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上書き3」(2006/10/25 (水) 22:42:04) の最新版変更点

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**上書きのできぬ運命 3 ---- ハッキリとしない意識の中で知盛は霞む視界に空を見つける。 海の中から見上げる空はこのように澄んでいたのだろうか… 望美の手を強く握りしめ、知盛はぼやける視界で瞳だけを動かし周りを見渡す。 「ここ・・・は・・?」 掠れた声が静かに響く。 「・・・知盛殿」 意識を戻した知盛に朔は声をかけた。 しかし朔の呼びかけには答えず、知盛は望美へ視線を向けた。 「・・・源氏の神子?」 しかし返事はない。 「・・・望美?」 今度は名で呼んでみるがやはり返事は戻ってこない。 少しずつぼやけた思考が鮮明になってくる。 「なぜ・・・俺はここに居るんだ・・・?・・・海に飛び込んだはずだが・・」 「俺と九郎とで、アンタと望美を船上に戻したのさ」 ヒノエが濡れた髪をかきあげながら応えた。 身体を起こそうと肘をついて動こうとするが水を含んだ鎧はその動きを妨げる。 己の傍らに眠る愛しい者の握り締めている小さな手を見つめた。 望美から視線を外さずに知盛は低く呟く。 「何故、助けた…」 「どうして、共に逝かせてはくれぬのだ!!!!!」 悲しみと怒りが混ざった叫びが響いた。 その悲しすぎる叫びを聞いて九郎は拳を強く握り締めながら俯き、 「…すまない」 と一言零した。 その様子を静かに見ていた朔は知盛へ近づくと強く頬を叩いた。 「共に逝かせてなど…そんな自分勝手な事言わないでください!!!!」 自分を叩いた朔を悲しみに染まった紫の瞳がゆっくりと睨む。 「知盛殿、あなたは望美の願いを聞いてはいなかったのですか?」 己を睨む紫の瞳に怯むことなく朔の漆黒の瞳は睨み返す。 「あなたに…生きてほしいと、望美は言いませんでしたか?」 「…」 「それを、あなたは聞き入れてはくれないのですか?」 「望美は…もう、居ない」 「…ええ」 「俺は戦で沢山の命を奪ってきた…だから…殺す事になんら思う事も感じる事もなかった」 重い身体を無理矢理起こし望美の冷たい頬を撫でる。 「でも、愛しい者の命を己の手で奪った…何も感じなかった心が悲鳴を上げるんだ」 瞳からとまる事のない涙は静かに零れその雫が望美の頬に落ちる。 自分の涙に濡れる望美の顔がどんどん滲んで見えなくなる。 「望美が居ないのに、俺の生きる意味は無い」 この人はそこまで望美のことを想っていたのか。 戦では冷酷極まりない、あの平の猛将が。 「海の底にあると言う理想郷へ共に、逝きたかった…」 「二人で…よりそって消え逝きたかった」 「なのにお前は俺を置いて、逝くのだな」 「俺だけ……生きていても…意味はないだろう…」 悲しみに染まった微笑みは見るものまでも苦しくさせた。 横たわる望美を胸にきつく抱き締める。 「俺を…置いて逝くな…頼むから、置いていくなら死なないでくれ…」 それは無理な願いだと解っている。 それでも、言わずにはいられない。 「お前の願いは…俺には辛すぎる」 「…望美。俺を見てくれ、その声で呼んでくれ、その柔らかな手で触れてくれ」 今はもう開かない瞼に口付けを落とす。 そこにはもう、平の猛将は居なかった。 ただ愛する者の死を、共に逝けぬ事を嘆く男しか… 「…神子?」 朔に抱かれていた白龍がふと、空を仰いだ。 その動きと同時に知盛の腕の中の望美が淡く白く光りだす。 「のぞ…み?」 望美の変化に皆の視線が集中する。 光は淡いまま輝き続ける。 ふと腕の中の望美が軽くなっていくのを感じた。 「っ!?」 知盛は望美を更に強く胸に抱き締める。 確かに今、腕の中に居るはずなのに重さはどんどんと消えていく。 そして、瞳に映る信じがたい現象に驚くしかなかった。 望美自ら発せられる光は小さな光の粒となり、砂流のごとく風に舞っているのだ。 消えていく望美の身体。 「神子は、この世界の人間ではないから…命が尽きると光となって消える」 それは望美の死を意識させる一言だった。 「存在していた事さえ、残らぬというのか…」 光の粒となって消え逝く望美を止める事もできず、ただ悔しく見つめる事しかできない。 光の粒は知盛を優しく包みこんだ。 『知盛さん…どうか、生きてください』 知盛の耳元で望美の声がした。 しかしそれは一瞬で光の粒は風に攫われて行った。 先ほどまで自分の腕の中に居た愛しい者の姿はなくなった。 ただ一つ、逆鱗だけを残して。 BACK >> NEXT ---- 【 あとがき 】 お待たせしました。第3話目です。 望美は光の粒となり、消えてしまいました。 これからどういう展開が待ち構えているのか、私にも分かりません(苦笑) 話を書き出すときっていつも最終は決まってないんです。 決まっているときもあるのですが、このお話は衝動で書き出した感じなので。 相変わらず暗く、誰にも優しくないです。 感想など、いただけたら嬉しいです。 2006 01 19 #comment
