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ユメノアト

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ユメノアト ◆YOtBuxuP4U



 魂の炎は、何を焚き木に燃えているのか。
 僕はそれは、自分を抑える心だと思う。
 いつも知らず知らずのうちにかけてしまっている、理性や自制心という名前のストッパー。
 それを押し崩した感情の波は、ほんとうは涙なんかじゃなくて、ガソリンで。
 僕たちはその燃料に、ほんの少しの火種を与えてやればいい。
 ねえ、そうすれば簡単に――人だって殺せてしまうんだ。


○○○○○


 まるでそこは、夢の跡地とでもいうべき場所だった。
 緑生い茂る山間の林を不自然にくりぬいてできたその場所はG-4、採掘場。
 ごつごつとした岩肌と、数台の重機のみを残して何もない、人の手によって造られた空っぽの世界。 

「……」

 他には誰も居ないその場所で。
 打ち捨てられた重機の一つ、巨大なクレーンのてっぺんに、一人の少年が座っていた。
 緑の髪と緑を基調とした服を身にまとった少年、リゼルグ・ダイゼルは待っていた。
 怪しい洞窟へと歩を進める途中、突如向こうの空からこちらに向かって飛んできた、
 謎の乗り物がそばを通るのを。

「来た」

 見かけは大きな猫。しかしそれは空を飛ぶバス。
 そんな夢のような存在、猫バスはひとりの客人を乗せて、この採掘場の空を通過しようとしていた。
 だからリゼルグは、クレーンのてっぺんで待っていたのだ。
 空が飛べるらしい謎の乗り物を手に入れて、怪しい洞窟へと急ぐために。
 怪しい洞窟に行く、と言った自分を追っているだろう、雪広あやかとスペードの2を待つために。

「どこに向かおうとしてるのか知らないけど、悪いね。その乗り物は、僕が奪わせてもらうよ!」

 ワイヤー付き手袋から、慣れた手つきでワイヤーを発射。
 丁度クレーンのてっぺんの、高さ数メートル上を通る猫バスのしっぽに、ワイヤーがしっかりと絡みつく。
 ――ギニャアッ!? と叫んだ猫バスにリゼルグは何の感慨も抱かずに、
 さらにもう片方の手袋から伸ばしたワイヤーをクレーンの支柱にしっかりと結ぶと、手袋をはずして、
 手袋同士をがんじがらめに結び付ける。

「なんじゃ、何が起きたのじゃ……これは!?」

 異変を察知して中に乗っていた六条御息所が窓から外を覗いたときにはもう遅かった。
 猫バスとクレーンをつなぐワイヤーは手袋を中心にぴんと張られて、猫バスをクレーンに縛り付けてしまっていて。
 その、ぴんと張ったワイヤーを足場にして、緑の髪の少年が猫バスの中に侵入せんと向かってきていた!

「――っ!! お主……」
「やっぱり搭乗者が居たんだね。それじゃあ――奪t」
「この男風情がっ!! わらわの邪魔をするでないわ!!」
「な、」

 男だからなんだというのか?
 そんなことを頭の片隅で思いながらリゼルグがデイパックに手を突っ込むと、
 六条御息所はなんと猫バスの窓から外に出て、というか飛び降りた。

「わらわは女を殺す。お主に構っている暇などない!」
「……くっ、待て!」

 予想外の行動にリゼルグは慌てて逆さになり、ワイヤーを蹴って地面へ飛ぶ。
 と同時にデイパックに突っ込んでいた手を離す――現れしは残り二つの支給品のうちひとつ、
 棒ブロック@テトリス。
 落ちることしかできないが掴まれば安全に地面に着地できる上、打撃面では武器にもなる優れものだ。

(ああやっと外に出れた。まったくリゼルグくん。テトリス界の良心たるボクをデイパックから出すのがちと遅すぎやしないかな?)

