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信じるものほど報われず

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信じるものほど報われず◆/O9sjV9JyQ


 伝承に曰く、世界の始まりには天と地の区別はなく、ただ混沌があるのみだった。
 しかしやがてその中の清浄なものは天に、濁ったものは地になり、そしてその中から神々が生まれたという。
 すなわち、全ての神は混沌の中から生まれ出ずるものなのである―――


(覚えの無い顔だな。どこの作品出典だ?)
 刀を中段に構え、ウエディングドレスに身を包んだ6/は、振り返った男の顔を見ていぶかしんだ。
 しかしそれを追求する気などない。
 誰であろうと、この殺し合いの参加者であれば殺す。それだけだ。
 チビすけやカエルやポテトくらい御しやすい相手であれば騙して味方につけるほうが有益だろうが、この男は一見してそう簡単には利用できないとわかった。
 ならばこの場で殺すのみ。
 6/は再び間合いを詰めるべく、切先を上げたまま狭霧ににじり寄る。
「ぴこっ、ぴこ」
 ポテトも応援するように後方から吼えかける。
「お前も神に抗うものか。ならば容赦する必要は無いな」
 狭霧はそういって自らの得物であるナイフを構えた。
「神……だと?」
 会話をするつもりなど無かったのに、狭霧の言葉の中にあったその言葉に6/の口が動いた。
 そして続いてその口から出たのは……哄笑だった。
「何のつもりだ?」
 狭霧の憤りを込めた声を聴きつつも、6/は切先の延長線を狭霧の喉元に当てたまま狂ったように笑うのをやめない。
 ひとしきり笑った後、6/は深呼吸を一つして狭霧と目を合わせた。
「これは傑作だ。こんな場に連れてこられた奴が神様を信じるか? まあそういう参加者は珍しくは無いが……
考えても見ろ。もし本当にお前の信じる神がいるのだったら、なぜお前らはこんな目に遭っている?
神が万能なら、神が正義なら、敬虔な信者をなぜこんな目に遭わすんだ?」
「ふん。いかにも聞き齧った知識だけで話をする、底の浅い愚者の言い草だな」
 狭霧は吐き捨てるように答える。彼が6/に抱いている感情は憎悪や反感ではなく、ただの侮蔑であった。
「まあ神を信じるかどうかなんてのは個人の勝手だが……俺はこの世界に神様なんかいないことを知っている。
あるいはいたとしても、その神様は正義だとか世の理だとか、そんなことはちっとも考えちゃいねえ」

「貴様、それ以上神を冒涜するならただでは殺さんぞ」
 挑発かも知れないと知りつつも、これ以上この男には一言も喋らせてはならないという使命感が、いつも氷のように冷静な狭霧をも静かに激昂させた。
 このような男が神について語ることを容認することが出来ない。
 本当ならば今すぐにでもこの男の腹にナイフを突き立てて少しずつ臓物を引きずり出し、この世の終わりのような苦痛を味あわせながら殺してやりたいところだが、この男の剣の腕だけは並みではなさそうだ。
 リーチの短いナイフで闇雲に突っ込んでいっても斬られるだけだろうし、神から賜った剣に持ち替えている余裕も無いだろう。
「お前、こんな殺し合いは初めてか?」
 男が狭霧に問う。
「いや、二回目だ」
「ふん、二回か。ちなみにだが、俺はこれで六回目だよ」
 六回目―――その数に流石に狭霧も驚いたように口を噤む。
「そうだ。俺はこんな馬鹿げた集まりに六回も無理矢理参加させられたんだ。
そしてその度に誤解され、逃げ回らなければならなかった。
殺し合いに乗っている連中だけでなく、殺し合いを止めようとしている連中からさえも逃げ回らなくてはいけなかった。
そして何度も何度も、もう数え切れないくらいに追われ、嬲られ、切り裂かれ、虐げられ、傷つけられ、踏みにじられ、犯され、辱められ、焼かれ、殴られ、千切られ、食われ、拒絶され、裏切られ、憎まれ、恨まれ、罵られ、そして殺された。
俺が一体何をしたっていうんだ?
神様が本当にいるんだったら、なんで俺をこんな目に遭わせるんだ?
なんで俺がこんなことを何度も何度も繰り返さないといけないんだ?
あんたの神は、俺に何ていって答えてくれるんだ?」
 6/の問いは狭霧にではなく、狭霧の信じている、あるいは自分の信じていた神への詰問だった。
 理不尽な理由で殺し合いに巻き込まれ、殺し合いを止めようとしてもいつも誤解され、全ての人を敵に回し……
 いつしか6/は、神も正義も決して信じようとはしなくなった。
 だからこそ、今回はいつもとは違う「マーダー」として参戦しているのだ。
 しかし、その6/の静かな叫びを狭霧は冷笑で切り裂いた。
「神を知らぬ哀れな男よ。貴様などが我が神を責めようなどとは身の程知らずにも程がある」
「まるで神様に会ったことがあるかのような言い草じゃないか」
「まさにその通りだからこそ、そう言えるのだが? 私はこの場で神に拝謁した。
よってこの場は私にとって理不尽な殺し合いの場などではない。聖地なのだよ」

