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或る貴公子の悲劇-8


 やがて、魏王曹操が薨去した。
超世の傑の他界に世間は揺れる。それにも関わらず、曹植は酒に溺れていた。
「早く、早く酒を持ってこい!」
「は、はい…」
顔を青ざめる家人も、王子を諌める言葉を持たない。
「ひっく…っっ…ああ不味い。こんなものを俺に飲ませるのか」
そう言うと、彼は器を床に叩きつけた。
「申し訳ございません…」
「ああもういい、俺は出るぞ。ここは片付けておけ」

 自分は何をやっているのだろうか。
闇雲に馬を飛ばし、気づけばかつて曹彰に幼い苦悶を打ち明けたあの場所にたどり着いていた。
よく出来た兄は、よく自分を支えてくれようとしていた。
しかし、それが何だというのか。結局、自分はこんなに苦しんでいるではないか。
「…っっ……うぁぁぁああぁぁあぁぁぁああ!!」
剣を抜き、草花を払う。
可憐な白い花びらが、宙を舞っては地に落ちる。
「ぅぁぁぁあ…ははっ…あはははははっ…ひぃ、ひひひっ」
今度は剣を捨てて手で毟る。
思い出の場所は荒れてしまった。もう戻らないあの頃のように。

「子建」
 曹操が薨去した時、曹彰は長安に駐屯していた。
報せを聞いてすぐに都に戻り、賈逵に印璽の在り処を尋ねて叱責され、
軍勢を曹丕に引き渡した後、真っ先に会いたいと願ったのが曹植だった。
素行のことも、もちろん知るところだった。
馬を駆ってあの場所へ向かう。
曹植は、地に跪いて肩で息をし、目を血走らせていた。