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私って、ほんとバカ

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私って、ほんとバカ ◆.pKwLKR4oQ



人は何のために戦うのだろうか。
自分の強さを証明するため。
誰かを守るため。
世界を救うため。
多種多様な理由を掲げて人はいつも戦い続けてきた。
それは人の業。
おそらくそれはこれからも変わる事のない悲しい定め。

「…………」

だが丹波文七にはそんな理屈はないのかもしれない。
彼が戦う理由はシンプルだ。
相手が誰であろうとその芯は揺るがない。
一時は気の迷いで就職しようとした。
格闘家を目指していたはずが真面目にサラリーマンなど全く以ておかしい話だ。
トランクスのトランクスという下着がその滑稽さに拍車を掛けているようだった。
だがもう一切の迷いはない。

「…………」

だから丹波文七は無言で立ち上がる。
相手が誰であろうと戦おうとするのなら戦いを避ける気は毛頭ない。
そこに理由や理屈といった言い訳がましい言葉など必要ない。
ただ全身全霊で目の前の相手と戦うだけだ。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

「やあ、良い天気だね。僕の名前はハオ、よろしく」

藪から棒だがこんな台詞をいきなり向けられたら相手はどう思うだろうか。
しかも血まみれのマントを羽織ってにこやかな笑顔を浮かべた青年なら。

「……ッ!」
「ひっ!?」

当然驚く。
それが殺し合い場でならなおさらだ。

(やっぱりこういう登場だと心が読みやすいなあ)

人の感情を表す部分はどこか?
それは顔だ。
喜怒哀楽に代表される様々な感情は全て顔で表現される。
もちろんそれ以外でも感情を汲み取る事はできるが、一番雄弁に物語っているのは顔である事に変わりない。
だが人は時として感情を表に出さず、心の裏の奥底に隠そうとする。
これは老若男女どんな人にも当てはまる事だろう。

だがそのような努力はハオの前では無意味だ。

(あのバカそうなのはバカそのままか。でも意外だな、あの女の子。腹の内は中々どうして……)

ハオが血痕に導かれるままに進んだ末に辿り着いたのは草原の中に広がる屋外レストランだった。
キッチン内蔵型の車とウェイトレス型のロボットによって運営されているようだが、ハオにとってそれは関心の対象外だった。
ハオの目的は遥々辿ってきた血痕の主である男、そして近くにいる参加者2人。
本来の目的であった血痕の主はここまでの出血が祟ったせいか今は地面に横たわっている。
そしてその近くでこちらを警戒しているのはバカそうな男とあどけない少女。
バカそうな男は名前をズシオと云うらしく、見たままのアホ面で上半身裸にズボンだけの姿が彼をそのまま物語っていた。
だが一方のあどけない少女、名前を古手梨花と云う方は、幼い外見とは裏腹に心の内ではこの場をどう切り抜けるか必死に考えていた。
一見すると可愛らしい巫女衣装をまとって健気ではあるが、中身は巫女と云うよりも同じまじない系でも魔女の方がぴったりだ。

と、ハオがこの場に現れてから二人とも満足に喋っていなかったが、この通り相手の心を読めるハオにとって沈黙など無意味だった。

(さてRPG-7で一気に片付けても良いけど、ちょっと遊びたい気も「あ、ちょっと!?」ん? あれ、あいつ起きたんだ?)

ハオがどうやって3人を殺すか思案していると、当初の目的であった血痕の主が目を覚ましたようだった。
当然それを逸早く知る事になったズシオと梨花の心の中は驚きと困惑でほぼ満ちていた。
だが意外にも血痕の主の心の内はハオの力を以てしても探る事が出来なかった。
何かしら力に制限が掛かっている事もあるが、それ以上に相手の思考が出鱈目に強くて煩雑で読み辛かった。
例えるなら耳栓をしつつロックシンガーが歌い上げる歌詞を聞き取るような感じだ。
どうも目を覚ましたばかりというだけの理由でもなさそうだが、今はそれよりも3人の会話の方が気になった。

「ちょ、ちょっと!まだ動くなんて無理よ!」
「お前、名前は?」
「……丹波、文七だ。あいつとは俺が戦う。だからお前らは消えろ」
「何言っているのよ、まだ傷の手当てが。まずは落ち着くので――」
「そうか、分かった。文七よ、この場は任せた。あ、ついでにお前の荷物は貰って行くぞ。ではさらば!」
「え、ズシオ!? これはいったいどういうことな、って肩に担ぐな! きゃ、お尻触らないでよ!」

