ナイトメアシンドローム ◆KYxVXVVDTE


 いつもは外で鳴いている、ひぐらしは鳴いていない。
 私は雛見沢分校にいる。自分の席に座って、じっと前を見つめている。
 前には黒板がある。でも真っ黒で、何も書かれていない。
 だから、授業はまだ始まっていない。授業が始まるのは、これから。

 普通なら、そう。
 いや、普通だから、そうなるはずなのだ。
 でも違う。
 授業なんて始まらない。
 絶対に、始まらない。

「…………」

 だけど。
 それでも、もしかしたら授業が始まるかもしれない。
 そう私は願ってしまう。
 知っているのに。
 これから起きることが何なのか、分かりきっているのに。
 私はそれに、会いたくないのだ。

「………………」

 外は変わらず、ひぐらしは鳴いていない。
 いや、ひぐらしの声どころか、何の音も聞こえない。
 教室の中もふだんの騒ぎはどこかにいって、病院みたいに静かだ。
 圭一さんも。レナさんも。梨花も、魅音さんも。クラスのみんなも。
 そして、私も。
 みんな前を向いて口をつぐんでいる。

 現実感のない、凍ったように冷たい教室。
 どうしてだろう、と思う心も冷えきってしまったようで、私はそれを受け入れていた。
 ……いや、嘘だ。こんなの、受け入れられるはずがない。
 こんなのは、受け入れたふりをしているだけだ。
 本当は怖くて怖くて仕方がないのに、それを顔に出さないようにしているだけだ。

 確かに、まだみんな生きている。
 けれど、いつまで生きていられるのかは分からない。
 だから私が、私も、何かしなくちゃいけないのに。
 私は何もできないと決めつけて、何もしようとしていない。

 だからここは今、こんなに静かなんだろう。

 私が止まっていて。
 私が動こうとしなくて。
 私が、変わろうとしないから。

「あれ? みなさん、今日はずいぶん静かですね」

 ふいに教室の前の扉が開く。
 肩まではない長さの青い髪。きれいな白いサマードレス。
 私達の担任、知恵先生だ。
 いつもきれいな知恵先生は、今の私にはもう、悪魔の使いにしか見えない。

 また伝えに来たんだ。
 いつまでたっても私が変わらないから、それはだめだって伝えに来たんだ。

「ほら、もっと楽に構えてていいんですよ? ――まだまだこれからなんですから」

 知恵先生は少しも表情を変えずにそう言って、教壇の前に立つ。
 ロボットみたいに手を動かして、手に持っている名簿を開いた。

 怖い。

 もう条件反射だった。私はその動作を見てまたそう思う。
 全身がわなわなと震えて、ひざの上に置いた手が握られる。

 なのに私は、動けない。

 怖いを怖いのままにして、自分のせいじゃない、嫌だと突きはなす。
 誰も信じずに居場所を減らし、誰かのためと嘘をつきながら自分をぼろぼろに壊していく。
 そんなことだから私は、この“怖い”に対して何もできないのだ。

 あの名簿に書いてあるのは、クラスのみんなの名前のはず。
 そんな希望を持つことしかできない。
 「こっち」が本当の私の世界で。
 「あっち」が私の見ていた夢だなんて。
 そんな希望を、持つことしかできない。

 だから知恵先生は、私にこう言う。
 夢から覚ますための合図を送ってくる。
 悪夢を見せるための笛を、鳴らしてくる。

「それでは、さっきの6時間で死んだ人達を発表しますね。
 まだまだ殺し合いは終わらないので、張り切って頑張りましょう♪」

 知恵先生の声で読み上げられていく誰かの名前。
 その一つ一つが呟かれるたびに、クラスメイトのみんなが、体中から血を吹き出して倒れていく。
 何で、どうして、なんて思う時間はなくて、

 圭一さんの、レナさんの、梨花の、魅音さんの体が、
 赤く、赤く染まって、
どしゃりという音が世界に広がって、
 泣く声と笑う声と怒る声と喜ぶ声が水車みたいにぐるぐる回って、


 嫌だ。
 怖い。


 でも、起きたらもっと、もっと怖い世界が広がっているから。
 だから私は、耳を押さえようとする。目を隠そうとする。
 なのにやっぱり私の手は動かなくて、私の目はしっかりと開き続けてしまう。



 この悪夢はもう、13回目だった。
 こんな夢をずっと見ていたら、私はこわれてしまうのかもしれない。

 だけど、それでもわたくしは、まだ私でいたいのです。
 ほんとうはもう起きなきゃいけないって、わかっているはずなのに。


◆◆◆◆


 洋上を走るniceboatの一室。
 その一角に座り込み、襲撃に備えて感覚を研ぎ澄ませている本郷猛の耳に、
 熱にうなされたような声が届くのは15回目のことだった。

「う……にー、にー……」

 声の主は、ベッドの上で眠りについている幼い少女。
 名を、北条沙都子という。
 本郷がこの地に来てから始めて会った人間で、それからずっと行動をともにしている同行者でもある。


