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ギリシャにて-1


前にもこういうことがあってな。
足の向くままに歩いていたら、街道を逸れて森の中に入っていたんだ。
夜も更けて道の分別もつかなかったし、森の中の月明かりでは心もとなかったからな……。

ただ、さらさらと水音が聞こえたものだから、
上手いこと川を見つければ、それに沿って人のいるところまで歩いていけると考えた。
ひたすら水が流れる方へと歩いていったよ。これほど聴覚に神経を傾けたことはなかったな。

そしたら驚いたよ。何を見たと思う?
若いニンフが一人、目を閉じて気持ちよさそうに水浴びをしていたんだ。
長い髪をおぼつかない手つきで洗っていて、月明かりを映した水辺の景色とあいまって印象的だった。

どうしようかとさすがに迷ってな。
ニンフに不用意に近づいて、怒りを買って呪いをかけられた男の話なんて
ギリシャ神話を読めばいくらでも出てくるし、かといってただ見てるだけというのもつまらない。

俺はとりあえず身を隠したまま、Roman≪情愛の抒情詩≫を唄ってみた。
もしかしたら、そのニンフはかつて辛い恋をしていたのかもしれない。
俺の歌を聴きながら、はらはらと涙を流していた。

そこで初めて木陰から出て、今度は慈愛の賛歌を笛に乗せて贈ったんだ。
どうにか慰めたかったし、木々がそうしろと言ったのかもしれない。
木の葉が風に揺れる音は俺の笛と調和して、人の世では真似のできない楽を奏でていたと思う。

そのニンフがこちらを見て、まず驚き、次いで微笑み、
人と聖霊の間の隔たりの深さに悲しむ顔は忘れることができない。
彼女は俺を求め、同時に拒絶していた。俺はどうすることもできなかった。