「……あの人は捕まえなきゃいけないんだ!
 誰かが乗っていたら乗り方も聞き出そうと思っていたのに、逃げられたら意味がない」

(え? ああしまった、支給品枠のテトリミノは会話が許されていないんだった。黙ろう)

「それに女を殺すって、まさかあやかさんたちがこの近くにいるんじゃ――いや。あれは?」

 棒ブロックにつかまりながら落ち、ぐんぐんと六条御息所との距離を詰めていくリゼルグ、
 だが、六条御息所のほうが一足早く地面に着く。
 そして何の準備もなしに人間が飛び降りるには危険すぎる高さ、六条御息所はなんと、
 デイパックから炎の精霊のようなものを召喚し、受け止めてもらうことで衝撃を緩和していた。
 あれはまさか、S・O・F(スピリットオブファイア)?
 リゼルグはそちらにも意識を向けていたが、
 実際に目を向けていた方向は、採掘場にやってきていた一人と二匹のほうだった。

「はあ、はあ。ようやく採掘場よ、パトラッシュ、チビすけ。
 って人が二人も落ちてきてる? それにあのバスって……えええ?」
「――――女ァ!! 今殺してやるぞえ!」
「えええええっ!?」

 何か紙のようなものを握りしめている少女、犬、それとハムスター。楠沙枝、パトラッシュ、チビすけは偶然にも、
 ちょうどリゼルグが猫バスを奪おうとワイヤーを伸ばした辺りでこの採掘場にたどり着いてしまっていた。
 六条御息所の狙いは、どうやらその少女らしい――二メートルはゆうに越す炎の精霊を手綱のようなもので手なずけ、
 たったいま、少女に向けて火を放とうとしているところだった。
 少女はいきなりの殺す宣言に身動きすらできていない。

『――猫バスシステムは妨害によりこれ以上の実行が不可能です。一旦地面へと緊急着陸。
 六条御息所さまの搭乗はリセットされたため、ペナルティとなる休息は取りません。次の搭乗者の指示に従います』

 猫バスのほうから、機械のような声がそんなことを言うのと、六条御息所が炎の精霊、イフリートから炎弾を放つのは同時。
 リゼルグが炎弾と少女の間に立ちふさがって、棒ブロックで炎弾をガードして散らしたのは、その一秒後だった。

「わ、」
「邪魔だ! そこから絶対動くな! 六条御息所、あの乗り物の操縦法だけ教えるんだ。そうしなければ、僕はこの子を守る!」
「男め、邪魔だと言っておろうが……! 邪魔するなら 殺してやろう! イフリート!」

 ごごごご、とイフリートが燃え盛る。
 六条御息所の、女性という概念そのものに対する絶対的な嫉妬の力、それを受け取ったかのように、
 炎の精霊は狂化されていく。
 対峙するリゼルグはそれを見ながら、やってしまった、と思っていた。
 リゼルグは少女、楠沙枝を守る必要はなかった。
 六条御息所から聞き出したいことがあるのなら、まず六条御息所が楠沙枝を殺すところを待って、
 あるいは加勢して、そこから聞き出すという手もあった。
 でも彼は、リゼルグ・ダイゼルは無意識に、「誰も死なないやり方」を選んでしまっていたのだ。

「くそ、どうして僕は――」
「あのー、すいません、せめて状況だけでも説明してほしいんだけど……」
「僕にも分からないよ!」

 沙枝に怒り口調で言葉を投げると、もうなんかがむしゃらでいい、リゼルグはイフリートに向かって躍りかかろうとする、

「じゃあ、待って! あなたは、リゼルグくん?」
「っ!?」

 が、沙枝に肩を掴まれて、跳ぼうとしていたリゼルグは駆動の停止を余儀なくされる。

「何で、僕の名前を?」
「わたしは楠沙枝。こっちがパトラッシュで、頭に乗ってるのがチビすけ。色々あってわたしたち、ギャルゲ高校に着いたんだけど、
 そしたらこの置き手紙を見つけて。あなたを追ってきたの」

 沙枝は持っていた紙切れをリゼルグに渡すと、リゼルグの前に立って六条御息所と向かい合う。
 紙切れを広げると、リゼルグは絶句した。それは、雪広あやかとスペードの2からの手紙だった。

「数枚あったから、一枚だけ取ってきたんだけど。とりあえずあなたは、それを読んでて。
 その間は。わたしが持たせるから。少なくともあの魔獣を操ってる人は止めないと。パトラッシュ、チビすけをお願い」
「わん!」
「ええい何を悠長に話しておる! お主らの命の火、この炎で塗りつぶしてくれるわ! イフリート!!」

