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ルクレツィア-2」(2009/01/01 (木) 20:44:21) の最新版変更点

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**ルクレツィア-2 〝お兄様が聞いたら、羨ましがるかしらね〟 どこか上の空な様子で、ルクレツィアは独り言のように呟いた。 〝ご自分が皇帝になりたがっていたもの。 どうして私なんだって、きっとお思いになるわ〟 神に背を向け、死すべき定めの人の歴史に翻弄されたかの女は、 再び歴史の腕に抱かれるのを倦んでいるのだ。 〝そういえば、聨娟の薔薇はどうなさいましたか〟 インフェルノで摘み取り、かの女に献じたそれは、 チェーザレその人が植えたものだった。 今になってはたと思い出し、話を逸らす口実に尋ねてみると、 あれはもう私のものよ、と微笑む。 〝それに、お怒りになるよりも先に、きっと驚かれるわ〟 〝そりゃ大変でしたからねえ........〟 顔を見合わせて、こうして笑い交す時間が永遠に続けばどれほど幸せだったろうか。 それでも、かの女はやがて真面目な面持ちで、帝冠を戴くことはできないと言った。 至極当然のことだろう。かの女は歴史の<寵愛>を受けることを望んでいない、 そんなものを<愛>とは考えないのだから。 俺はかの女に拒否されたことよりも、 自身の無神経のほどを恥じ入って、暗澹とした心持ちで歩いていた。 思考の迷い路の中にあって、現実にそこにあるものなどは眼中に入らず、 どこをどう歩いたのかもわからない。 街路樹がたち並ぶ通りだっただろうか、 冷たく澄んだ空に月が浮かび、流れる雲がそれを覆っていた。 ふと気がつくと、落ちたばかりのイチョウの葉の上に、 花の妖精がいくらか座っているのが見えた。 〝どうしてそんなに元気がないの?〟 〝君のお腹の中、金色の水が溢れてるのに〟 〝詰まってるのかな? だから管を通っていかないんだ〟 〝助けてあげようか?〟 何せその時には、何にでもいいから縋りたい気持ちだったから、無我夢中で頷いていた。 妖精が口の中で何かを唱えながら俺の頭のあたりで手を動かすと、 月を覆い隠した雲がさあっと晴れるように、俺の心も晴れ晴れとして、目の前を確かに見据えることができた。 ルクレツィアのことを思って、ただ後悔するのは意味のないことだ。 それはそれとして、これからどうするかを考えなければならないのだから。 妖精はよかったね、と笑うと、どこかへ飛び去った。 俺は後に一人残されたけれど、心細いとは思わなかった。 黄昏の塔に戻って、ルクレツィアへのお詫びを手紙に綴ること、 自分自身の今後についてたっぷりと考えること、とにかくやることは沢山あったのだ。

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