 6/は虚を衝かれて硬直した。
 普通だったら電波発言として聴かなかったことにしたいセリフである。
 しかし、今回参加させられているバトロワがかなりカオス風味なものであることを考えると、狭霧の言葉の本当の意味が見えてくる。
 今回配られた名簿の中には、歴史上の人物のほか竹取物語や源氏物語の登場人物の名前もあった。
 そしてカオス風味のロワならば、意思持ち支給品が支給されてもおかしくはない。実際ポテトは名簿には入ってなかった。
 そして参加者の中には、ポテトと同じAIRやハカロワ出典のキャラはいない。
 つまり支給品は参加作品から出ているとは限らない。
 そう、例えば―――神@旧約聖書、なんてものが支給品として配られた、という可能性は無いか?
(だとしたら、チートとかってレベルじゃねーぞ……)
 そうであったら、他の参加者を皆殺しにするなどということはとても不可能である。そもそも目の前にいることの男を殺すことさえも……

その時、狭霧が動いた。
 6/の目はそれを認識できたものの、余計なことを考えていたせいで対応が遅れた。
 気がついたときには狭霧は6/の懐に飛び込んでいた。
 刀でナイフを受け流しながら体を捻る。次の行動にすぐに移れない不利な体勢だが致し方ない。
 一度間合いを開けようと、後ろに飛び退こうとした6/の右腕に激痛が走った。
 見なくても分かる。狭霧のナイフが右の二の腕に深く食い込んでいる。
 辛うじて刀を薙ぐように振り下ろす。その切先は狭霧を捕らえることなく、彼は俊敏に飛び退いて刃をかわした。
 6/は地面に置いていた、口が空けっぱなしの自分のデイバッグの上に腰を下ろした。
利き腕である左では無かっただけまだマシだが、流石に腕一本ではまともに刀を振ることも出来まい。
 狭霧はナイフを振りかざしながら真っ直ぐにこちらに走ってくる。
 二撃目は避けられない。
(まだだ、自分にはまだアレがある!!)
 しかしこの怪我だ。体力を大幅に消費するあの技を繰り出して無事である保証は無い。
 いや、そもそも発動できるかどうか。
 血液を失い、朦朧としてきた視界の隅に、今までロワの中で出会った人の顔がまるで捕まえられない蜃気楼のように浮かび上がってきた。
(マジかよ……走馬灯かよ。つーか、なんでこんな時にアイツの顔なんか……)
 狭霧は、もはや抵抗する気配の無い6/の心臓にまっすぐナイフをつき立てようと迫ってくる。
 その距離はあっという間に詰まり、ナイフの切先が6/のウエディングドレスの胸元を裂いてその下にある皮膚を貫通しようと―――