 六条御息所の声に呼応し、イフリートが炎の腕を振るって二人と二匹に躍りかかった――それを沙枝は、止めた。
 手で。
 いや違う。「沙枝の手と炎の腕の間に具現化させた、透明で大きくて硬いガラス」によって止めたのだ。
 沙枝の魔法少女としての魔法は、自分のイメージの具現化。
 具体的に想像しなければ重火器は使えないが、防御という一点なら、硬いもの※さえイメージすればできるのだから楽だ。
 ※太くて長いこともあるアレではない。

「それに。魔獣相手なら、わたしにもけっこう経験があるの!」
「ぐぬう……! さっさと死にたもれぇ!」

 イフリートwith六条御息所vs楠沙枝。
 怨霊にまで成る想いの支える精霊と、想いを実現させる魔法少女がその「想い」をぶつけ合う中。
 ゆっくりと、ゆっくりと。一匹の猫が猫バスのしっぽを渡りながら、そこに引っかけられたワイヤーをほどくことによって、
 空中に縛り付けられた猫バスが自由を得、地面に降りようとしていた。


○○○○○


 リゼルグくんへ。雪広あやかと、スペードの2より。
 その書き出しで始まる手紙には、いろんな想いが、丁寧な字で書かれていた。
 一人で悲しみを背負い、発って行ったリゼルグの身を案じていること。
 ギャルゲ高校でしばらく時間を過ごし、そのあいだにこの「手紙」を作って置くことをスペードの2が提案してくれたこと。
 怪しい洞窟へ向かうだろうリゼルグを、自分たちは追うこと。
 そして、雪広あやかの級友――椎名桜子の死について。

『私の級友も、放送で名前を呼ばれました』

 おそらくあやかが書いたと思われる字は、そこから数行に渡ってだけは、少し震えていた。

『でも私は、桜子を殺した人を、許そうと思いますの』

 許そう、の許すという字なんか、渾身の力を籠めないとそうはならないという風に、震えていた。

『だって、憎しみは新たな憎しみを生むだけですもの。
 桜子だってきっと、わたしが殺人に手を染めることなんて望んでないはずですわ。
 リゼルグさん、あなたにとっての蓮さんも。わたしにとっての桜子くらい、いえそれ以上に、大切な仲間だったんだと思います。
 だからこそあなたにも、その悲しみと、憎しみと向き合ってほしい。安易な復讐や、苦し紛れの殺人なんかに逃げたって、
 蓮さんはきっと喜ばないのではないですか?
 あのとき何も言えなかったわたしに、こんなこと言う資格はないのかもしれません。それでも、』

 それでも、

『あなたにはわたしと違うことが出来るはずですわ。あなたは――』

 誰かを助けることが、救うことができる人間でした。
 わたしやスペードの2くんを守って、あのとき赤い男と戦ってくれた。
 殺人を犯してしまった人を許すだけじゃない。あなたは殺人を犯してしまった人を救えるだけの力を持っている。
 だから願うなら、もう一度。

『その力を誰かのために使ってほしいのですわ。
 結果として誰も救えなかったとしても、わたしはそちらを選択する人が、強い人間だと思います』

 ……手紙はそこで終わっていて。
 あとがきとして、手紙をリゼルグに届けてくれる人が居たらお願いします、と書かれていた。

 リゼルグはなぜか、その手紙を読み終えることができなかった。最後の一文字までは読めていたのに、脳が、頭が、
 最後の一文字、この優しい夢の欠片を終わらせる『了』の字を、読みたくないと告げている。
 いや。なぜか、じゃない。理由はずっと、分かっていた。

「そっ、か。僕は……僕は自分の弱さから、目を背けていただけだったんだ……」

 リゼルグは呟く。
 自分の弱さを自覚した少年は、ついにその言葉を呟く。

 背後では。魔法少女、楠沙枝が劣勢に立たされていた。

「うぅ……何で? いつもより、魔法力が減るのが早、い」
「あはあはっはあはあはあはは? どうしたのかえ、女!! 動きが鈍っておるぞえ?」

 嫉妬の炎は無尽蔵だ、と言わんばかりに強引に力を振るい続ける六条御息所と、
 制限がかけられていたらしく、だんだん守勢に使う盾の具現化も危うくなっていく沙枝。
 楠沙枝――ギャルゲ高校に置いてあった手紙を見て、それをリゼルグに届けることをなにより優先し、
 おそらく休むことなくここまで来てくれた不思議な少女。

