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嘘が為に鐘は鳴る ◆KYxVXVVDTE



 暗闇に包まれていた空も白み、普段ならカーテンの隙間から微かな明かりが漏れ始める頃。
 殺し合いという悪夢の場には似合わない、古く小さいながらも神聖な雰囲気を漂わせる教会の扉の前で、秋山深一は何度目になるか分からない溜め息をついた。

「一体、どうなっているんだ……」

 秋山が嘆いているのは、手に持っている参加者名簿が原因だった。知り合いが居ないだけならまだしも――秋山の常識では理解出来ない名がずらずらと並べられているのだから、驚くどころか呆れるというものだ。

 ルガール・バーンシュタイン、橘右京、野山あずき、小笠原勇之助――最初こそ、日本人や外国人に居そうな名前が書かれているものの。
 Kskロワ住人、ランキング作成人、果ては◆6/WWxs9O1sなど通称にしても怪しい名前や。
 ハートのクイーン、スペードの2、海賊マークなど、物にしか思えない者もいる。

 あまりに奇想天外すぎて、常人なら名簿の真偽すら疑いかねない所だが――秋山はこれを、信じるしかなかった。
 実際に、見てしまっているのだから。テトリスのブロックにしか見えない物体が喋り――そして、その物体に首輪がはめられているのを。

「このゲームの主催は、俺の常識では考えられない技術を持っている……としか、考えられないか」

 一応、この名簿から推察出来ることが、ない訳ではない。本名らしき名前と通称の名前が混ざっていることから、2つの可能性が浮かぶ。
 1、通称の方が皆に知られているから。しかし、これはないだろう。
 教会の中で休息を取っている2人、それにL字ブロックと話をしたが、やはり彼らも知り合いは数人だけだと言っていた。
 チェスワフ・メイエルと名乗った少年は2002年から来たとも言っているし――源義経など、歴史上の人物の名前まで載っている。
 時代すら違う所から集められたのならば、通称を名簿に載せる意味もないはずだ。そうなればおのずと、可能性は1つに絞られる。

 2、主催者にも本名が分からない奴がいる、ということだ。

「本名を誰にも教えてない、あるいは本名自体がないことも有り得なくはないが……んなもん、アニメか漫画の中だけだしな」

 そう呟いて、秋山はまた溜め息をつく。こんなことを考えていても、仕方ないのだ。
 情報が足りない。主催の思惑が読み切れないばかりか、首輪を外す方法も分からない。
 幸か不幸か、この島に来てすぐ会った3人は危険人物ではないようだった。地図を見てもこの教会は隅の方にあるし、なかなか人は来ないだろう。
 考える時間は、まだある。考えなければいけないことも、まだ残っている。

「そもそも、あいつらは信用出来るのか?」

 教会の中にいる奴ら。あまり一緒にいたくない雰囲気の連中だが、一通りの情報交換で得た印象は悪くはなかった。
 手を繋いでやって来た2人は「脱出したい」、L字は「主催が許せない」と、微妙にベクトルは違ったが――少なくとも、進んで人を殺すような奴らには見えない。
 L字ブロックは壁から離れられないらしく、チェスと椎名は人に会えて気が緩んだのか、仲良く寝ているはずだが……

「誰が嘘をついていても、おかしくはない」

 嘘をつくのが得意な奴なんてごまんといる。大抵は見抜けるつもりだが、ここは色々と常識外の世界――自分より嘘をつくのが上手い奴がいることも、当然のようにあるだろう。

 秋山は考える。自分が教会の中の奴らに不信感を持っていることは隠せたつもりだが、もしそれが見抜かれていたなら。
 見張り役として1人で教会の外に出ているため、中の様子は分からない。今頃中で、俺を殺そうと策を練っている奴がいても、おかしくは――
 秋山は身を翻し、教会の扉を開ける。

「異常はないか? L字ブロック」
「誰も……何もしていない、アル……」

 平静を装いながら、入り口側の壁に張り付いているL字ブロックに話しかけ、同時に教会の中を見渡す。
 整然と、二列に並べられた長椅子。奥には天使の像や十字架が、色褪せながらもその形を残している。

 チェスと椎名は、真ん中辺りの長椅子に仲良く座ってこちらに背を向けていた。囁く声すら、聞こえない。やはり、寝ているのだろう。

「――何か変わったことが起きたら俺に伝えろよ。じゃあな」
「……了承……したアル」

 扉を閉めて、しばらく耳をそばだてる。――何も聞こえない。
 そのまま1分ほど待つ。状況は、変わらない。

 ――杞憂だったか?