そうこうするうちに血痕の主こと丹波文七が満身創痍の身体にもかかわらずハオと対峙するために前に出てきた。
それを尻目に梨花を肩に担いだズシオは文七の言う通りに全速力で森の中へと走り去って行った。
終始納得のいっていない梨花の反論をドップラー効果でBGMにしながら。

「――追わないのか?」
「別に。そのうち追い付くからいいよ」

正直なところハオは本当に何とも思っていなかった。
いくら文七が強くても満身創痍の状態では満足に動く事すら儘ならないだろう。
それ以前にハオには負ける気など全くなかった。
S.O.F.を失っても、プリンセスと改名されても、そこは1000年もの時を転生してきた最強のシャーマン。
どんな相手だろうとハオの中の最強の自負は未だ揺るがず。
それにすぐに殺して追いかけるよりも12時に行われる放送で文七の名前が呼ばれたところで追い付く方が面白そうだ。

(ただ未だに心が読みにくいのが気になるけど、もう少し近づけば――)

だが霊視能力を持ったハオでさえ知らなかった。
目の前にいる相手がただ純粋に強者との戦いを求める餓えた狼である事に。


【1日目 昼/I-5草原 移動レストラン・ヘクトル前】

【丹波文七@餓狼伝】
【外見】フレッシュマンスーツ(ボロボロ、血まみれ)@サラリーマンNEO
【状態】全身打撲、裂傷多数
【装備】トランクスのトランクス@ドラゴンボール
【道具】なし
【思考】
 0:ハオと戦う。
 1:俺より強い奴に会いに行く。
【備考】
※放送を聞いていません。

【プリンセス・ハオ(ハオ)@シャーマンキング】
【服装】普段着(古びたマント(血まみれ)を羽織っている)
【状態】健康、S.O.F.喪失、プリンセス・ハオに改名される
【装備】雷鳴の剣@ドラゴンクエストⅥ
【道具】基本支給品一式×6、五寸釘・藁人形・金槌の呪いセット、夜のおかずセット(TMAのエロパロDVD三本+真夏の夜の淫夢)、RPG-7(成形炸薬弾3/榴弾3)@現実、マユの携帯電話@機動戦士ガンダムSEED DESTINY、ハオの不明支給品0~2
【思考】
 基本:皆殺し。
 0:文七を殺してから放送後に梨花とズシオを殺しに行く。
 1:この地にいる者を全て殺す。
【備考】
※改名による影響はありませんでした。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

昔々かどうかは知らないけど、あるところに一人の王子がいました。
王子は日々立派な王になるために鍛錬に励み研鑽を積んでいたかどうかは置いておいて、自由気儘な王子ライフを満喫していました。
そんなある日のこと、王子は使用人頭であり乳母であるチャタレイ夫人に尋ねました。

「王って何をすれば良いのだ女神?」

チャタレイ夫人はその優雅な物腰から皆から「女神様(ゴッデス)」と呼ばれていました。
ゴッデスはその顔に被った土偶のような面とドリルのような胸をズシオに向けて答えを返しました。

「王の務め、それは――」

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

「ちょっとズシオ、下ろしなさい!」

天高く昇った太陽からの木漏れ日で溢れる森の中、お尻を担いだ王子もとい下半身を前にした梨花を担いだズシオは必死に走っていた。
なんとも傍目から見たら少々というより普通に変態的な光景だ。
ズシオの肩に担がれた梨花は現在巫女服でお尻が前を向いた状態になっている。
つまり今ズシオを正面から見ると自動的に巫女服の緋袴に包まれた梨花の可愛らしいお尻も拝めるのだ。
この状況に対して当事者である梨花が抗議するのは尤もな事だが、現在梨花が抗議しているのは別の事だ。

「なんで丹波だけ残したのよ!!」

梨花が怒りを向けているのは先程から続くズシオの一連の行動だ。
あろうことか重傷の丹波一人をハオとか言う奴の前に残して逃げたのだ。
しかも有無を言わさぬ間に勝手に梨花を肩に担いで。
ハオとは初対面だが、それでも僅かなやり取りでハオがどれだけヤバい奴なのかは肌で感じられた。
この島で出会った参加者の中で、いや寧ろ今まで出会った人物の中で断トツに危険な人物と言っても過言ではないかもしれない。

