第13章『モリテックスの逆襲』


山口「どうだ?モリテックス社に動きはあるか…?」

秘書「いえ、本日9時の時点では何もプレスされていません。まもなくミーティングの時間です。」

山口「分かった。ただモリテックスのプレスリリースが出たら途中で抜けさせてもらうかもしれない。」

秘書「了解致しました。」

秘書が部屋を出て行くと山口は一息ついて外を眺めた。

西新宿のとあるビル。地上78階に山口が最高執行責任者(COO)を務める企業、『株式会社ファイヤマン』はあった。

山口「モリテックスがどう動くかはファイヤマンにとってはサブプライム以上にインパクトを与えかねない・・・」

窓の外を眺めながら山口がそう呟くのとほぼ同時に、広報担当部長の山垣がCOO室に入ってきた。

山垣「山口さん、山澤社長の記者会見、いよいよです」

山口「きたか・・・。会議室の連中にはしばらく待つように伝えてもらえるか」

山垣「はっ」

山垣が部屋から出ていくと、山口はすぐさまテレヴィの電源をつけ目的のチャンネルにした。

キャスター「いよいよサンフランシスコにおけるファイヤマン株式会社代表取締役社長・山澤氏の代表記者会見が始まる模様です!」

山口「山澤・・・頼んだぞ」

山口を祈るように目を閉じた。
すると映像は記者会見場へとスイッチし、スーツに身を包んだ数人の取締役と社長が頭を下げていた。

山澤「報道関係者の皆様、本日はお集まり頂きましてありがとうございます。」

カメラのフラッシュが彼らをこれでもかというくらい容赦無く浴びせられた。

山澤「今回のプレスをさせて頂きましたのはファイヤマン株式会社の重大発表をここサンフランシスコにて行いたいと考えたからであります。関係者の方々にはご足労かけて大変申し訳ございません」

山澤は無数のフラッシュに臆することなく、淡々と、かつ着実に喋り始めた。

山澤「ファイヤマンはこの度、サンフランシスコに本拠を構えるモリテックスに対し、敵対的TOBを敢行する運びとなりました」

報道陣「ええっ!!」

山澤の発言に報道陣は皆口を揃えて驚嘆の叫び声をあげた。

山口「フン、そうだろう、驚かないわけがない」

報道キャスター「はにゅりー、はにゅりー…あっ」

スタッフ「お、こらっ」

何かのミスなのか、謎の言葉とともに場面はスタジオに強制的に切り替わった。

その様子を見て山口は黙ってリモコンでテレビを消し、ミーティングに向かった。

山口「あとはイーストコーストテクノロジー社がホワイトナイトに名乗りをあげるかどうか…だな」

山口はミーティングに向かい、各マネージャークラスに対して経緯を説明した。

経理マネージャー・芝山「なるほど、モリテックスですか…。確かに彼らの抱えている顧客をそのままファイヤの顧客へと飲み込むことができたら、我々の貸倒損失も一気にプラスへと転じる!さすが山口さん、考えましたな!」

芝山は一見浅はかと取れる見解を披露した。

人事部総帥・佐山「いやいや、何とも浅い反応ですな。このTOBに隠された本当の意図をまるで理解していない。」

芝山「!!…も、申し訳ありません、総帥!!」

法務部プリンシパル・山山「はっはっはっ」

一方、会見を終えた山澤は今回の準備に関し共に作業を進めていた女性に告げた。

山澤「もう少しで日本に帰れそうだな…英理さん、山口の誕生日を一緒に過ごさせてやれなくてすまないな」

大和田英理「いいえ、仕方ないですわ、仕事ですもの。それに彼とは一週間早く一緒にお祝いをしましたし」

山澤「そうか、ならいいんだが。…にしても山口は我社の事実上トップともいえるCOOで、そのガールフレンドはCFOか。ハイレベルなカップルだな」

大和田「まぁ、何をおっしゃいますか。社長こそお付き合いなさってる方は、かの有名な米国の国務長官ではないですか」

山澤「ライスィか…。実は最近うまくいってないんだよな、彼女とは。どうしたもんだかな~…ってオイっ!」

山澤は久々のノリツッコミをしてみせた。

山澤には今回のTOBの他にもう一つ仕事を抱えていた。

山澤「さて…」

英理「もうニューデリーに行かれるのですか?」

山澤「ああ…ファイアマン・インディアは早く軌道に乗せないと出遅れてしまう。ファイアマンオブアメリカも今をときめくサブプライムのおかげで今や企業価値が\37という非常事態だからな。ニューデリーの件が済んだらすぐにニューヨークにも向かわなくてはな」

英理「…!!その後すぐにですか!?でも、明後日は日本で農薬餃子の絶滅会議が本社で行われますが…」

山澤「あぁ、その件なら山口に任せておけば大丈夫だ。こういったトピックには俺は言わばへなちょこだが、奴はサイヤ人のエリート並の力を…っておい、待ってくれ、大和田!」

山口のことを思い浮かべた英理はは山澤のことは忘れて独り歩きだした。

その時山澤にある男がぶつかってきた。
一瞬唖然とした山澤だったが、すぐに右脇腹に鈍い痛みを感じていることに気がついた。

男「さぁ自らからの血を注いだこのグラスで祝杯をあげるのだ」

山澤「…血?…こいつは俺の血……こ、これが俺の最後というわけだ。」

そして彼等は乾杯した。これからの栄光を胸に…。
最終更新:2008年02月08日 00:49