 もう3分ほど待つ。話し声は愚か、物音1つなし。秋山はそこで、ドアから身を離した。
 7割方、安全だろう。こんな所で初めて会ったやつと一緒に、ぐうたら寝てる奴に人は殺せない。
 もちろんそう“見せている”可能性もある。だが、仮に人を殺すつもりの奴があの中に居たとして――それを先伸ばしにする理由が思い付かない。
 先の情報交換で分かったのは精々、クレア・スタンフィールドという男が危険かもしれない事だけ。
 そう多くの情報が手に入るとも思えないのにチームを組み、なおかつこの時間まで何の行動も起こさず一緒にいる必要があるだろうか?

「――もし、俺をこう思わせるために演技しているとするなら、狂気の沙汰だな。全く面白くねぇが」

 逆に、これが過ぎた考えならば。あいつらが、神崎直のように素直な人間ばかりならいいのだが。
 心のモヤモヤを感じつつ、秋山は再び、教会の扉の前に座す。

 辺りには犬どころか、虫一匹すら見当たらない。このまま誰にも会わずに、朝を迎えたいところだ。
 ライアーゲームは、起こらないのが一番安全なのだから。

◇◇◇◇◇

 しかして侵入者は、人の目には映らないのだった。
 扉の前に誰が居ようと、彼女には何の意味もない。

『わらわには聞こえるぞ……? のうのうと生を楽しむ、憎き女の寝息が……』

 生命の誰もが常識として持ち合わせている、
 “壁は通り抜けられない”という概念をさも当たり前のように無視しながら。

 嫉妬に狂う生霊――六条御息所は、教会内へと這入っていった。

 鳴らないはずの、鐘が鳴る。
 欺き合いは始まっている。

◇◇◇◇◇

(――どうしてだろうか?)

 同刻、教会内。
 チェスワフ・メイエルは長椅子に寄りかかりながら、静かに思考を巡らせていた。
 隣からは、椎名桜子の小さな寝息。入り口近くの壁には、青いL字型のブロックが無言で張り付いている。
 そんな中チェスが考えていたのは――秋山とL字ブロックに出会った、数刻前のことだった。

(私はなぜかあの時、偽名ではなく本名を名乗ってしまった。
 名乗り切ってから訂正すればいい、と思っていたのにも関わらず、すぐに)

 チェスには他の3人(?)に1つだけ、隠していることがある。

 自分がこの殺し合いの場において絶対優位の力であり――後ろの壁に張り付いてるL字ブロックのように、特別で異端で常識外の存在だということ。
 ――“不老不死者”だということだ。

(まさか私の不死の力が、消えているはずはないが……)

 確認のためにチェスは、自らの右手の人指し指を口に運ぶ。
 指の腹を犬歯で挟み、万力のように徐々に力を加えて、そのベクトルが逸れないように最大限に注意を払って――

「……っ」

 一気に、噛み潰す。
 ドアに指を挟まれる痛みの比ではない強烈な刺激が発されるが、チェスは表情を僅かに歪ませるだけで、叫びすら上げない。
 この程度の痛み、慣れてしまったといわんばかりに。

(さあ、どうなるかな?)
 口から人指し指を抜く。形を変えてしまった指先から、血が雨垂れのように流れる。
 教会の床に落ちていくそれは、いつもならすぐに人指し指の先に舞い戻ってくるが、
 ぽたり、ぽたりと落ちていく血は、一向にその気配を見せない。
 ただ、紅い線は流れ。
 チェスは冷徹な目で、その光景を見つめる。
 ズボンに血が染み込んでいく。まだ戻らないのか、それとも――いや。