――アレは並みの人間が相手にしてはいけない部類だ。

100年の月日の中で積み重ねてきた経験が過剰にそう訴えていた。
そんなヤバい奴の前に残された丹波がどうなるか。
しかも丹波は生きているのが不思議なくらいの重傷だった。
どんな結果になるかは火を見るよりも明らかだ。
実際のところ丹波とは出会ってから1時間ちょっとしか経っていない。
それ以前にまともに会話すら交わしていない。
だがほとんど見ず知らずの人だったとはいえ、目の前で見殺し同然で放り出すなど後味が悪すぎる。
ただ一人死地に残してきた丹波の安否が気に掛かるが、当然ながら梨花の視界からはもう丹波の姿は消えていた。

「私達も加勢すれば――」
「そんなの無理じゃ!」
「でも――」
「梨花! あいつの覚悟を無駄にするな!!!」

覚悟。
その言葉を聞いた瞬間、梨花は黙るしかなかった。
梨花だって薄々分かってはいた。
自分達3人が束になって戦ったところでハオに勝てる保証がないことぐらい。
戦闘に関して素人同然の梨花でさえそう感じさせるほどハオのプレッシャーは凄まじいものだった。
それなら誰か一人が足止めとなって残り二人を逃がすという考えは分からないでもない。
だがそれで納得できるかどうかは別だ。

(でも、納得するとかしないとか、関係ないのよね)

誰が納得するしないに関わらず、もう既に出された結果が変わる事はありえない。
あたかも一度出された賽の目が変えられないように。
梨花とズシオが丹波を一人残して逃げた事実はどう言い訳しても変わらない。
それに丹波は誰に強制されたわけでもなく自らあの場に残ると申し出たのだ。
それなら今二人が為すべき事は何なのか。
丹波に謝る事か?――違う。
丹波に加勢するために引き返す事か?――違う。

それは丹波の想いに報いるためにも無事にハオから逃げ切る事だ。

(そうか、ズシオはそれが分かっているからさっきから必死に走っているのね。それなのに私ときたら……)

今までバカでアホでどうしようもない自称王子だと思っていたが、唐突に意外な面を見せられた気がする。
いやひょっとして単純なズシオは直感的に丹波の想いを悟ったのかもしれない。
もしそれならばズシオに対する評価を見直すべきなのかも。
これまでのズシオの所業に辟易していた梨花だったが、この一件でその評価を改めてもいいのかもしれないと思いつつあった。

「――って、いい加減にお尻触ってないで肩から降ろせ!」
「痛ッ!?」

でもだからと言ってお尻を触られる事を承諾するかは別問題。
もういい加減にしてほしい気持ちが勝って一発殴って強引に降りようとした。

「ん?」

そこで前方を向き直りながら降りようとした瞬間、梨花はこちらに向かって近づいてくる何かに気付いた。
それはややこげ茶色っぽい掌に収まるぐらいの大きさのレモン型の物体だった。
梨花はそれに見覚えがあった。
確かテレビでやっていたドラマか映画で目にした記憶がある。
だがもし梨花の記憶が正しければあの物体は――。

「ば、爆弾!?」

梨花の記憶は半ば正しかった。
その物体は手榴弾。
手投げ式の小型爆弾であり、小さいながらもその破壊力は侮れない。
万が一直撃を食らえば一般人など即死確定だ。
一応ズシオはよく分からない再生力で、梨花は魔法装束で耐えられるかもしれない。
だがそれも絶対ではない。
それに運悪く破片が首輪に当たって爆発を引き起こしてしまえば、どちらにしろ死亡確定だ。

「くっ、間に合って!!!」

梨花がエミットによってもたらされた魔法の根幹は“具現化”。
つまり頭で思い描いたものを強く念じて実体化させるというものである。
だから具現化する物の詳細が分からない場合や精神的に不安定な状態だと上手く魔法は発動しない。
そしてこの時梨花が咄嗟に両手を手榴弾の方に向けて具現化しようとした物は“爆弾から身を守れるだけの大きさの壁”だった。
だが対象が抽象的な物だった事に加えて、突然の事態に焦ってしまった事が魔法の発動を不十分なものにしてしまった。