「I am the bone of my walnut.  (体はクルミで出来ている)」

「これは……」
 狭霧は呆然として自分の周りを見渡す。
 そこは一面の林だった。その木々に実っているのは全てクルミである。
 そして、今まさに自分が殺そうとしていた男は、目の前に立って自分の左手を握ったり閉じたりしていた。
「……どういうことだ?」
 そう先に口にしたのは6/のほうだった。痛みもなく、体力の消耗も回復している。
 それどころか、こうしてクルミの固有結界を発動させることさえ可能だった。
「あの支給品の中に何か……全てハズレだったはずだが……」
『汝に力を与えようぞ』
 その時、何者かの声が6/の頭の中に響いた。
 男のものとも女のものとも、子供のものとも老人のものともつかない、そのどれでもなくその全てであるかのような声だった。
「あんたは誰だ?」
『汝の右手にある袋に書いてあろう』
そういわれて、初めてその袋の存在に気がついた。
 それは先ほど回収したデイバッグの中に入っていたハズレ支給品の一つだった。
 何しろただの殻の布袋だった。なので袋に書いてある字なども読んでいなかったのだが、今改めてその文字を読んでみると……

「国常立神」

 あろうことか、日本神話における最古の神の名前が刻まれていた。
 記紀によれば世界の始めに高天原で生まれた日本の始源神である。言い伝えによれば、姿を持たない神であるという。だからこの場にも顕現していないのだろうか。
「なんで……さっき袋を触ったときはなんともなかったのに」
『それは、汝が真に窮した時に拙の封じ込められた袋に手を触れたからよ。
この袋は持ち主が命の危機にある場合に触れたときのみ封印が解かれるようになっておる。
そして、触れたものには拙の持つ神性を貸し与えよう。汝は拙の手足となり、拙は汝の糧となる』
(そうか、偶然ながらもあの時口が開きっぱなしのデイパックの中にあったこの袋に手が触れてしまったのか……)
 今考えないといけないのはそんなことではないと知りながらも、そんな考察が頭の中を流れる。
「どんなまやかしかは知らんが、こんなもの、神の力の前には無力だ!!」
 狭霧がクルミでできた地を蹴り、6/に飛び掛る。
 まさに魔を狩る者の身のこなしで、背徳者の喉元を掻き切ろうと迫る長身の殺人鬼。
 その体は、足元から突如生えた一本のクルミの木によって一瞬にして跡形も無く引き裂かれた。
 後に残ったのは幹に微かに鮮血の跡を残す巨木と、その幹のところどころにこびりついた僅かな肉片のみ。
 誰よりも神を信じた男は、その神の力によってその肉体を滅ぼされたのだった。

「信じ……られねえ……」
 そびえるクルミの木を目の前にして、6/は声を震わせた。
 種のままのクルミをこんな速度で成長させるなど、本来自分の持っている能力を超えている。
『先ほどの汝の話は聞いていた。汝が望むならば、拙の力を貸し与えて汝の望みをかなえよう』
「俺の……望み?」
『左様。幾度も望まぬ殺し合いに連れてこられた汝の悲憤、しかと聞き届けた。
汝が拙の力の依り代となるならば、拙は汝の運命を変えて見せよう。
この殺し合いもすぐに終わらせられようし、その後も二度とこのような目には遭わせぬ。
ただし、代償としてその後は拙の「依り代」として生きてもらうことになるがな』
「ふざけるな!!」
 6/は神の言葉を最後まで聞かずに叫んだ。
「俺に力を貸す、だと……今まで一度も俺を救ってくれなかった神が、今更俺を助けるだと?
いいことを教えてやろう。俺は神様なんか信じてねえんだ!!
自分の運命くらい自分で変えてみせる!! お前なんかの力を借りることなどまっぴらごめんだ!!
消えてくれ!! 二度と俺に話しかけないでくれ!!」

