十六聖天外伝 ~とがびと~ 橘編


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橘はトム・ライスの戦いぶりを少し離れたところから見ていた。
彼の仕事は、見る事、そして、致命的な誤りが生じないかを見極める事だった。
橘が今いるところは、トムが知覚できる場所ではない。
複数の次元の重なる場所に生じる裂け目である。
真っ黒な空間の中にブルーのシャツとカーキ色のズボンをはいた姿がそこだけ浮かび上がっている。
彼は観察し、観察した事を記憶にとどめ、そして必要があれば介入する。
ずっと昔からやっていた事だった。
橘は監察官である。同時に「現実」の世界では一介のフリーライターにすぎなかったが。
(おや、これは――)
勝利の凱歌に酔っているカイン=トム・ライスの背後に黒い影が見えたのを橘は認めた。
橘の昔なじみの存在の一体である。つまりそれは旧約の魔神のうちの一体。
攻撃的なトムの精神が少なからず、その影響を受けているのは見て取れた。
「これはいけないな」橘はそういうと、軽く呼吸を整えて、剣を生成する。
橘の持っている剣は現世のものではない。
遠い何処の世界で彼の命それ自体を元にして生成したものである。
橘が自らの魂の中に封じ込めたその剣は、彼の身長よりやや足りないほどの長さの諸刃の剣。
枝と刃の中間にあるつばには蒼い光を放つ玉が埋め込まれている。
これは自らの主である神々の神の手ずから貰ったものだった。
橘は落ち着いて剣を再生成し、実体化させる。
霧の様にたゆたうものが、みるみる見事な剣の姿をとっていく。
(――さて)
橘はどうするか考えた。仕留めるか切り離すか。答えは一瞬で決まった。
警告の為にもこのものは消滅させる方がよいだろう。
橘がそう思った次の瞬間、間をおかず、トム・ライスの背後にその剣は気配もなく出現した。
そして、そのトム・ライスに取り憑いていた魔神に振り下ろされた。
斬られた魔神の魂は何もなかった様に消滅した。全ての存在が戻る場所に還ったのだ。
とりあえずこれでよし。
十六聖天の戦いもまだ続くだろうが、他の世界から干渉が入る事は少なくなったはずである。
マルクトの世界に住むものの運命はマルクトの世界に住むものたちが決めるべきだ。
他に監視者や干渉する存在がいないのを確認して、橘はそこから姿を消した。
知り合いから頼まれた原稿もまだ途中であったから。
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