その結果、梨花の展開した障壁はひどく曖昧で中途半端な物になってしまい、完全に身の守る事は叶わなかった。

「きゃああああああ」
「ぐふっ」

だが不幸中の幸いか梨花とズシオが死ぬ事はなかった。
不完全だった障壁は手榴弾の爆発で壁の体を為さなくなったが、二人を破片から守る事には成功していた。
ただ爆発を完全に防ぐ事はできなかったので、二人は仲良く一緒に吹き飛ばされてしまった。
その際もズシオが梨花の下敷きになるぐらいでそれ以外に目立った被害はなかった。
唯一梨花のパンツの下に倒れていたズシオが般若の形相をした梨花のパンチによる追撃を食らった以外は。

「……………………ガクッ」

結果的にいきなりの襲撃だったのにズシオが気絶するだけで事なきを得たのは僥倖だった。
爆発で飛ばされたせいか、梨花に殴られたせいか、気絶の決め手は定かではないが。
その様子を目の当たりにした梨花としては前者の影響で気絶したと思いたかった。
もっとも自分のせいでズシオが気絶したところで罪悪感などほぼ皆無だったが。

「あぁ、もう! なんでこんな事に――って、まだ!?」

ギンッ
次の瞬間、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が森の中に響き渡った。
梨花がマジカル鍬を具現化させて手榴弾を投げた犯人が振り下ろした剣を防げたのはまさにギリギリのタイミングだった。

「すみませんっ……一撃で痛みを感じる前に一瞬で殺して差し上げるはずだったのにっ……!!!」
「大きな、お世話よ!」

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

手榴弾を投げた犯人――隠れ真性ロリコンであるジェレミア・ゴットバルトは大いに喜び、そして大いに悲しんでいた。
MAXとの邂逅の後、ボートで川を下ったジェレミアは当初の予定通りそのまま湖に出る事が出来た。
だが残念ながら彼が探し求めるロリっ娘は一人も湖畔にはいなかった。
そのため傷心に暮れたジェレミアは捜索の手を広げるために湖からさらに下流へと向かった。
そこで天の導きの如く探し求めていたロリっ娘――古手梨花の声を聞いた。
そしてすぐさま梨花の声に導かれるままにボートから岸壁を攀じ登って森の中へと身を躍らせ、ジェレミアは狂喜した。
心の底から待ち望んでいたロリっ娘とついに邂逅する事が叶ったのだ。
梨花を背負った不届き者の姿を確認するや否や隠れ真性ロリコンであるジェレミアの行動は素早かった。
次の瞬間には不届き者を葬るため! 梨花に安らかな死をもたらすため! デイパックから取り出した手榴弾を投擲していた!

――だが失敗した。

どうやら不可視の何かで防がれた気がするが、一瞬の事だったので詳しい事は定かではない。
だから今度は確実に一撃で死をもたらすために自らの手で幼き少女の人生に幕を下ろそうとした。
幸いにも手榴弾の爆発の影響で誰かのデイパックが地面に落ちて一振りの剣が顔を覗かせていた。
それは天叢雲剣という由緒ある剣だったが、ブリタニア人のジェレミアがそんな事知る由もなかった。
余談だがそれが入っていたデイパックはテリー・ボガードのものだと文七は思い込んでいたが、実は東方不敗のものだったりする。
I-7からI-5へ移動する途中で拾ったは良いものの意識が混濁していたせいで勘違したのだが、当然ジェレミアが知る由もなかった。
ただ自らの手でロリっ娘に死をもたらす機会をくれた神に対して感謝しつつ剣で一想いに斬りかかった。

――だがそれも失敗した。

驚くべき事にジェレミアが心から慕うロリっ娘はどこからか鍬を取り出して剣を受け止めてみせたのだ。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

「ハァアアアア!!!!!」
「くっ――ッ――このッ!!!」

ジェレミアが拾った天叢雲剣と梨花が具現化したマジカル鍬。
意外な事に異色の対決を繰り広げる両方共引けを足らなかった。
普通に考えれば軍人として鍛錬を積んできたジェレミアに梨花が敵うはずない。
だが今の梨花は魔法少女だ。
その恩恵で身体能力は底上げされ、しかも手にする武器は最も馴染み深い鍬。
羽入の力によって梨花は昭和58年の6月を乗り越えるために100年もの長い年月を繰り返してきた。
一口に繰り返したと言っても繰り返すごとに細部は微妙に変わってくるので全く同じ時を過ごす事はほぼない。
だがその中でも毎回変わらず行う出来事も存在する。

