上書きのできぬ運命 2





「神子っ!!!」


二人が飛び込んだ海に追いかけるように白龍が駆け出す。


「白龍!!」


それを朔が追いかけ抱き締める。



「神子が……私の…神子が…」



大きな瞳に大粒の涙が溢れ出、流れ落ちる。

二人が沈んだ海面は望美の血で紅く染められていた。






その海面を見つめながら、朔も堪えていた涙を静かに流した。






望美…これが貴方の望んでいた未来なの?


皆を悲しませる未来を貴方は…望んでいたの?


…いいえ、違うわよね?


なのに…どうして…死を選ぶことしか出来なかったの?


命を投げ打ってまで生きて欲しいと願った相手は、貴方の願いを叶えてはくれなかった。

共に海へと沈んでいってしまった。







これは…誰の意思?






















―――バッシャン!!







誰かが海へ飛び込む音が聞え、朔の思考は一旦途切れる。


視線を向ければ九郎とヒノエが海へ潜っていく姿が見えた。








どのくらい経ったであろうか白龍も朔も黙ったまま海面を見つめていた。


こうしている間にも戦は容赦無く続いている。

要の神子が消えて、源氏の将の九郎が海へ飛び込み源氏は不利な状況だった。

それでも、戦よりも何よりも皆の中で望美が優先だった。

あの強くも儚い少女を失いたくなかった。



うっすらと海面に人影が見え、ヒノエと九郎が顔を出した。
ヒノエの腕には望美が、九郎の背には知盛がいた。



急いで甲板に二人を寝かせると弁慶が脈を図る。



横たわる二人の顔に色はなく、まるで蝋人形のように見えた。

望美の体に流れる刀傷。

それは一見しただけでも致命的な傷だということが分かる。





朔は望美の手を握り締め祈った。





黒龍…お願い





今は居ない黒龍へ想いを叫ぶ




「望美を連れて行かないでっ!!!この子はここで死んではいけないの!!」




望美の隣に横たわる知盛に視線を向け



「望美は彼と共に…生きなくちゃ駄目なの!!」



妹の悲痛な叫びに兄、景時は朔の背をそっと撫ぜた。



「幸せにならなくちゃ…駄目なの…っ」











どうか、この異世界から来た白龍の神子を私の片割れを助けて…











必死に祈る朔の腕の中の白龍が力無く言葉を紡ぐ。



「…あぁ…神子の…氣が…」

















「神子…の氣が……今…消えた」





絶望的な白龍の声を朔は静かに耳にした。





















目の前が真っ暗になった。





















この戦の行く末など、今ここにいる者達の頭にはなかった。




望美の横で微かに唸る声が聞えた。
皆の視線がそこへ集中する。



「――っがはっ」



望美が助けたいと、生きて欲しいと願った人物。


「知盛殿…」


苦しげに飲み込んだ海水を吐き出しながら紫の瞳がゆっくりと開かれる。
そして無意識になのだろうか、その手は何かを探すようにさ迷う。


その手を朔が取り、望美の手に重ねる。


探していたものを見つけたように、その手は望美の手を強く握り締めた。












【 あとがき 】

んーどうなるんでしょうか?
書いている本人にも皆目見当がつきません。
長編になるかもです。


2005 07 17



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最終更新:2006年10月25日 22:43