 このままでは、彼女が死んでしまう。

 リゼルグに、本当の気持ちを気づかせてくれた彼女が、死んでしまう。

「ねえ。そんなの、許せないよね、君も」

 にっこりと笑って。
 リゼルグ・ダイゼルはきょとんとした顔でこちらを見つめていた、大型犬とその頭の上に乗ったハムスターに語りかける。
 動物と人間、意志疎通の余地なんてあろうはずもないが……パトラッシュという犬も、チビすけというハムスターも、
 どうやら今からリゼルグが何をするのか分かったみたいだった。
 二匹とも、リゼルグの背中を押すように。うなずいてくれたように見えた。
 デイパックからリゼルグは、最後の一個の支給品を取り出す。それはなんの殺傷性もない、ただ相手の目をふさぐだけの薬だ。
 人を殺すことも、生かすこともできない……いつまでも迷っていた自分の最後の武器としては、お似合いのものだろう。

「沙枝さん。いったん休んでて。僕がかわるよ」
「は、はい。ありがとう」

 少し間を置いて。棒ブロックと、その薬を持って、前に出る。紗枝を後ろに下げると棒ブロックを右に構えて、薬の小さな瓶は左に持つ。
 不意にリゼルグは、沙枝に問いかけた。

「ねえ、沙枝さん。魂の炎は、何を焚き木に燃えているのか分かる?」
「え?」
「僕はそれは、自分を抑える心だと思う。いつも知らず知らずのうちにかけてしまっている、理性や自制心って名前のね。
 それを押し崩した感情の波は、ほんとうは涙なんかじゃなくて、ガソリンで。
 僕たちはその燃料に、ほんの少しの火種を与えてやればいい。
 そうすれば簡単に――人だって殺せてしまう。ねえ、それだけの力を、人間は出せるんだよ」

「リゼルグ、さん?」
「見ていて。それと、最後に。スペードの2には、気を付けるんだ。あやかさんには、よろしくね」

 またにっこりと笑った、リゼルグを。
 そのとき沙枝はなぜだか、引き留めてはいけないような気がした。


●○○○○


 六条御息所は、
 もはや何かを考えたりなどはしていなかった。
 女を、楠沙枝をその目に捕らえたその瞬間から、なにかがぷつんと切れて、
 自分が修羅と化していることはとっくの昔に分かっていた。
 すでに自分の心の中、魂の大部分が、おそらくイフリートの炎に魅せられて――同化して。
 どうかしてしまったんだと思う。
 憎い。憎い。
 この乾いた心を満たすものは、もう女の断末魔の悲鳴のみだ。
 だから焼く。
 焼き払って、潰して、この世から憎い肉の塊をすべて消滅させて。
 そうしてようやく六条御息所は、
 何にも気兼ねすることなく、ぐっすりと眠ることができる。

 しかしそんな事さえ、六条御息所はもう忘れてしまっている。ただ女を焼き尽くす、なにかのかたちと成り果てる、
 そういう概念になるのも、遠い話ではないように思えた。

「あああああ……が、あああっ!!」

 今、イフリートの火にその身を焼かれながら――小さな少年が六条御息所を止めようと、一歩一歩迫ってきていた。
 バカな男だ。
 まだ概念になっていない部分が、少年を見てそう言った。
 その通りだと思った。少年はきっと、六条御息所と同じくらい何も考えていないんだろう。イフリートの火球や火拳を避けようともしない。
 避けずに真っ直ぐ突き進んでくる。
 服は焼け、皮膚も焼け、髪も顔も焼けて、ただれて、少年の幼い美しさはまるで暖炉に落としてしまった食事のように炭化していく。
 でも倒れない。炎をいくら放っても、パンチをいくら浴びせても、
 後ろで聞こえているはずの女の声が、いくら少年をあちら側に引き留めようとしていても。
 こちら側に向かってくる。
 死と生の垣根を越えた修羅の道に、他人の心の領域に、土足で踏み込んでくる。
 バカな男だ。
 この世には、バカな男しかいない。
 六条御息所はそんなこと、とうの昔に分かっていたはずなのに。

「でも。そんなバカな男に惚れてしまったわらわは、きっと――大馬鹿な女なんじゃな」
「ああそうだ。僕らは、バカなんだ。バカで、弱い。でもだからこそ、バカみたいなことが出来るんだ。
 種のためだとか、自分のためじゃなくて。誰かのために命を張るってことができるんだ。それが僕たち、人間だよ」