 彼女を本郷が眠りにつかせてから、数時間が経過した。
 だがしかし、北条沙都子が起きる気配は今だに無い。
 数時間の間、ずっと。彼女はかたくなに眠り続けている。

「助けて……にーにー……」

 悪夢を見ているのだろうか。
 先程から北条沙都子は、ここにはいない兄に助けを求めている。
 か細い声が、波の音にかき消されていく。
 しかし本郷の鋭敏な聴覚はその声をしっかりと捉え、本郷の心に言いようのない苛立ちを与える。

 考えて見れば、当然のことだ。

 突然見知らぬ土地に来て、死ぬかもしれない恐怖を抱いたまま、帰れる希望のないゲームを生き残る。
 普通の大人でも発狂しかねない状況を、この少女は6時間も耐えていた。

 そう、耐えていたのだ。本郷がそれに、気付いてあげられないくらいに。
 そこにあった、あの悪魔の放送。
 幸い、先に聞いておいた彼女の知り合いは一人も欠けていなかったようだが……
 その一撃は、少女の心にくすぶっていた様々な感情を暴発させるのに、充分すぎる威力を持っていた。

 結果、北条沙都子は眠り続けている。
 誰のせいでもない。強いて言うなら、主催者のせいだろうか。

「………………」

 本郷猛は考える。
 せめて、北条沙都子を縛り付けている恐怖だけでも晴らしてあげたかった。
 だが、ライダーである本郷が闘えるのは、物理的な、形のある悪だけ。

 北条沙都子の恐怖は、本郷猛には倒せない。
 それを倒せるのは、本人だけなのだ。

 だから今、本郷は彼女が起きるのを待つことしか出来なかった。

「何か、食べ物でも探してくるか……」

 それでも本郷猛は、じっとしてはいられない。
 ユーフェミアを退けた後、船を南の町の方へと動かすことを決め、操舵室に向かった時――確かあの辺りに、調理室があったはずだ。
 もし今が普通の日常ならば、とっくに食事をとっている頃。
 主催が用意しただろうこの船に食材が置いてあるとは思わないが、
 デイパックに入っていた乾パンや白米の袋も、何か調理が出来れば美味しくなるだろう。

 幼い少女に、恐怖との戦いは辛すぎる。
 最終的に乗り越えるのは本人だが、本郷にも何かしらの手伝いは出来るはずだ。

「……沙都子ちゃんを、頼む」

 本郷は立ち上がり、部屋の入口に置いた鶴の置物に声をかけると、調理室へと歩き出した。
 扉を開けたその手は既に完治している。
 しかし、部屋から一歩左足を踏み出した瞬間、ぴり、とユーフェミアに撃たれた箇所が痛んだ。
 銃創ゆえに治癒が遅いのか、それとも自責の念から来る幻痛なのか。

 どちらにせよ、これくらいならば問題ない。
 こんなものは、本郷が守れなかった者達の痛みに比べれば、あまりに小さすぎる痛みなのだから。

「……ごめんなさい、にーにー」

 そんな本郷を見送るように、北条沙都子が17回目の小さな呟きを漏らした。

 ……君が謝る必要は、何一つない。
 謝らなければいけないのは、君に安心させることが出来ない俺の方だ。

 本郷猛がそう心の中で呟くのも、同じくこれで17回目だった。


◆◆◆◆


 波音をざざざと立てながら、niceboatは2人を乗せて進む。
 目下、船はJ-8。雑貨店の南にある浜辺の前を通過している。
 速度は遅め。進路は真っ直ぐ。
 危険人物の攻撃に備えて、陸地から少し離れつつ。
 誰かが気付いてくれることを堅く願いながら、船は静かな海を賑やかしていく。


 もう退くことが出来ないのなら、
 その航路に、せめて幸あらんことを。


 そう星に願おうとしたけれど、生憎もう星は出ていなかった。
 まあ、どうせ自分はただの置物。
 せいぜい見守ることくらいしか、できないんだけど。

「助けて……起こして…………」

 ……しかしあの子、大丈夫?

【1日目 昼/J-8 niceboat内部】

【本郷猛@仮面ライダー 誕生1971】
【服装】革ジャン、丈夫なジーンズ
【状態】左脚に痛み?
【装備】バタフライナイフ
【持ち物】基本支給品、不明支給品0~1
【思考】
1:船を動かして人を集める。
2:戦う力の無い者を保護する。
3:主催者に反逆する。
4:食料を探してみる。
【備考】
※<飛蝗男>に変身出来ます。
 ただし能力には制限が掛けられており、変身後の肉体疲労も大きいです。
 回復力にも制限がかかっている様子。
※niceboatを動かせます。


【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
【服装】緑のワンピース
【状態】雛見沢症候群(程度は不明)、悪夢
【装備】なし
【持ち物】基本支給品一式、不明支給品0~2、niceboatの鍵
【思考】
1:早く、起きなきゃ……でも……
2:圭一さん、みんな、にーにー……
3:本郷さんと共に行動する。
【備考】
※原作の具体的な時期は不明。
 雛見沢症候群にかかっていて、今はちょっとデリケートな状態。今後どうなるかは不明。

※沙都子が寝ている部屋の前に、鶴の人形@涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 が置かれています。喋りません。


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希望は儚きライダーのために 本郷猛  
希望は儚きライダーのために 北条沙都子  

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