宝石城の魔女2


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「出撃要請、ですか……?」
黒銀の鎧に身を固めた男性が怪訝な表情で問い返すと、寝台に身を起こした白の乙女は皮肉げな笑みを浮かべた
「えぇ、十大からの正式な『要請』です
十六に対する遊撃を、と」
「とは言え、拒否権は無さそうじゃがの
つまり、我等は試されておるのじゃよ」
白髭の古賢者が如何にも不服そうに言葉を継ぐ
「忠義を示せ、と?」
「拾ってやった恩義に応えろ、という所でしょうね
ふふっ、物のついでに拐かしておいて随分な話ですこと」
麗しの女王の言葉に、(だが……)と騎士は思案する
「もし断れば、今日の主人が明日は狩人、といった所か」
「左様、何も我等とて一時を凌ぐばかりならば貴奴等にも引けは取らぬじゃろう
じゃが……」
古老と騎士の視線が、病弱ゆえに戦いに向かぬ己が主人へと向けられる
両者とも深い憐憫と、彼女を足枷と断じる非礼への罪悪感を滲ませていた
「ならば、どう動くかを考えましょう
御大、何か策は?」
眉一つの動揺も見せず古老に指示するその姿を、騎士は天性の才気と感じ入る
「ふぅむ、差し当たっては可も無く不可も無しが良いでしょうの」
無為に手の内は明かすべからず、賢人の判断に主人と共に首肯で返す
「となると、僭越ながら私か……」
「いえ、ここはアタランテに当たらせます」
名を呼ばれ、部屋の隅で「がぅがぅー♪」と調子外れな歌に合わせて絵を描いていた少女が、耳と尾をピンと立てる
「呼んだーっ?」
「えぇ
アタランテ、お仕事を頼みたいのだけれど……」
子供に手伝いをさせるような口調に、齢幾千の悪魔は「まっかせてー!」と平坦な胸を反らす
「……で、何すればいいのっ?」
「『獅子』殿には、こちらの少女をお相手願いたいのじゃが……」
老人が、いつの間にかその手に携えていたファイルを半獣の少女に差し出した
「……あ、り、す、ざ、み、うー……?
……ヘンな名前ー!
ミうーなんてネコみたい♪」
「それはミラーだ」と正したい所を、騎士は必死で堪える
何しろ相手は稚気の塊のような娘だ
臍でも曲げられようものなら宥められるのは主人だけなのである
(我が主に、要らぬお手間を掛けさせる訳には……)
「……わかったー!
このミうーと、遊んでくれば、いいんだねー!?」
「まぁ、そんな所かのう……」
「ただし、手加減を忘れないで下さいね
アタランテ、貴女の方がお姉さんなのですから」
どうやら騎士が自制心との格闘に明け暮れていた合間に、話は纏まったらしい
「それじゃ、行てくるねー!!」
「日暮れまでには戻るんじゃぞい」
子供のお使いのような遣り取りに頭痛すら感じ、顳を揉み解す騎士
「……やはり私が行くべきだったのでは……?」
「不服、でしょうね……
ですが彼女なら万が一にも逃げ損ねる事はありません」
「ああ見えて、引き際だけは心得ておるからの」
二人の判断なら是非も無い、と本来の在処たる幽世へと帰還しようとする
だが
「お待ちなさいな
――貴方には、他にして頂きたい事がありますから」
「……他に、ですか?」
「そう、貴方にしか出来ない事」
そう言われても、彼には皆目見当もつかない
「良いかの
現状、我等は十大の『保護下』にある
……言わば貴奴めらに飼われておる駄犬の扱いじゃ
挙げ句こちら側の情報も、粗方は向こうに把握されておるじゃろうて」
「彼らに知られず、戦力を増強する必要があります」
なるほど、尤もな話である
現状、彼女たちは先だって十大聖天と合流したオマケに過ぎない
ならば、最悪の場合は明日にでも捨て駒にされる事を考慮する必要がある
「……しかし、宜しいのですか?
敵地の直中で謀反の算段など、何処に聞き耳の……」
「ほほっ、安心召されい『樵』殿
この部屋は既に、我が根が覆っておる
何人も儂を出し抜く事叶わぬわい」
風鳴りのような呵々の声で、森の賢者が揺るぎ無い自信を示す
「貴方には、彼女を説得して頂きます
……無論、手段は問いません」
覗き込んだ一枚の写真に、騎士の目は釘付けになった
やがて沸き上がった激情に全身を振るわせ、うっすらと涙すら浮かべる
「……ご不満かの?」
問いに応じる余裕すら無い
(何という……何という巡り合わせか)
爆発した衝動が、突如として狂喜に転じた
「行って、くれますよね?」
確信を込めた白き魔女の問い
「ハハッ、私以外の者になど行かせはしませんよ
これは、私の為すべき事です」
返事すら聞こうとせずに背を向けた騎士に、激励の言葉が投げかけられた
「ご武運を、デュラハン卿
――いえ、銀腕王ヌァザ
マスター・オブ・クラウソラス」


――斯くして二人の女に邂逅は仕組まれ、運命の車輪は更なる迷走に狂い廻る事となる

宝石城の魔女2 fin
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