 ぐら、と視界が動かされる。
 右手に持っていた、棒のようなものを足場にして、少年はいつのまにか六条御息所の白襦袢の襟をつかんでいた。
 そうして左手に持っていた薬瓶を、六条御息所の目に向かって浴びせて。

「じゃあね」

 よりにもよって、不敵に笑い。
 リゼルグ・ダイゼルは力尽きた。  
 浴びせられた薬は、目に張り付いて。六条御息所の目の前を真っ暗にしていく。
 闇。
 一寸先さえ見えないその闇を照らすにはもう、六条御息所は優しいものを見すぎていた。
 心に燃え滾った火が、自らを食いつくすほどに大きくなっていた存在意義が、風船みたいにしぼんでいくのが分かる。
 空っぽになる。
 元に戻る。
 久しぶりに戻ってきた、冷たい感覚に。六条御息所は、救われた。


●●○○○○△


 鈴木万吉とカズヤ(カズマ)。
 猫バスを追っていた二人が採掘場に到着したときには、ひとつの決着はついていた。
 もともと山を切り開いて作られた採掘場に生命の息吹なんてものはないが、乾いて砂だけになった地面が、かなりの熱を帯びていて。

 その中心にある一つの焼死体のそばで。
 少女がひとり、さめざめと泣いていた。

 かわいいフリルをあしらった萌え系の衣装と、それに見合う可憐な顔立ちをぐちゃぐちゃにして泣いていた。
 少女は見ていたのだ。リゼルグが炎に焼かれながら六条御息所の元にたどり着き、
 支給されていた目つぶし薬――七夜盲の秘薬を浴びせることで視界を奪い、無力化するまでのその全てを。
 リゼルグの身体が、焼けて、ただれていくその過程を。
 見届けることしかできなくなりながら……それでも目を背けずに、見ていた。

「わたしが、リゼルグくんに手紙を渡したから……こんなことに、なっちゃったのかなあ……」

 近づいて声をかけようとしたカズヤは、少女の言葉に何も言えなくなり。
 しばらくして少女が涙をぬぐって立ち上がるまで、カズマも万吉も、パトラッシュもチビすけも、地面に転がっている六条御息所も、
 沈黙を破ることはなかった。

 それから。
 リゼルグ・ダイゼルの遺体は、カズヤによって採掘場の一角に埋められた。
 七日間目が空くことはないという七夜盲の秘薬によって、視界と一緒に心の炎を閉ざされた六条御息所は、
 自らの持っていた騎英の手綱によってクレーンに縛り付けられた。
 リゼルグの遺したワイヤー付き手袋と棒ブロック、そして基本支給品は、武器の欲しい万吉に手袋が。
 沙枝が棒ブロックを、そしてカズヤが基本支給品を持つことになった。

「……ところで。あのバス、乗っていいのか? 万吉」

 カズヤの一言で話は切り替わる。
 すなわち、猫バスについて。
 戦いが終わった採掘場の隅にぽつりと置かれたそれは今、緊急停止状態と言うことで3時間に1回の制限はなく、
 誰でも乗れるようにドアを開いている。
 車内にあった説明書きを読む限り、誰か会ったことがある人の名を呼べば、その人の場所へと移動できるらしい。

「俺はおそらく、乗って問題ないと思う。死んだ少年か、あそこの女か、どっちかは乗っていたはず。主催の罠じゃない」
「楠は?」
「乗っても大丈夫かと……むしろ乗りたいです。ランキング作成人さんたちに合流しないといけないので……」
「そっか。んじゃ、誰のところに行くかってのは、まあ楠の知り合いの所で決まりだな」
「ああ。ただ、このルール――1つ気になることがある」

 パロロワ書き手、鈴木万吉。
 彼はパロロワ書き手の視点から、一つこのルールの気になる点を告げた。

「会ったことがある人、って言うなら……主催の、社長ってやつ。あいつの名前さえ分かれば、主催の所に行けるんじゃないか?」
「あ……!」

 そう、会っているという条件なら、最初にルール説明を受けたあの場所で、全員が社長に会っているのだ。
 万吉の読みが正しいなら。
 もしかしたらこの猫バスはただの便利な乗り物だけじゃなく、別の意味も持ってくる。