それが梨花の死の数日前に行われる綿流しという夏祭り――そしてそこで催される奉納演舞もその一つだ。

奉納演舞とは古手家の巫女が代々行ってきた所謂神楽舞。
100年もの繰り返しの中で梨花は古手家の唯一の巫女として毎回この演舞を行ってきた。
オヤシロサマに捧げる演舞という性質上、この演舞の一連の流れは定められている。
それゆえに覚えている。
鍬をどう持てば上手く振れるのか。
鍬をどう動かせば上手く舞えるのか。
本来なら幼い梨花の身体で身長以上もある鍬を振り回すのは相当大変なものだが、もう数え切れないほど繰り返してきた動作だ。
そのためいつのまにか梨花の一挙一動は成人男性と遜色ないほどに自由自在に鍬を扱えるほど熟練したものと化していた。

「我が愛しきロリっ娘よ、どうして拒むのですか!? 私は一刻も早く貴女を殺し合いの場から解放させようとしているのに!?」
「だから! 大きな! お世話だって! 言っているでしょ!」

相容れない信念の元で打ち合うこと十数合、ついに均衡が破れる時が来た。
ジェレミアが振り下ろした剣を梨花が鍬で思いっきり撥ね上げたのだ。
一見すると番狂わせな展開かもしれないが、実際はそうではない。
ジェレミアはロリっ娘をなるべく苦しまずに一撃で殺すという目的のためにどうしても一撃一撃が大振りになってしまっていた。
その一方で100年もの年月を渡り歩いて経験を積んできた梨花はその攻撃の隙を見落とさなかった。
まさに絶好のタイミングを計って機会を窺った末に巡ってきたチャンス。

「これで――!!!」

マジカル鍬を振り上げた時の慣性の勢いのままに魔法少女の力を使って高らかにジャンプ。
そしてジェレミア目掛けて急降下してそのままジェレミアにマジカルストライクを決めればこの勝負は梨花の勝利だ。
ただしいくら相手がロリコンの変態とはいえ頭を叩き割って殺してしまうのは気が引ける。
ズシオの場合はよく分からないけど大丈夫なので問題ないが、普通なら脳味噌を目の前にぶちまけてしまう。
いくら様々な光景を目にしてきたからと言ってさすがにそんな光景をあまり間近で見たくない。
だから僅かに逡巡した結果、柄の部分で頭部を強打して気絶してもらう事にした。

だがそんな梨花のささやかな気遣いなど無駄だった。

「え?」

なぜならまだ勝負は決していないからだ。

(うそ、なにこれ!?)

その瞬間、思わず梨花は後一歩で勝利という場面で間抜けな声を上げてしまっていた。
だが無理もなかった。
あまりの出来事に梨花は自分の身に起きた変化を理解できなかった。
今までジェレミアの左目を覆っていた仮面が開いた瞬間、そこから青い光が結界状に放たれた。
そしてその光を浴びた梨花の姿は魔法少女のものから緑のワンピースといういつもの私服姿に戻っていた。
しかも先程まで自分の身を包んでいたような不思議な力も雲散霧消したかのごとくかき消えてしまった。
あまりにも突然の変化に梨花の理解は追い付かず、空中でただただ呆然としてしまっていた。

つまり今の梨花は魔法少女でも何でもなく、何の力もないただの少女になってしまったのだ。

「オール・ハイル・ロリコン」

だから梨花はただ見ている事しかできなかった。
浮力を無くして重力に引き寄せられるままに落下する自分を見つめるジェレミアを。
そして恍惚の表情を浮かべながら意味不明な言葉を発するジェレミアが手にする剣を。
その菖蒲の葉のような白い刃の切っ先が自分の胸に吸い込まれるように近づく様子を。

(いやっ……)

そして自分の身に降りかかった出来事を知らないまま最期の瞬間を迎えるのだと覚悟した梨花の目に映った光景は――。

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

森中に響き渡るほどの叫び声を上げながら。

「き、貴様は!?」
「余の名は――」

不意を突かれたジェレミアの横腹に勢いよくタックルを決めた王子。

「――ズシオだああああああああああ!!!!!」

――ズシオだった。

「なっ!?」
「ハァァァァァアアアアア!!!!!」

そしてタックルの勢いのまま川に落ちていく二人の姿が見えなくなるのと梨花が地面に尻餅を突く形で着地したのはほぼ同時だった。

「え、うそ……?」

僅かに呟いたきり梨花は地面にへたり込んで動けなかった。
一度にいろんな事象が起こりすぎて混乱しているので誰かに説明してほしいが、この場にいるのは梨花一人。
危険な変態ジェレミアも、アホな王子ズシオも、もう誰もいない。
先程消えた魔法の力もいつのまにか戻っているようなので、一人でも今誰かに襲われても対処はできる。
だがそんなこと関係なく梨花の思考は今の状況を整理するだけで精一杯だった。

