『四堂家物語~しごとをするものしちゃいけないもの~』


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『四堂家物語~しごとをするものしちゃいけないもの~』
「いってらっしゃ~い」
「いってらっしゃいです」
妹達を見送った春と朔が二人家に残される。
「それじゃー」
「うん」
「寝よっか」
「え?」
春の言葉に目を点にする。
「だってすることないし」
「……ママってお仕事とかしてないの?」
思えば朔の記憶には母が働いていた記憶はなかった。
しかしそれは朔が生まれた為に仕事をやめ家事に入ったのだとでも思っていたからだった。
「お仕事してるよ」
「じゃあお仕事しないと」
「うん。だから寝よ」
「……」
「みんながね、私のお仕事は寝ることとご飯を食べることとお風呂に入ることなんだって。
だから私は一生懸命その仕事をがんばるの」
「……」
余りの言葉に一瞬、脳の機能が停止する。
夏たちの言葉を真に受けて本当に実行し笑顔で答える母がいささかの疑問すら抱いていない様だったからだ。
「あ、でもお外のお掃除はしてるかな?」
「じゃ、じゃあそれをしようよ!」
朔が必死に訴える。
「でも寒いよ?」
「してるうちに暖まるよ! それにきっと二人ですると楽しいよ!」
「んー……朔がそこまで言うならしよっか」
「うん!」
そして二人は箒を持って外へとくりだして行った。

「春風ちゃん、今日は朝のお掃除?」
「はい。ちょっとサボっちゃいましたけど今日からまた始めようかと思って」
近所の、もう何年も同じ言葉を交わし続けているおばちゃんに声を掛けられる。
「あらあらまた夏夜ちゃんに叱られたの?」
四堂家の内情をそこそこに詳しいおばちゃんはクスクスと笑う。
「あら? 今日は見ない子が一緒ね。親戚の子かしら?」
春の影に隠れていた朔を見咎めおばちゃんが尋ねる。
「実は私の娘なんですよ~えへへ」
「はじめまして、朔夜と言います。ママがいつもお世話になっています」
刹那、おばちゃんの思考機能は停止、ありえない現実を拒否するための防衛機能が働いた。
「なーんて、実は私達の一番下の妹らしいんですけど、年も離れてるし娘っていう設定にしてるんですよ~」
「設定ってママ……」
真実を一人だけ知らない春は辻褄合わせに教えられたことをおばちゃんに教える。
「……」
「あのどうかしました?」
茫然自失としているおばちゃんに春が尋ねる。
「……え? あ、そ、そうなの。娘さんなの。いつの間にか春風ちゃんもお母さんになってたのねぇ……。そうなのねぇ……」
説明の間、完全にあちらの世界に意識が飛んでいたおばちゃんは動揺を隠せず、
ブツブツと呟きながらそのままよろよろと歩きながら家に帰っていった。
「どうしたのかな?」
「それはいきなり娘とか紹介したらびっくりしちゃうよ。乗った私も悪いけど……」
「そっかーじゃあ今度から私が朔の名前から紹介すれば大丈夫だね。いきなり『娘です!』じゃよく分かりにくいもんね」
「いや、そういう意味じゃないんだけど……まぁいっか」

「よし、お掃除も終わったし……」
「うん」
「寝よっか」
「……」
やはりと朔は言葉を失う。
「な、何か他にお仕事ないの? おうちの中のお掃除とか洗濯とか晩御飯のお買い物とか準備とか」
「む~……」
春は眉を顰めて必死に考える仕草をする。
「どれも皆に止められてるんだよね。それにみんなのお仕事だから私が取っちゃうと悪いし……」
「で、でも、ほら、みんな学校に行って疲れて帰って来るんだし、
たまにはママが全部終わらせてみんなを楽にさせてあげたりとか……」
「いいのかな? 前にそれをした時は失敗して怒られちゃったんだけど……」
「私も手伝うからきっと大丈夫だよ! うまくいくよ!」
何をするにも基本的に止められていた春にとって朔の言葉はどうしようもないほど心強く、そして強く胸を打った。
「そっか……そうだよね。一人じゃ無理だけど二人なら、朔が手伝ってくれるなら出来るかもしれないものね!」
「うんうん!」
かくして春と朔による共同作業が開始されたのであった。

後日談ではあるのだが、その日、帰宅した夏たちを迎えたのは
怪異妖怪悪霊悪鬼魑魅魍魎を呼び寄せる依代となった我が家と
別次元への扉が開き無限に等しいエネルギーを垂れ流す洗濯機と
台所から湧き出す無数のホムンクルス群れであった。
それら全てを駆除するのに二日。
更にワームホールを完全に閉じるのに二日。
おまけに家の浄化作業に三日をかけ皆勤賞を狙っていた夏と秋の目論見はもろくも崩れ去り、
春に並ばされ朔も延々と説教をされたことは言うまでもない。

『四堂家物語~しごとをするものしちゃいけないもの~』 了
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