「でも、……どうなんでしょう? そんな危ないものをわざわざ、向こうが用意するのかな……」
「それに万吉。それが正しいっていうんなら、迂闊にバスに乗るわけにはいかねぇぜ。
 3時間に1回しか乗れないなら、主催の名前を知ってるやつに出会っても、バスに乗れないってことになりかねないだろ」
「だな。そこで主催に感づかれたら終わりだ。じゃあ、そうだ、一旦この採掘場にバスは隠す方向で……」

 半信半疑ながらも万吉の考えを考慮に入れて、カズヤ、万吉、沙枝の三人は行動方針を決めていく。
 とりあえずは採掘場にバスは隠す。
 そして、三人とパトラッシュとチビすけで怪しい洞窟か北の市街地に行く。

 ただ、放送で意味深なことを言っていた怪しい洞窟だが、
 万吉的には「地理的にすぐ大勢がそこにたどり着くわけじゃないと思う」らしい。
 まだこの時間だと、北の街でいざこざが起きている可能性の方が高い、とのことだ。

「よし。じゃあ北の市街地だな。楠の話じゃ、知り合いもそっちにいるんだろ?」
「はい……あ、でも。雪広あやかさんとスペードの2くん……リゼルグさんの仲間が、この辺にいるはずです。
 まずはその二人を探して、わたし、いろいろ伝えないと」
「ああン? 先に言えよ、そういうことはよ。おい万吉、まずこのあたりを探索してから――――ん? おい、どうした?」

 ようやく行動方針を決め、立ち上がったカズヤと沙枝は、何故か立ち上がらない万吉が二人の背後を指差しているのを見た。

「あ……あっ」
「んだよ、誰かいるのか?」
「どうしたんで……えっ!?」

 つられて背後を振り返った二人が見たのは、クレーンのそば。
 六条御息所が無力化したとき消えたはずの炎の精霊、イフリートが、いつの間にか六条御息所の首を片手で掴み、
 ギリギリと。
 絞め殺そうとしているところだった。

「……!? いつの間にクレーンから抜けた? それ以上に、何であんな、」
「と、とにかく助けないと――「来るなっ!! お主らァ、っ、早く猫バスに乗って逃げるのじゃ!!」

 六条御息所は苦悶の表情を浮かべながら、助けに入ろうとした沙枝とカズヤを制す。
 イフリートはそのあいだにも首を絞め続け、赤い炎をだんだん暗い紅色の業火へと変化させている。

「逃げろだあ!? 死にそうな奴を見捨てて逃げるなんてできるわけねえだろ!」
「それでも逃げろと言っとるのが、わからんか! わらわは……緑髪の少年によって恨みから解放された。
 しかし、このイフリートはわらわの感情ともはや同化していた……だから、解放されたわらわに嫉妬しておるのじゃ!
 自分だから、分かる――いま、わらわが死ぬと、制御を失ったイフリートが――暴走を始め、」

 ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!
 採掘場全体を揺るがすような、大きな、大きな咆哮が……! 六条御息所が言霊をすべて言い終わらぬうちに響く、
 そして、
 枷が外れた炎の精霊が、六条御息所の身体を憑代に、魔物としてこの地に誕生しようとしていた。

 首を、ごき、と、九十度曲げられ。

 地面が揺れる中、六条御息所の身体が突如燃え上がった。
 その炎は六条御息所が縛られていたクレーンを見る見る間に巻き込み、渦を巻き、
 巨大クレーンが炎の巨人と化すまでに時間はかからなかった。



 それは、哭いた。



 炎の巨人はだんだん、大きさは巨大なままで、元のイフリートの形を取り戻す。
 紅色の炎の巨大イフリートは、嫉妬の塊……全ての生きとし生けるものに対する嫉妬の炎。
 近くの生命から順に燃やし尽くす悪鬼。
 イフリートは万吉たちの姿を捉えると、笑ったように見えた。
 手が伸びて。

「ぎゃあああ! 熱い! し、死ぬぅ!」

 鈴木万吉の背中が炎に包まれる。

「万吉さ――ってぱ、パトラッシュ!?」

 沙枝が万吉の方を見ようとしたとき、それを遮ってパトラッシュがいの一番にバスに乗り込む。
 わん! と鳴くパトラッシュに我に返る。そうだ。猫バスで、逃げないと!

「衝撃の……ファーストブリットォオオ!!」

 カズヤの声が聞こえる、すごい衝撃音、沙枝はどうにか走って、バスの中に入ることに成功した。
 するとそこでドアが閉まり始める……! まだ自分とパトラッシュしか入ってないのに!