「………………やっと、か」

 普段より遥かに遅く、チェスの体は再生を始める。
 ゆっくりと――ゆっくりと、時が巻き戻っているかのように血が指先に集まり、元の姿を蘇らせていく。

(消えては、いない。だが、明らかに何らかの制限がかかっている)

 あの主催らしき男――一般人にしか見えなかったが、一体何をしたのだろうか?
 不死者。
 悪魔から授かった製造法で作る「不死の酒」を飲むことでなれるこの体には、悪魔から与えられたルールがある。
 1、不死者同士では名前は偽れない。
 2、不死者は不死者を、右手を頭に乗せて「喰いたい」と願うことで喰うことが出来る。
 他にも少しあるにはあるが、基本はたった、2つのルール。その他にルールを付け加えることも、ましてや不死の力を弱めることなど、出来るやつは居なかったというのに。

(私にも想像のつかない何かを持っている、ということか……)

 チェスが辿り着いた結論も、外の秋山と同じものだった。
 当たり前といえば当たり前だ。得体の知れない力で自分達をさらったような奴のことなど、どれだけ考えても分かるはずが無いのだから。

 それよりもチェスには、考えないといけないことがあった。
 先程の不死者のルール1。不死者同士では、偽名を名乗れない仕組み。そして、ここに来てからの自分の行動。
 ふと横に目をやると、椎名桜子は幸せそうな顔で寝ていた。……最初彼女と出会ったときは、訳の分からない自体に遭遇して動揺し、偽名を名乗ることも忘れてしまった。
 仕方なく手を繋いで相手の右手を塞ぎ、喰われる可能性を減らしたが――秋山達と出会ったときは、“偽名を名乗ることをしようとしたにも関わらず、名乗れなかった”。
 つまり、端的に表すならば。
 椎名桜子、秋山深一、L字ブロック……この中にもう一人、不死者がいるということなのだ。

(デイパックの中に不死の酒が入っていたのか、ここに来る前からすでに不死者だったのか。
 自覚はあるのかないのか。私を喰う気なのかそうではないのか……
 どんな状態かは分からないが、確かにいる。だが、一体、誰が――?)


◇◇◇◇◇

『わらわは、知っておるぞ? それが一体誰なのか』

 私がそこまで考えた時。
 ぽん、と。私の頭の上に、右手が置かれた。

「……え?」

 不死者であることを悟られないよういつも作っている、子供らしい声で私は驚く。
 時が止まったかのようだった。いや、違う。進みすぎているのだ。
 私が握っていた筈の椎名桜子の右手が――いつのまにか解けて、私の額に乗せられているのだから。

「桜子、お姉ちゃん?」
『……桜子、美しき名よの。人はみな汚れているというのに、嘘つきよ』

 明らかに別人のような口調で、椎名桜子は私に語りかける。
 いや、もはやこれは別人だ。誰かが中に、這入ってしまったような。
 幽霊に、取り付かれたような。

『お主も偽るのは止めたらどうじゃ? 少し心を覗かせてもらったが、わらわよりも長く生きているのじゃろう?』

 生気のない目でこちらを睨みつけ、妖しく口角を上げながら――ソレは喋る。
 私は石にでもなってしまったかのように動けない。右手を額に乗せられている。コレが不死者だとすれば、命を握られているに等しい。なのに、指一つ動かせない。

「なぜ私が不死者だと分かった……?」
『言ったであろう、心を覗かせて貰ったと。最初はこの女子をさっさと呪い殺して帰るつもりだったが、少々予定が狂っての……
 なぜか知らぬが、この建物では呪いは弾かれるようじゃった。だから、女子自身に取り憑いてここから出ようと思ったのじゃが』