「そうだ、ズシオは……」

ようやくズシオの安否を気遣うまでに回復したのでふらふらと川を覗いてみたが、それは少々遅かった。
梨花がいる岸から川面まで数メートルほど高さがある上に、それなりに流れもあるので二人の姿は見つからなかった。
そこで梨花は思い出した。
この川の先が既に禁止エリアになっていた事を。
つまり川に落ちて流された二人は――。

「ズシオ……私を助けるために……」

あの時ズシオは梨花を見捨てて逃げる事だってできたはずだ。
いやあのちゃらんぽらんな性格の自称王子なら寧ろ形振り構わず逃げる方が合っている気がする。
それでも逃げずに自らの命を投げ打ってでも梨花の命を助けたのはいったいなぜか。

「あ……」

不意にズシオが事あるごとに梨花に向かって言っていた言葉を思い出した。
その時はいつもの調子の良い言葉だと思っていたから特に何も思わなかった。
でももしあれが王子としてのズシオなりの宣言だとしたら。
今にして思えばズシオは自分なりに精一杯自らの責務を果たそうとしていたではないだろうか。
その事に梨花は今になって気付かされた。
だがその事に気付いたところでズシオはもうこの場にはいない。

「私って、ほんとバカ……100年も生きてきたのに、全くどうしようもないんだから……」

そして梨花は精神的にも肉体的にも疲労した身体が限界を迎えたため、静かに意識を手放したのだった。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

「王の務めとは皆を守る事」

その日、王子は人の上に立つ者として大切な事を学んだのでした……たぶん……。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

「豹馬の旦那、あそこに幼女が倒れていやすぜ」
「……間に合わなかったか」

右肩に白いオコジョを乗せた男がその場に着いたのは梨花が意識を失って間もなくの事であった。
その男の名は室賀豹馬。
盲目ゆえに常人より優れた聴覚を身に付けた忍者である豹馬が北へ向かう途中で先程の戦闘の喧騒を聞き逃す事はなかった。
だが一歩遅く豹馬が着いた時には既に戦闘は終わった後だった。
その場に残っていたのは爆発により荒れた大地と投げ出されたデイパックと緑のワンピース姿の少女。
もちろん盲目の豹馬は気絶した梨花の気配しか感じ取れなかったが、何があったか察するには十分だった。

「だが幸いにもこの女の子は死んではおらぬ。何があったのか事情は後で聞くとして、今は待ち合わせの場所へと急ぐとするか」
「あ、俺っちはあっちのデイパック拾ってきやすぜ」

元々豹馬は12時にC-6の豪邸でキラとスザクと待ち合わせをしていた。
その途中で寄り道したのは何か情報になるものがないかと思ったからだ。
そして今豹馬は他の参加者という生きた情報を手に入れた。
これだけでも寄り道した甲斐があったというもの。
まだ幼い梨花の身体を軽々と小脇に抱えながら豹馬は一路豪邸を目指して駆け始めるのだった。

(さてこの女子、わしらにとって有益な情報を持ち合せておるといいのだが……はたして……)


【1日目 昼/H-6南部 森の中の川の側】

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
【服装】緑のワンピース
【状態】なんだか精神的に疲労(大)、寿命がストレスでマッハなため軽くキャラ崩壊中、気絶中、豹馬に抱えられている
【装備】なし
【持ち物】基本支給品一式、エミット@魔法少女沙枝シリーズ
【思考】
 0:ズシオ……。
 1:もういい加減にフツーの人間に逢わせてください。
 2:部活メンバーや楠沙枝と合流する。
 3:殺し合いという運命に抗う。
 4:エミットは……いいか(ああ、西島翔子が死んだって言いそびれちゃった……)。
【備考】
※エミットは制限で1時間に10分しか外へ出る事ができません。エミット自身が勝手に外へ出る事は出来ない(ただし声掛けはデイパックの口が開いていれば可能らしい)。
※主催者が複数いる事に気付きました。
※変身している時に出来る事は沙枝と大差ありません。
※首輪には8000ARがチャージされています。
※ズシオとジェレミア(名前は知らない)は死んだと思っています。