「なんで!? バスの中で名前を言わない限り、行き先は決まらないのに! このバスはどこに向かうの!?」

『―この猫バスは、「ネロ」行きでございます』

「ネロ……!? 誰? ……ま、まさか! さっきパトラッシュが吠えたのって――」
「くぅん」
「っ――くそ、万吉! お前だけでも乗れ!」
「わっカズヤ!? おま、ああああ!」

 強引にカズヤが万吉の体を持ち上げ、すでに地面から離れつつあった猫バスの窓に投げつける。
 がぽっ、と音がして万吉が窓にはまるころには――もうカズヤの跳躍力では届かない場所に猫バスはあった。

「カズヤさん!」
「待ってろお前ら! こいつ倒してすぐ行くからよ!」

 そのまま猫バスは浮き上がり、炎の巨人の射程範囲から外れるように推進し始める。
 楠沙枝とパトラッシュ、そして背中を火傷して気絶した鈴木万吉の三名は、こうして「ネロ」の元へ向かうことになった。
 ……「ネロ」がグラハム・イェーガーと交戦してその命を散らしたC-3の、すぐ近く。D-3にその遺体はある。

「って、え……あれ、わたしと、万吉さんとパトラッシュ……チビすけは!? チビすけが、いない……」


●●○○○△○○○


 チビすけはその頃、森の中を走っていた。
 パトラッシュはチビすけに言った。自分は猫バスを使って、ネロの元に行かなければならないと。
 だから、最後に緑髪の少年に頼まれた「届け物」は、きみにたのむよ、と。
 パトラッシュは鼻が利く。人間のにおいがする場所は分かっていた。
 そしてもしもの時のために、案内役を付けることもしっかりと交渉してくれていた。

「……」

 首輪にはアーサーと書いてある無愛想な猫。
 彼あるいは彼女は何もしゃべらずに、チビすけと「届け物」を乗せて森の中を走る。
 届け先はすぐに見つかった。制服を来た二人組。

「あら……? 小さな遭遇者さん」
「猫とハムスターだよ、あやかお姉ちゃん! こんなところで珍しいなあ……あれ?
 ねえ、この子たち、何か持ってる」

 目論み通り二人は、猫の背から「届け物」を手に取って眺め始める。
 それはおそらく、彼女たちも見覚えがある紙切れ……とある魔法少女を採掘場へと向かわせた紙切れ。

「これ、わたくしたちが書いた手紙ですわ!」
「それに、裏に何か書いてあるよ。見て、あやかお姉ちゃん。これって……」
「!!」

 そこに書いてあったのは、たった五文字の言葉だ。
 ――「ありがとう」。
 リゼルグ・ダイゼルが最後に書いた、それが二人に対しての感謝の気持ちだった。

 ……近くで燃え上がる暴走した嫉妬の炎や、空を北に向かう猫バスに。
 手紙に目を奪われた雪広あやかとスペードの2が気づくのかどうかは、まだ分からない。


【リゼルグ・ダイゼル@シャーマンキング 死亡】
【六条御息所@源氏物語 死亡】



【1日目 昼/F-4 猫バス内】

【楠沙枝@魔法少女沙枝】
【服装】ピンクのフリルが付いた可愛らしい魔法衣装
【状態】疲労(大)、新たな決意
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、自転車@現実、棒ブロック@テトリス、
    小規模イデの欠片×3@kskロワ、不明支給品0~1
【思考】
 1:もう悲しい事は起きてほしくない。
 2:ななこ先生たちと合流したい。
 3:とりあえず「ネロ」のところへ。でも確か、放送で名前呼ばれてたような……?
【備考】
※ルルーアンの罠によって衆人環視の中で辱められている最中からの参戦。
※小規模イデの欠片一つは本来の小規模イデ1回分の力しかありません。
※リゼルグに「スペードの2には気を付けて」と言われました。


【パトラッシュ@フランダースの犬】
【状態】深い悲しみ
【装備】ロックドッグスーツ@ペルソナ3
【道具】基本支給品一式、不明支給品1~3、こげぱん半分
【思考】
 1:ネロのところへ。
 2:キリコお兄さんと、沙枝お姉ちゃんと、チビすけが死なないように頑張る。
 3:沙枝お姉ちゃんとチビすけと一緒に行動する。
 4:キリコお兄さんを捜す。
 5:ごめんね、こげぱん。でも、すべて終わったら、僕はネロのところへ行くよ。
【備考】
※この殺し合いで死んだ者(ネロを含む)は生き返らないと思っています。


