
足に抱きつきよじ登って頬ずりした。
それを見つめる秋水の眼に差す暖かな光を見て、
スルトの全身が総毛立ち、めらと嫉妬の炎に燃えた。

この日、大阪を襲った大火は死傷者三万人強、
火災被害は全半焼五千棟にのぼった。
カイザー、半蔵らを派遣し現地調査が行われ、
現場には建造物と異なる巨大な鉄塊が多数発見されたが
どろどろに融解し原形をとどめず、その正体や出火との
関連性を掴むに至らなかった。

そして、その日より貞本秋水は大阪から姿を消す。
復活の焔  貞本秋水 完
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