**上書きのできぬ運命 3 ---- ハッキリとしない意識の中で知盛は霞む視界に空を見つける。 海の中から見上げる空はこのように澄んでいたのだろうか… 望美の手を強く握りしめ、知盛はぼやける視界で瞳だけを動かし周りを見渡す。 「ここ・・・は・・?」 掠れた声が静かに響く。 「・・・知盛殿」 意識を戻した知盛に朔は声をかけた。 しかし朔の呼びかけには答えず、知盛は望美へ視線を向けた。 「・・・源氏の神子?」 しかし返事はない。 「・・・望美?」 今度は名で呼んでみるがやはり返事は戻ってこない。 少しずつぼやけた思考が鮮明になってくる。 「なぜ・・・俺はここに居るんだ・・・?・・・海に飛び込んだはずだが・・」 「俺と九郎とで、アンタと望美を船上に戻したのさ」 ヒノエが濡れた髪をかきあげながら応えた。 身体を起こそうと肘をついて動こうとするが水を含んだ鎧はその動きを妨げる。 己の傍らに眠る愛しい者の握り締めている小さな手を見つめた。 望美から視線を外さずに知盛は低く呟く。 「何故、助けた…」 「どうして、共に逝かせてはくれぬのだ!!!!!」 悲しみと怒りが混ざった叫びが響いた。 その悲しすぎる叫びを聞いて九郎は拳を強く握り締めながら俯き、 「…すまない」 と一言零した。 その様子を静かに見ていた朔は知盛へ近づくと強く頬を叩いた。 「共に逝かせてなど…そんな自分勝手な事言わないでください!!!!」 自分を叩いた朔を悲しみに染まった紫の瞳がゆっくりと睨む。 「知盛殿、あなたは望美の願いを聞いてはいなかったのですか?」 己を睨む紫の瞳に怯むことなく朔の漆黒の瞳は睨み返す。 「あなたに…生きてほしいと、望美は言いませんでしたか?」 「…」 「それを、あなたは聞き入れてはくれないのですか?」 「望美は…もう、居ない」 「…ええ」 「俺は戦で沢山の命を奪ってきた…だから…殺す事になんら思う事も感じる事もなかった」 重い身体を無理矢理起こし望美の冷たい頬を撫でる。 「でも、愛しい者の命を己の手で奪った…何も感じなかった心が悲鳴を上げるんだ」 瞳からとまる事のない涙は静かに零れその雫が望美の頬に落ちる。 自分の涙に濡れる望美の顔がどんどん滲んで見えなくなる。 「望美が居ないのに、俺の生きる意味は無い」 この人はそこまで望美のことを想っていたのか。 戦では冷酷極まりない、あの平の猛将が。 「海の底にあると言う理想郷へ共に、逝きたかった…」 「二人で…よりそって消え逝きたかった」 「なのにお前は俺を置いて、逝くのだな」 「俺だけ……生きていても…意味はないだろう…」 悲しみに染まった微笑みは見るものまでも苦しくさせた。 横たわる望美を胸にきつく抱き締める。 「俺を…置いて逝くな…頼むから、置いていくなら死なないでくれ…」 それは無理な願いだと解っている。 それでも、言わずにはいられない。 「お前の願いは…俺には辛すぎる」 「…望美。俺を見てくれ、その声で呼んでくれ、その柔らかな手で触れてくれ」 今はもう開かない瞼に口付けを落とす。 そこにはもう、平の猛将は居なかった。 ただ愛する者の死を、共に逝けぬ事を嘆く男しか… 「…神子?」 朔に抱かれていた白龍がふと、空を仰いだ。 その動きと同時に知盛の腕の中の望美が淡く白く光りだす。 「のぞ…み?」 望美の変化に皆の視線が集中する。 光は淡いまま輝き続ける。 ふと腕の中の望美が軽くなっていくのを感じた。 「っ!?」 知盛は望美を更に強く胸に抱き締める。 確かに今、腕の中に居るはずなのに重さはどんどんと消えていく。 そして、瞳に映る信じがたい現象に驚くしかなかった。 望美自ら発せられる光は小さな光の粒となり、砂流のごとく風に舞っているのだ。 消えていく望美の身体。 「神子は、この世界の人間ではないから…命が尽きると光となって消える」 それは望美の死を意識させる一言だった。 「存在していた事さえ、残らぬというのか…」 光の粒となって消え逝く望美を止める事もできず、ただ悔しく見つめる事しかできない。 光の粒は知盛を優しく包みこんだ。 『知盛さん…どうか、生きてください』 知盛の耳元で望美の声がした。 しかしそれは一瞬で光の粒は風に攫われて行った。 先ほどまで自分の腕の中に居た愛しい者の姿はなくなった。 ただ一つ、逆鱗だけを残して。 [[BACK>上書き2]] / NEXT ---- 【 あとがき 】 お待たせしました。第3話目です。 望美は光の粒となり、消えてしまいました。 これからどういう展開が待ち構えているのか、私にも分かりません(苦笑) 話を書き出すときっていつも最終は決まってないんです。 決まっているときもあるのですが、このお話は衝動で書き出した感じなので。 相変わらず暗く、誰にも優しくないです。 感想など、いただけたら嬉しいです。 2006 01 19 #comment

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