【室賀豹馬@バジリスク~甲賀忍法帖~】
【服装】江戸時代の医者姿の装束
【状態】健康、右肩にカモを乗せている、左脇に梨花を抱えている
【装備】ムラサーミャ&コチーテ@バッカーノ!、カモ@魔法先生ネギま!
【持ち物】基本支給品一式×4、天沼矛@古事記、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、首輪(ハルヒ)、東方不敗への不明支給品0~2
【思考】
 1:正午にはC-6の豪邸に赴く。
 2:気絶している少女(梨花)から事情を聴き出す。
 3:一応キラとスザクに協力する。
 4:もしも殺し合いに乗った方が得策なら……。
【備考】
※死亡後からの参戦です。
※参加者が別の世界から連れて来られた可能性が高いと考えています。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

幸運と不運の連続。
それはまさにこの殺し合いにおけるジェレミアの行動を表すのにぴったりの言葉だった。

幸運にもロリっ娘であるアーニャと共にオレンジ農園を経営していたのに。
不運にも無理やり殺し合いに参加させられるものの。
幸運にも開始早々にビスマルクというロリコンの同士と巡り合えたかと思いきや。
不運にも嫁であるアーニャを巡って争い、一時は危険な状態に陥ったが。
幸運にも知らぬ間にビスマルクは死亡して勝利を収めたにもかかわらず。
不運にも決意を新たにした矢先ではロリっ娘と巡り合う事は叶わず。
幸運にも新天地を目指すとスムーズに川を発見して湖に辿り着くと。
不運にも目的のロリっ娘を発見できずにいたところ。
幸運にも川を下った先でロリっ娘の梨花を発見したと思いきや。
不運にも手榴弾では一撃で殺せず。
幸運にも同行していたズシオは吹っ飛んで梨花と二人っきりとなったとはいえ。
不運にもいつもならグローブに装備しているはずの刃がない事にいまさら気付いて。
幸運にも地面に落ちていた白っぽい剣を発見するも。
不運にも梨花の不思議な力でまたしても一撃で殺せず。
幸運にもギアスキャンセラーの効果で不思議な力を一時的に消す事に成功したというのに。
不運にも倒れていたはずのズシオのタックルで共に川に落ちてしまって。
幸運にもすぐにデイパックからモーターボートを出せて大事ないと思っていたら。
不運にもすぐI-6の禁止エリアに侵入してしまって命の危機に瀕してしまい。
幸運にもスーパースターを使用する事で首輪が爆発するまでに禁止エリアを抜けられたが。
不運にも切り札であったスーパースターをこんなところで使ってしまうという顛末。

そして今ジェレミアはJ-6の海上でモーターボートの操縦桿に寄りかかるように一息付いていた。

先程までの命を賭けたデッドレースは数々の戦場を渡ってきた騎士をして心胆を寒からしめるものだった。
幸いにも禁止エリアが侵入してすぐ首輪爆破にならなかったのでなんとか切り抜ける事ができた。
だが虎の子であるスーパースターを使わざるを得なかったという痛手付きではあった。
さすがにスーパースターと銘打っているだけあって説明書通り川岸にぶつかっても無傷で全く減速せず、途中に架かっていた橋も余波で破壊して、こうして首と胴がくっついたまま生き延びる事ができた。
だからと言ってあの時邪魔しに入ったズシオをジェレミアは許す気など毛頭なかった。
だがジェレミアにとっては不運で、ズシオにとっては幸運な事に、いつのまにか一緒に乗っていたはずのズシオの姿はボートの上から消えていた。
川の途中で落ちていれば首輪の爆発で死んでいるはずで、それなら自らの手で殺せなかった事が心残りではある。
だがもしも海上に出てから落ちたのだとすれば、まだどこかでのうのうと生きている事になる。
それはそれで腹立たしいが、自らの手で殺せる可能性が残っている事は幸運と言っても良い。

「ああ、我が愛しき梨花、そしてまだ見ぬロリっ娘よ。どうぞ私が一撃で殺して差し上げるので、今しばらくお待ちください」

新たな宣言と共にジェレミアが次に考えたのは、向こうの方に見える大型船に対してどう行動を起こすかという事であった。
さて次にジェレミアが迎えるのは幸運か、はたまた不運か。