 意味の分からない言葉を並べながら、徐々に椎名桜子の――ナニカの顔は醜く、歪んでいく。
 取り憑く? 幽霊? バカな。元々死んでいるやつが殺し合いをしてどうなるんだ。私の頭の中では、そんな疑問が浮かんでは――恐怖に塗り潰されていった。

『見付けてしまったのじゃよ、そうせずともこの女子を外に出す術を。
 ……どうせなら。絶望を味わわせて動かした方が愉快じゃろう? 故に――』

◇◇◇◇◇

 ――お主には、消えてもらうのじゃ。そう呟いて彼女は、チェスワフ・メイエルから手を離す。
 それは、合図だった。協会の外と中で、2人の人間が思考を巡らせている間に、彼と彼女の間で決められた合図。
 決意を固めながら、彼は回想を始める。

『お主――お主は、なんじゃ? 何にお主は怒っておるのじゃ』
「……私は…………主催者が許せないのアル」
『それは何故じゃ?』

 先刻。突然聞こえてきた問いに答えた彼に、また彼女は問いを返した。
 彼ははっと気付かされる。考えたこともなかった。何故自分が怒っているのか。何故こんなにも苛立たしいのか。
 彼女は彼に、彼にも分からない答えを、あっさりと教えてくれた。

『お主の心は見させて貰った。お主が憎んでいるのは主催者ではない――お主を“消した”人間達であろう?』


 ――ああ、そうだった。彼女のその一言で、彼は完全に自分を理解した。
 生まれてからずっと、ぐるぐると回されながら他のブロック達と一緒に落とされ、揃えば消されて、自らの体が消えていく痛みをぼんやりと感じていく日々。
 彼が消えてしまっても、また新たな「彼」が上から現れてきて。
 そして「彼」もまた、彼と同じように消えていく。
 死ぬために生きる、無限の輪。彼はゲームが終わらない限り、死ぬことすら許されない不死者なのだ。

「……なぜ…………主催者に怒っていたのか…………ようやく、分かったアル」

 彼は怒りに打ち震えていたのだ。
 “どうしてもっと早くこの機会を与えてくれなかったのか”という、ただ一点において彼は――L字ブロックは、怒り狂っていたのだ!


「私は……お前らに消されるために……生まれてきたんじゃないアル……!」

 人間にも、同じ痛みを与えるために。テトリスのブロックも苦しんでいることを、知らしめるために。

 “彼は、飛び下りた”。

◇◇◇◇◇

 手を、放された。
 私はその行動に疑問と驚愕をもって、叫ぶ。

「な……なぜ手を放した! お前は私を消すんじゃないのか!?」
『お主には消えてもらう、と言っただけじゃ。お主を消すのはわらわではない。
 しかし、ここにいる者達の感情は面白いの。様々な知識がたくわえられていくようじゃ――』

 むかつく程の余裕の表情を浮かべながら、ソレは一呼吸しながら長椅子から立った。

『1つ、問おうか。壁とは何ぞや?』
「壁……?」
『“壁からは動けない”というのは、わらわたちの立っておるこの地を軸とした“壁”だと、誰が決めたのかえ? もし壁を歩く者がいたなら、地面こそ、天井こそ壁となる。
 お主が動けないと思い込んでいた者は、実際はどこでも動くことができるという事になるのじゃ――』

 そもそも、都合よく壁に貼りついた状態でこの島に飛ばされてくる訳がなかろう? そんなことを言いながら、椎名桜子に宿っている何かは、私に背を向け。

『そう、あの意思を持つ石もまた、嘘をついていたのじゃよ。本当は壁から放れることが出来ることを、彼奴はまだ知らなかったのじゃ』

 おそらくその顔に笑顔を浮かべながら、私に向かって言葉を紡ぐ。馬鹿な空論だと笑いたいのに、私の頭はその可能性に警鐘を鳴らす。
 確かに、私は。一番得体の知れない存在であるはずのアレを、壁に貼り付いているなんて下らない理由で、思考の外に置いていた!
 ――後ろを振り向く。L字ブロックは、そこにいたはずのL字ブロックは消えていた。もう、遅かった。

