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リュートを調弦する女


このところ、窓から見えるすべてのものが生まれ変わったよう。
あれほど嫌いだった、私を寂しい気持ちに押し込める夕方の日差しも、
今は優しく私を包み込んでくれている。
通りを行き交う人も、赤い三角屋根の家々も、ついこの間までは薄ぼんやりとしていたのに、
はっきりと目に飛び込んでくる。
街は確かに色彩を放って生きている。

私は窓辺に座って、大好きなリュートを調弦している。
あの人からの贈り物。大切な信頼の証。
遠く離れてしまってから、目に入るのもいたたまれなかった。
いつの間にか増えてしまった書簡集が、いつからか増えなくなってしまってから、
楽譜も埃をかぶるようになってしまった。
確かにそこにあるのは、二人過ごした日々の抜け殻だけだった。

〝あら、ごきげんよう。丁度良かった、今度うちでお茶でもいかが?〟
〝行かないわ。そんな気分になれないもの〟
何かを楽しいと思う気持ちも、忘却の彼方へ置いてきてしまった。
誘いの声も遠のくようになった。
気づいた時には、私と周りのすべてのものとの間に隔たりができてしまった。
日々は過ぎていくのに、私の家の中では時間が流れない。

弦の上を指が踊る。楽しげに、歓喜の音楽に酔いしれるように。
あの人の手に絡ませることを忘れてしまってから、青白く弱ってしまったはずの指が、
今はよろこびに満ち溢れている。
鏡を見たら、きっと私は幸せに顔をほころばせているだろう。
春の陽気のもと、色とりどりの草花の道を歩いているように、私の心は弾んでいる。
目の前のテーブルには、懐かしい筆跡が綴られた手紙が置かれている。

役目を忘れたポストの中に、ある日静かに訪れた手紙。
趣味のいい切手。繊細な文字で書かれた宛名。震える手で封を解いた。
〝もうすぐ帰る〟
かろうじて読み取った彼の報せ。
もうじき、私のもとへ帰ってくる。
幸せは人を驚かすのが好き。掴もうとしても逃げていくのに、ある時不意に私たちを捕まえる。

リュートを調弦しながら、懐かしい曲が浮かぶ。
優しい旋律と、彼の笑顔。幸せの足音は近づいている。
私は幾度も窓の外へ目をやっては、大切な楽器に視線を戻す。
私を捕らえていた影は、今は幸せの光を彩っている。
テーブルに置かれた楽譜を、壁にかけた地図を、さあっと優しい光が撫でる。
やがて、私の耳に馬蹄の響きが伝わる…