【1日目 J-6海上】
【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス】
【服装】小此木造園の作業着@ひぐらしのなく頃に、アーチャーの聖骸布@Fate/stay night
【状態】健康、強い決意、隠れ真性ロリコン、若干の戸惑い、モーターボート乗船中
【装備】天叢雲剣@古事記、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(4/6)@HELLSING、モーターボート@名探偵コナン
【道具】支給品一式×4、スクール水着、手榴弾5個@現実、オレンジ49個@コードギアス、黄金のインゴット@カオスロワ
【思考】
 基本:主催者から死者蘇生の力を手に入れて、ルルーシュ達を生き返らせる。
 1:再び主催者に会うために参加者を皆殺しにする(苦しまないように一撃で殺す。特にロリっ娘は確実に全力で一撃で!)。
 2:大型船に乗り込むべきか、無視するべきか。
 3:ズシオが生きていれば絶対に殺す。
 4:なぜMAXはゼロを探していたんだ?
【備考】
※最終回後からの参戦です。
※ギアスキャンセラーで魔法の力を一時的に消せるみたいです。

     ▼     ▼     ▼     ▼     ▼

地上での殺し合いとは裏腹に海上は割と平和そのもの。
そんな海の上をプカプカと漂っているアホ王子が一人。

(はぁ~、失敗したかもしれん)

というか、そんなバカそうな奴、ズシオしかいない。
実はズシオ少々後悔していた。
元々の予定だと――
『梨花を襲う男を追い払う』→『きゃーズシオ様素敵ー抱いてー♪』→『ズシオの花嫁』→『5巻へ続く』
――みたいな展開を期待していた。
だが現実は非情としか言いようがない。
まさか勢いを付け過ぎたせいで自分まで一緒に川に落ちる羽目になるとは予想外だった。
しかも赤マントの男がなんとかしてくれたから良いものの、そうでなかったら今頃ズシオはあの男と一緒に心中していたはずだ。
何が悲しくて見ず知らずの野郎と一緒に死ななくてはならないのか。
だが世の理不尽さに憤りを感じていたのは向こうも同じだったようので、矛先がこちらに向かないうちにボートが安全圏に達した隙に海へ飛び込んで逃げてきた。
全く梨花と離れ離れになるわ、せっかく手に入れたデイパックは無くしてしまうわ、海は寒いわで散々な目に遭ってしまった。

(いや待てよ。これだけ大変な目に遭えば、梨花と再会した時にキスをしてもらえるのではないか?)

よくよく考えれば今まで一緒にいた者同士が離れ離れになって再び出会うのは逆にチャンス――とは限らない。
この時ズシオの脳裏には実の姉であるアンジュの姿が過ったが、梨花はそうではないと信じたかった。
だがいつもまでも海に漂っていても暇なだけなので、とりあえず近くを通った大型船に乗り込もうと画策するズシオであった。


【1日目 昼/J-7海上】
【ズシオ@余の名はズシオ】
【服装】上半身裸、ズボン
【状態】頭にトマホーク@余の名はズシオ、大量出血、漂流中
【装備】なし
【持ち物】基本支給品一式、茶碗とマヨネーズと箸
【思考】
 1:あの大きな船に乗り込んでみる。
 2:梨花と再会したらキスしてもらう。
【備考】
※首輪には10ARがチャージされています。

【全体備考】
※I-6の橋が崩落しました。


【天叢雲剣@古事記】
三種の神器のひとつで、またの名を草薙剣。
現在では熱田神宮の御神体として祀られている正真正銘本物の神剣。
スサノオがヤマタノオロチを退治した際に尾から出てきたと伝えられている。
長さは2尺8寸(約85cm)ほどで、全体的に白っぽく、刃先は菖蒲の葉に似ている。


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そろそろ本当の気持ちと向き合えるか? 丹波文七 [[]]
そろそろ本当の気持ちと向き合えるか? プリンセス・ハオ〈ハオ〉 [[]]
そろそろ本当の気持ちと向き合えるか? 古手梨花 [[]]
それはとっても嬉しいなって 室賀豹馬 [[]]
そんなの、聞いてないぞ ジェレミア・ゴットバルト [[]]
そろそろ本当の気持ちと向き合えるか? ズシオ [[]]


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