 風を切る音がして、
 私が顔を元の方向に戻したときには既に、
 青くて平らな四角い面が、私を喰おうと近付いて来ていた。

◇◇◇◇◇

 制限がかけられているためか、ゆっくりと。チェスワフ・メイエルの体が、L字ブロックに吸い込まれていく。


 ――考えてみれば。入口近くの壁にくっついていたのなら、L字ブロックからはチェスと桜子の背中しか見えなかったはずだ。
 それなのに彼には、桜子がチェスの額から手を放すところがしっかりと見えていた。
 何故か? 六条御息所の言葉から推測すれば、答えは簡単に導くことが出来る。
 彼は天井に移動して、寸劇をずっと上から見ていたのだ。

◇◇◇◇◇

 チェスワフ・メイエルの姿は、もうそこにはない。ただ彼が着ていた豪華な服のみが、彼がそこに居たことを如実に示していた。
 ――だが、鐘は、鳴り止まない。
 彼らは再び、外へと移る。まだ目的は、達成されていないのだ。

◇◇◇◇◇

 二幕目は教会の中から始まる。

 ――椎名桜子の意識が覚醒すると、そこには不思議な光景が広がっていた。
 寝ていたはずの自分は立っていて、隣にいたはずのチェス君の体だけが何処かに行ってしまっていた。

「……にゃはは?」

 びっくりにびっくりを重ねたような光景に、思わず口から気の抜けた声を漏らす。
 同時に、彼女の口から何かがこぼれた。いつ口に入れたかも分からないそれをみて、彼女の驚愕はさらに上乗せされる。
 それはチェスワフ・メイエルが喰われる直前、六条御息所が椎名桜子の体を使って仕込んでおいたもの。


 チェスワフ・メイエルの、人指し指だった。

「――――――!!」

 椎名桜子は、声にならない叫びを上げる――気が動転して、何も考えられなくなる。
 重力に逆らわず床に落ちる指先。自分の知らない間に何かが起きて、
 1、一人の人が消え、
 2、誰かの指先が自分の口の中に入っていた。
 冷静に考えればまったく関係のないように思える2つの事象を、椎名桜子は結び付けてしまう。

 自分が何かをして、チェス君がいなくなった?
 じゃあ、何をしたのか?

「…………嫌」

 それだけは、考えたくない。
 そう椎名桜子が思った時、今度は急にすごい音を立てながら、協会の鐘が鳴り響き始めた。

 ガァアアン――最初は一回、音を耳に刷りこんでいくように。
 だがすぐにそれは、連なりながら教会の周りを襲う。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
「なに、この音!? 」ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
 ガラガラガラ殴るような轟音に、心が揺さぶられる。ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
 ガラガラガラ――桜子は教会の中にいることが耐えられなくなって、扉へと走る。ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ――教会そのものが揺れているような感覚、ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ――どうにか扉を開けると、そこには、ガラガラガラ
 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ――秋山深一が驚いたような顔で宙を見上げていた、ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ、ガラガラ。


「秋山さ――――」

 ガラン――ぴたりと、狙い済ましたかのように鐘が鳴り止んだ。
 桜子の声に気付いた秋山が、桜子の方に顔を向けて、笑顔を浮かべる。
 同時に秋山さんの頭上に、空から教会の鐘が落ちてきていた。

「ん」

 ――――めき。

 秋山さんの体はそのまま、人の背丈ほどもある大きな鐘に押し潰された。

「?」

 鐘が人を、
 潰しながら、
 教会の空から降ってきて重力に逆らわず、
 加速しながら落ちたそれは、見事なまでに、
 爆音を、爆音を響かせ、下に敷かれた秋山さんは、
 秋山さんの体は、人間では有り得ない方向に曲がってしまっていた。

「……え?」
『お主のせいで皆死んだのじゃよ、椎名桜子』

 追い討ちを掛けるように、耳元で誰かがささやく。もはや椎名桜子はまともに考えることが出来ず、その言葉を受けいれて。
 耳が痺れ、心が痺れ、目が痺れて、頭が痺れ
「にゃははは」
 爆発の余韻に浸りながら椎名桜子が感じた感情は、理不尽なまでの絶望だった。

