答張士然


同郷の友人張悛への返書として作られた詩で、
帝の行事に従った折の心境を詠んでいる。

潔身躋秘閣
秘閣峻且玄
終朝理文案
薄暮不遑眠

「秘閣に躋る」とは、中書令就任のことを指す。
導入の四句の意義は、行事の場面である外界との対比のための表現だと考えられる。
要職に就いた喜びではなく、宮中書庫の閉塞した情景を描写し、
さらに自分の労苦を添え、鬱屈した心情からの展開という構成をなしている。

五句目からは宮中から外界への場面の転換が行われている。
ここで描かれている情景は、この頃流行した仙界への憧憬ではなく、広大な田園風景。
整然とした人工的なものではなく、あるがままに流れる水。
命の恵みを感じさせる稲穂や木々。

東晋に出仕した身で、居合わせているのは東晋の祭りだけど、
懐かしい江南を思わせる風景に魂を揺さぶられる。
宮中から外界へという場面転換は、閉塞から解放へという意図を思わせる。
しかし、結局のところは晋の政権に仕える現実の自分の立場は変わらない。

導入に詠まれた心情のような、鬱々とした懐古ではなく、
心を刺激され、何かがゆるんだような気持ちの中で生じた苦悶。

摠轡臨清淵
戚戚多遠念
行行遂成篇

それが、「歩を進めるうちに詩が出来た」という言い回しと、
「清淵」という場面に反映されているのだろう。

ちなみに、第十五句の「戚戚」は『論語』述而第七の、
「君子は坦として蕩蕩たり。小人は長に戚戚たり」に基づいている。
自分の懐古の情をとりあげて、「小人」と自嘲しているのだろうと考えられる。

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最終更新:2009年02月02日 00:59