しばしの沈黙の後、神はどこか小馬鹿にしたような声で答えた。
『ふむ。まあそれも良かろう。ならば拙は汝の望みどおり、汝の中で眠るとしよう。
しかしもし汝が拙の力を求めるならば、いつでもよい、呼びかけるがいい……』
 それっきり、国常立神の声は聞こえなくなった。
 6/は自分の右腕を見下ろす。狭霧に付けられた傷口からはもう血は出ていなかったが、とても自由に動かすことは出来ないし痛みもある。
 少し休息をとることにして、デイバッグの上に腰掛けた。
「神様、か……」
 6/の目の前には、さっきまではなかった木が立っている。
 その木から落ちてくるクルミを見ながら、6/は誰に言うとも無く呟いた。
「ぴっこり」
 ポテトが心配するように、膝元に縋りついてくる。
 左手でその頭を撫でながら、6/は自分の内に眠る神に語りかけるつもりで言った。
「神様なんかいないんだよ。いたとしたって信用なんかするもんか。
俺は絶対にそんな力は使わない。
たとえ誤解を受けようとも……あいつを殺すことになろうとも」


 キリコ・キュービィは驚愕していた。
 必要があれば介入しようと、見知らぬ二人の戦いを傍観していたら突然何も無かった地面の上にクルミの林が出現し、二人の姿を覆い隠してしまった。
 驚くまもなくクルミの林は掻き消えるように消滅し、そこに立っていたのは戦闘で劣勢だったほうの男のみだった。
 もう一人の男の姿は無い。その代わりのように、一本のクルミの木が立っていた。
 何が起こったのか、調べないわけにはいかないだろう。
 残ったほうの男に話を聞くべく歩み寄ろうとしたが、

「俺の望み? ふざけるな!! 俺に力を貸すだと……」

 男は一人で何かをわめき散らしていた。明らかに頭の可愛そうな人の行動だった。
 あるいは傍らにいる犬に話しかけているのかもしれないが、どっちにしてもあまり関わりあいたい人間ではない。
 一人で神がどうのこうのと気持ちの悪い内容を叫んでいる男から、キリコは急ぎ足で遠ざかった。


【1日目 午前/B-5 市街地】

【◆6/WWxs9O1s@カオスロワ】
【服装】ウエディングドレス
【状態】右腕がほぼ機能を失う
【装備】格さんの刀@水戸黄門、悟史のバッド@ひぐらしのなく頃に、ガトリング砲@現実、ポテト@葉鍵ロワイアル3、国常立神@日本書紀
【持ち物】支給品一式×6、不明支給品3、ハズレ支給品2、トーマスの首輪、クローバーの4
【思考】
基本:全員殺して元の世界に帰る
1:少し休憩
2:絶対に国常立神には頼らない
3:ポテトは殺さない。用が済んだら殺す
4:余裕があったら首輪を解析する
【備考】
※ポテトを保護したのは非常食にするためです


【キリコ・キュービィ@装甲騎兵ボトムズ】
【状態】健康
【装備】:S&W M60@現実(弾丸は全部で24発)、
    UZIサブマシンガン@現実(マガジンの数は全部で4つ)
【持ち物】:登山ナイフ、基本支給品 (支給品はすべて確認済)
【思考】
 1:はぐれたパトラッシュを探す
※◆6/WWxs9O1s@カオスロワを電波な人だと誤解しました

【狭霧嘉麻屋@オリジナルキャラ・バトルロワイアル  死亡確認】

※B-5にクルミの木が一本生えました
※狭霧の支給品は近くに落ちています(未回収)


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B-5周辺顛末記 狭霧嘉麻屋 GAME OVER
B-5周辺顛末記 ◆6/WWxs9O1s@カオスロワ 触れ得ざる声也
B-5周辺顛末記 キリコ・キュービィ 触れ得ざる声也


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