「ははははは……」

 もう、嫌だ。
 すべてをあきらめよう、感覚を空白に任せて、あれ、意識が、

「さよなら、みんな」

◇◇◇◇◇


『つくづく、運の良い女じゃの』

 全ての鐘が止んだ後。教会の上から降りてきたL字ブロックと六条御息所は、2人の死体を前に談笑していた。

「そうアルね…………まだ痛めつけれたと思うアル」

 椎名桜子の心臓は、既に動いていない。死因は、ショック死だった。
 六条御息所が絶望の中で呪いをかけようとしたその時に、彼女の心臓は動くことを辞め、身体的には一切苦しむことなく、彼女は死んでいったのだ。
 2人にとってはヘドを吐きたくなる程に綺麗な死に顔を見せる桜子に一瞥し、2人はどちらともなく、街へと足を進める。
 どちらにも、足は無いが。

「――ふ、2つ、質問いいアルか」
『なんじゃ? 急に語勢が弱くなったの』
「あなたは……チェス君に取り憑いて、“不死者の殺し方”を手に入れ……私に教えた、のアル。
 でも……そう周りくどいことをしなくても、チェス君の体を使って……桜子さんを殺せばよかったのではないか……アル?」
『ああ、確かにのう……そうじゃな。呪い殺すことばかりに気を取られ、すっかり忘れておったわ。その手も悪くないの――もう一つは、なんじゃ?』
「………………えと、アル、るる」

 急に、青かったL字ブロックの顔(?)が、ほんのりと赤くなった。
 六条御息所が首をかしげると、彼は思いもよらない質問を、見えない相手に向かって放つのだった。

「あなたに…………か、彼氏はいるアルか!?」
『……は?』
「い、いるアル!? いるアルか! 毎晩、えと……あの、あれしてるアルか!」
『……そち、気でもふれたかえ? 大体、何故わらわを』
「あ、あなたは……わ、私に大切なことを教えてくれたのアル!」

 六条御息所の予想以上に、L字ブロックは六条御息所に感謝していたのだ。
 感情の定まらなかった自分を固定してくれた人。好意を持っても、仕方ないことだろう。
 六条御息所はそれに気付き、L字ブロックを微笑ましい目で見つめると――

「だから、その……すk『彼氏どころか夫がおる』
「な!?」

 当然のように、言葉のナイフを突き刺した。

『わらわの夫はお主など比べものにならないくらいのイケメンじゃ』

 ぐさり。イケメンなんて言葉、どこで覚えたのか。

『あの人はわらわ以外にも複数の女を女取っておる』

 ぐさぐさり。L字ブロックにはそれは、ただのハーレム野郎にしか聞こえない。

『そしてわらわは――その女達への怨みで、成り立っておる物の怪にすぎぬ』
「――へ?」

 3つ目のナイフは刺さらなかった。代わりに今度はL字ブロックが間の抜けた声を出す。

『わらわの本体が目覚めれば、わらわは消えてしまうのじゃ。それでも良いのかの?』
「――そ、そうなのアル?」
『もうすぐ朝じゃし、そろそろじゃろうなぁ……』

 挑発するように、六条御息所はL字ブロックに語りかける。歯がないから噛み締められないが、L字ブロックは悔しさを感じる。
 すると今度は六条御息所の方から、とんでもない言葉が飛び出した。

『だが、お主のような阿呆は初めてじゃ。
 次の夜。わらわの本体が寝て、わらわがまた現れた時――それまでまだお主が生きておったら、考えてやらんでもないぞ? あははははははは!!』

 そしてどこからか風が吹いき、辺りに漂っていた気配が消えた。本体とやらに戻っていったのだろうか、もう少し一緒にいてくれてもいいじゃないか……とL字ブロックは考えて。

