或る貴公子の悲劇-11


 この子桓といい、子文といい、兄というものは真に自分を苛み苦しませるものであるらしい。
そうはいっても、非があるのは自らの方であることぐらいは心得ている。
だからこそ、誰に責をなすりつけることもできないのが辛い。
ただ、自身の領分を守って生きればそれでよかった。
今となっては、後悔の念だけが渦巻いている。薪をくべた鍋で煮られているように痛い。

 そろ、と一歩目を踏み出す。
続けて二歩目、三歩目……
一歩進めるごとに、これまでの半生が蘇る。
もしここで命を取り留めることがあれば、改心して政に打ち込み、魏国を輔けよう。
そのためにも、今胸中にある怨みはここで全て吐き出さなければならない。

 七歩目を踏み、曹植は高らかに吟じた。


煮 豆 燃 豆 箕   豆を煮るに豆がらを燃やす

豆 在 釜 中 泣   豆は釜中に在りて泣く

本 是 同 根 生   本より是 同根より生ずるに

相 煎 何 太 急   相煎ること 何ぞ太だ急なる



[完]

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最終更新:2009年02月07日 03:51