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**水底の歌姫-3 フェレンツァの姫と別れた後、その日の夕方には俺も東方への船に乗り込んでいた。 傷心を癒したかったし、銀髭が方々に放った追手が ヴェネートに入り込むのは時間の問題だったからな。 ベアトリーチェを底部の厩に運んでもらい、 俺もそそくさと手形に印を押してもらった。 ダリオ≪緑の庭師≫に任せた薔薇園はどうなっているだろうか、 これからの道程が、彼女の旅路と交わることはあるだろうか…… そんなことをぼんやり考えながら、ゆったり流れていく時間を過ごしていた。 船はやがてビュザンティオン≪東と西の交わりたる帝都≫に着くから、 ハギア・ソフィアの大聖堂に真っ先に向かおうと考えていた。 女のことを忘れるには、敬虔な気持ちで 五本山巡礼の旅をするなんてのもいいじゃないか。 面倒ごとに見舞われたのは、何日目のことだったか忘れてしまったが、 とにかく船旅の間に日付の感覚が鈍くなっていたんだ。 期せずして、姫と俺の道は交わることになった。 背筋が凍りつくような感覚が先立ったと思う。 続いて現世のものとは思えない、それにしては懐かしい旋律が聞こえてきた。 船客はわれ先にと甲板へ上がってその歌声に聞き惚れていた。 歌声の主は、灰色のごつごつした岩礁に座して、客の一人一人と目を合わせて、 暗い海中へと誘う哀しい旋律を歌っていた。 信じられなかった。セイレーンの顔は、 フェレンツァの姫と瓜二つだったんだからな。 もう意識を保ってもいられない。 他の人がそうであるように、俺も次第に歌声に支配され始めていた。 彼女が俺の目を見据えたら、 多分それが現世で最期に目にするものなんだろうと思ったぞ。 ところが、俺はこうしてここに生きている。 いくらか記憶が飛んでいるから説明ができないが、 気が付いたときには、ビュザンティオンの港で 好奇心旺盛なギリシャ人達に見下ろされていた。 ……だから夢だったのかもしれないが、薄れていく意識の中で 歌声とはまた違った声を聞いたような気がしたんだよな。すごく哀しい声で、 〝Addio.....〟 ってな。

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