「……もしテトリスのゲームがクリアされたら、私は死んでしまうアル…………探さなきゃ、アル」

 ふらふらと夢遊病者のように、街に向かって進み始めた。
 彼の頭の中には、早くも祝福の鐘が鳴っていたとか、いないとか。

【A-8/早朝】
【L字ブロック@テトリス(ゲーム)】
【服装】全裸
【状態】健康
【装備】無し
【持ち物】未確認
【思考】
 1:主催者を含む、人間への怒り
 2:六条御息所と付き合いたい
【備考】
※テトリスのゲームがクリア、または破壊されない限り死にません。
※チェスワフ・メイエルの知識を、指先分以外全て手に入れました。


 ――さて、とりあえず分かれた方がよいじゃろうと判断してはみたものの。

『ここはどこじゃろうな……まあ、良い。女を見付けて、呪い殺せばいいだけじゃ』


【場所不明・A-8近辺/早朝】
【六条御息所@源治物語】
【服装】白襦袢
【状態】生霊
【装備】不明
【持ち物】支給品一式
【思考】女を一人残らず呪い殺す。
1:愉快、愉快。
2:適当な奴に取り憑いて殺したほうが、苦しませられるかの?
3:阿呆な奴じゃ、L字ブロック。
【備考】
※本体はマップのどこかで眠っています。そろそろ起きたかも。

 一つの鐘が鳴り終わり、また他の鐘が鳴り始める。それは一見、変えられないことのように思えるが。
 だが、嘘吐きは。鐘が鳴り終わることすら、嘘にしてみせる。

「……もどれ、メタモン。やっぱり、あんな変なブロック、簡単に信じる方がどうかしてんだよ」

 椎名桜子の死体、チェスワフ・メイエルの指先、秋山深一の死体、3人のデイパック。鐘が鳴り終わった教会には、もはやそれしか残っていない。
 それは、嘘だ。
 秋山深一は扉を再び閉め、その前に座した後、支給品を確認していたのだから。

「……へんしん、だったか。見た物に姿を似せることができるとはな……まあ、鐘で瀕死になっちまったようだが」

 メタモンをボールに戻しながら、秋山深一は考える。支給品の中の一つに、こいつが入っていなかったら。もし自分が彼らを、信じきっていたとしたら。

 間違いなく死んでいただろう。やはりこの島、こんな状況で。
 嘘を付かずに生きていくことは、難しいのだろう。
 殺し合いとは、命を賭けた騙し合い――全く、狂気の沙汰に他ならない結論だが、やはりそういうことなのだと、秋山は納得する。

「全く、面白くねぇ」

 とりあえず、2人をあっさり片付けたL字ブロックのいる方とは別のルートを通って、何処かに行こう。
 川沿いに行くか、海沿いに行くか。留まっていてもいいが、さっきの鐘の音を聞いて、誰かがやって来るかもしれない。
 教会の中にあるだろう2人のデイパックを取る暇はないだろう、と秋山は考える。万一爆弾でも仕掛けられていたら、それこそ話しにならない。

「さて――ライアーゲームの始まりだ……俺は誰とも組まない。一人で、このゲームを勝ち残ってやるよ」

【A-9 教会の外/早朝】
【秋山深一@ライアーゲーム】
【服装】黒いTシャツにジーパン
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】メタモン@ポケットモンスター(ひんし)、ランダム支給品×2、支給品一式
【思考】
1:ゲームからの脱出
2:一人で勝ち残る。馴れ合わない

※A-9教会内に、椎名桜子のデイパック(中身未確認)、チェスワフ・メイエルのデイパック、(中身未確認)、チェスの指先。
 教会の外に、教会の鐘が放置されています。

【チェスワフ・メイエル@バッカーノ!(ラノベ) 死亡】
【椎名桜子@魔法先生ネギま!(漫画) 死亡】


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(無題) L字ブロック オムニバス
悪霊 六条御息所 上は大火事、下は洪水、これな~んだ?
(無題) チェスワフ・メイエル GAME OVER
(無題) 椎名桜子 GAME OVER
(無題) 秋山深一 オムニバス


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