【鈴木万吉@オリジナルキャラ・バトルロワイアル】
【服装】ニート専用パジャマ(背中がぼろぼろ)
【状態】背中に火傷、気絶
【装備】ウォルターのワイヤー付き手袋@HEELSING
【持ち物】支給品一式、カン・ユーの軍服@装甲騎兵ボトムズ
【思考】
基本:殺し合いをぶっ壊す。フラグ重視。
1:猫バスが対主催エンドへのカギなのか調べる。
2:何ロワイアルなのか考察する。
3:親父……敵は取る。
4:なんか似た体験をしたことがあるような、ないような?


【1日目 昼/G-4 採掘場】


【カズヤ@スクライド】
【服装】普段着(くすんだ色の革のジャケット)
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】支給品一式×2、不明支給品0~3
【思考】
基本:殺し合いに反逆する。
1:このイフリートとかいうのをぶん殴る
2:紗枝や万吉たちとあとで合流する
3:ぶん殴りたいやつをぶん殴る
【備考】
※本来の名前はカズマです。


※G-4 採掘場に巨大イフリート@FF8が現れました。生きとし生けるものを焼き尽くそうとしています。


【1日目 昼/F-3】


【雪広あやか@魔法先生ネギま!(漫画)】
【服装】麻帆良女子中等部制服
【状態】健康
【装備】ハマノツルギ@魔法先生ネギま!
【持ち物】基本支給品一式、マスターボール@ポケモン、拡声器@現実、リゼルグからの手紙
【思考】
 1:殺し合いには乗らない。
 2:リゼルクを止める。そのために怪しい洞窟へ向かう。
 3:年下の男の子には優しくする。


【スペードの2@七並べ】
【服装】陵桜学園の制服(冬服、小早川ゆたかのもの)@らきすた、青無地のパンツ
【状態】健康、無意識の内にあやかに対して少し罪悪感
【装備】鉈@現実
【持ち物】基本支給品一式、式紙@シャーマンキング
【思考】
 基本:無力な少年の振りをしつつ、自分の出来る範囲で殺し合いを促進させる。
 1:あやかお姉ちゃんと一緒にいる。
 2:リゼルク君を止める(振りをする)。
 3:そろそろ本来の役割(殺し合いの促進)に真剣に取り込もう。


【チビすけ@ハムスターの研究レポート】
【状態】健康、自転車のカゴに乗っている
【装備】水戸黄門の印篭@水戸黄門
【道具】基本支給品一式、不明支給品0~1
【思考】
 基本方針:家族の所に帰る。
 1:とりあえず紗枝と合流?この二人についていく?
 2:◆6/WWxs9O1s@カオスロワに再会したい。
 3:この猫もっと愛想良くても……
【備考】
※◆6/WWxs9O1s@カオスロワを対主催だと誤解しています。
※サザエを呪術師だと誤解しています。
※所詮ハムスターなので思考回路がアレです。
※かえるの事をどう思っているかはまだ不明です。


※G-2、ギャルゲ高校に雪広あやかが書いた「リゼルグへの手紙」が数枚あります。
※猫屋敷内にいたアーサーっぽい猫は、雪広あやか・スペードの2・チビすけと一緒にF-3に居ます。
※猫バスはネロの死体があるD-3に向かっています。ただし途中で外部から著しく進行を妨害された場合、
 いったん行き先はリセットされ、次に乗った人が行き先を変更することが出来ます。
※六条御息所のデイパックの中身と騎英の手綱@Fate/stay night、七夜盲の秘薬@バジリスクは燃え尽きました。


時系列順で読む


投下順で読む


気遣い 楠沙枝
気遣い パトラッシュ
10^4 鈴木万吉
10^4 カズマ(→カズヤ)
10^3 六条御息所 GAME OVER
Second――夜明けのスタンスチェンジ リゼルグ・ダイゼル GAME OVER
決意の朝に 雪広あやか ふたりはウソツキ Wounded Heart
決意の朝に スペードの2 ふたりはウソツキ Wounded Heart
気遣い チビすけ ふたりはウソツキ Wounded Heart


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